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A-1. 銃使い、森に発生する その1

まずはハードボイルド(笑)に生きよう:その1~その2(一部)を水増し。

キリのいいところで分けてるので、長さはまちまちです。

 (わず)かに差し込む光が風とともに揺れる。我先にと伸びたであろう木々の枝によって、その場所は暗く涼しかった。濃い緑色は今の季節が夏であることを告げる。

 身動ぎひとつせずひとり、男はそこにいた。男は(しわ)の目立つ灰色のスーツを着ており、その人工的な色はコンクリートに覆われた彼の地ではともかく、この森では目立っていた。

 風とともに枯葉色の髪が揺れ、ゆっくりと男は目を開ける。(よど)んだ紅茶色の瞳が長い睫毛(まつげ)から(のぞ)かせる。男は自身の右手の甲を見た。その中指には個性的な紋様のある指輪がはまっている。しかし、男が気にしたのは別のものだ。

(……(しわ)? どういうことだろう、これは)

 皺の目立つ筋張ったその手の甲を見て、男は(うめ)くように声を漏らした。男の記憶の中では、あり得ない光景であった。おそるおそると男は腰の右辺りに手を伸ばす。触れる冷たい感触。

 ゆっくりと形を確かめるように撫でた。銃だ。男はホルスターに納められていたそれを慣れた手つきで抜いた。

 大口径のリボルバー銃、片手で扱うにはギリギリの大きさであるそれは、重さも相当であろう。しかし男にとって、それは手の延長のようなものであった。その事が逆に男に大きな違和感を与えた。銃をホルスターにしまい、男は軽く項垂(うなだ)れた。

 ザァと風が吹く。思わず男は目深に被っていた帽子を押さえる。散髪屋の世話になっていないであろう前髪が頬を撫でた。

(帽子? 私は普段帽子を被らないのに。被っていたのは――)

 恐る恐ると男は顔を確かめるように触れる。顎には髭の感触。髭は顎を除き綺麗に剃られ、整えられているのを指が感じた。

(うわぁ間違いない。あれだ。ゲームで作成した見た目だよ、これ)

 男は頭を抱え――ようとした手を降ろし、ホルスターへ伸ばす。風とは違う、草木の揺れる音が耳に届いた。

(害意、こちらへ向かっている。脅威は感じない。多分、壊せる。……わぁどうしよ、めんどくちゃい)

 途中までは真面目に考えようとしていたようだが、最後で台無しだ。

 いつでも銃を抜けるよう体勢を整えた男は、音を立てぬよう気をつけながらじりじりと歩き始める。そして獣を追う狩人のように、気配を薄くした。

 落ちた広葉樹の葉や枯れ木を慌ただしく踏みしめる音、時折聞こえるしなる木の音が、こちらに来ていることを男に知らせた。そして、ついに音の主は姿を現した。

(……子供?)

 身長が二メートル近くある男の胸元にも届いていない子供だ。子供は進行方向にある新たな障害物に気付き、荒い息を整えぬまま悲鳴をあげた。

「きゃあ! あ? あ! あの、た助けて!」

 近くにいた灰色が、人であることに気づいた子供は、慌てながらも助けを求める。そんな子供の様子を男は見ずに、黙ってもう一つの音に耳を済ませた。そして(やぶ)から飛び出た生き物を視認するなり、リボルバー銃を抜き放ち――正確にそれの額を撃ち抜いた。軽い地響きとともに倒れたそれは、男よりも一回り大きな熊であった。

 男はそうなるのをまるで予想できなかったかのように目を見開き、額から血を流す熊を見つめた。そして、ぎこちなく熊が死んでいるのを確認した(のち)に銃をホルスターにしまう。

(倒した。壊した、いや……殺した? 殺した、だ。血の臭い。これって、もしかして――夢じゃない?)

 何でもないかのような表情をしたまま、男は黙り込む。混乱していたのだ。そんな男の心境など知らず子供はぽかんとした顔で見つめていた。

 一瞬で行われた命の刈り取る行為が理解できなかったのか。いいや、ホルスターに視線が釘付けになっている様子から、銃という武器を見たことがなかったのかもしれない。

 先に正気を戻したのは子供の方だった。助けられたことにやっとのこと気づいたのだ。

「あ、ありがとうございます!」

 表情一つ変えない男に恐怖を感じたのか。少々つっかえながら男に礼を言う子供に、男はようやくその存在を思い出したようだ。

「君の安否に関わらず獣は私に襲いかかっただろう。気にするな」

 男は少し考え、そう答えた。男にとって、ただいつも通り(・・・・・)のことをしただけなのだ。だが子供はそれに納得できなかったようで、何か言おうとしては黙りこむのを繰り返す。

 男は周囲を警戒を解くことなく、子供へ目を向ける。十歳くらいの少女だった。木々の間から溢れ落ちる光により、その銀色の髪は幻想的に煌めく。将来は間違いなく美人になるだろうくっきりとした顔立ちだ。

 少女はどこかの民族衣装を彷彿させる砂色をベースとした服を着ていて、男の格好とはあまりにもかけ離れている。

「君が礼をしたいなら、近くの村か町へ案内してくれると助かる。無報酬というのも、私はあまり好きではなくてな」

 いつまでもこの状態のままなのを避けるべく、男は少女にそう提案した。その言葉を聞き、少女は男の職業が彼女の知るものであると判断したようだ。

「あなたが気にしないと言ったから、お礼はしません。その代わりにひとつ依頼をしたいです。依頼は町までの護衛、報酬は町までの道の案内です!」

 正解にたどり着いたぞと言わんばかりの顔で少女は男を見上げる。そんな挑発的な薄緑色の瞳を見て、男は表情を変えず、しかし少しだけ微笑ましそうな声色で答えたのだった。

「その依頼を受けよう。私の名はセイジ。――冒険者だ」

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