A-3. 銃使い、隣町へ行く その2
駄目人間セイジ。
「冒険者が普段何をしているのか、か」
「ああ」
遅い時間になったため中断した、異界種のセイジとこの世界のギルド職員ラゥガンの認識あわせが再開された。
「そうだな、主に護衛・討伐、そして争いごとがあれば傭兵だな」
ラゥガンはその三つのことをセイジに説明した。この世界には人よりも強い生物が多く存在する。そのため、商隊・旅行者などの戦いが得意でないものが町の間を移動するための護衛を冒険者が行うことが多い。いや、現在の冒険者の仕事のほとんどがこれだ。
次に、人よりも強い生物たちの間引きなのだが人が住まないような辺境のみ冒険者にまかされる。人が住む町村に近い場所は各町村の『狩人ギルド』なるものが討伐を担当するらしい。
最後に傭兵家業だが、数年前に戦争が終結したらしく暫くは募集しないであろうとのこと。
「そうだセイジ。アンタ一つ依頼を受ける気はないか?」
「依頼?」
ラゥガンはこのリーウィの町の冒険者事情を話し始めた。先ほどの話の通り傭兵の募集がない今、冒険者の仕事は護衛か辺境での討伐の二択になってしまっている。
「護衛はな、商人あたりは個別で契約持ってるケースがほとんどだ」
どうやら新規で護衛の仕事を得るのは難しいらしい。となると辺境での討伐一択になりそうだが、ラゥガンは話を続ける。
「討伐の方はランクが緑以上だ」
ランクが赤であるセイジには受けることの出来ない仕事のようだ。冒険者をやめ、別の仕事を探さないといけないかもしれないとセイジは思った。
「戦いが得意じゃない町人が個人的に護衛を必要とするケースが丁度ある。受けねぇか?」
「なぜこの世界に来たばかりの私に依頼するのか」
「この町の在住冒険者が一人もいねぇからだ」
リーウィの町は、大きな町と町をつなぐ宿場町だ。王都、白竜を奉る神殿、最も大きな港町の三つの街道の合流点に立っていた一件の宿屋からできた町だそうだ。そのため、他の町と比べとりわけ歴史が浅く、冒険者ギルドもラゥガンの着任と共に出来たらしい。
そういう背景があるからか、ほとんど新人が入らない。入ったとしても、実力がつき次第もっと大きな町へ行ってしまうそうだ。
「カーラの依頼を受け逃げやがった奴が現時点で唯一のこの町所属の冒険者だったっつーことだ」
「それは……」
セイジは気の利いた言葉を言えなかった。そしてラゥガンがセイジに依頼したいことも検討がついた。カーラの依頼が達成されていない、その依頼をセイジに受けてもらいたいのだろう。
「アンタのランクは低いが、白竜神殿の近いこの町周辺ならどうにかなるだろうよ」
白竜という存在の加護によって、危険な生き物がほとんど住み着かないことをラゥガンは説明する。この町に冒険者が定着しない理由もそれであろう。
「で、受けてもらえるか?」
「——カーラが私でも良いというのなら、受けよう」
躊躇いがちにではあったが、セイジはそう答えたのだった。
「セイジさんが受けてくれて嬉しいです」
冒険者ギルドへ来たカーラは笑みを浮かべた。カーラは道中セイジに守って貰っていたため、彼の実力面を疑っていない。たとえ最も低いランクの冒険者であってもだ。
「ただ、目立つその服はなんとかした方がいいと思います」
セイジの着ている灰色のスーツを見ながら言う。ラゥガンの方は特に気にしていないようだが、この町の住人の着ていた服とセイジの装いはかなり異なっている。「目立つもん着てる冒険者は少なくねぇんだがな」とラゥガンがぼやくが、セイジの格好を整えることはカーラにとって決定事項のようだった。
「金の問題がある。これはリュエンドクライムの金なのだが換金はできそうか?」
「おお、これは三十年前にあった硬貨! いや冗談だ、冗談だからそんな顔で見るんじゃねぇ、カーラ」
セイジが取り出した硬貨を見て深刻そうな顔をしたラゥガンをカーラが小突いた。ジョークが滑ったようだ。セイジは偽造硬貨を判別する装置に案内された。世界の違いによって金属の含有量が違うかもしれないからの措置だ。
「魔法、種族に金……か。共通点が多いってのはなんつーかな。ありがてぇが変だよな」
「全くだ。助かってはいるが……」
硬貨の結果は本物。金の単位もゲームと同じであった。そのまま黙り込むオッサン二人。その空気を壊したのはカーラだ。
「お金もあるんですし、装備整えに行きましょうか。セイジさん」
セイジはラゥガンに手を振り、ドアから出て行くカーラに着いていくのだった。
「カーラ、依頼内容だが隣町への護衛であっているか?」
「はい、街道ではなく森で香草を採取しながらですけど」
冒険者や狩人が利用するという武具屋、カーラはセイジの着る皮鎧を選びながら答えた。出来るだけ早くだそうで明日出発だそうだ。セイジは着れさえすれば良いと考えているらしく、特に柄のないものを選ぼうとしたがカーラに止められた。セイジよりもカーラの方が楽しそうにしている。
(服も母さんが選んでたしなぁ。やっぱり長いのかなぁ)
セイジの中身は、女性でありながら見てくれに気を遣わなかった。肌が被れるため化粧も嫌いで、指摘されなければ職場でもスッピンでいる剛の者だ。
ゲームのキャラだからと、制作したセイジは無駄に格好良く作られている。ハードボイルドをテーマに作られた姿であるが、性格がズボラ女では台無しである。
「これは軽いので動きを阻害しないと思います」
「それはありがたいな」
どうやらカーラがセイジの装備を選び終えたようだ。セイジは迷うことなく購入し、出発に備えたのだった。




