71.ロックホーン戦後編
こ、後編だから今回も戦うよ。はずだよ。
ゆっくりとロックホーンが姿を現しつつある。
ズシンズシンと地面を揺らすように踏み出される一歩一歩にティアリスは魔術があまり効いていない事を悟る。
しかし、シュウは一見万全に見えるロックホーンも相当追い詰められてると睨んでいる。
「グルゥグフッグルルゥ」
ロックホーンが唸るがその間に小さく咳き込んでいる。
そして、口元から血が垂れだした。
(どうしたんだ……。
僕達の攻撃が体の内部に影響を与える程ダメージが入ったとは思えないけど)
ロックホーンが追い詰められていると考えてしまうと、一歩一歩進む姿も体が重く進むのも困難になってきているように見えてくる。
(僕達のとこに来る前に他の誰かとたたかっていた?
……いや、このロックホーンは急に現れたようにプレッシャーを放ってきた。
戦っていたならずっと前にこのプレッシャーを感じてるはず。
そもそも、気配察知で気づけない程気配を殺してたんだ。
戦っていたのなら大分前……
それで、体を休めていても傷か何かが治らない……
つまり、それって……?)
シュウが考えている間にファイアーボールの粉塵が収まっている。
ロックホーンはシュウを正面に捉えると駆けだした!
角と体格を活かした突進だ!
(けど、最初よりも全然勢いがないよ!)
「ティア!
横に避けて!」
ティアに指示を出しつつ、自分も横に飛んで突進を避ける。
ティアリスもシュウの指示とロックホーンの動きから避けることに成功していた。
突進とその回避というシュウとロックホーンの攻防に何度もあった展開だが、今度は少し様子が違った。
ロックホーンが足でブレーキをかけようと踏ん張るが、止まりきれずに倒れ込んでしまったのだ。
「何?
シュウさん何をしたの?」
ロックホーンの様子を見たティアリスがシュウに尋ねる。
シュウが何かやったのだと思っているようだ。
「僕は何も……」
シュウは素直にティアリスに答える。
その間にロックホーンは震える足で立ち上がろうとしている。
(アルテ)
『はい。
マスター』
(魔術を僕のイメージに合わせて発動させる準備お願いしたいんだけどできる?)
『検討。
善処します』
(僕はその間に動かさないように足止めするから)
『忠告。
それで怪我をせぬよう』
(わかってる)
「ティア。
ちょっとお願いがあるんだけど」
「何をすればいいの?」
「視界を奪うような魔術って使える?」
「成功率を高めるなら時間をかけて魔力を練る必要があるけど……」
「じゃ時間を稼ぐから今から準備をお願い」
「わかったわ。
無理は……」
「大丈夫」
シュウはティアリスにアピールするようにハンマーを担ぐ。
「合図をするから魔術をよろしくね」
「うん」
「じゃ、行くよ!」
シュウは担いだハンマーを強く握りしめてロックホーンに向かって駆けだす。
今まで防御に徹していてシュウから近寄ることはなかった。
ここに来て一転攻勢だ。
ロックホーンに勢いよく駆け寄ったシュウだが、ハンマーの特徴とロックホーンとの体格差で足止めの方法は変わらず回避とカウンター狙いだ。
(だけど、さっきと比べて格段に動きが鈍い!
余裕を持って躱せる)
シュウは先程よりも詰め寄って前足や角の振り回しを回避と迎撃で凌ぐ。
ロックホーンはシュウが近すぎて突進をする助走ができずにいた。
(シュウさん……。
近づきすぎではないですか?)
後ろから魔力を練り上げながら、シュウを見守るティアリスは先程と同じ方法の足止めだがロックホーンに肉薄しているシュウにハラハラしていた。
あの体格差と角による攻撃に冒険者の男性でも華奢な部類のシュウは掠るだけでも大怪我を負ってしまうだろう。
そうなれば今練っている魔術の魔力を霧散させてでもこちらに引き付ける魔術に切り替えようと構えている。
ティアリスの目からもロックホーンの動きが鈍くなってきているのがわかってきていた。
シュウとロックホーンの攻防を見守りつつ、一秒でも早く魔力を練り上げて魔術を完成させようと集中していった。
ロックホーンの右足の払いが迫る!
シュウはハンマーによるカウンターを狙うが先程のように思い切りハンマーを振るうのではなく、攻撃を逸らすことに重きをおいたものとなっていた。
自分で行ったことだが、ロックホーンの両前足はシュウのハンマーのカウンターによって鱗が割れていた。
この状態でシュウを潰そうと体重をかけたストンプを放つのでさらに鱗を傷つけることとなっている。
「グルルッ。
ゴボッ」
シュウに躱されたストンプから角による引き裂きを狙おうとしたロックホーンだが、咳き込むと共に吐血した。
「!」
シュウは咄嗟に下がって血を避ける。
「ロックホーンの血に酸性があって溶けるとか……。
無いみたいだな。
攻撃のための吐血じゃないってことは、相当弱ってる……」
シュウは地面に落ちた血が酸性で草などを溶かすか確認をしてから、そうではないと判断した。
よくゲームやアニメで酸性のブレスを吐く敵を思い出したからだ。
(アルテ!
まだできない?)
『告。
魔術の準備完了しております』
(なっ!
それを早く言ってよ!)
『告。
ティアリスの魔術の完成まで待機』
(それならそうと……)
シュウが頭の中でアルテに文句を言おうとした時に、
『魔術完成』
「準備できたわ!」
アルテとティアリスから声がかかる。
(お、おう)
頭と耳からステレオで報告が来たので少し戸惑う。
頭を振って気合を入れたから、
「じゃ、行くぞ!」
再度ロックホーンに詰め寄る。
吐血したロックホーンは息も絶え絶えの様だ。
シュウは血溜まりを避けてロックホーンの眼前に迫った。
両手ハンマー基本剣技 ヘヴィスタンプ
手加減バージョン!
心の中で叫びながらハンマーに込める剣気を調節して剣技を放つ。
狙うは顎!
ロックホーンの顎を目掛けて下から上にハンマーを振りぬく。
ガギィィィィン
ロックホーンの顎にハンマーはヒットしたが、まだそこは硬い鱗に覆われていて大きなダメージには至らない。
けれど、ハンマー特有の打属性による衝撃がロックホーンの頭を打ち上げる。
「ティア!
今だ!」
シュウの合図とともにティアリスは練り上げた魔力を解放して魔術を放つ。
「レイブラインド」
ロックホーンの顔の周囲に黒い霧が発生し、その霧が目に集中して視力を奪った。
「成功したわ!」
シュウがハンマーでロックホーンの頭を打ち上げた。
それも思い頭部一瞬持ち上げただけだが、その一瞬でティアリスの魔術で視力を奪うことに成功した。
ロックホーンはその一瞬で視界が真っ暗になって動けなくなった。
何とか視力を戻そうと頭を振っている。
「これで終わりにしよう」
シュウはティアリスの前まで戻り手を掲げる。
(行くよ。
アルテ!)
『肯定』
「ピットフォール!」
シュウが解き放った魔術はロックホーンの足元に落とし穴穴を開ける。
その穴はロックホーンとほぼ同じ大きさで身体の半分しか落ちていない。
「シュウさん……。
失敗ですか?」
ロックホーンの様子を見たティアリスはシュウに疑問を投げる。
「え?
成功だよ」
「でも、ピットフォールって落とし穴を作る魔術でしたよね?」
「知ってるの?
そうそう」
「でも落ちてませんよ?」
ティアリスは体の半分が見えた状態のロックホーンを見ながら、いつ動き出しても対応できるように構えている。
「今回はこれで成功なんだよ。
ロックホーンが四足獣だったからできたことなんだけど」
「どういうことなの?」
「あの下は真っすぐな穴になってなくて、ロックホーンの身体に合わせてすり鉢状になってるんだ。
それから脚の先が地面に付かないようにその下は空洞になってて、身体は自分の体重で地面につっかえて足は届かずに身動きできない状態になってるはずだよ」
「でも、そのくらいだと出てこれませんか?」
「動物が力を込めれるのって関節の折り曲げができる状態が大事なんだけど、今はロックホーンの脚の間接よりも上で突っかかってるから、脚に力がないらないし地面に足を付ける事もできない状態なんだよ。
もちろん、本調子のロックホーンなら無理やり暴れて穴を壊すかもしれないけどね」
そう言って、シュウはロックホーンに近づいていく。
「えっ!?
シュウさんまだ生きてますし、危ないですよ!」
ティアリスは近づいていくシュウに慌てて声をかける。
ロックホーンは身体の下半分が落とし穴に落ちているが、上半分は地面よりも上だ。
もちろん頭も出ている。
その頭にはロックホーン最大の武器である角がまだそこにあるのだ。
近づいてくるシュウを見て、ロックホーンは首だけを動かして角を持ち上げ威嚇する。
シュウは魔法鞄にハンマーを戻し、代わりに一本の棒を取り出す。
棒の両端を鉄で補強された両手棍だ。
両手棍を構えて、
「ごめんな。
荒療治になるけどちょっと我慢して」
両手棍基本剣技 砕身
剣気を纏った鋭い突きをロックホーンの額に突き刺す。
今回も硬い鱗が両手棍を止めるが、衝撃と剣気によってロックホーンは意識を刈り取られた。
「よし、これで大丈夫かな」
突き出した両手棍を戻しながらシュウは呟く。
「死んでしまったの?」
恐る恐る近づいてくるティアリスがシュウに尋ねる。
「いや、一応まだ生きてる」
シュウの返事を聞いてティアリスの足が止まる。
「い、生きてるの?」
「うん。
頭に衝撃だけ与えて気絶させたんだ」
(脳に後遺症とかないといいけど……
頑張れ野生の力)
「と、討伐しないの?」
気絶しただけでまだ生きてると聞いてティアリスは少し後ろに下がる。
「生きてるけど、本当に一応生きてる状態なんだよ」
「どういうこと?」
ティアリスは今日何度目かわからない質問をシュウにする。
「このロックホーンは僕達に会う前から死にかけだったんだ」
戦った……
終わった……
しばらく戦いなくても……いい……よね?
寒くなってきましたね
暖かいところでゆっくり読んでください
皆さんの空いた時間を埋められることができたなら幸いです。
それではまた~




