59.重と軽
外出できない今
少しでも楽しんでもらいたい
ごゆっくりお楽しみください
オーガは斧の先を地面に付け、律儀に待っていたようだ。
オーガから声を掛けられ、内心驚くシュウ。
(オーガって話せるのか……)
『告。
獣人の中には固有の言語体系をとっている種もあるが、多くはヒト族と共通言語を使用し、意思疎通が可能』
(他の獣人もか……。
ゴブリンも?)
『肯定。
だがゴブリンは獣人の中でも特殊。
低階級のゴブリンは知能が低いが、高階級になるにつれ知能が高くなる傾向がある』
(そうか、その辺りの事も何も知らないんだなぁ。
これからも知らない事聞くと思うからよろしく。
アルテ)
『受諾。
……。
否。
アルテとは?
マスターの記憶に照合する人物に該当なし』
(あー、君の呼び方。
勝手だけど呼び方ないの不便だし。
嫌?)
『私に拒否権はありません』
(改めてよろしく。
アルテ)
『受諾』
スキルなので表情は無いのでわからないが、心なしか嬉しそうにしている気がする。
さて、オーガを放置してアルテと脳内会話を行っていたが、ここまで約五秒。
ティアリスが巻き込まれないように離れるように歩きながら話をしていた。
脳内で話をしていたが、しっかりと隙をみせないように用心はしていた。
そして、相手の力量を探るように意識を切り替える。
(隙、無いな)
如何にも武人といったオーラを放ち、堂々と立っている。
『評価。
とてもとても強そうだ』
(言わなくてもわかってる)
アルテがどこかで聞いたことのあるような評価を述べてくる。
先程両手持ち用の斧を軽々と投げているのを見ている。
雰囲気も実力も本物だろう。
ティアリスに冒険者になりたてであるシュウでは勝てないと言われているが、百も承知だ。
勝てる気がしない。
だが、
逃げるわけにもいかない。
腹を括って、納めていたいつもの小剣を抜く。
勝たなくていい、ティアリスを拘束している魔術が解けるまで時間を稼ぐ。
「待ってもらったみたいで悪かった」
言葉が通じるのがわかったので、時間を引き延ばす常套手段の会話を試みる。
「構わん。
オレは強者と戦えればそれでいい」
会話に乗ってきたオーガがシュウにニヤリと口角を上げる。
(僕はすんごい怖いんですけど……。
これはかなりの戦闘狂じゃないですか。
ヤダー)
心の中でため息を吐く。
「それはあんただけの理由なのか?
ゴブリンは弓で狙ってきたが、あんたらの部隊全体の総意じゃないのか?」
なぜ、ゴブリンは攻撃してきたのにオーガは攻撃しなかったのか。
そもそもティアリス達のパーティを襲ったのはこのオーガ達だとティアリスが話している。
「そうだな。
最初はつまらん相手だと昂らなかったが、その女は少々期待できた」
オーガの目がティアリスに向く。
「だが、その女以上の手練れが来た!
そう、お前だ」
再度、顔をこちらに向け指を突き付けてくる。
「部隊の任務は周辺の偵察という話だったが隊員がこのような状況でな、部隊長もオレの行動は縛らないと事前に言質をとってある」
オーガはチラッと後ろに控える残ったオーガに視線を送る。
(後ろの奴がこの部隊の隊長なのか)
なるほど、種が変われば衣装も変わるが部隊長と言われたオーガは装備がやや豪華だ。
(よく見ると、このオーガも自由を許される程、階級が高いのか髪に装飾を付けたりしてるな)
このオーガは部隊をほぼ壊滅状態にしたティアリスの魔術に一目を置いていたようで、そこにシュウが現れてターゲットを変えたらしい。
シュウにとっては運がいいのか、悪いのか。
ティアリスがあの状態で魔力もほぼ尽きた状況では、間に合って運が良かったのか……。
「今、オレを止める者はいない。
自由にやらせてもらう」
そう言って、地面に立てた斧を持ち上げる。
「まだまだ青そうだが、楽しませてくれよ?」
斧を肩に担ぎ、オーガは全身から剣気を放つ。
見えない剣気をビシビシと肌で感じつつ、自分との根底にある力の差を感じる。
油断できない相手であることに変わりないが、シュウの口元には笑みが浮かぶ。
「ほお。
オレの剣気を感じて笑う余裕があるか」
オーガはシュウの様子から、少し傷ついたようだった。
「悪い。
全力でぶつかっても、全然勝てるイメージが湧かなくて」
おどけた様子で肩をすくめる仕草をするシュウ。
「そう言って、少しも悲観してないな」
オーガは冷静でありつつも、プライドに傷がついたのか少しづつ込められる剣気が強くなる。
(本気で言ってるのになぁ。
全然勝てる気がしない……)
シュウは放たれる剣気の質からオーガが自分の敵わない程の実力だと確信している。
だが、
(ルーツさんの剣気・鬼バージョンの方が強い。
僕がここで負けてあの街にこのオーガが行ってもルーツさんならなんとかできる)
より強い剣気を知っていたため浮かんだ笑みだった。
現状を逆転できる要素ではなかったが。
(今は、まだ!)
シュウも全身と小剣に剣気を纏う。
「ここを切り抜けて、修行して、いつか、
あんたを吹っ飛ばす!」
小剣の切っ先をオーガに向けて宣言する。
「面白い!
来い!
ヒト族の小さき戦士!」
オーガもシュウに応えて戦闘態勢に入った。
部隊長オーガとゴブリンにも注意をしながらジリジリとオーガに詰め寄る。
ただでさえ体の大きいオーガなのに目の前の戦士はさらに手足が長い。
それに両手持ち用の斧。
シュウの間合いよりも断然広い。
重量のある武器もそれだけで脅威となる。
クリーンヒットしなくてもかするだけで吹き飛ばされる威力が出る。
正直近づくのも怖いので嫌だ。
だが、こちらの攻撃の間合いまで近づかなくてはならない。
互いの間の距離が十メートル程になったところで一度止まる。
このオーガに先手を取られるのはヤバイ。
正面から受け止めるのは論外。
攻め込まれる前にこちらから打って出なければ。
当然相手もわかっていることなので全く隙が無い。
が、やらなければやられる。
(速さでなんとかできるか……?)
シュウは腹を括って両足に剣気を溜めて一気に踏み込んだ。
ギィィン
互いの武器がぶつかり合い、雨が降る中火花が散る。
左右から小振りに剣を振り、オーガに斧を振り回す隙を与えない。
数合打ち合って手が痺れそうになる。
重量級の斧を軽々とシュウの剣に合わせて打ち込んでくる膂力に舌をまく。
シュウもフットワークでオーガを惑わそうと必死に動く。
オーガが斧を垂直に振り下ろす。
シュウは小剣を水平にし、受け止める構えを取る。
斧と剣が触れる瞬間にシュウは剣先を下ろし、斧を受け流した。
オーガは受け流された勢いで態勢を崩し、前のめりになる。
シュウはすかさず右手で小剣を振り抜き、左手で短剣を引き抜いて斬りつける。
オーガはバックステップで距離を取った。
シュウは追わずに上がった息を整える。
態勢を崩したオーガは即座に左手を斧から放し、顔をガードしていた。
短剣の攻撃は左腕の厚い筋肉によって防がれていた。
「軽いな……。
勝つ意志の無い攻撃で勝つことはできぬぞ!」
今度はオーガが助走を付けて斧を振りかぶってくる。
鬼刃の旋風
地面に斧を叩きつける。
悪寒が走り、シュウは横に全力で飛ぶ!
一瞬前シュウが立っていた場所を見えない衝撃波が通り抜ける。
「武器選びも重要ぞ……。
それが生死を分けることもある」
衝撃波を避けたシュウに追随して、オーガは斧を横に薙ぐ。
シュウは再度横に飛び、斧を躱し起き上がる。
小剣と短剣を組み合わせて攻めるが、斧と機敏な動きで躱される。
フェイント!
視線はオーガの顔に固定したまま、小剣を振り上げる!
オーガは斧の柄で受け止めようと持ち上げるが、シュウは短剣をオーガの空いた右脇に突き入れる。
「だから軽いと言っている!」
短剣の突きを右腕を上げてガードされる。
パキィィン
短剣の刀身が半分程で折れる。
驚きで目を見開くシュウ。
右腕に纏う剣気が厚すぎて短剣が刺さることすらできなかった。
一瞬動きの止まったシュウをオーガは見逃さない。
持ち上げていた斧を振り下ろしてくる。
今度はシュウが小剣で勢いがつく前に受け止めようとする。
「得物ばかり見ていると足元がお留守だぞ」
オーガの言葉と共に足を払ってくる。
慌てて飛び退ったシュウのがらあきになった胴にオーガの脚が勢いよく刺さる。
後方に勢いよく飛ばされ、地面に落ちても勢いが止まらずゴロゴロと転がる。
「ハァハァ……」
後ろに飛んでいたのが幸いして致命となるほどのダメージはなかったが、だいぶ体力は削られた。
(遊ばれてる……)
肩で息をしながら、オーガを見つめる。
追撃せずにその場に佇んだままだ。
左手に握ったままだった折れた短剣を鞘に仕舞って、立ち上がろうと震える足に力を入れる。
どのくらい時が経ったかわからないが、ティアリスの方へ眼だけ向けてもまだ魔術はとけていないようだった。
(さて、どうする……)
技術も剣気も相手が上。
こちらの体力が減ってスピードも落ちてきているが、まだオーガは本気じゃないはずだ。
(打つ手が……)
ない。
鈍る頭で戦術を組み立てようとするがまとまらない。
その時、頭に響く。
『告』
戦いを文で書くのって本当に難しい。
少しでもワクワクドキドキしてもらえたらいいなぁ~。




