54.止まらぬ時間
少しグロ表現が出てきますご注意ください。
(書き忘れてた)
午前10時45分
「よーし。
ここらで少し休憩」
先頭を歩いていた戦士が振り返り、全員に向けて言う。
「ここから先にしばらく行くと今回の獲物のロックホーンが目撃された場所らしい」
ギルドに戦士と一緒にいた軽戦士が情報を付け足す。
「ああ、だからここで一旦休んで、その場所を中心に探して一気に叩く」
そう言って一番に戦士がその場にドカッと腰を下ろした。
他のメンバーも互いに目を合わせ、戦士を中心に車座に腰を下ろした。
「あんたもしっかり休んどけよ。
いざって時に疲れましたじゃ、話になんねぇぞ。
ガハハハッ」
戦士の言葉を軽く無視し、少し離れた場所に腰を下ろすことにした。
「チッ」
戦士のものであろう舌打ちが聞こえた。
「おい、今回のロックホーンのクエストを選んだ理由を教えてくれ」
先程の魔術師の男が戦士に尋ねていた。
「あ、ああ、情報によると少しでかいらしいがその分報酬に色が付いてる、ロックホーンを何度も狩ってる俺らには楽勝だろ。
全員で割ってもいい金になるぜ」
戦士が魔術師に説明しているが、金のことだけしか考えてないのか。
「ほう。
……それがヤツの指示か?」
魔術師が少し声を潜めて尋ねるが、他に誰も話していないので聞こえてしまっている。
ヤツ……?
「ロックホーンだけだがな。
あとは報酬がでかかったやつを俺が選んだ」
「何でも図体が普通のロックホーンよりもでかくて、滅多に人を襲わないのにそいつは目撃者を襲ってきたらしい」
軽戦士がまた情報の補足をしている。
「なるほど。
通常よりも大きく、人を襲う異常種。
報酬の額が上がるわけだな」
「さっさと終わらせて酒だな。
あんたもどうだい?
グハハハ」
戦士がこちらに向けて話しかけてくるが無視を決め込む。
空を見上げると今にも雨が降り出しそうなくらい厚い雲に覆われていた。
午前10時57分
「俺は先に偵察に行ってくる」
そう言いながら軽戦士が立ち上がった。
「ああ。
頼むぜ。
一発で見つけてきてくれぇ」
戦士が片手を上げて応える。
軽戦士は黙って頷くと静かに歩いて行った。
静かには軽戦士に失礼だったかもしれない。
足音がしなかったのだから。
「あいつは戦いが始まったら役に立たねえからな。
仕事はしっかりしてもらわねえとな」
軽戦士が足音もさせずに消えていったのを目で追っていると、戦士が言ってきた。
「魔術師のあんたは活躍次第で俺らのチームに口を聞いてやってもいいぜ」
戦士がこちらににやけながら勧誘してきた。
「おい」
魔術師が大きな声を上げて止める。
「あ、ああ。
わりい」
戦士が魔術師に小さく謝る。
止められなくても、このパーティのチームに入る気はさらさらなかった。
このパーティではなくても、今はパーティにも入る気はないのだが。
そんな会話にもならない話をしている時だった。
午前11時00分
ドサッドサドサ
「ん?なんだ?」
戦士の後ろの茂みから音がした。
何か飛んできたような音だった。
戦士達の目がそちらを向く瞬間。
ヒュッ
「うぐっ」
聞き覚えのない男のうめき声が聞こえた。
声の出所を探すと、今まで一言も発していなかった魔術師の胸に矢が生えていた。
「ひぁっ!
なんだよ!おい!」
戦士が座っていた場所から飛びのく。
戦士がいなくなったために、その向こうの光景が目に入ってきた。
そこに軽戦士が戻ってきていた。
ただ、そこには真っ赤に染まった地面に首だけしかなかった。
ドサッ
胸に矢が刺さった魔術師が仰向けに倒れる音で他の者にも時間が戻ってきた。
「な、なんだ?
どこから?」
リーダーの戦士ではない、両手で持つような斧を背負った戦士が軽戦士と魔術師交互に見ながら声を上げる。
「お、落ち着け」
無傷の魔術師が周囲を見渡しつつ、残ったパーティに落ち着くよう叫ぶ。
「……あそこだ!」
魔術師がパーティから少し離れた丘の上を指差す。
「なん…だと…」
その声は誰が発したのか。
魔術師の指が差した丘にはこちらに向かうように黒い塊が押し寄せてきていた。
その塊を目を凝らして見ると、大小種族の異なる獣人族の群れ。
小さい獣人は人の半分ほどの身長しかない。
対して大きい方の獣人は人よりも体が大きい。
まだ遠いが筋肉が盛り上がっているのが見える。
「ゴブリンとオーガの集団だと……」
戦士が呻きながら呟く。
「……逃げるぞ」
魔術師が呟き、踵を返して走り出す。
「お、おい。
この魔術師は?」
矢が刺さっている魔術師は胸を押さえ呻いているが、まだ生きている。
腰のポーチからポーションを取り出し、魔術師に走り寄る。
刺さった矢の角度と装備を見比べ、傷の具合を診断する。
「痛むけど歯を食いしばって!
いくよ!」
魔術師に声をかけ、矢に手を掛ける。
力を込めて一気に引き抜く。
「ぐううううう!」
魔術師が呻き声を上げる。
傷口に急いでポーションを掛けて傷を押さえる。
「立てるか?
逃げるぞ!」
肩に手を回して立たせようとする。
「俺が担ぐ。
あんたも行ってくれ」
声に顔を上げると、担いでいた斧をその場に置いた戦士が魔術師を背に担いだ。
それを見ながら獣人との距離を確認する。
戦士が立ち上がって走り出すので、続いて走り出して前に出る。
リーダー格の戦士と魔術師はさらに前を走っている。
午前11時10分
前を走る二人が何か話し合いこちらを振り向きつつ走る速度を落とした。
「おい、ナズの具合はどうだ?」
リーダーの戦士が追いついてきた魔術師を背負った戦士に問いかける。
「……ハァハァ。
生きてはいるが、どうかはわからん……」
暫く固まって走るが魔術師を背負った戦士に速度を合わせていると、獣人たちとの距離が詰まってきている。
魔術師が手を上げ、全員が足を止める。
「ハァハァ。
街までまだ距離がある。
このままじゃ全滅の可能性が高い。
……少し足どめをして、距離を稼ぐ」
こちらが足を止めたことで、獣人たちも速度を落として手に弓等を持つ者が前に出てきた。
「魔術で足止めを狙う。
ダンゲルは矢を防いでくれ。
おい、貴様はオーガを狙って魔術を放て。
ゴブリンなんて雑魚は放置だ」
魔術師がこちらを睨みつけて指示を出してくる。
獣人たちの個別の戦力を計る余裕はないのでオーガよりも強いゴブリンがいるかもしれないが、一般的にオーガの方が強いという認識だった。
というのもオーガは獣人族の中でもトップクラスの攻撃力を誇る。
魔術師の案以上に良案があるわけでもないので、杖を取り出し魔力を込める。
杖の周りに魔力の輝きが煌めく。
「ネズは先に行け」
ダンゲルと呼ばれた戦士が背負った大剣に手をかけ、魔術師を背負った戦士に先に行くように促す。
「だ、だが!」
ネズというのだろう、魔術師を背負った戦士が躊躇うが、
「ちょっと足止めするだけだ。
すぐ追いつく」
ダンゲルが早く行けとネズを宥める。
ネズは戸惑うようにメンバーの顔を見回すが、決断したのか魔術師を背負い直して走り出した。
今思ったがこのパーティのメンバーの名前を初めて知った。
あと魔術師の名前は聞いてないが、特に知りたいという訳でもない。
「さあて、やるか」
ダンゲルがこちらを見ながら告げてくる。
「我は足止めの魔術を練る。
貴様は派手な魔術で視界を塞げ」
午前11時14分
「先手は貴様に譲る。
派手にいけ」
魔術師の上から目線の言葉に思う所はあるが、言いあっている時間はない。
「炎よ!我が前に立ちふさがる者を打ち砕け!ファイアボール!」
杖の先に魔力が集まり、火の玉が生まれ、大きくなったと思えば火の粉を振りまいて飛び出した。
かなりの速度で最前列に立つオーガに向けて突き刺さり、周囲を巻き込んだ爆発を引き起こす。
「もっとだ!」
横から魔術師が指示を出してくる。
自分はどうなんだと思いつつも、次の魔術の詠唱を始める。
「ファイアボール!ファイアボール!」
連続で放つ火球が獣人の集団がいるであろう場所に突き刺さり爆発が起こる。
粉塵で集団の様子はわからないが向こうもこちらを視認できないはずだ。
「ご苦労。
期待以上の威力だった」
魔術師の声が聞こえるが、こちらは放出した魔力を吸い戻すように呼吸を整えるのに必死だった。
「さらなる足止めを期待するぞ?」
魔術師の言ってる意味が理解できなかった。
何……を、言って……?
「彼の者の足を止めよ!蔓の呪縛!」
魔術師が呪文を唱えると足元から植物のような蔓が伸び、こちらの足をその場に固定してしまう。
「な、なにを!」
「見事な魔術だったと心にだけ留めておいてやろう。
奴らのヘイトは一時的に貴様に集まっているはずだ。
我らが離れるだけの時間は少しでもかせげるだろう。
では、さらばだ」
そう言って魔術師は振り返り、走り出す。
「おい!こいつを外せ!」
「わりいな、そういうことだ」
少しも悪いと思っていないようにダンゲルが言ってくる。
「どの道こうなってたんだ。
諦めてくれ。
ただ相手がロックホーンかあいつらかだったってこった」
こいつも……なにを……?
「わからねえって顔だな?
ま、知らない方がいいてことも世の中あるんじゃねえの?」
「一体……なにを……?」
獣人集団を覆っていた粉塵が風に流され薄くなっていく。
「おっといけねえ俺も行くわ。
ほんと少しは使えそうなら、上と掛け合ってやってもよかったんだがな。
残念だ。
つっても夜の相手のみの奴隷みたいなもんだっただろうがな」
「お、おい!足を外せ!」
ダンゲルに叫ぶが、彼はもう体の向きを変えて走り出す体制になっている。
「命乞いでもしたら助かるかもな~
ただ魔術ぶっ放してるから、向こうも無傷じゃねえだろうし……。
ま、どっちみち奴隷みたいな人生かここで終わっちまう人生だったってことだな。
どんまい。
じゃあな」
ダンゲルがこちらに手を振り、魔術師を追いかけ走りだした。
「お、おいっ!」
その場には足を拘束された魔術師だけが残された。
獣人集団を覆う粉塵や燻る火の粉を消し、洗い流すようにポツポツと雨が降り出した。
まるで、これからこの場で起こるであろう悲劇を悲しんでいるかのようだった。
ネエ……ドウシテ……コウナッタノ?
ドコデ……マチガッタノ?
ダレ……カ……オシエテ……ダレカ
午前11時17分




