96.夜に潜みし者
今話は如何に?
少し長くなってしまいました
<ビアンゼ>
一階の奥にあるビアンゼとリームの部屋に隠そうとしていない気配がある。
ビアンゼが部屋を出る前に気絶させた侵入者の気配ではないと思うが、部屋の中に気配は一つしかない。
まだ気絶しているのか、それとも窓辺りから逃げたのか。
それとも今居座っている相手に……。
部屋の扉の前まで気配を殺してきて、中の様子を伺うが気配に動く様子はない。
(どうする……。
武器を構えて待ち構えているか、単なる馬鹿か……)
中にどう入るか考えていると、
「開いてますよ。
どうぞお入りください」
中から声がかけられた。
(この声は!?
くっ!
嫌な馬鹿だったか……!)
声の言われるままに、ビアンゼは自分の部屋の扉を開けた。
「遅かったですね。
待ちくたびれましたよ」
部屋の中央に置かれたテーブルとセットのイスに男が一人座っていた。
座っている男は他の侵入者とは違って顔を隠していない。
ビアンゼが気絶させた侵入者の姿はなかった。
「ここに顔を隠した奴が寝てたはずだが?」
ビアンゼは男に侵入者の行方を尋ねる。
「ああ……。
彼ですか。
仕事もできない役立たずで、しかも命令の内容も理解できてなかったクズのことですね。
役立たずは処分……。
したかったのですが、ここがあなたの部屋であんなゴミで穢すなんてできません」
男は両手を持ち上げ首を振る。
「安心してください。
窓から放り出しました」
男は右手で眼鏡をのずれを直す。
「大丈夫です。
処分はこちらで帰ってから行います」
「なんだと……?」
言っていることの意味がわからないビアンゼは聞き返してしまった。
「私はあなたには危害を加えるなと指示を出したのに、あのクズは理解できずにあなたの部屋に侵入しました。
あのようなクズがあなたの部屋に一歩でも入るなど万死に値する!
さらにはあなたを襲うなんて……!」
穏やかだった男の顔が突如豹変する。
「躾がなってなくて申し訳ございません」
再度穏やかな表情に戻るとビアンゼに向かって頭を下げる。
「今回の件はお前が首謀者か?
クノート」
ビアンゼは座って頭を下げている男クノートを睨みながら訊ねる。
「立ち話はなんですから座ったらどうです?」
男は頭を上げるとここはビアンゼの部屋なのにまるで我が物のように言ってくる。
「お前と長話をするつもりはない!」
「連れませんね」
クノートは眼鏡のずれを直すとにやりと笑い、
「元同じパーティではりませんか」
と告げてきた。
「!?」
「いやー、一緒に冒険した日々は楽しかったですね。
今でも目を瞑ればあの日々の事が明確に思い出されます」
クノートは胸に手を当て実際に目を瞑っている。
「あの時のあなたは強く美しく気高かった」
目を瞑ったまま顔を上げて陶酔してしまっている。
「今回の襲撃は私たちのギルドのものです」
目を開けたかと思うと急に話に戻ってきた。
「何が目的だ?」
「ここを新人の冒険者が拠点にしていると聞きまして」
ビアンゼの脳裏にシュウとクランとリン、そして新しく加わったティアリスの顔がよぎる。
「なんでも、新人冒険者をうちの冒険者がギルドに勧誘して蔑ろにされたようで。
まぁそのくらいならどうってことないのです。
ですが、いろいろとこちらの仕事の邪魔をする輩も現れた。
調べてみると仲良くパーティを組んでこちらに集まっている。
これは一つ挨拶をしておかないと、と下の者が相談してましてね。
ここはあなたの宿なのでターゲットを絞るように指示をしたのですが、本当にクズは役に立たない。
心配で来てみれば案の定です」
また大げさに両手を上げてため息をつく。
「ですが、私が来たのでもう心配はいりません。
もうあなたには指一本触れさせません」
「私以外はどうなるんだい?」
「それは私の関知するところではありません」
「あの子たちに手を出すな!」
「それはできない相談です。
こちらも新人冒険者に仕事の邪魔をされていますからね。
まああちらは邪魔をしていることに気付いてはいないんでしょうが」
「一体何をやっている?
あの子たちが何をやった?」
「それはあなたにもお教えすることはできません。
ですが、どおしてもと言うならその限りではありませんが……」
「何の見返りも無しに教える気は無いクセに」
「ご名答。
何簡単なことですよ。
前々からお話しているようにあなたが私の元に来ていただければ」
「それは断ると言ったはずだ」
「今日もフラれてしまいましたか。
ですが、いつでも心変わりした時はおっしゃってください」
「一生ないから心配すんな」
「これは手厳しい。
では、そろそろお暇しましょうかね。
あちらも終わったようですし」
クノートの言葉に気配を探れば侵入者らしき気配は無くなっている。
「わざわざ危険を冒して襲撃しておいて尻尾を巻いてにげるのかい?」
「そうみたいですね。
本当に使えないクズ達です。
クランの下の下しか編成しなかったのは私なんですがね」
「何?
一体何のために?」
「クランに所属する人数もいささか増えてきましたからね。
そろそろ下位のゴミを選別する必要があると思っていたところだったのですよ。
新人君たちはいい仕事をしてくれました」
「そんなことの為にあの子たちを襲ったのか!」
「まぁまぁ、心配せずとも本命はきっちり仕事の出来る片を選んでます」
「本命?
襲撃以外に何か目的があったって言うのか!」
「これ以上は企業秘密です」
クノートは肩を竦めて答える。
「ここまで話してくれたんだ。
最後まで話しておいきよ」
ビアンゼは拳を握り構えを取る。
「ああ、そうそうあの少年の傷は大丈夫でしたか?」
「なに?」
突然話題を変えてきたクノートの言葉に理解が追いつかない。
「傷を回復させても傷口が開いてしまう。
そして、広がる肌の変色。
まぁ!怖い。
まるで、フーガスがかつて受けた呪いのようです」
「!?」
クノートは大げさに両手を広げて恐ろしさを表しているようだ。
それは舞台で役を演じる俳優のように。
「さらに呪いと同時に傷口を押し広げ、血を吐き出させる毒。
益々恐ろしい!」
今度は両手で身体を抱き込む。
「私もあの子の傷を見てフーガスの呪いを思い出していたよ。
おかげで治癒する目処が立った」
「ほう。
解呪と解毒する術があると?」
初めてクノートの顔から笑みが消えた。
「それは企業秘密さ」
ビアンゼはクノートに一つやり返すことができたと思っていたが、クノートは気にしていないようでぶつぶつと独り言を呟いている。
「……やはりもっと……いや……いっそ……」
「一体何をぶつぶつ言って……」
ビアンゼがクノートの独り言を遮ろうとした時、脳裏に閃くものがあった。
ビアンゼとフーガスは昔遺跡探索を主とした冒険者のパーティだった。
とある遺跡でビアンゼが先の道の罠の有無を調べるための偵察から帰ると、蹲るフーガスの姿があった。
周囲にはフーガスが倒したのであろうスケルトンの骨が散らばっている。
すぐに駆け寄り手持ちの治癒ポーションを使ったが、傷口が閉じては開きを繰り返し、その度に肌の変色が広がっていく。
どうしたのか事情を問いただしてもフーガスはスケルトンに襲われたとしか言わなかった。
そこに聖水を使おうと提案してきたのが……。
「思い出した。
フーガスに聖水を使うように言ったのはクノートだった」
「今の今まで忘れていたのですか?
私達は最初の依頼から一緒だったのですから当然私もその場にいました」
「たしかクノート、あの頃からだよな。
錬金術に興味が出たとかで少しずつ研究しだしたの……。
まさか……」
ビアンゼが過去を思い出して、それをヒントに思いついたことを呟くと、
「おっと憶測で疑うのは止めて頂いてよろしいですか?
ただ今も研究は続けておりますよ。
私以上の錬金術の手練れはもうこの街にいないと自負しておりますが」
「そうかい。
やっぱりあんたにはもうちょっとゆっくりしていってもらわないとね。
少しあの子を診ていってもらおうか!」
ビアンゼは全身に剣気を巡らして腰を落として構える。
「やれやれ。
私は頭脳派なので荒事は止めてもらえますか?
ですが……」
クノートが肩を竦めた仕草をして、ビアンゼに体を向け……
「!?」
ビアンゼの視界から消えた。
「今のあなたなど取るに足らないのですよ。
こんな所で鈍ったあなたなど」
ビアンゼの横に立ち、耳に口を寄せて告げてくる。
「なっ!?」
ビアンゼは驚くと同時にクノートの顔に目掛けて拳を振る。
が、
「それでは、お邪魔しました。
新人君たちにはよろしくお伝えください。
余り目立たぬようにと」
窓の前に立つクノートがビアンゼに向かって告げる。
「ま、待て!」
ビアンゼが急いで詰め寄ろうとするが、
「そうそう、昔のあなたはもっと強かった。
今のあなたではうちのギルドにはいりません。
私の奴隷となら考えますが」
「誰が!」
ビアンゼが右腕を振り上げるが、振り下ろす前にクノートの体は窓を飛び越えて裏路地を駆けていく。
「鈍ったか。
そんなの私が一番わかってるよ……」
振り上げた拳をそのまま目の前に持ってくると、拳を見つめたまま呟いた。
今話登場した人物が勝手に話してくれるので筆が進みました
ここまで読んで頂きありがとうございます
皆様の空いた時間を埋めるお手伝いができていれば幸いです
それではまた~




