72.ロックホーン戦締め編
前編・後編で
終わったと思うでしょ?
私も思いました。
終わらなかったんですね。
後編ってつけちゃってどうしようか悩みました
考えてみればこのロックホーンは最初からおかしかった。
このロックホーンの見た目から推測できる本来の脚力を出せていたなら、ティアリスの足ではもっと前に追いつかれていただろう。
そして体格に見合った体力があったならシュウのスタミナでもここまで戦う事はできなかったはずだ。
明らかに動きが鈍くなっていって、最後には立っているのがやっとのようだった。
ロックホーンを落とし穴に落とした時点でアルテに解析してもらった結果によると、
このロックホーンは重度の猛毒に侵されている。
それもシュウ達と出会った時とかではなく、もっと前から毒にかかっていたらしい。
シュウが確信したのはティアリスが参戦してからだった。
ティアリスの魔術で少し鱗にダメージはあっただろうが、それ以上に内側にダメージがあるような吐血をしたからだ。
シュウは気絶して大人しくなったロックホーンを注意深く観察しながら見て回る。
黙ってロックホーンの周囲を回りだしたシュウに付いてティアリスも遠巻きにしながら観察する。
二人がロックホーンの背後に回ったところでシュウの足が止まる。
シュウが何を見ているかティアリスも横に並んで見てみると……
「これが原因かな……」
「こ、これは……?」
二人が見つめるそこには、ロックホーンの硬い鱗を貫通して深々と一本のナイフが突き刺さっていた。
刃は根元まで深く刺さっているため見えないが、見えている柄はどこにでもありそうなシンプルな作りをしている。
シュウは刺さっているナイフの柄を一旦確認してから慎重に握って、ゆっくりと引き抜く。
ナイフの刃にはロックホーンの赤々とした血が付着しているが、暫く見ていると先端から紫色の液体が染み出てきた。
(アルテ)
『告。
色と粘度からの推測。
猛毒』
「種類はわからないけどたぶん毒だ」
「毒……?」
「これのせいで苦しんで暴れてたのかな」
「あ、元々は大人しい性格って聞いたことあるわ」
「誰かが前に戦って倒しきれなかったのかな?」
「そういえば、昨日のパーティが受けてたロックホーンの討伐クエストは暴れるロックホーンの討伐だったはず。
このロックホーンだったのかもしれないわね。
何日か前から暴れてたって言ってたけど」
「このロックホーンがそうだったとすると、何か他の原因で暴れてたところにこのナイフを持った人と戦ったのか……。
それとも、このナイフが原因で暴れだしたのか……。
どちらかによってこのクエストの発生原因が変わってくるね……」
「そうね……。
もしかすると、このロックホーンも被害者なのかもしれないのね」
ティアリスは一歩近づいてロックホーンの鱗を撫でる。
「ティア。
解毒の魔術は使える?」
考え込んでいたシュウは顔をあげてティアリスに尋ねる。
「……いえ。
私は覚えていないわ」
「そっか。
わかった。
とりあえず、体力を戻すために治癒ポーションでも使ってみよう」
そう言って、ポーチを漁る。
「ちょっと、助ける気なの?」
ティアリスが驚いたようにシュウに詰め寄る。
「うん。
できれば、助けたい。
ティアも言ったように、このロックホーンも被害者かもしれないからね。
なんとかしてあげたい」
「でもまだ推測の段階で決まった訳じゃ……」
「そうなんだけど、このロックホーンは生きたいって必死だったんだ。
ナイフを刺されてから毒が体に入ったのを、体を動かさないようにしながら毒に効く薬草を森で探してたんじゃないかな。
そこにキリア草の匂いのする僕らが現れて必死に追いかけたんだ。
だからキリア草を持ってる僕をずっと攻撃してきたんだと思う」
そう言いながら、傷口に治癒ポーションを振りかける。
裂かれた鱗はそのままだがその下の傷の入った皮膚は塞がっていく。
「休めていた体を無理に動かして余計に毒が体に回ってしまったんだな」
血も止まったが、体内の毒は残ったままなので安心はできない。
「ティア。
このポーションを少しずつ飲ませてあげてくれる?」
ポーチと魔法鞄から治癒ポーションを取り出してティアリスに渡す。
昨日と今日で手持ちの予備の分も使い切ってしまうことになるので、帰ったら忘れずに作って補充しないといけない。
「え?いいけど。
あなたはどうするの?」
「解毒ポーションを作る」
「ええ!?
ここで?」
「うん。
余分に採ってきたキリア草を使えば教えてもらったレシピと手持ちの機材で作れたはず」
魔法鞄からキリア草の束と錬金術の機材を取り出す。
「いつも持ってたんだ……?」
ティアリスが呆れたように錬金術の機材を取り出したシュウを見て呟く。
「魔法鞄が便利すぎてね~。
持てるのに部屋に置いとく意味もね」
他の素材も取り出してその場に胡坐をかいて座る。
それからゴリゴリとキリア草をすり潰しだした。
ティアリスは傍でその様子を時おり眺めながら、定期的にロックホーンに治癒ポーションを飲ませる。
硬い鱗を撫でながら、心の中で魔術を放ってしまったことを謝る。
魔術で思い出し、自分がファイアボールを当てた場所も見てみる。
鱗が焦げて煤けている。
自分の魔力ではこの鱗を貫けなかったが、少しは鱗の内にもダメージがあったはずだ。
その位置に手を当て集中して詠唱する。
「ヒール」
柔らかな光が起こり、手を当てた鱗の傷が消えていく。
「……この子にも効くんだ」
今までヒト族以外に治癒術を使ったことが無かった。
使う事すら考えたことがなかった。
(知らないことがたくさんできたな……)
ティアリスは優しく綺麗になったロックホーンの鱗を撫でた。
屋外でポーションを作成するのは初めてだった。
異物が入らない事だけ注意して作業を進める。
横目でティアリスに治癒してもらっているロックホーンを確認する。
治癒ポーションと治癒術で状態はまだ安定しているようだ。
体力の回復で侵攻を遅らせられる毒で本当によかったと思う。
どの毒でもこのような処置ができるとは思わないが今回は助かった。
真剣に錬金術を進めていって三十分後やっと解毒ポーションが完成した。
集中して作ったからか、外で作った割には品質が良品質ができた。
一部を瓶に詰めておき、残りはバケツに入れた。
ロックホーンの体格がヒトに比べても大きく、同じ量では完全に解毒できないと思ったからだ。
それにこのロックホーンを動けなくなるほどの毒の強さと、時間が経って体中に巡っているであろう毒素。
完治には相当時間がかかると思われる。
それまでずっと診てあげることはできないので、できるだけのことはしてあとはこのロックホーン自身の自然治癒力に懸けるしかない。
バケツから解毒ポーションを小さな器を汲み、ロックホーンの口に含ませる。
ガフッゴホッ
赤い血を吐きながらロックホーンは咳き込んでしまった。
「大丈夫だからな。
ゆっくりゆっくりでいいから飲んでくれ」
ロックホーンの頬の辺りを撫でながら、再度口に解毒ポーションを含ませる。
今度は咳き込まずポーションを飲んでくれたようだ。
「大分内臓も傷ついてるかもしれないね……」
頬を撫でながら吐かれた血だまりを見る。
「そうね……」
ティアリスも反対側から血だまりを見つめる。
「治癒ポーションや私の治癒術もまだ未熟でこの子の内側まで癒しの力が届かない……」
「まあ、とりあえずこの解毒ポーションが効くことを祈ろう」
「そうね……」
申し訳なさそうに俯くティアリスを励まそうとシュウは声をかける。
すでにシュウはアルテに鑑定させており、猛毒の症状が緩和されていることで解毒ポーションが効いていることを知っていた。
三十分毎に解毒ポーションを投与しつつ様子を見ることにした。
昼をとうに過ぎていることに気付き、遅めの昼食もとった。
ロックホーンは今の所安定しているようなので解毒ポーションを作ったように治癒ポーションも作ってみる。
こちらはティアリスも作業を手伝って練習してみた。
下級治癒ポーションがいくつかできた頃に、ロックホーンが目を覚ました。
体の割に小さな目でシュウとティアリスを見る。
戦っていた時のように獣のような血走った目はしていないようだ。
まだ体を動かせるほど体力が回復していないのか先程まで戦っていた二人を襲う事はなかった。
「ごめんな。
キリア草を使った薬を飲ませたから少しは楽になった?」
鼻先にキリア草から作った解毒ポーションの入ったバケツを置いてあげる。
ロックホーンはスンスンと鼻を動かしてキリア草の匂いを確かめたようだ。
そして、キリア草だとわかって安心したのか顔を地面に付けて体を休める態勢になった。
「ピットフォールも解除しよう。
この態勢は体が休まらなそうだ」
「そうね。
そうしてあげましょう」
「解除」
言葉にしなくても解除はできたが、近くにティアリスもいることから言葉に出した。
シュウは落とし穴で拘束していた身体と脚にさらに傷が出来てないか、ロックホーンの周りを回り始めた。
ティアリスは鞄から布を取り出して、水で湿らせてロックホーンの顔の汚れを拭きだした。
「ちょ!?ちょっと!?」
ティアリスの声に顔を向けると、ロックホーンは顔を拭かれるのにされるがままだったみたいだが、鼻の前に来たティアリスに鼻先を擦り付けてスンスンと匂いを嗅いでいるようだ。
ロックホーンも落ち着いているようでなによりと思いながら身体の見回りに戻る。
後ろに回ったら尻尾がブンブン振り回されていた。
一通り見て回って新たな異常がない事に安堵しながら戻ってきた。
下級治癒ポーションもできあがったので内臓の回復のために飲ませようと解毒ポーションの横にバケツを並べて器に掬う。
「よーしよし。
ちょっと別の薬を飲むぞ~。
体の中を治す薬だからな」
そう言って、頬を撫でながら口元に薬の入った器持っていき飲ませる。
「きっと毒に置かされている間は飲まず食わずだったと思うから、何か食べさせようか」
治癒ポーションを飲ませ終えたシュウは鼻先を撫でながらティアリスに話しかける。
「そうね。
う~ん……。
ロックホーンは肉食じゃないみたいだから、草食かしら」
シュウが作成し終わった錬金術の機材やロックホーンを拭いたタオルを洗ったり片づけたりしていたティアリスは手を止めて考えているようだ。
「草食か……。
とりあえずリンゴ食べるかな?」
そういって、魔法鞄からリンゴらしき果物を取り出す。
シュウがリンゴに似ているからリンゴと言って周りに伝わっているためリンゴと言っているが果たしてこれは本当にリンゴなのだろうかといつも思ってしまう。
ちなみに味はリンゴのような酸味と梨のような甘みがする。
リンゴをロックホーンの口元に持っていくとパクっと一口で口に含み、シャクシャクと租借し始める。
「よしよし。
まだ体の中はボロボロだろうからよく噛んで食べるんだぞ」
リンゴを食べるロックホーンに満足しながら鼻先を撫でてやる。
ロックホーンはティアリスにしたように鼻先をシュウに押し付けてスンスンと匂いを嗅いでいる。
「くすぐったいよ」
そう言いつつもロックホーンを止めないシュウだった。
それから暫く解毒ポーションと治癒ポーションを交互に飲ませて経過を見た。
アルテの鑑定で徐々に毒の状態異常も回復していった。
だが、体力の方はまだまだ戻らないようだった。
実は毒と一緒にアルテから報告のあった状態異常があった。
『衰弱』
死の一歩手前までいって体力が低下している状態だとアルテは答えていたが、この衰弱が通知されなくなったのは治癒ポーションを何度も飲ませてからだった。
ずっとロックホーンに付きっきりになるわけにもいかないので帰る準備を始める。
ロックホーンがどのくらい休めば動けるまで体力が回復するかわからなかった為、周りに生えていた丈の長い草を刈って簡易的なベッドを作った。
草食なのでお腹がすけばこの草を食べればいいだろう。
(シュウ達の力で移動させることができなかったが、ロックホーンの横に草を盛ってあげただけで通じたのかその上に移動してくれた)
器のように水を入れられる葉をティアリスが見つけてきたのでベッドの前に下級治癒ポーションと解毒ポーションを並べて置いてあげた。
もうポーションの匂いを覚えたのか、交互に間違えずに飲んでくれるようになった。
ティアリスが夜は寒そうだと簡単な家を作ってあげようと言い出したが、さすがにそこまですると目立ちすぎるし、ロックホーンが回復した後に困ることになる。
なんとかティアリスを止めることができたが、代わりにティアリスは大きな葉を探してきてロックホーンの上にかぶせてやっていた。
最初はあんなに怖がっていたのに今はもう完全に親心が湧いてしまっているようだ。
シュウはシュウで丈の高い草に囲まれた平地だったのである程度近づかないと見つからないことに安心していた。
ポーションの横に持っていた全てのリンゴを置いてあげてもいる。
そして二人は何度もロックホーンを撫でながら元気になったら森に帰るように言い、森に会いに行くと約束して帰った。
ロックホーンはリンゴを大事に食べながら、暖かい草のベッドで身体を休めた。
ティアリスは今日の出会いでまた一つ違った見識が増え、その機会を生んだ横を歩く少年に感謝した。
シュウは新たな友人を喜んだが、その原因だと思われるナイフを思い出す。
そしてそれを使った主に静かな怒りを燃やす。
いつか犯人を見つけてやる。
そう心の中でロックホーンに誓った。
前編と後編を書いて
今回は締めをサラッと書いて終わるかと思ったんですが
3分割の中で一番の文字数になってました
あれれーおっかしいぞー
読んで頂きありがとうございました
皆様の空いた時間の消費に少しでもお手伝いできたなら幸いです
それではまた~




