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A-3. 銃使い、隣町へ行く その3

ちょっと暗め。

 装備を整えたセイジは宿屋の庭で買った物を着て鍛錬を行っていた。慣れぬ装備だったからうまく動けず死にましたでは話にならないからだ。

(カーラやラゥガンの話では熊が一番強いって話だから——)

 セイジの脳裏にウィトシア熊を殺した時の光景がよみがえる。思わず口元を押さえ被りを振った。

(こんなのじゃ駄目だ。あんな小さい子を守らないといけないんだぞ。冒険者のセイジをしなければならないんだ)

 浅く息を吐き、まるで考えないようにするかのように武器を振るう。戦いというものは彼女の現実には無縁の物であった。ゲーム、ドラマ、小説。そういったものでしか見ることのないもの。体は戦える姿(ゲームのキャラ)であったとしても、中身もそうなるわけではない。

いつも通り(・・・・・)に動くだけでいい。雑念を浮かべようが躊躇(ためら)ったりしようが、ちゃんと体が動けばいい)

 セイジは覚悟を決めなければならない。頭で理解していたとしても、心はそう簡単についてはいかない。セイジは一つ大きく息を吐いた。


 短剣越しに引き裂く肉の感触。セイジに沸き上がったのは手を汚すことへの忌避感、それと相反する生への高揚、自身の手で()せる違和感、そしてそれら全てをどうでも良いとする思いであった。

自身が自身ではなくなるような感情がぐるぐるとセイジを(さいな)む。しかし、彼は表情一つ(ゆが)めることはなかった。

(あーダメだダメだ。この世界で生きていくんだから、セイジでいなきゃ)

「セイジさん?」

「カーラ、皮を剥ぐとかの処理の仕方を教えてもらえないだろうか?」

 セイジは己が感情を抑えカーラに頼み込んだ。これから生きていくために必要なことだと考えたからだ。セイジはカーラの指示通りに兎を解体しようとする。しかし不慣れ、あるいは不器用だからかガタガタになってしまっている。

(うー、ぐにょぐにょする。臭いから魚(さば)かないとか、そういうワガママはここじゃ通らないんだから)

 吐き気を悟らせぬよう、浅く息を吐き内臓を取り出す。そこにあるのは嫌悪感と、好物を前にしたような浮ついた気持ち。

(生は駄目な筈なのになんで——『なに』がその感情を発生させた?)

「セイジさん?」

 手が止まっているセイジを怪訝(けげん)に思い、カーラが覗き込む。セイジは少し恥ずかしそうに口を開く。

「穴が開いてしまった」

「初めてですし、そんなものですよ」

 カーラはそう言い、(なぐさ)めるように肩を軽く叩いたのだった。


 夏の夜とは思えない肌寒さによって、カーラは目を覚ました。たき火はすでに消えてはいるが、月光が差し込み全く見えないわけではない。カーラは頭を動かしある一点を見つめる。セイジだ。

(あの時と一緒——)

 カーラは前に一度、セイジのあの寒い気配が濃くなった時を知っている。しかし、前と違い恐怖は感じなかった。

 空をただただ見上げるセイジ。その光景にカーラはほぅと息を吐く。綺麗だと感じた。姿にではない。何者にも揺るがされぬような、その空気にだ。

 ざわりと何かがうごめく。月明かりに反射する色は(あか)。陽炎のように揺らぐ。まるでそこにないかのように。

 気づけば空は明るくなっていた。目の前にセイジはいない。どうやら、カーラはまた眠っていたらしい。

「おはようございます、セイジさん」

「ああ、カーラ。お早う」

(夢、だったのかな)

 カーラは大きく伸びをする。セイジは料理が得意ではないらしく、食事を作るのはカーラが担当になっていた。携帯できる食料自体は購入しているが、緊迫した状況でもない限り調理にある程度の時間をかけてもよいだろう。

 セイジとカーラは特にこれといった問題もなく隣町にたどり着いたのだった。


 リーウィの町、閑古鳥のなく冒険者ギルドにてラゥガンは頭を抱えていた。

(そりゃそうだよな。セイジだけってことはねぇよな!)

 王都のギルドから全体へ向けた連絡が届いたのだ。異界種と称する冒険者が現れた、と。異界種の保護と情報の展開せよと、その紙には書かれていた。ラゥガンはすでにセイジのことを報告済みだ。

(三十年前に来たってのもだが、一体なんで現れたんだか)

 ラゥガンはこれから起きるであろう混乱に目を(そむ)けたくなったのだった。

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