68.ある日森の中
久しぶりの冒険だ!
ティアリスとキリア草の採取に向かうシュウ。
クエストを受ける際にどこで取れるかをサーシャに確認したが、このキリア草もブランジリの周辺ならどこでも採れる薬草だと言われた。
例によって近場に生えた物はすぐに採取されてしまうので納品する数を集めるのは大変だろうとのことだった。
クエストの依頼で何度も街の周囲を探索していた際に草花を鑑定していたがキリア草がヒットしたことはなかった。
いつも採集している傷を癒す薬草はアルテの鑑定で正式な名前はヒール草ということがわかった。
傷を癒す草なのでわかりやすいが、これも翻訳が働いてくれているのだろうか。
とにかくキリア草を街の周辺で集めるには困難だ。
ということで、前にヒール草採取の位置を教えてくれた薬屋のランブルのメモを頼る。
下級ポーションの作り方を教えてくれた錬金術師。
今度ティアリスも連れていくと約束をした目的の人だ。
ブランジリの街の周囲に生える薬草の群生地を教えてくれており、その薬草の中にキリア草もあった。
ランブルが見つけた場所でもあるので、大っぴらにすることはできない。
その点ティアリスは口が固そうなので後で他人に言わないようにお願いしたら守ってくれるはず。
……たぶん。
目指すは西の森。
街の西側に広がる緩やかな草原の丘の向こう、山裾に広がる森だ。
その途中にある草原が昨日の現場である。
「……もう少ししたら、昨日の場所だね。
何も言わずに向かっちゃってるけど大丈夫?」
昨日の被害者であるティアリスに断りを入れていなかったことを思い出して、シュウは彼女に尋ねる。
「少し思い出したけど、大丈夫。
今日は戦うのではないもの」
「そっか。
ごめんね。
街から出る時に言えばよかった」
「だから大丈夫よ。
私はパーティに災厄を招く死神よ?
モンスターに襲撃されたことも何度かあるわ。
モンスターだけならまだましな方かもね……」
ティアリスから語られるのは想像よりも壮絶だった。
最後のモンスターだけならってそれ以外って言ったらあとはもう人ぐらいだろう……。
「そっか。
大変だったね」
そう言うとティアリスの頭をポンポンと撫でる。
「あ、ごめん。
つい」
サッと手を引いて謝る。
自分でも意識せずに手が出てしまっていた。
ティアリスも突然の事で目を見開いて固まっている。
気を付けないと現代の日本では女性に突然行うと嫌がられたりしてしまう。
そのまま同じということは無いが気を付けたほうがいいだろう。
「ごめん。
ティアリスさん。
もうしないから。
大丈夫?」
「あ、ええ。
突然で驚きましたが、女性には控えた方がいいですね。
落ち込んだりした人を慰めるにはいいと思いますが……。
人前でしないでくださいね」
(釘を刺されてしまった。
ほんと気を付けよう。
人前ではか……。
人がいなかったらいいってこと?
いや、そうじゃないか……)
ティアリスはなぜかシュウに背を向けてしまっているが、シュウの失礼な行動を怒っているようではないようだった。
元の話で落ち込んでいる様子もない。
「ティアリスさん。
落ち着いたら行こうか。
目的地はこの先の森だよ」
シュウはティアリスに声をかけて先に進もうと促す。
ティアリスがシュウに向き直るといつもの表情に戻っていた。
「はい。
行きましょう。
それと、私の呼び方が戻っています」
「あ、ごめん。
じゃ、ティア行こう」
気を取り直して二人は森へ向かって歩き出した。
昨日戦った場所を遠目に見るようにルートを変えて森に向かった。
ティアリスがじっと見つめていたようだがシュウが止まらず通り過ぎるのに黙ってついて来ていた。
それから暫く二人とも黙ったまま歩き森に到着した。
「では、ここからメモを頼りに進みますが、初めてなので少し時間掛かるかも。
昨日のオーガ達の事もあるから慎重に進みましょうか」
メモを確認しながらティアリスに話しかける。
ティアリスはコクリと頷く。
「僕が一応確認しながら進みますが、ティアも何か気付いたら言ってね」
ティアリスが再度頷く。
「オーガやゴブリン以外の魔物や動物も避けながら行くよ。
じゃ、こっちに」
シュウは慎重に気配察知の範囲を広げて森に入った。
森の中は思ったよりも静かだった。
気配察知に引っかかる動物もいない。
出会わないなら出会わないに越したことはないけど、万が一に備えて油断せずに気配察知を維持する。
キリア草の群生地に向かう間にヒール草が生えていたので、ティアリスに知らせてから少しずつ採取していく。
シュウが魔法鞄を持っているので、シュウが採取して後で分配することにした。
その間はティアリスが周囲を警戒する。
根こそぎは採取せずに少し採取しては進む。
キリア草の群生地に到着するまでに、二人分でも十分な量が採集できた。
森の中で岩に囲まれ、そこだけ木が生えてない一画があった。
その真ん中にキリア草が群生していた。
岩の陰から群生地を確認し、シュウはティアリスと顔を見合わせた。
二人で頷き合って、シュウが依頼の分と二人で分ける分を採集する。
十分な量が採れたことを知らせるためにシュウはティアリスに顔を向ける。
ティアリスも周囲の警戒しながらシュウに顔を向ける。
シュウがティアリスに親指を立てて、完了の意を伝える。
ティアリスもホッとしたように息を付き、頷く。
後は帰るだ……
ゾクッ
二人を鳥肌が立つほどのプレッシャーが襲った。
前書きで冒険と書きましたが今回もほぼ話をしているだけでした……




