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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第一章 なかなか冒険しない冒険者
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7.封印の剣

 シンは自分の言葉に息を呑むシュウを見つめ、真剣な顔から力を抜き、優しく微笑むと再度忠告をした。

「今は城に戻らないほうがいいね。

 焦る気持ちはわかるけど、一度ゆっくり情報を集めるべきだと思う。

 どうも城の中でよくないことが起こっているようだ。

 幸いと言ってはなんだけど、他にも召喚された勇者もいるようだし、城からはじき出された君に勇者の様に振舞う義理はないだろう。

 元の世界に早く帰りたいだろうけど、今はゆっくり情報を集め、時期を見計らった方がいいんじゃないかな」

 自分の命が狙われるかもしれないという状況の驚きと元の世界に帰りたいと焦るシュウを諭すようにシは情報収集を勧めた。

 その言葉に少しずつシュウは落ち着きを取り戻していった。

「わかりました。しばらく情報を集めてみたいと思います。

 あ、まずはシンさんに聞いてもいいですか?」

「ああ、いいよ。

 ただボクも最近地上に上がってないから情報が遅れていると思うけど」

 でも何を聞けばいいかなと考えてしまう。突然の出来事の連続で何がわからないかわからないのだから。

 何か聞かないといけないこと・・・

 何か聞かなければいけないこと・・・

 何か聞けていないこと・・・

 そうだ・・・

「ではまず、この世界に勇者が召喚された理由について教えてください。

 僕や他の人は何のために召喚されたんですか?」

 召喚後のごたごたでセリーネから説明されていないことを先ほどのシンの話から思い出したシュンは勇者が召喚された理由を尋ねた。

「まずはそこからか。

 まぁ、勇者が召喚される理由なんてそんなにないと思うけど」

 そう言われて、確かに異世界から人を召喚して、勇者と呼び、その勇者がシュウの知っている勇者と変わらないのならば・・・

「だいたいお察しのとおり。

 この世界に召喚された勇者の目的は、人族と対立し、争っている魔族の王、魔王と戦うことさ」

 その言葉を聞いたシュウはやはりそうかと予想通りの答えに天井を仰いだ。


「この世界は人族や魔族、妖精族、獣人族がいる。その中も様々な種族に分かれている。

 その種族全てが友好的な訳も無く、魔族やそれに従う種族が人族や他の種族と敵対している。

 今の地上の状況がその魔族との争いでどうなっているかはわからないけど、劣勢になりつつあるから、勇者召喚の儀式を行ったんだろうね」

「そんな戦争に一般人の僕を召喚しても力になれないよ」

 元の世界では紛争等が起こり、戦争が残る国もあるが、シュウの住んでた日本は、比較的治安も良く、シュウは大きな争い事には関わった事もない。

 そんなシュウを楽しそうに見つめ、頭から足まで視線を流した。

「それは、さっきも言ったけど召喚に選ばれるのは特別な力を持ってる人なはずだから。

 力に自覚がないなら、資質に引かれたのかもしれないね」

「僕にも何か力があるって言うんですか?」

「まぁ、召喚の儀式がきちんと成功していればそうだと思うけど。

 でも、君は魔族と戦う義務はもうないんだから気にしなくてもいいかもね。

 ただ、街から出れば魔物や獣のようなモンスターが出るからある程度の力が必要になるよ。

 暫くは、さっき言ったように情報収集をしつつ戦う力も付けた方が良いね」

「戦う力か・・・」

 平和な日本にも剣道等武術があるが、その道を極めた人ならともかく、一般的と思っている高校生のシュウにそんな力があるとは思えなかった。

 せいぜいが兄と健康の為にと毎朝体を動かしており、他の同級生よりも体力に自信があるぐらいだった。

(時々、隣の道場にも行ってたけど・・・)

 自分の力について考えていたシュウを見つめていたシンは、シュウが片手に持っていた鞄に気がついた。

「・・・ん?その袋はなんだい?」

「え?あっこれですか?

 これは、この世界に来る前は図書館に本を返しに行く途中だったので、その本が・・・」

 シンに説明しながら、この世界に持って来てしまった本を取り出すと・・・

 ジュンから預かった三冊の本のうちの一冊が淡く光っていた。

「え!!何これ?」

 本の変化に驚いて声をあげるシュウ。

「そんな反応をするって事は、その本は元からそうではなかったってこと?」

「う、うん。兄が図書館から借りてきた本だったんだけど・・・

 この本は、よく分からない字で書かれていた本で光ってはなかったはず」

 兄から渡された時の事を思い出しながらシュウは答えた。

「その本は、魔力を帯びているね。

 この世界ではそういった本を魔術書(グリモア)と呼んでいる」

 そこでシンは何かを思いついたかのように、本からシュウに視線を向けた。

「もしかすると、君の特別な力ってその魔術書に関係してるのかもね。

 中はどうなってるんだい?」

 シンに向けていた視線を本に戻し、恐る恐る本の真ん中辺りに指を入れ開いた。

 そこには!

 兄から受け取った際にサラッと開いて読めなかった文字が・・・

 一つも無く真っ白だった。

「あれ?白紙だ。何も書いてない」

 何ページか捲ってみても同様で白紙が続いた。

 ふと思い立って最初のページを開けてみた。

「あ!最初のページに僕の名前が書いてある。

 それと知の魔術書?って書いてある」

 最初のページの一番上に鳴上鷲と書いてあり、その数行下に知の魔術書と書かれていた。

「その本が君の所有ということと、その本の名前が知の魔術書(グリモア)ってことかな。

 どれどれちょっと見せてよ」

 そう言いながら、台座から降りてシュウの後ろに回り、本を覗き込んだ。

 そして・・・

「んんん?どこに書いてあるんだい?」

 シンが本を覗き込んだ開いているページを見ると何も書かれていなかった。

 そんなシンに名前が書いてある部分を指差しながら

「ここです。ここ。もしかして、字が違うのかな」

「そちらの世界と字は違うかもしれないね。

 でも、そこには文字はないよ。白紙のページだ」

 シンの言葉にそんな馬鹿なと自分の名前が確かに書かれているページを凝視する。

 そんなシュウの後ろで顎に手をやり、考え込んだシンは、

「もしかすると、所有者にしか見えないのかもね。

 魔力を帯びた魔術書だし。

 ちぇっつまんないの」

と、口では残念がりながら、態度はそのようなこともなく台座に戻るシン。

 シュウも魔術書を閉じ、鞄に戻そうかと別にしていた他の二冊と重ねた。

 その時ー

 三冊の本が光った。

「えっ?」

「ほ~」

 シュウとシンがその光にそれぞれ声をあげているとすぐに光は収まった。

 突然光った本を落とさなかった自分を褒めたいシュウだったが、三冊あったはずの本が魔術書だけになっていることに気がついた。

「あれ?魔術書以外の本は?」

 気づかないうちに落としたのかと周囲を見回すシュウに、

「さっきの光の中で、本が重なっていくように見えたけど、何か変わってないかい?」

 シンが光の中の変化を告げた。

 シュウは魔術書の最初のページ、自分の名前が書いてあったページを開いて気づいた。

 先ほどまでは、自分の名前と知の魔術書の二つしか書かれていなかったが、今は知の魔術書の下に無くなった二冊の本の名前があった。

 その事をシンに告げると、

「その知の魔術書は、本を吸収することができるのかな。

 たくさんの本を一冊にできるとか」

「でも、他のページはどこも白紙のままなんですけどね」

「本に名前が入ったからには、一つになった事は間違いないと思うんだけどね」

 広い知識のありそうなシンでもわからないようで、すぐにシュウは匙を投げた。

「ま、いろいろ試してみます。

 何か急いでしないといけない事もないですし、早くは帰りたいですが、今はどうしようもないですしね」

 そう言いながら、今度こそ魔術書を鞄に戻した。

 シンとの話で様々なことに驚いてきたシュウだが、やはりシンとのやり取りやどこかおどけたシンの仕草に落ち着きを取り戻しており、いつものマイペースが戻ってきた。

(現状、すぐに城に行っても入ることもできそうにないし。

 だから、元の世界に戻る方法やこの世界の事を知りつつ、この世界にはモンスターが出るらしいから、死なない程度に僕も強くならないといけない。

 なんか、まるでゲームみたいだ。

 情報を集めるには、まずここを出ないといけないよな。

 シンさん付いて来てくれないかな)

 現状を整理し、情報を求め行動しなければと、まずここから出る方法を知っているであろうシンに目を向け声をかけた。

「シンさん。異界の狭間から助けていただいただけでなく、色々と教えていただき、ありがとうございました。

 僕はまだ知らないといけない事がたくさんありそうです。

 シンさんに全て聞くのも迷惑になりそうですし、ここからは自分の足で情報を集めようと思います」

「ボクはそんな迷惑だなんて思ってないよ。

 それに、異世界から来てくれた客人を偶然とはいえ、助けることができてよかったよ」

「本当にありがとうございました。

 そして、最後に申し訳ないですが、ここから出る方法とどこか情報が集めやすい所を教えてもらえませんか」

「そこまで畏まらなくても。

 ここは最初に言ったようにウィンストリア王国の地下にある迷宮の最奥。

 まぁ聖域でもあるよ。

 この剣を封印してて、ここまで来るには、すご~く強い守護者(ガーディアン)を何体も倒さないといけない。

 普通なら守護者を倒して何もいなくなった道を戻れば出られるけど、君はそんなことしてないもんね。

 あそこの扉が入り口だけど、すぐ死んじゃうね」

 ここにきて一番楽しそうにシンは告げた。

(あれ?これ詰んでる!?情報収集する前にここからでられないぞ!?)

 シュウは台座の向こう側の壁に周囲と同化し、シンに言われるまで扉だと気づかなかった扉を見つめた。

 出れば封印された部屋を守ると言うガーディアンがいるのだろう。

 ゲームでもそういう類のガーディアンは強力な事が多かった。

 再びどうしましょう?と考え始めるシュウにシンが告げる。

「ここに出したのはボクだし、君はとても気に入ったから、出口を作ってあげるよ」

「本当ですか!?」

「本当本当。意外と簡単だから」

 ここ迷宮の最奥で聖域で封印の間だよね?簡単でいいの?と、シュウは思ったが、管理しているのがシンであり、シンもここに出入りするのに一々守護者と戦うことは非効率的であるので、どこかに抜け道があるのだろうと考えた。

「じゃあちょっと準備するね。

 あ、そうそうこれボクから餞別。と、言っても前に誰かが来た時の忘れ物なんだけど」

 そう言ってシンはどこからともなく、紐で口が閉じられた袋を出した。

「見た目は普通の袋だけどさ、実は魔法が掛かってて、たくさん物が入るみたいなんだ。

 おもしろいよね~」

「それはけっこう大事な物なんじゃないんですか?」

 と、言うシュウの心配は他所に、さも気にしていないといった様子でシンは、

「かもしれないけど、いいのいいの。

 ボクは使わないし、忘れられたの何十年も前だから。

 あ、中身はいらなそうな物がほとんどでほぼ捨てちゃったけど、落ち着いたら一度整理してね」

 手渡された袋を開けて、覗き込むと外見からはありえない広さがあった。

 その奥の方に大小様々な袋がいくつか入っていた。

「遠慮なくもらってよ」

「何から何までありがとうございます」

 とりあえず、手に持っていた鞄から知の魔術書を取り出して、袋に入れた。手に残った鞄も折り畳んで袋にしまった。

「さて、じゃ出口の準備でもしようかな」

シンはヨッコイショと立ち上がって、シュウを見てから台座に封印されている剣に視線を移した。

「ボクが出口の準備をするのに少し時間が掛かるからさ、君はコレ試してみない?」

「コレって?まさか・・・?」

 シュウはシンが指差す『コレ』を見た。

 コレとはもちろん台座に封印された剣だった。

「いやいやいやいやムリムリムリ」

 胸の前で両手を振り慌てて断るシュウだったが、

「時間はあるし、無理かどうかはやってみないとわからないぞー」

 そう言ってシンはシュウの背後に回り、シュウの背を押して台座の剣の前に立たせた。

「ま、軽い気持ちで。スコーンと抜けたら剣は君の物さ。

 じゃ、ボクは準備するよ」

 待て待て。いいのか守り人よ。

 と、シュウは振り返ったがそこにシンはいなかった。

 周囲を見回してもシンの姿はなかった。

 どうしたもんかと考えたシュウだったが、目の前の剣に視線を戻した。

 元の世界でゲームを、とりわけRPG(ロールプレイングゲーム)を多少嗜んでいるシュウに剣への憧れがなかった訳ではない。

「少しだけ。少しだけ。もしかがあるかもだし」

 と、一歩剣に歩み寄り、一度大きく深呼吸して、両手で剣の柄を握った。

「っ!?」

 柄を握った瞬間、剣に嵌められた赤い宝石からシュウの胸へ一直線に光が走った。

 そして、背後から岩がこすれあうような音がした。

(もしかしたら今なら剣を!?)

 シュウは柄を握っている両手に力を込めたーー


 結果は、抜くことができませんでした!

(わかってたよ!ちくしょう!)

 剣から手を放し背後にできていた出口と思われる石壁の隙間に体を向けた。

 そこにどこから話しているかわからないが反響しているシンの声がした。

『残念だったね。まぁ、気を落とさずにね。

 その道を行けば地上に出れるよ。

 そして、地上に出てもずっと真っ直ぐに行けば街に繋がる道に出る。

 久しぶりに人と話せて楽しかった。

 君も大変だと思うけど健闘を祈るよ」

 なんとなく剣に向かって、

「本当にありがとうございました」

 と、頭を下げ、出口に向かってシュウは歩き出した。

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