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A-4. 銃使い、職を探す その1

ややギャグより?

 セイジはゆっくりと目を開く。何かがすぐ近くにいた気がした。辺りを見渡す。しかし、セイジ以外にはカーラしかいない。

(変な——夢を見たな)

 無造作に積み上げられた人の姿をしたもの。セイジは始めマネキンのような人形が大量に廃棄されたのだろうかと思う。暫くすると、誰かが話しているのに気づいたのだ。不機嫌そうな荒々しいものであった。

 その言葉の内容をセイジは理解できなかった。知っている筈の言葉。知らないわけがない言語。それなのに何を話しているのかわからなかったのだ。

 動かない体。唯一動かすことの出来た瞳で音の方へを追う。二人、女性がいた。セイジには見覚えがある。

(確か、ゲームで見た……?)

 そこで目が覚めたのだ。考えに(ふけ)っているうちに辺り明るくなっていた。カーラが身じろぐのに気づいたセイジは軽く頭を振り、起きる準備を始めたのだった。


 隣町へ来たセイジはカーラの後ろに着いていく。方向音痴であることを自覚しているセイジは、はぐれるのは(まず)いとわかっている。もの珍しさはあるが、それはセイジにとってリーウィの町でも同じことだ。はしゃぐことはなかった。

 カーラ(いわ)く、リーウィの町よりは扱う商品の種類が多いらしい。前にカーラに連れられて装備を買ったくらいで、セイジにはピンとこないものだ。

(ゲームでは町で何してたっけな……。鍛錬所と買い物以外した覚えがない(・・・・・・・)なぁ)

 セイジは何か、ボタンを掛け違えたような気がした。僅かに覗き込んだ不安を心の奥に仕舞い、何もなかったことにした。


 町で一泊したセイジとカーラ。行きとは違い、帰りは街道を通ることになった。食料の確保のため度々森近くへ向かったが、行きよりは大分楽だ。二人は八日ぶりにリーウィの町へと帰ってきた。

(これで護衛依頼終わりかぁ。どうしよ、どうやって稼ごうかなぁ)

 冒険者という職にあまり仕事がないという現実。セイジが他につける職業があるかもわからない。ゲーム内の通貨がそのまま使用できるため、しばらくは働かなくてもよいかもしれない。

 セイジは現実で仕事のない日の自身の行動を振り返る。日用品の買い出しや軽い掃除以外はほとんど動かなかった。自称インドア派、外で活発に動くことはほぼない。昼近くに起きて、更に昼寝するような、そんな寝てばかりの生活を送っていたはずだ。

 何か仕事を探さなければと、セイジは遠くを見つめたのだった。


「丁度よかった。冒険者以外の仕事なら紹介できるぞ」

 ギルドにつきラゥガンに報告がてら相談したセイジ。どうやらラゥガンもセイジの扱いについて考えていたらしい。ラゥガンはこの町に在中する冒険者がどんな仕事をしていたかを話し始める。

 この町に在中する冒険者は、始めたばかりのランク赤の初心者だ。セイジがカーラに対しやったように、ほぼ安全な地での護衛はほとんど発生しない。だが冒険者はある程度の戦闘能力を持っている。戦闘能力が必要な職で冒険者ギルドと協力関係にある組織があった。『狩人ギルド』である。

 狩人ギルドの主な仕事は近辺の生物の間引きだ。良くも悪くも人の手が入った、山、森、草原……。生態系が崩れぬようにしなければ、すぐにでも害という形で人に向かうだろう。その生態系の維持のための狩りを行うのが狩人という存在だ。

「顔合わせできるよう連絡はついてる。酒場へ行くぞ」

 前回は飲み損ねたこともあり、セイジは嬉々として着いていく。ラゥガンに手招きされセイジは六人の男のいる席に腰を下ろした。初老の男一人を除き、似た装備をしていた。カーラや今のセイジも着ている砂色を基調とした服。男たちはセイジと同じ皮鎧を身につけている。まあ、同じ町の武具屋で買ったと思われるため、同じでも仕方がない。

「ふむ、お主が異界種か」

「セイジだ。いつまでかは決めていないが、ここに居座るつもりでいる。よろしく頼む」

ワシは(わしゃぁ)狩人ギルド・リーウィ支部取り纏め、ガガダーラじゃ。悪い(わんりぃ)ことせにゃそれでええよ」

 代表の紹介が終わったからか、残り五人の自己紹介が始まった。セイジは彼らが普段どのようなことを行っているか聞く。酒も運ばれて来たことにより、仕事の紹介というよりも自慢話へとなっていく。それはセイジにとっても興味深い常識にもつながる。真剣な顔で聞くセイジにラゥガンも大丈夫そうだと感じ、一度席を離れた。

(しかしなぁ、異界種の特徴はギルド証の表記だけ、か)

 ラゥガンはギルド本部から展開された情報を思い出す。ラゥガンがセイジに感じる妙な気配。それは他の異界種にはないのか、情報として伝わってこない。

(本能で危険を避けるカーラが側に置いてる以上、大丈夫そうだとは思うんだが)

 ラゥガンはあの小さな少女を思い浮かべる。カーラがセイジを連れてきたきっかけとなる、違反を起こした冒険者に対しても警戒していたのをはっきりと覚えていた。他に常駐の冒険者がいないからと、しぶしぶ依頼することを決めたカーラ。カーラの直感を信じて止めさせておけば良かったとラゥガンは後悔していた。

 ふとラゥガンがセイジたちのテーブルを見てみると——。

「いやアンタラ何やってんだ」

 セイジと狩人たちが取っ組み合いをしていた。ガガダーラや他の狩人たちは笑うだけで止める気はないようだ。喧噪の中で髭がどうのとか聞こえてくる。ラゥガンが喧嘩する二人の頭を引っ叩く。

「髭はチョビ髭だろう、ラゥガン!」

「いや、無精髭の方が男らしくていい」

「漢らしさなら中途半端な生え方も、整える必要もねぇに決まってるさ」

 狐顔のチョビ髭の男、無精髭の猫背の男、熊のような髭モジャの男がラゥガンに詰め寄った。

「なにわけわかんねぇこと言ってんだ!?」

「格好いいから(あご)以外髭を剃ったという話をしただけだ。(こだわ)る髭の違いからついヒートアップしてな」

「いや意味わかんねぇから」

 比較的酔っ払っていなさそうなセイジがラゥガンに答えた。真剣そうな顔をする面々にラゥガンは突っ込みを入れるしかなかった。

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