64.灰の……
ネタバレですが今回も冒険はありません
街に戻ってきたシュウとティアリスは冒険者ギルドに向かった。
シュウは依頼達成の報告があるのと、ティアリスもクエスト失敗の報告があるからだ。
まあ、ティアリスに至っては先に逃げて帰ってきたパーティメンバーが報告をしているであろうが……。
一応、街の門をくぐる際に衛兵にパーティメンバーが戻っていることは確認していた。
逃げたパーティメンバーがまだいるかどうかはわからないが、顔を合わせる可能性があることを思うと足が重くなる。
けれど、クエストの成功・失敗に関わらず報告は義務なので仕方がない。
それに、臨時とはいえ仲間を囮にするという悪質な行為を行った冒険者をギルドに報告する必要がある。
陽の沈みかけた夕方の冒険者ギルドは併設されている酒場の方が早い夕飯やクエスト終わりの酒を飲む冒険者達で賑やかだった。
それに比べると本来の目的であるギルドの事務所側は人が少なくなっていた。
シュウが事務所側の入り口から先に入り、ティアリスも続く。
ティアリスは街に入る前にフードを被っていた。
シュウは中を見回して人の少ない受付に向かって行った。
受付の一つに数人が集まって受付に大声で話しているのが見えた。
シュウが受付に近づくと気づいた受付の人がいつものようにサーシャを呼んでくれた。
「おかえりなさい!
今日はお帰りが遅かったですね。
お疲れさまでした」
サーシャが受付に出てくるなり労ってくれた。
「ええ。
途中で雨に降られてしまって、止むまで雨宿りしてたんです」
「ああ、今日は急に雨降ってきてましたからね。
大丈夫でしたか?」
「はい。
依頼の採取は終わった後だったので、無事依頼は完了できます。
はい、コレお願いします」
シュウは採集した亜麻の入った袋を受付のテーブルに置いた。
何か後ろから視線を感じたので振り返るとそこにいたティアリスはぷいっと顔を横に向けた。
ティアリスの向いた方に釣られて向くと先程の大声で話している団体がまだ受付にいる。
「十分な量がありますね。
それも品質がかなり良好な物ばかり!
これで依頼完了の手続きをさせていただきますね
って、どうかしました?」
サーシャが受け取った亜麻を確認して、手続きをしてくれる準備に入ろうとして、横を向いているシュウに気付いた。
「いや、向こうの受付が騒がしいなって思って」
シュウは理由を簡単に答えるとサーシャに向き直った。
「なるほど。
ちょっと困ってるんですよ」
今度はサーシャが向こうの受付に顔を向けて答える。
「困ってるんですか?」
「そうなの」
サーシャは一度周りを見渡し周囲に人がいないことを確認して、受付テーブルから身を乗り出してきた。
「彼らも今日依頼を受けていたみたいなんだけど、失敗してしまったみたいなの」
シュウにだけ聞こえるように小さな声で教えてくれる。
「本来ならクエストを失敗した場合は賠償金を支払わないといけないのだけど、彼らは臨時で雇った人の暴走の所為だって言って払おうとしないの。
そして、死傷者が出たみたいで逆に補填金を出せってごねてるみたい」
どこかで聞いた話だな~と思って後ろを振り返ると、そこにいるはずのティアリスがいない。
「あれ、彼女は……」
サーシャの声に顔を向けると、騒いでいる受付の方へ歩いて行く灰色のローブ姿が目に入った。
「だっかっら、クエストが失敗したのは臨時で雇った魔術師が下手な魔術でゴブやオーガを怒らせた所為なんだって!」
大柄な戦士が受付に大げさな身振り手振りで説明している。
そこに近づくローブ姿の魔術師。
気づいたのは戦士を取り巻いているガラの悪そうな軽装の男だった。
「なんだテメーは、ここは今取り込み中だ。
他所に行きなー!」
シッシッと手を振って、魔術師を遠ざけようとする。
「そちらのパーティが私に用があるのでは?」
ティアリスが軽装の男を無視して、団体の中心人物に向かって低い声で声をかける。
「ああん…。
何だ」
ティアリスの言葉に受付に向かって怒鳴っていた戦士が振り返る。
「こっちは今忙しいんだ!
関係ない奴はひっ……こん……でな?」
大柄な戦士がティアリスの姿を確認すると次第に声が小さくなっていく。
「お、お前は……。
なんでいやがる……?」
「ここが冒険者ギルドで私は冒険者。
それ以上の理由が必要なのか?」
「そう言う話じゃねえ……」
「私がここにいることが何かおかしいのか?」
「生きてやがったのか?」
「おい……」
戦士が余計なことを口にしたところで横にいたローブ姿の男が止めに入る。
ローブ姿の男は戦士以上に驚いていたようで、今頭が再起動したようだ。
まあ、遅いんだが。
「お陰様で死にかけたが、クエストのこと一緒に報告するか」
ティアリスが低い声のまま戦士に提案する。
が、戦士は、
「チッ……。
野郎ども、今日は帰るぞ」
戦士が取り巻きに声をかけて出て行こうとする。
「おい、何か言うことはないのか?」
ティアリスが戦士に向かって言うと、戦士が振り返って何か言おうとしたがローブ姿の男が間に入りそれを妨げる。
「どのような手を使ったか知らんが、一先ず生還おめでとうと言っておこう。
だが、覚えておけ我々をコケにしてただで済むと思うな」
そう言って、ローブ姿の男は戦士達を連れて出て行った。
残されたティアリスは、
「そもそも、私があなた達に何したのよ……」
と、首を傾げながら呟いていた。
ティアリスが首を傾げながら考えるようにして帰ってきた。
シュウと共に話を聞いていたサーシャは困ったような顔をしている。
「あ、あのティアリスさん……?」
こちらに戻ってきたティアリスにサーシャが声をかける。
ティアリスはサーシャに顔を向け、
「何?」
と返す。
こんなツンツンした娘だっただろうか?とシュウは首を傾げる。
「さっきの話はどういうことなんです?」
サーシャが恐る恐るティアリスに尋ねると、
「あの戦士達のパーティに誘われてクエストに行ったのは私」
ティアリスがサーシャに答える。
周りで聞き耳を立てていたギルドの職員達がざわつく。
「えぇ!?
あのパーティは夕方に帰ってきて、クエストの途中で引き返してきたって大騒ぎしてたの」
「討伐対象の近くまでは行ったのだけど、そこでゴブリンとオーガに襲われたの」
サーシャの問いにティアリスが応えていく。
態度はツンツンしているが、根はやはりティアリスなので聞かれれば答えてしまうのだろう。
「ちょっとこっちで詳しく聞かせてくれるかしら」
そう言って、サーシャがティアリスをいつもの個室の方へ招く。
夜に差し掛かっているがまだギルドには他の冒険者もいるので聞かせたくないのだろう。
と言ってもあの戦士達もずっと騒いでいたようだし、ティアリスも大声とは言わないがそれなりの声で話していたので、居合わせた冒険者の耳には入っているだろうが。
シュウは依頼達成の手続きが終わっていたので、音を立てず静かに帰ろうとゆっくり出口に向かおうとした。
そんなシュウの袖を、スッと掴む者がいた。
「あ、やっぱり?」
ティアリスが逃がさないと言わんばかりの顔でシュウを見上げている。
そして、シュウの袖を引っ張って個室に向かって歩いて行った。
(僕もそれなりに疲れてるんだけどなぁ……)
心の中でため息とともに呟くシュウだった。
個室の中でサーシャがティアリスにあのパーティのクエストに同行することになった経緯を聞いていた。
ここまで着いてきたシュウだったが、ティアリスと合流してからとパーティに囮にされたことしか知らない。
クエストに同行する経緯について初耳だった。
(他人の事情にちょっと興味なさすぎたかな~。
帰ってくるまでに聞いておけばよかったかな?
でも、プライベートなとこどこまで踏み込んでいいかわかんないしな~)
ティアリスが説明している中、話を聞きながら全く関係のない事を考えているシュウ。
「それで、あの方たちが言うゴブリンやオーガが出たって言うのは本当だったんですね……」
「ええ、ただ私はゴブリン達に魔術を放つような暴走なんかしてない」
「わかってます。
あなたがそのような振る舞いをしないことぐらい……。
それと、ティアリスさんに謝らないといけません。
実は、あの方たちのチームはギルドが目を付けています」
「え?
どういうことですか?」
サーシャの言葉に驚いて聞き手に回っていたシュウは思わず聞き返してしまった。
「正しくは彼らのチームのリーダーを……ですが」
「リーダーですか……?」
「先程の中にはおられませんでしたが、あのチームのリーダーがクエストを受けに来るとギルドは目立たないようにですが警戒をします。
今日はチームの中のメンバーでクエストを受けに来たようですが……」
「それで、さっきの人達は警戒されていなかった、と……。
そもそも、なんでそのリーダーを警戒してるんです?」
シュウは疑問に思ったことをサーシャに尋ねる。
「今回が初めてじゃないんですよ」
「初めてじゃない?」
「冒険者になりたての子たちをクエストに誘って、強力なモンスターの囮にしたりしていたようなんです。
すでに、被害に遭った方の中には亡くならている方もおられて……」
「そ、そんな……」
「ティアリスさんが無事で本当によかった……」
サーシャさんが心配そうな顔でティアリスさんを見ているのがわかった。
「私もゴブリンとオーガが出てきたのは予想外だったみたいだけど、討伐目的のモンスターの囮にするつもりだったみたいだったわ」
「ひどい奴らもいたもんだな」
「シュウさんが来なかったら、私も死んでたわね」
「ほんと危機一髪だったね。
間に合ってよかったよ」
シュウは助けに入ったシーンを思い出しながら言う。
「……やはりまだ固定パーティには参加されないんですか?」
サーシャがティアリスに尋ねるが、
「……私はまだ」
「あ、僕もパーティ組んだとこなんだ」
シュウが思い出したようにティアリスに言う。
どこか遠いとこで批難の声が聞こえた気がするが無視する。
「……え?
でも、今日は一人……」
パーティを組んだことを知らなかったティアリスは驚いているようだった。
「ああ、うん。
まだ年も若くて、冒険者の経験も少ないから知り合いの人に剣とか教えてもらってるんだよ。
僕も通ってる」
「そう……なの」
「ティアリスさんがよければ、パーティに参加してほしいけど?」
「え……!?」
シュウの誘いにティアリスは驚き、サーシャは嬉しそうに見ている。
「いや、止めておくわ……」
「どうして?」
「私、なんて呼ばれてるか知ってる?」
ティアリスの言葉にシュウは首を傾げる。
サーシャは思い当たる節があるのか、困ったような顔になった。
「自分で付けた訳じゃないし、吹聴してるんじゃないけど、灰の魔術師とか……」
見た目で灰色のローブ着てるからそう呼ばれているのがわかる。
「あとは、灰の死神なんだって……」
「死神?
なんで?」
死神とは、ティアリスのような女の子が呼ばれるような呼び名ではない。
「私が参加するパーティで大怪我や死んでしまう人が出たからだって」
「それは君が……?」
もちろん本気で思ってはいないが確認のために聞く。
ふるふると首を横に振ってティアリスは答える。
「討伐依頼ばかり参加して、簡単に達成できることもあったけど、時々思いもよらない程強い魔物に遭遇することもあったわ。
その時に、私は魔術師で後衛だから撤退も早くできるのだけど、魔物を足止めしてくれる前衛がね……。
大怪我や逃げそこなってしまったこともあって……。
もちろん、治癒を行うんだけど。
討伐クエストばかり参加して、パーティを渡り歩いて、一人だけ大怪我や死ぬこともないパーティに不吉を呼ぶ死神なんですって、私」
自虐気味に寂しく笑いながらティアリスは話す。
「最近はそんな噂が広がってきてるのか、なかなかパーティに参加もし辛くなってきたわ」
「なら尚更……」
「いいの。
君には迷惑かけたくない」
「そんな、迷惑だなんて。
僕は」
「君はいいかもしれない。
けど、君の仲間や周りの人はそう思わないかもしれない」
そう言いながら、ティアリスは椅子から立ち上がった。
「今日は助けてくれてありがとう。
パーティに誘ってくれたのも嬉しかったわ。
でも、ごめんなさい。
私には関わらない方がいいわ。
じゃあ、さようなら」
ティアリスは灰色のローブのフードを被り、個室から出て行った。
それをシュウとサーシャは黙って見送るしかなかった。
シュウは出て行く背中がとても寂しそうに見えた。
そろそろあとがきで書くこともなくなってきて
同じことを書きそうなので
実はこうなんだけど説明する暇がなかった!ことでも書いていこうかなー
と思ってたりします
次回辺りから……
ではまた~




