B-3. 銃使いの出会い その1
前回との落差が激しいです。
あれから何度かログインしてある程度レベルも上がったセイジ。セイジは気にしていないがレベルが10に上がったくらいから死亡回数がぐんと増えている。
(死んでもいいから今度森に行ってみようかな)
そう考えつつなんとなく鍛錬所に向かうセイジ。今の所鍛錬所を使用している他のプレイヤーをセイジは見たことがない。ボコボコにされるからだろうか。敵と戦うより鍛錬していた方が楽しいと感じるセイジは毎回鍛錬所に寄っていた。
いつの間にかセイジ担当のようなものになっているジョイスがナイフを投げる練習をするセイジに近づく。
「相変わらず精が出るな」
「ただやりたいことをやっているだけだ」
「大半が実践を好むんだがなぁ」
「敵を探して潰していくなんて、ただただ面倒なだけだと思うがな」
雑談に付き合いつつも、セイジは練習の手を止めない。セイジの考え方ではあるが、雑念があろうが集中出来ていなかろうが体は動くするようにすべきとしている。簡単に言えば、戦いに集中とか出来そうではないから、そうではなくても戦えるようにしよう、ということだ。
「ふと思ったんだがセイジ。お前、最近死ぬ回数増えてるだろう」
「多分そうだ」
「レベル……が10を超えてたりしないか?」
「ああ、今レベル10だ」
そう答えたセイジにジョイスはため息を着いた。
「よしわかった。ちょっと来い。ギルドへ行くぞ」
疑問符を浮かべるセイジを気にすることなく、ジョイスは他の鍛錬所の職員に声をかける。職員は気にするな声を出さずに答えた。そうして、セイジは早めに鍛錬を切り上げることになったのだった。
ギルドへ戻ることになった——ログイン時の初期地点はギルドなのだ——セイジはある端末の元へ連れてこられた。ログイン画面にあたる神殿にもあるその端末。ここではステータスを見ることが出来る。
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ステータス│スキル・称号
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セイジ(あと22時間14分)
種族:異界種
Mジョブ:銃使い
Sジョブ:格闘家
レベル:10
体力 :★★☆☆☆
魔力 :★★★☆☆
腕力 :★★☆☆☆
器用さ :★★★☆☆
素早さ :★★★★★
守備 :★★☆☆☆
魔力効率:★★★☆☆
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ステータスを見たのは初めてゲーム開始した時以来だと思うセイジ。表示された画面のある箇所をジョイスは指さした。
「名前の右に時間が表示されてんだろ。こいつは死亡による弱体化がなくなるまでの時間だ……って、ちょっとまてなんだこの時間!?」
首をかしげるセイジにジョイスは死亡による弱体化について話すことになった。
ゲームバランスを考えてか、死亡すると一定時間プレイヤーが弱くなるようになっている。具体的には『敵を倒しても経験値が入らずレベルアップしない』。そして『レベル1よりもステータスが低くなる』だ。
この弱体化、初心者離れを嫌ってかレベル10未満なら免除される。毎回のごとく死んでるセイジは、少しずつこの弱体化の時間が増えていき今の状態になったのだ。セイジがなぜ気づかなかったのかというと、セイジの武器はことごとくステータスに依存しないものだったからだ。
「セイジ」
「どうした?」
「弱体化が消えるまで外に出んな。門番には言っておくから、命をポンポンと捨てにいくんじゃねぇぞ!」
「あ、ああ」
がぶりつきながら諭すジョイスにセイジはたじろぎながら頷くのだった。
(どうしようかな、宿屋とかじゃなぁログアウトして普通に寝たと変わんないし)
セイジは困っていた。別に弱体化なるもので経験値が入らなくても問題なかった。セイジのやりたいことは強くなることではなく昼寝だ。ふらふらと町を歩きながら何をするか考える。
(適当に冷やかしとかかなぁ。何か良さそうな店とかないかな。というかここどこだ)
何も考えずに歩いていたため、町のどこにいるのかセイジにはわからない。現在位置も一緒に表示される地図でもあれば問題ないが、セイジは方向音痴なのだ。前に案内された店が集中したエリアに辿り着けるかも怪しかった。
「ん?」
ふと、ある建物が気になった。絵の看板には液体の入った樽とコップ。酒場だ。
(味は感じられなくても気分なら味わえるかな?)
吸い寄せられるようにセイジは酒場のドアを開けた。テーブル席やカウンターに幾人かいるが、昼間だからか大分空いている。セイジはカウンターに座った。老年の男性が声をかける。彼がこの店の主らしい。
「おや、いらっしゃい。異界種が来るなんて珍しいね」
「適当に酒を頼む。味覚はないから味は二の次でかまわない」
「へぇ、酒を飲む異界種は初めてだ。せっかくだからとっておきにしよう」
心底面白そうにして、店主はセイジに酒が並々と注がれたカップを渡すと値段を言う。先払い制のようだ。代金をセイジは手渡し、カップを受け取った。揺れるそれは木製のカップよりも濃い色をしている。これがグラスならば、かの液体は琥珀色をしていたのだろうか。躊躇うことなくセイジは口にした。
(おお、豆と違って液体ってことくらいはわかるんだ)
ただ、プレイヤーであるセイジにわかるのはそれだけだ。
「異界種は味がわからんというのは本当のことのようだな、噎せることなく飲むとは」
近くに座っていた二人の老人がセイジの横へ移る。双子なのだろうか、男女という性別の違いはあるが顔立ちがよく似ていた。
「クラディオ、あれも飲ませてはどうだ?」
「ヴォル。あれは君でもぶっ倒れたやつだからね、おすすめできないよ。それよりもこれとかどうかな?」
「飲みやすさの割にきっついやつか! ありだな」
男の方と店主が話している。どうやら異界種という珍生物に対して、色々と試したいようだ。女の方は困ったような顔で二人の老人を見つめている。
(そういえば、酔っ払ったりするのかな? 現実だとすぐ酔うからあんまり飲めないんだよなぁ)
そんな彼らの眺めつつ、セイジは暢気に酒を呷ったのだった。




