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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第一章 なかなか冒険しない冒険者
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6.二段落ち(物理)

 光に包まれたかと思うと、すぐにまた落下感が生まれた。

「もしかして、またっ!?・・・ぐっ!」

 異世界の部屋に出た時と同じように尻から落ちた。

 もう僕の尾てい骨のHPはゼロよ!と頭の中で叫んだ。

「いったぁ」

 先ほどの部屋とは種類が違うが硬い石の床に、より勢いよく落ちたため痛みに目尻に涙がにじんだ。

 痛みを我慢しつつ、今度も周りを見回す。

 シュウがいたのは、先ほどのような部屋ではなく、元の世界の公園でもなかった。

 薄暗い長方形の広間にいくつかの石柱が天井を支えていた。

 目の前には台座があり、そこには・・・一振りの剣が刺さっていた。

 そして、そのそばで一人の青年が台座に腰掛けてこちらを見て笑っていた。


「ごめん。ごめん。痛かった?」

 尻に痛みが残っているが立ち上がって台座の青年に向き合った。

 青年は真っ白な髪で、笑っているため薄く閉じられた目から覗く瞳は赤いようだった。

 青年との距離は三メートルほど。

 先ほどの部屋で突然の出来事と明るい部屋で油断していたこともあり、周りを警戒していなかったが、二度目で少し落ち着きがあり、薄暗く怪しい場所となると自然と警戒心が生まれた。

 睨まないまでも、じっと青年を見つめ近づかないシュウの様子に

「そんなに怖がらなくてもー。

 方法はともかく、異界の狭間から助けてあげたんだから」

「異界の狭間・・・?」

「そう。異界の狭間。世界と別の世界の間にある何もない空間ってとこかな。

 まぁボクもそんなに詳しいわけじゃないけどね。

 今日は、この世界の境界に外側から何人か入って来るのを感じたと思ったら、今度は出て行くのも感じてさ。

 しかも狭間の出口も作られていないようだったから慌てて捕まえて引っ張りだしたって訳」

 異界の狭間と助け出したと言うことを聞き、ふと疑問が浮かんだ。

「も、もしそのままその狭間にいたらどうなって・・・?」

 その質問に笑顔をから少し考える素振りをしながら

「んー。ずっと彷徨い続けるか運よく狭間の穴があれば出れただろうけど、いつになるか、どこに出るかわからないからね。

 狭間の穴がある。すなわち世界の境界に穴ができるって、余程不安定な世界だろうけど」

「不安定な世界?」

「終わりを迎えつつある世界や、魔界に属する世界?

 まぁさっきも言ったけど、ボクも詳しくは知らないから。

 ちょっと感覚が敏感で世界の境界を感じることができるってだけだから」

 それって十分すごいことなんじゃ?と思うシュウだったが、いつの間にか青年に対する警戒心がなくなっている事に気づく。

 シュウが陥っていた危機から救ってくれたことと、その説明と質問に答えてくれたこともあり、何かされるならすでにされているだろうと思った。

「助けてもらったみたいで、ありがとうございます。

 それと、先ほどから聞いてばかりですが、ここはどこですか?」

 聞きつつシュウは青年に近づいた。

「そんなに丁寧にならなくてもいいよ。

 異世界からわざわざ来てもらったのに、すぐ放り出したこちらの世界が十分加害者だから。

 君は異界の狭間に落ちる前はウィンストリア王国にいたんだろう?

 ここは、そのウィンストリア王国の地下深くにある迷宮の最奥『封印の剣の間』だよ。

 まぁ、剣もあるし、見たまんまだよね。

 こちらも聞きたいな。

 この世界に呼ばれた勇者様の名前となぜ狭間に落ちていったのか」

 楽しそうにこの場所の説明をする青年だった。

 迷宮という部分に引っかかりつつも聞かれたからには答えないと、とシュウは自分の名前を告げた。

「僕はシュウ。鳴上シュウです」

「ふむふむ。この世界は名が先に来るけど、君の世界ではどうなんだろう?」

「あ、ならシュウ・ナルカミです。シュウが名です」

「シュウ君だね。

 それと、またこの世界では姓を持つのは貴族と有力な家くらいだけど、君も貴族なのかな?」

「い、いえ。僕は貴族ではないです。

 僕の世界では貴族社会ではなかったので、だいたいの人が苗字を持ってます」

「そっか。じゃこの世界で名乗るときは名前だけの方がいいよ。誤解されると面倒だろうから」

 楽しそうに笑いつつ元の世界とこの世界の違いを忠告してくれる青年に、すっかり警戒しなくなったシュウだったが、ふと気がついた。

「すみません。あなたのお名前は?」

「ああ、そういえば。そうだな・・・シンって呼んでもらおうかな」

今の間から本当の名前じゃないのかと疑問に思ったが聞かないでおく。

「話の腰を折っちゃったね。次は狭間の方を教えてよ」

「それは、聞かれても説明できないですよ。

 元の世界で歩いていたら落とし穴みたいなのに落ちて、ウィンストリア王国のどこかの部屋に出たと思ったら、すぐにまた落ちたので」

「ふうむ」

そこまで聞いて、シンの顔は再度考え込むような表情になった。

「召喚された部屋に誰もいなかった?

 変わってなければ、召喚の儀式の間には、儀式を行う魔術師が少なくても一人は必要って聞いたけど」

「部屋には宮廷魔術師?のセリーネさんって人がいたけど、すぐに外から呼ばれて出て行ってしまったんです。

 僕は部屋で待っているように言われて部屋にいたんですが、それからすぐ床が無くなって、その異界の狭間に落ちて、今に至る感じです」

 シュウはここに来るまでの経緯を説明したが、自分でもわかっていることは少なかった。

 それでもここまでの説明を聞いたシンは目を伏せつつ、考え込んでいるようだった。

 そして、目をシュウに向け確認するように訊ねた。

「じゃあ、シュウ君は勇者召喚について説明を聞けてないのかな?」

「そうですね。セリーネさんが説明しようとしていた時に、城に不審者が出たってメイドさんがセリーネさんを呼んで行ってしまったので。

 それに、僕は勇者なんかじゃなく、普通の高校生です」

「ふむ。コウコウセイというのがどういったものかはわからないけど、召喚の儀式によって異世界から来た人は勇者であって、何か特別な力を持っていると聞くね。

 その辺りも召喚の儀式を行った者が説明するはずだったと思うんだ」

 自分は周りと比べて何か特別な事があっただろうか。

 シュウは今までの生活を思い起こしてみるが、自分よりもよっぽどすごい存在が身近にいたため思い当たらなかった。

(兄さんなら・・・)

 自分よりも頭が良く、強く、なんでもできた兄。

 弟として、常に目標であり、憧れだった。

 兄なら勇者に選ばれたと聞いても納得ができそうだった。

「僕が勇者じゃないってわかって元の世界に戻すためだったとか」

 自身の召喚が間違っていたのでは、と狭間で考えていた事をシンに告げてみた。

「それはないだろうね。

 召喚してすぐに返すことはできない。

 勇者召喚の儀式はとても多くの魔力を使う。

 この世界と異世界の境界に穴を開け、繋ぐ訳だから。

 さっきも言ったけど君が落ちた異界の狭間には出口が無かった。

 君を元の世界に返すなら、君の世界と繋げているはず」

 シュウは自分でも狭間で考えていた時に別の理由で否定はしていたが、シンに理論的に否定されより納得した。

(それよりも、魔力か・・・魔力があるってことは魔法もあるのか?

 そういえば、セリーネさん、宮廷魔術師って言ってたし、魔法使いだったのかな)

 シュウの思考は脇道に逸れつつあったが、頭を振って思考を戻した。

 しかし、どうして狭間に落ちたのかを考えるにはシュウには知識がなさすぎたので、どうすることもできなかった。

 そして、ふと思ったことをシンに訊ねた。

「セリーネさんが魔力が万全な時に頼めば元の世界に戻してもらえるかな?」

 こちらの世界に召喚したセリーネなら元の世界に戻せるのではとシュウは思いシンに聞いてみた。

 その問いにシンは渋い顔をして答えた。

「それはどうかな・・・そもそも・・・。

 いや、今はいいか・・・。

 それよりも、すぐにその宮廷魔術師を尋ねに城に向かうのはやめた方がいい」

 言葉を濁したシンがシュウに忠告した。

「え?なんで?」

「理由はいくつかあるけど。

 まず、今すぐ行っても君を召喚した宮廷魔術師の魔力は戻ってないだろう。

 二つ目は、勇者召喚の儀式は城や神殿のような場所で行われるらしい。

 このウィンストリアでは過去の例だと城だと思う。

 宮廷魔術師と会うにはその城に入らないといけない。

 が、その城には簡単には入れない」

 シュウはそこまで考えていなかったと痛感した。

 そして、どうにか入れないか考えた。

「素直に勇者召喚で呼ばれた者ですって言うのは・・・?」

「なぜ城の外から来るのか聞かれるね。

 不審者扱いで追い返されるか、下手をすれば勇者の名を騙った偽証罪で捕まるね。

 君が本当に召喚された勇者だという証拠でもあればだけど」

 問うシンの目に、目を逸らしながらシュウは、

「ナニモナイデス」

「だろうね。

 あと、一番の理由が三つ目なんだけど」

 シンの顔がより一層真剣なものとなった。

「君は勇者召喚により城の一室に出た。

 その後すぐに、君が一人になったのを見計らったように異界の狭間へ落ちた。

 これは偶然ではないだろうね。

 そもそもこの世界は安定しているから、偶然に世界の境界が開くことは無い」

 話の流れに不穏なものが混じり始めたのを感じ、シュウは唾を飲んだ。

 理解が追いついていないので先を促した。

「と、言うことは?」

「まだ仮説だけど、君を召喚した宮廷魔術師は、召喚によってほぼ魔力はないので不可能。

 と、言うことは、君を異界の狭間に落とした第三者がいる」

 シンが告げた仮説にシュウは衝撃を受けた。そして、さらにシンの仮説は続く。

「ただ単に狭間に落としたのではないだろうね。

 その第三者にとって君が邪魔だったはず。

 そんな君が城の外からのこのこと勇者召喚で召喚されたと言って戻って来たと知ったら、その第三者はどうするかな・・・」

 ここでシンは言葉を止めシュウを見つめる。

 シュウは再度唾を飲み、

「どうするか・・・な?」

「君を本気で消しに来るだろうね」

 そのシンの仮説にシュウは息を呑んだ。

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