B-2. 銃使いの惨敗 その2
練習しても下手なままで難易度イージーだろうがクリアできないことも。
妖精に案内されたのは端末らしき物体。ギルドが管理と売買しているそれは、プレイヤー経由で手に入った物だそうだ。中古品や新古品といったものだろう。妖精が慣れた手つきで端末を操作し出てきた画面にセイジは目が点になった。
「1セン……」
銃弾よりは安いものとは聞いていた。安いどころか投げ売りされていた。参考までにネズミ一匹に対し得られる金は20セン前後、二十発入ったマガジンは300セン。セイジはネズミ一匹倒すまでに最低四発かかっている。どう考えても大赤字だ。
「投げナイフっていってね。飛び道具は異界種に不人気なの。しかも異界種が敵性生物を倒すと手に入るから、余っちゃったの」
どうやら在庫という概念がこのゲームにはあるようだ。一本1センでは売れなかったのか、最大で三百本で1センというものまである。
どの職業でも装備できる武器は基本的に性能が低くなっている。そのため、投擲武器の中で特にグレードの低い『投げナイフ』は敵がドロップすることもありだぶついていた。その余りようは買い取り拒否しなければならないほどだ。余談だが、投擲武器全てがあふれているわけではなく、破裂玉——魔法バクダンとプレイヤーには呼ばれている——と火炎瓶だけは効果範囲の関係で人気である。セイジは迷うことなく投げナイフを購入し——。
「それでまたここに来たと」
「ああ」
そしてまた鍛錬所に来ていた。ジョイスはなにやら諦めたような顔でセイジを見ている。的からかなりずれた位置にささる練習用ナイフをみて、これはしばらく通いそうだなとジョイスは感じたのだった。
セイジは的の端には当たるようになってから町の外へ出た。昼寝スポット探しだ。前にログインした時は鍛錬所の近くの東門から出たが、今回はなんとなくで南門から出た。アリュゼアの町の南には大きな森がある。町を背にするセイジから見て左は赤色、真ん中は黄色、右は青葉色だ。
(信号機だ!)
南門を守る兵の話では、森の色ごとに敵の種類が違うという話でパーティを組んでいないなら行かない方が良いと助言を貰っていた。
(戦わなければ気にすることでもないかなー)
それすなわち死である。初日で四回も死んでいるからか、セイジは死に戻りすることに特に忌避を感じずにいた。だがせっかく助言を貰ったのに無視をするのはいかがなものかと、森まで行かない程度に移動することにした。
しばらくのんびりセイジが歩いていると、急に辺りが暗くなった。何があったのかと上を向いたが、それは悪手であった。
「ぶべっ」
セイジは黄緑色の巨大なものに潰された。すぐに重みが消え顔を起こし見た物は、ショウリョウバッタだった。体長はセイジと変わらない大きさだ。そんなバッタが何匹もセイジの横から跳んでいく。
このバッタ、草食で人を襲わない。しかし討伐対象となっている。理由はバッタを捕食する生物も討伐対象であり、天敵がいなくなったことに増えすぎたことがあったからだ。草原がハゲそうにならなければ、ほぼ無害なこのバッタは放っておかれただろう。
(なんで跳んできたんだろ)
ぼんやりと遠くへ消えていくバッタを眺めるセイジ。その背後から草の揺れる音が近づいてきた。振り返ったセイジは固まる。セイジの腰近くまで伸びる草では隠しきれない体躯。セイジは思い出した。大きなバッタの話を聞いた時のことを。
「いいか、気をつけるのはグリーン……いや大きなバッタだ。奴が複数同じ方向から来たときは、天敵となる生き物が追いかけているってことだ」
そんなことを思い出している間に、ついにそれは姿を現した。そして、迷うことなくセイジに噛みついた。人と変わらぬ大きさのバッタを捕食する生物だ。バクリと腹を挟まれ、なすすべもなく宙へ放り出される。
その後十秒も立たずにセイジはログイン画面のあの泉にいた。
『セイジは敵 (シャープリザード)に倒された』
(倒されたってよりも食べられただよなぁ)
セイジが思い出したこと、それはバッタを捕食する敵は強いから冒険者始め立てのセイジでは勝てないだろうと言われたことだった。
(えっと、トカゲは水辺近くに生息してるんだっけ。水辺の近くで昼寝かーいいねー)
寝るために、めげずにセイジは再ログインしたのだった。セイジが目当ての水辺——池であった——にたどり着くまでに死んだ回数は七回。死因は敵に負けたのが四回、残り三回は行く方向を間違え目的の場所へたどり着けずに仕切り直した回数だ。ちなみに、アリュゼアの町は東、南以外に門はないのだが、二回ほど間違えて東門から出てしまってる。
その後なのだが、案の定セイジは昼寝中に死んだのだった。




