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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第二章 冒険者と仲間
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90.長い夜に……

雰囲気のジェットコースター

 <<クラン>>

 少し自分の実力に自信が付いてきていた。

 シュウと出会うきっかけとなったウサギや狼なら今だと油断さえしなければ対処できる自信がある。

 手合わせしてくれるシュウにも少しずつだが打ち合えるようになってきた。

 ルーツから教わるスキルも使いこなせるようになってきている。

 冒険者の基礎的な知識もついてきたはず。

 ルーツの所に行くまでは知識も無く無謀だったと今なら言える。

 本当にルーツとここに連れてきてくれたシュウには感謝しきれない。


 そして、あと少しすればやっと、本当にやっとシュウと一緒に冒険に出られる。

 何も知らなかったクランとリンに気にかけてくれて、パーティも組んでくれた。

 それからはずっとルーツの所で修業となってしまって、ずっとパーティでクエストに行くことをシュウに待たせてしまっている。

 それがようやく、ようやく一緒に冒険に出れるのだ。

 きっとまだまだ肩を並べると言えるほど実力は追いつけていないだろう。

 クランが修行している間にシュウも様々な出来事に巻き込まれていたらしい。

 自分がいれば足手まといだっただろうが、自分のいないところでシュウが危険なことに巻き込まれていたことを後で知ると悔しく、情けない気持ちでいっぱいになった。

 焦る気持ちもあったが、辛抱強く修行に打ち込むことにした。

 これが、強くなれる最善と思ったから。

 けれど、これからは一緒に行動できる。

 今はまだ助けられることの方が多いだろうが、少しずつ返せていけたらいいなと思う。


 あと少し……。

 あと少し…………。

 だった……。


 昨日、シュウがティアリスという女性冒険者を宿に連れてきた。

 綺麗な人だと思った。

 何でも昼間にルーツの所に来ていたらしいのだが、その時は会うことができなかった。

 フランの手で整えられた容姿は、貴族の娘に勝るとも劣らないと思った。

(実際に貴族の娘を間近でみたことなかったが)

 夕食の時に少し話をしたが、人見知りなのかこちらから聞いたことには答えるといった感じで最初は自分から話し出すことはあまりなかった。

 最後の方は打ち解けてきたのか、言葉が増えていたと思う。

 それでも、少し事情も聞くことができた。

 シュウと二人で色々大変だったようだ。

 それが、昨日の出来事で今日はティアリスもルーツの所で修業となった。

 主にリンと一緒にフランに師事することになるみたいだ。

 場数が違うからか、フランの教えを吸収する速度がリンとは違うとリンが自ら言っていた。

 元々の基盤があったためか、魔力の操作や杖術がすでにリンより上だったらしい。

 それをリンは先に師事していたが悔しがるというよりは、それ以上に尊敬できると言っていた。

 そんな話をしながらベッドに入り、眠りについた。


 明日も修行を頑張って、早く追いつけるように。


 それは、一種の勘だった。

 寝ているはずだった目が突然冴えた。

 隣のリンはまだ眠っているようだ。

 何かに突き動かされて、ベッドの上を転がる。


 ドガッ


 今までクランが寝ていた場所に何かが叩きつけられたようだ。

 転がってベッドから降り、そのままリンのベッドに駆け寄る。

「起きろ!リン」

 クランのベッドに立つ襲撃者から目を離さず、手探りでリンの肩を揺らし声をかける。

「ふぇ……?

 何?」

 声と仕草でリンが目を覚ましたことを悟る。

 それと同時に襲撃者も動き出した。

「リン!

 立て!

 逃げろ!」

 襲撃者が短剣を突き出してくる。

 後ろ手にリンを押し出し、襲撃者から遠ざける。

「ええええ!

 何!?」

 リンはまだ寝ぼけており、状況が理解できていないようだ。

 クランもなぜ襲われているか理解はできていないが……。

 突きを躱された襲撃者はそこから刃を返し、水平に切り込んできた。

 クランは間一髪スウェーの要領で身体を後ろに反らして避けようとするが、頬に痛みが走る。

 襲撃者は短剣を素早く掲げてから振り降ろしてくる。

 丸腰の状態では短剣を受け止めることもできないので、ベッドの上を転がって避ける。


 ザクッ!


 短剣が深々とベッドに突き刺さる。

「きゃあーーー」

 そこでやっと寝ぼけていたリンが自分が寝ていたベッドに短剣を突き立てる襲撃者に気付いて悲鳴を上げた。

 転がった勢いのままベッドから降りて立ち上がり、同じくベッドから落ちた状態で尻餅を付いているリンの手を引いて立ち上がらせる。

 立ち上がらせたリンを背後に庇いながら襲撃者と対峙する。

 短剣を引き抜いた襲撃者はベッドの上に立ち、首をコキッと鳴らすと短剣をクランに向ける。

 その状態でベッドから降りると再度首を鳴らす。

「リン。

 剣を取ってくれ」

 背後のリンに小声で指示を出す。

「え?え?

 何?

 あの人は誰なの?」

 混乱しているリンはクランの服を掴んで震えている。

「リン!早くっ!チッ!」

 リンが動き出せる前に襲撃者が動いた。

 クランはリンを突き飛ばし、迫る短剣をギリギリのところで躱し、体全体を使って捌いていく。

 攻撃を捌くことに集中したので致命傷は避けれたが、至る所に赤い線が走り、血が流れていく。

「クラン!

 これ!」

 そこでようやく背後のリンがクランに剣を差し出してくる。

 させるか!

 と、言うかのように襲撃者が短剣を振り上げ迫ってくる。

 クランはリンの持つ剣の柄を掴むとそのまま抜いて、短剣を受け止める。

 鍔迫り合い状態だが地力(じりき)の差で少しずつ押されてしまう。

(つ、強い……。

 くっ)


 バンッ!


 大きく音を立てて扉が開け放たれ、シュウが駆けこんでくる。

 

 助かった。

 シュウ達に驚いた様子の襲撃者は窓から飛び降りて逃げていったようだ。

 何とかリンに傷を負わせることなくシュウと合流することができた。

 シュウの後ろにはティアリスもいたので、後はこの宿の住人であるビアンゼとリームがここにいないことになる。

 お世話になっている二人なので無事でいて欲しい。

 その二人の無事を確認こ行くことになった。

 クランの傷はティアリスに癒してもらえたので、傷口は塞がり、血も止まっている。


 けど、何か傷のあった場所がピリピリとする気がする。


 シュウを先頭に慎重にビアンゼとリームのいる一階に向かう。


 ピリピリと感じていた傷口がジンジンしてくる。


(くっ、傷が熱い……)


 シュウがビアンゼに扉をぶつけたようだが、これでビアンゼとリームと合流できた。

 喜ばしいことだが、クランは自分の身体の事で精一杯だった。


(ぐううう……。

 いてえ……。

 皮膚の内側から焼かれてるみたいだ)


 全員揃った一同は食堂で情報の共有を図る。

 シュウが何度もビアンゼに頭を下げているのがまるで遠い場所のように聞こえる。


(体が……熱い……痛い……。

 オレ……シュウ……さんと……ぼうけ……に……)


 ドサッ


 体を支えていられず椅子から崩れ落ちる。


 ブシュッ


 地面に落ちたクランの全身から血が噴き出した。


 オレ……やっと……本当の……冒険者に――

前話ののんびりとした雰囲気から一転

登場してから中々焦点の当たらなかった人物が中心になりました

この先どうなるのか?


ここまで読んで頂きありがとうございます

皆様の空いた時間を埋めるお手伝いができていれば幸いです

それではまた~


次回「友よ永遠に……」

お楽しみに!

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