95.夜遊び
今話は戦いが……?
リームが振りかぶって投げたボールは予想以上の速度があり、侵入者はボールを咄嗟に横に飛んで避けた。
「思ったよりも速えぇが、それだけ……。
あん?どこいった?」
ボールを投げたリームはティアリスと侵入者の視界から消えていた。
「てめぇ、一体どこ行きやがった!?」
先程まで余裕そうだった侵入者が慌てて周りを見渡している。
トンッ
突然侵入者の頭の上から音がした。
「上か!?」
侵入者が音の出所の天井を見上げる。
そこには、
「な!?」
フォークが天井に刺さっている。
見上げた姿勢の侵入者の背後で空気が揺らぐ。
ミスディレクション
隠れる
キンッ
侵入者の背後に現れたリームが無防備な侵入者の短剣を打ち上げる。
天井のフォークの横に短剣が並んで突き立った。
「て、てめぇどこから現れやがった!」
慌てふためく侵入者と正反対で無表情のリーム。
「なめんじゃねぇ!」
短剣を失った侵入者はリームを力任せに掴もうと近づく。
それを、リ-ムは引きつけてから左右のサイドステップで避ける。
避けられた侵入者はバランスを崩して前につんのめる。
たたらを踏んで踏みとどまった侵入者はリームに向き直ると、額に青筋を浮かべ、
「なめてんじゃねぇぞ、クソガキがぁ!」
リームに向けて声を荒らげる。
リームは短剣を打ち上げたお玉を仕舞うと(ティアリスはどこに仕舞ったのか不思議に思ったが……)
左に駆けだした。
「ガキがいつまでも!」
侵入者はリームを向かえうつように身構える。
が、侵入者が体を動かすと同時にリームが再度消える。
「なっ!?」
侵入者は再度驚きの声を上げる。
離れた所で見ていたティアリスにはリームの動きが見えていた。
左に動いたリームは侵入者の動きを見て、急加速して右に飛んでいた。
(この侵入者はリームさんの動きに目が付いて行ってない……)
ティアリスが心の中でそう考えていると、ティアリスの目からもリームが消えた。
(嘘……。
本当に消えた……!?)
「クソガキィ……どこ行きやがった」
周りをキョロキョロと見渡す侵入者。
フェイント
ミスディレクション
隠れる
不意打ち
侵入者の後ろから音も無くリームは現れた。
姿を現したのと同時に掌底を侵入者の背中の真ん中に叩きつける。
「ぐぁっ!」
侵入者が不意を突かれた一撃で埋めぎ声を漏らす。
「なんなんだ……。
このガキは……」
リームの一撃で侵入者は食堂の入り口付近まで倒れこそしなかったが押し戻された。
ティアリスはこのままリームだけ戦わせる訳にもいかないのでクランとリンを庇う位置から一歩前に出る。
今なら侵入者との距離もあるので、魔術の詠唱も間に合うだろう。
室内を壊さず、詠唱も短い魔術は限られるがこの侵入者相手なら通用するように思える。
侵入者は進み出たティアリスから戦意を感じたらしく、リームとティアリスを交互に見ると、背後の入り口をチラッと確認する。
「チッ!
てめえら覚えてろよ!」
形勢が不利になったことを察したのか、三下が使うような捨て台詞を吐いて大きくバックステップで食堂の入り口前まで飛びのくと体を反転させて食堂から逃げ出した。
そのまま宿の玄関の扉を大きな音を立てて開けて出て行く音がした。
侵入してきた時は無音だったのに対し、出て行く様はなんとも侵入者にしてはお粗末だった。
「一体何だったのよ……」
侵入者が出て行った食堂の入り口を見つめながらティアリスが呟く。
「何がしたかったのかなー」
リームも指を顎に当てて小首を傾げている。
先程までの無表情が嘘だったかのように愛くるしい仕草だった。
「リームさん、今の動きはどこで?」
ティアリスは今目の前で繰り広げられたリームの動きを尋ねた。
明らかにそこらの普通の子供ができる動きではない。
「んー?」
リームはまた可愛く考えるようにしてから、
「色街のおねーさんから教えてもらったの!
普通の子はできるって言ってたよ」
(一体何を教えてるのよ!)
ティアリスはリームの言葉に頭を抑えた。
「普通の子は大人をあんな風に翻弄なんてできないですよ」
ティアリスは呆れ半分でリームに忠告しておく。
「そうなの?
あれー?」
「まさかとは思うけど、お友達もできるの?」
ティアリスは少し沸いた疑問をリームに尋ねた。
今どきの子供がこれが普通だったら、少し外を歩くのが怖くなりそうだ。
「ううん。
教えてもらったのは私一人かなー。
みんながやってるのは見たことない!」
にっこり笑いながらリームが教えてくれる。
「そ、そう。
わかったわ。
助けてくれてありがとうね」
ティアリスはホッとしながらリームに侵入者を撃退してくれたお礼を言う。
まだ外を安心して歩けそうだ。
(それにしても、リームさんには助けられたけど色街のお姉さんは子供に何を教えているの……)
ティアリスは会ったこともない人に声を大にして問い詰めたかった。
「は~い。
ティアリスお姉さん、クランお兄ちゃんを助けてあげて」
リームに言われてそうだったと思いだす。
振り返るとさらにクランを庇う様に身構えていたリンと目が合う。
お互いに頷き合ってからクランの治療に戻る。
その様子を見てからリームは食堂の入り口とその向こうにある宿の入り口を見つめる。
その視線は氷のように冷たかった。
女の子は怖い
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