86.長い夜の始まり
年も明けてみなさん落ち着いて来たころでしょうか
今話は短くなってしまいましたが
楽しんで頂けたらいいなー
シュウはどこからか声が聞こえた気がして目を覚ました。
ベッドに横になったまま目線だけで自室の中を見渡す。
テーブルの上のナイフ、ベッドの脇の壁に立てかけた長剣、イスにかけた上着、装備や衣類を入れている小さなタンス、窓の外はまだ暗闇、部屋のドア……
音も無くドアの前の暗がりから真っ黒な人影が飛び出してきた。
人影は手に持つ短剣を高く掲げており、寝ているシュウ目掛けて振り下ろした。
<<ティアリス>>
ガッ!
隣の部屋から突然大きな音が響き、ティアリスはビクッと体を震わせた。
寝ておらず魔術屋で購入した魔術書を読んでいるところに不意の物音で驚いてしまった。
音の発生源である隣の客室はシュウの部屋だ。
シュウが何か家具にぶつかったのかと考えたが今は真夜中だ。
次にベッドから落ちてしまった可能性を考えたが今の音はベッドから落ちたほどでは出る音ではないように思えた。
ちょっと大丈夫か確認に行こうとベッドの上から足を下ろした。
その瞬間、昔なら感じなかった勘、最近になって研ぎ澄まされてきた冒険者としての勘というものだろうか。
それが働き、目を部屋のドアに向ける。
するとドアが音も無く開き……黒い塊が入ってきた。
黒い塊は全身闇に溶ける黒い装備をした人だった。
足元から頭まで黒で統一している。
顔も仮面のような物を付けており、男か女かもわからない。
唯一目だけが見えている。
その目がティアリスを捕らえると一瞬驚いたのか体の動きを止める。
が、それも一瞬のことで手に持っていたのか短剣を振り上げ、音も無くティアリスに詰め寄ってきた。
シュウとクレヴァの戦いを見ていたティアリスはあの時の二人と目の前の相手の動きを比べると目で追える分遅いとわかる。
が、それを女でまだ駆け出し魔術師のティアリスの身体が付いてこれるかと言うと別問題だ。
ガツッ!
ティアリスは驚きつつもベッドの脇に立てかけていた杖を掴み、短剣を受け止める。
今日、フランに言われたことが頭をよぎる。
『魔術師は距離を詰められると何もできなくなっちゃう。
常に仲間がいる場合ならいいけど、そうじゃない時もあるわ。
だから最低限自分の身を護れるようにしておかなきゃ。
相手も魔術師が近接戦ができると思ってないだろうから大抵油断してくれるわ』
そう言ってウィンクをしていた。
それから杖を使った杖術や素手の時の身のこなしを教わった。
(まさか、こんなに早く体感するなんて!)
今日だけで杖術を身に付けることはできていないが、聞いているかいないかだけでも反応に差が出ていた。
襲撃者もまさか魔術師に短剣を受け止められると思っていなかったのだろう。
仮面の隙間から見える目が大きく見開いているのが見える。
だが、ティアリスは受け止められたものの押し返せるほどの筋力は無く、受け流せるほどの技量がなかった。
両手で待つ杖で短剣を受け止めている形だが、徐々に襲撃者も落ち着きを取り戻したのか短剣に力を込めてくる。
純粋な力勝負ではやはり分が悪く力負けしてしまう。
「ぐっ」
ティアリスはベッドに押さえつけられるように倒れ込む。
襲撃者はさらに体重をかけてくる。
(くっ。
……どうしようどうしよう。
ま、魔術。
ダメ。
集中する時間と詠唱をさせてくれるはずが……)
抑え込んでくる短剣が徐々に顔に迫ってくる。
なんとか堪えようと杖を押すが短剣の進行を一瞬止めるだけだった。
そして、襲撃者の空いていた左手が素早く動く。
ティアリスは襲撃者に肩を掴まれたかと思った。
が、次の瞬間……
ビリリリッ
掴まれたのはティアリスの服で肩口から斜めに引き裂かれてしまった。
「なっ……!」
引き裂かれた部分からティアリスの胸が露わになってしまっている。
驚きと羞恥心で胸を隠したいが両手は塞がってしまっていてできない。
ここで混乱の余り、手で胸を隠してしまうと、即座に短剣が振り下ろされ殺されてしまうだろう。
(なんて、嫌らしい……)
短剣越しに見える襲撃者の目でティアリスを追い詰めている状況を笑っているのがわかる。
(くぅ。
もっと力があれば……)
ティアリスがそう思った時、心の奥の方から黒く重いモノが……。
(シュ……)
いつも優しく笑いかけてくれる黒髪の青年が心に思い浮かぶ。
先程、隣の部屋からした音、もしこの襲撃者が先にシュウの部屋に行っていたならあの音のは……。
キッと目つきを鋭くして両手に更に力を込める。
少しずつ短剣を押し返すことができた。
襲撃者の目にも驚きが見て取れ、更に力と体重をかけて押さえつけようとする。
ティアリスは心の奥から湧き上がる黒い力に手を伸ばそうと……
バンッ!
ティアリスの部屋のドアが大きく音を立てて開かれる。
それと同時に飛び込んでくる人影。
今度は黒ずくめの者ではなく見知った姿。
シュウだ。
ティアリスが心の中で助けを願った黒髪の青年。
シュウはベッドに押さえつけられているティアリスと押さえつけている襲撃者を目に止めると、一瞬ため込むように腰を落とす……
次の瞬間姿が霞んでいた。
ドッ!
次にティアリスの目に飛び込んできたのは壁に叩きつけられた襲撃者と目の前に現れた右手で掌底を突き出した姿勢のシュウだった。
駆け足だった前話は早くこの話を書きたかったから
久しぶりの戦い
ここまで読んで頂きありがとうございます
皆様の空いた時間を埋めるお手伝いができていれば幸いです
それではまた~
戦いはもう終わりなのか!?
それはわからない!




