9.落とし穴(命的に)
そんな決意をした時期も僕にはありました。
丘から道に向け十分程下り、あと少しで道に出れそうと思った頃、右手にある少し背の高い茂みがガサガサと揺れた。
シュウから五メートル程離れたその茂みはシュウの胸元程の高さまであった。
シュウは小さな動物でもいるのかと足を止めていた。
平和な日本育ちで争い事を極力避けてきた一般的な高校生と思っているシュウは忘れていた。
街の入り口が遠くに見え、そこに続く道の近くまで来ていた事も原因かもしれない。
シンは言っていた。
この世界には魔物や獣を含むモンスターがいるということを。
ガサガサと茂みを揺らして出てきたのは・・・
「えっ!?」
「☆△□!?」
シュウが最初に思ったのは子供だった。
身長は一メートル程の痩せた子供。それが三人茂みから出てきた。
互いに驚いた様子で凍りついた空気の中で出てきた相手を見た。
じっくりといえる程時間があったかはわからない。
だが、相手を観察することによって増えていった情報からこの三人組が子供じゃないのではという疑問から確信に変わっていった。
肌は土気色。耳は細く長く尖っていた。頭はボサボサな髪の上にそれぞれ違った形の帽子が乗っている。ボロ布を縫い合わせただけの粗末な服を着ている。
そして、左から木を削っただけのような先が太くなっている棍棒、刃がボロボロに欠けてしまっている小剣、木製の小弓で武装していた。
ここまでの"観察"に要した時間、約2秒弱。
幸か不幸か、ずっと風は丘の下から吹いており、互いが風上にも風下にもなっていなかった。
そして、互いに顔を合わせたところで互いの存在に気づいた形となっていた。
混乱した頭で子供じゃないと判断して、ではこの小人のような存在はナンだ?と思った頃、凍った時間が動き出した。
まず驚きから復活したのは小弓を持った小人だった。
手に持った小弓に矢をつがえ、シュウに向かって放った。
慌てており、狙いも外れていたのか矢は明後日の方に飛んでいったが、それでもシュウと他の小人の時を戻すには十分だった。
「△□☆○!」
小剣を持った小人がなにか叫び、小剣と棍棒を持った小人が武器を振り上げシュウに向かって駆け出した。
そんな小人を見るよりも早くシュウは小人達と反対の方向へ走り出した。
矢を飛ばし、武器を振りかぶって迫ってくるのが挨拶になるとかだったら、そんな異世界は嫌だ。
とてもじゃないが友好的に見えない。
そんな冗談を考えている場合ではなく、
「うおぉぉぉぉーー。
ムリムリムリムリィィーー。
だ、誰かあぁぁ助けてぇぇぇーーー」
叫びながら全力疾走をした。
後ろからは小人達が追いかけてきているのが、足音や追い越していく矢によりわかる。
(あとちょっと。あとちょっとで道に出て、そうすれば、街にいけたのに・・・)
あの時、茂みの音に足を止めていなければ、街に向かって走っていれば、と今になって思う。
だが、現実にたらればはどうしようもない。
それに、街に向かって走ってもまだ一キロ以上の距離があり、ペース配分無視の全力疾走をして到達できたかどうか。
ただそれは小人達から反対に逃げ出した現実にも当てはまる。
全力疾走を始めて一分もせず、息が切れ脇腹が痛くなる。
「・・・ハァッ。だ、誰か・・・」
(誰か・・・シンさん・・・)
息も上がり必死に足を前に出すが、草に覆われた地面には小さな起伏あり、慣れていないシュウは時より足をとられてしまう。
その度に小人との距離が縮まっていく。
実は、逃げている方向から右へ少し行けばシュウが目指していた道に出られるのだが、前にしか意識がいっていないシュウは気がつかなかった。
だんだんと足が重くなり走る速度も落ちていく。
肩越しに振り返れば、小人も息を切らしているがまだ追ってきていた。
ただ、見えるのは棍棒を持った小人だけだった。
(・・・あ、後少しで撒けるのか・・・?)
視線を前に戻しつつ体力的にきついが、懸命にペースを上げようと試みた。
「ガアッ!?」
そんなシュウの背後からブンッと音がしたと思うと、右肩に硬い物が当たる衝撃に襲われた。
そのまま、前向きに倒れ込んでしまった。
横を見ると、小人が持っていた棍棒が落ちていた。
先ほどの衝撃は小人が投げた棍棒が当たってしまったものだった。
(に、逃げないと!?)
シュウは懸命に立ち上がろうとするが、一度止まってしまった体は言うことを聞かず、足は踏ん張りが利かなかった。
なんとか立ち上がり背後を向くと、手に何も持っていない小人が追いついてきて立ち止まった。
彼我の距離は三メートル程。
互いに肩で息をしている状態。
シュウは小人を見つめたまま、少しずつ後ずさる。
小人はそんなシュウを見逃すはずもなく、一気に駆け出し、落ちていた棍棒を拾い上げ振り上げた。
(!しまった。拾うなり遠くに離しておけばよかった)
シュウは棍棒をそのままにしていた事を後悔しつつ、小人の動きに集中した。
小人の上からの振り下ろされた棍棒を体を横にして避けた。
足はフラフラで力が入らないが、小人の動きを“観察“する事に集中すると、小人の動きがゆっくりに感じられ、何とか避ける事ができた。
棍棒の振り下ろしや横なぎを二度三度と避けると小人の顔に怒りが混じりだした。
棍棒の振りが力任せのめちゃくちゃなものになったが、シュウは変わらず集中し避け続けた。
(もう少し、このままでこいつを疲れさせて、隙を見て逃げよう)
小人が疲れるまで避け続けようと残り少ない体力を気力でカバーし、集中を続けた。
だが、それも長く続かなかった。
ヒュッ!
風切り音が聞こえたかと思うと、左肩に激痛が走った。
痛みに目をやると左肩に木の矢が刺さっていた。
肩から目を離し、前を見ると棍棒を持つ小人の後ろに小弓を持つ小人が追いついてきていた。
(くっ。こいつに集中しすぎた。それに、まだっ!?他に!?)
最初小人は三人いた。
それが、目の前には二人しかいない。
その状況を冷静に理解できていた訳ではない。
右にある茂みが揺れ、小剣を持った小人が飛び出してきた。
茂みが揺れた瞬間に左へ飛んだ事で、小人の振り下ろしは避けたが、小人は止まらなかった。
「なっ!?早い!?」
振り下ろしから素早く横なぎに切り替えしてきた。
なんとか後ろに下がって避ける事ができたが、そこで足から力が抜けた。
「しまっ・・・!?」
足が止まったシュウに向け再度踏み込んでくる小人。
(下から切り上げが来る!)
わかっているが動かない体に歯噛みしながら、シュウは力の抜けた足にバランスを崩したように後ろへ倒れていった。
そこへ予想通り小人の渾身の切り上げがきた。
しかし衝撃は予想以上で後方に飛ばされたシュウはあまりにもな激痛に動けなかった。
「ぐうぅぅぅ・・・はぁっはぁっ」
ここまでの全力疾走と攻撃の回避、そして、最後の一撃によって、指一つ動かすことができなくなった。
(ここまでなのか?
こんなどこともわからないとこで死ぬのか?
まだ何もできてないんだぞ!
落とし穴に二回も落ちて最後は命を落とすとか・・・笑えない。
兄さんごめん)