52.曇天の草原
街門から草原に出るとどんよりとした空が目に入った。
街の中だと不思議と空に目がいかなかったので、曇った天気に気が付かなかった。
そもそも晴れよりも曇っている方が最近は好きだった。
晴れて気温が上がるだけで、体力が削られてしまう。
そんな曇天の草原を西に歩いて行く。
「じゃ歩きながらだが新しい顔もいるし、ギルドにいなかった奴がほとんどだ。
今回の討伐モンスターについて説明しておく」
先頭を歩く大剣を背負った戦士が顔だけ後ろに向け説明しだした。
「今回の相手は何度も討伐してる、ロックホーンだ。
鉄みてえに硬え鱗に覆われた奴だ。
硬え奴だが動きは鈍い。
いつもの手順、俺達前衛が止めてる間に魔術師連中が撃ち込んで終わりだ」
周りの戦士の仲間たちが頷く。
戦士に付いて冒険者ギルドを出て、街門の前で他の仲間たちと合流した。
戦士二人に、軽戦士一人、魔術師二人に自分が加わった六人パーティとなっている。
この人数だとランクに合ったモンスターなら大抵討伐できるであろう。
後衛と前衛が半々のバランスは良さそうな構成だ。
戦士の言ったロックホーンは名前の通り、岩のような外皮に覆われた四足獣だ。
物理的な攻撃には滅法強いが、魔術による攻撃が有効だという情報は知っている。
実際に戦ったことはないが、このパーティでは何度も戦って勝っているようだ。
戦士の作戦もパーティ戦闘では定石と呼ばれる物でおかしな点はなかった。
「おい。
灰色の」
戦士が体をこちらに向けて声を掛けてきた。
先頭の戦士が止まったので、それに連なっていた他のパーティメンバーも足を止めてこちらに目を向けてくる。
灰色とはこちらを差しているようだった。
「お前さんがランクの割りに腕の立つ魔術師だという情報は聞いている。
今回の討伐相手のロックホーンとやったことはあるか?」
戦士がロックホーンとの戦闘経験を尋ねてきた。
モンスターとの戦いは経験の有無で大きく左右されるからだろう。
しかし、戦った経験はないので首を横に振って応える。
ここで嘘をついたとしても、自分やパーティの首を絞めることにしかならない。
「戦ったことはないか。
ま、そんじょそこらの弱小パーティにゃ、ちと荷が重いだろうしな。
さっき言った通り、俺ら前衛が足止めしてる間にお前さん達は魔術をぶち込むだけの簡単なお仕事だ。
だが、魔術が比較的通りやすいと言っても武器を止める程の皮だ。
生半可な魔術だと弾かれることがある。
それに魔術の属性によって相性があるみてえでよ」
そこまで言うと、戦士の仲間の魔術師に目配せをする。
目配せを受けた魔術師が頷いて続きの説明をしてくる。
「ロックホーンは地属性を身に宿し、その力で外皮の強度を高めているという。
貴様も魔術師なら属性の相性は心得ているだろうが、雷属性と地属性は効果が薄い。
風属性が一番効果的だが、風属性は余程魔力を込めるか高位の魔術でないと硬い外皮に阻まれ効果が薄くなるという属性的欠陥がある。
貴様、使える魔術を全て教えろとは言わん。
我の助言で有効と思える魔術があるのなら言ってみろ」
魔術師の使える魔術は切り札とも同意だ。
戦いの手札を全てさらけ出すには常に連携が求められる固定パーティを組んだ場合だけだろう。
だからと言って、臨時でもパーティの一員として戦わねばならない今回のような場合に使える魔術を共有しておかないと前衛を巻き込んだり、他の魔術師の魔術と反発しあってパーティを窮地に追い込みかねない。
自分の使える魔術の中で切り札となるものと、ロックホーンと相性の悪い魔術を選別する。
「威力が望めるとしたら火属性ファイアーボール、ピンポイントを狙うならアクアショットかアイスニードル、風属性で攻めるならエアロバースト」
地と雷を除いた有効となりそうな魔術を述べる。
その言葉にそれぞれピクリと反応した気がする。
「なるほど。わかった。
貴様だけ魔術をさらすのは平等ではないだろう。
我が得意とするのは火属性でファイアーボールを使うつもりである。
そして、こちらの者もファイアーボールを会得している」
説明している魔術師がもう一人を杖で示して告げてくる。
二人ともファイアーボールを使うつもりだ。
そうなると、火属性と相性の悪い水と氷属性は使えない。
「わかった。
こちらもファイアーボールかエアロバーストを使うことにする」
「理解が早くて大変結構。
それにしても、属性を絞らず会得しているとは。
自信があるのか、ただの考えなしなのか……。
こちらの足を引っ張るのだけはしないでくれたまえ」
魔術師には属性の適正があり、適正によって扱う魔術の威力に差が生まれる。
相性の悪い属性の魔術は修得するにも時間がかかるのだ。
なので今の魔術師は全属性に適正があるのか、得意な属性を極めるのではなく、苦手な属性も無駄に苦労して修得したのかと皮肉られたのである。
「……問題ない」
皮肉に低い声を出して応えておく。
「……フンッ」
この魔術師とは馬が合わなそうだ。
まあ、この話し方からして無理だ。
「フッ。
じゃあ、話がまとまったところでさっさと討伐に向かうとするか。
ここからまた暫く歩くぜ」
戦士がそう言って歩き始める。
他のメンバー達も黙って戦士について歩き始める。
戦士がパーティリーダーで、今の魔術師が副リーダーか参謀役といった所だろうか。
ここまでと同様に最後尾を黙って歩く。
ガットトッ。
石に躓いてしまったようだ。
幸い前を行く者たちには悟られていないようだ。
それにしても、よく話を聞きもせず勧誘に乗ってしまったものだ。
自分が悪いので何も言えない。
もう少し友好的に接することはできないのだろうか。
自分もそうだと自覚はあるのだが。
運が悪かったと諦めてさっさと終わらせて帰るとしよう。
こんな気分に同意してくれるのは空だけで、曇がさらに厚くなったようだ。
冒険しているのかいないのか…
ほぼ会話か。
次回主人公草を刈る。




