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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第二章 冒険者と仲間
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94.夜に謀る

今度こそ戦いが……?

 <ティアリス・リン>

 シュウが自室に突入したと同時間。

 リンを正気に戻したティアリスは二人で解毒と治癒を進めていた。

(!)

 ティアリスはふと周囲を見渡すが、

(リームさんがいない……。

 ビアンゼさんを追いかけていってしまったのかしら……)

 シュウとビアンゼが食堂を出るまではたしかにいたはずだ。

(私やリンさんが頼りなく感じて追って行ってしまったのかな……。

 ごめんなさい。

 無事でいてくれますように)

 クランの容態も気になり、リームを探しに行きたいがここを離れるわけにもいかない。

 この宿にいる中で一番非力な子を見失うという失態に唇を噛むが今はもうビアンゼかシュウと無事に合流できていることを祈るしかない。

 考えることを中断し、リンが解毒した場所に治癒ポーションをかけて傷を小さくする治癒行為に集中する。

(そうだ。

 シュウさんが私にしてくれていたように……)

 ティアリスは清潔な布に治癒ポーションをかけてリンが解毒した患部になるべく優しく当てる。

 軽く縛って固定すると次の患部に移動する。

 布の治癒ポーションが乾くまでの間に持続的に傷を治してくれると前にシュウがティアリスの傷を処置してくれた時の帰り際に教えてくれた。

 二人は黙々と解毒と治癒を進めていく。


 その二人に音も無く忍び寄る影があった。

 シュウやビアンゼが気配を感じとった侵入者の第二陣の一人だ。

 一階の担当だった侵入者はシュウが二階に駆け上がるのをやり過ごすと食堂に来たのだった。

 入り口から中を確認しても倒れているガキをせっせと治療している女が()()いるだけだった。

 二人とも治療に集中しているのでこちらに気付いている様子もない。

 この宿の者たちで客に気づかれれば殺してもいいと許可が出ているが、なぜかこの宿の店主には手を出すなとも言われている。

 末端の侵入者にはその理由を窺い知ることはなかったが、今はそんなことどうでもよくなっていた。

(よくよく見れば、あの女地味だがそこそこ上玉じゃないか?

 女のガキの方もそれなりってとこか。

 殺してもいいってことは何をしてもいいよな。

 死体があるかないかの違いだからな。

 こいつら気絶させて奴隷に売り飛ばしちまおう。

 俺様のような優秀なスキル持ちをいつまでも下っ端扱いしやがって……

 売り飛ばした金でこの組織からも街からもおさらばしてやるぜ)

 この街は奴隷を認めていないがそれは一部の街の古参冒険者が反対しているだけで、他所から来た領主は奴隷を認めたがっていると聞いた。

 そんなこともあり、この街の裏のルートでは奴隷が非合法だが取引されているのだ。

(売り飛ばしちまう前にまずは俺が楽しませてもらうがなぁ……)

 顔を隠すマスクの下で声を殺しながら下品な顔でニヤつく。

 すでに気持ちは目の前の無防備な女を拉致することに成功し、その後の事にまで想像してしまっている。

(さあ、無駄に抵抗すんじゃあねえぞ。

 傷者にしちゃあ気分がノらねえからなぁ。

 一発で気絶させてやるからよぉ)

 入り口から音も無く忍び寄り、手に持つ短剣を強く握る。

 早く女二人の意識を刈り取り、宿からとんずらだ。

 じりじりと近づく侵入者。

 背後から近づく侵入者に治療に必死な二人は気づかない。

(今だ!)

 侵入者が短剣を構える。


「人のおうちに勝手に入っちゃいけないんだよ?」


 侵入者の背後から声がかけられた。

「!?」

 侵入者は入り口側に大きく飛び退る。

「何!?」

 ティアリスがその声で侵入者に気付き、クランとリンを庇うように前に立つ。

 そして、侵入者に声をかけた人物にも気づいた。

「リームさん……?」

 先程までいなかったはずのリームがテーブルの横に立っていた。

「シュウさんかビアンゼさんに付いて行ったのでは……?」

「ううん。

 ずっと()()()いたよ~」

(そんな……。

 本当にさっきまでそこには誰も……)

「テメェ……。

 どこから現れやがった」

 驚いた侵入者が思わず声を出してしまっていた。

 そういうところがあるので組織からいつまでも下っ端としてしか扱われることを彼は気づいていない。

「だから、私はずっとここにいたよ?」

 リームが年相応の仕草で小首をかしげながら答える。

「それよりも、クランお兄ちゃんに怪我させたのは()()()()達?」

「クランって奴が誰だか知らねえが、そこの死にかけのガキのことだったらそうだろうよ」

 ティアリスの背後でリンがピクッと反応したのがわかる。

 ティアリスはクランのことは数回話しただけでまだよく知らないが、気の良い少年といったイメージだ。

 それでも、この侵入者の言葉にリン程ではないだろうが怒りを覚える。

「ティアリスお姉ちゃんとリンお姉ちゃんもケガさせようとした?」

 リームの質問はまだ続いていた。

「いやいや、ケガはさせるつもりはなかったよ。

 俺は紳士だからなぁ。

 ちょっと気絶させて奴隷として売っぱらっちまおうと思ってたぐらいさ」

 子供相手に素直に情報を話す侵入者である。

「まあいい二人から三人になって運び出すのに手間だが、嬢ちゃんも奴隷としてそこそこの値で売れるだろうよ」

 言うことを欠いて、ここにいる三人を奴隷として売るつもりの様だ。

(私が何とかしなくちゃ……。

 せめて杖持って降りてくればよかった)

 自分の部屋で襲撃された時は杖で短剣を受け止めていたが、シュウに助けられた時に破かれた服を隠そうとして手放してしまっていた。

(魔術を唱える隙さえ作れれば……)

 侵入者の隙を伺いつつ、

「リームさんこっちへ」

 目は侵入者を捕らえたまま、手をリームに差し出しこちらに来るように促す。

 しかし、リームの反応はティアリスの思ったものではなかった。

「私ちょっと怒っちゃったんだ」

「へぇお嬢ちゃんが怒ってどうするのかなぁ?」

 侵入者の顔はマスクで見えないが、下卑た顔をしているだろうと想像できてしまう。

 視界の端でリームが一歩前に出る。

 後ろに組んでいた腕を解くと右手にボールを持っていた。

「へっ。そいつをどうするのかなぁ?」

「リームさん。

 ダメよ!

 早くこっちへ」

 ティアリスの制止を無視して、リームはボールを侵入者に向かって投げつける。

 それはリームぐらいの女の子にしては速かったが、

「思ったよりも速えぇが、それだけ……。

 あん?どこいった?」


 ミスディレクション


 ボールを投げたリームが侵入者やティアリスの視界から消えていた。

次に戦うのはまさかのこの娘


ここまで読んで頂きありがとうございます

皆様の空いた時間を埋めるお手伝いができていれば幸いです

それではまた~


頑張れ!ニッポン!

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