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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第二章 冒険者と仲間
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51.サーシャの事情

 冒険者ギルドにたどり着いたシュウは一つため息をついた。

 朝、宿を出るときはこんなはずではなかった。

 

 日課の薪割をこなしにルーツの屋敷へ向かった。

 昨日同様にカコンカコンと薪を割るシュウの横で、悪戦苦闘するクランとリン。

 シュウがノルマをこなす間に一つも割ることができていなかった。

 昨日より進歩はしている。

 斧が半分ほどまで食い込んでいるのだから!

 シュウが二人の分も割って、ギルドに向かおうと提案したところでルーツによって敷地から放り出されてしまった。

 文字通り、片手でぽいっとだ。

 申し訳なさそうに手を振るクランとリンと目が合い、こちらも手を振っておく。

 体制を整え両足で勢いを殺して着地し、そのままギルドに向かった。

 二人には頑張ってもらって、早く剣気扱いを会得してもらおう。

 不確定要素のパーティを増やすよりも自分達を鍛える方が確実に戦力アップを見込める。

 ……はず。


 今日もとりあえずサーシャにパーティメンバー増員を相談する。

 昨日は治癒術師で相談して、今日は枠を広げて魔術が使える人、もしくはもう頼れそうなら前衛でもいいので、良さそうな人がいれば紹介してほしいぐらいの勢いだ。

 サーシャを探すと今日も受付の中でギルドの中をキョロキョロと見回している。

 最近よく見かける光景だ。

「サーシャさん。おはようございます!」

「ひゃう!」

 近づいて挨拶をすると、こちらに気づいてなかったのか驚いて変な声を出した。

「シ、シュウさん!お、おはようございます!」

「誰か探されてるんですか?

 最近よくキョロキョロされてますよね」

 以前も聞いたがそういえば理由を話してくれなかったな。

「あ、ここではみなさんの耳もありますので、いつもの個室に」

 そう言って個室に案内されたので、シュウは黙って向かった。

 

「シュウさんは最近ティアリスさんにお会いになられましたか?」

 個室に入って椅子に腰かけるなり、サーシャが尋ねてきた。

「ティアリスさんにですか?」

「はい」

「会ってないですね。

 最近は自分の事や周りの事で必死で……。

 ティアリスさんになにかあったんですか?」

 サーシャが聞いてくるということは、何かあったのだとうか。

 なんとなくすがるような顔で見つめられる。

「いえ、それならいいんです……。

 すみません」

 そう言って、少し落胆したように顔を俯けてしまう。

「彼女に何かあったんですか?

 サーシャさんがそんなに気にするぐらいなことが?」

 もう一度尋ねると、ハッとしたように顔を上げる。

「あ、いえ、ごめんなさい」

「ティアリスさんは一緒にギルドに登録した言わば同期です。

 教えてください。

 何かわかるかもしれませんよ」

 少し強めに迫ると、少し考えるようにしてから目線をテーブルに落としてポツポツと話し出した。

「シュウさんとティアリスさんがギルドに登録されてから、シュウさんと同じように私がティアリスさんの担当に付いているんです」

 一緒に登録して、その担当をしてくれたのだから当然と思いつつも、疑問に感じた。

「あれ、それなら僕よりもサーシャさんの方がティアリスさんの事知ってるんじゃないんです?」

 担当をしているのなら今どんな様子なのか知っていて当然だろう。

「あ、いえ、だいたいのことは知っているのですが、シュウさん自身が知っているのかなと思って聞いたんです」

「あ、そうだったんですね。

 すごい落胆した感じだったので、サーシャさんもわからないのかと思いました。

 まさか行方不明とかかと」

「あ、そんなに顔に出てしまってましたか?

 受付失格ですね」

 また少し俯いてしまった。

 このままだと話が進まないかもしれないと思い、話を促していくことにする。

「で、サーシャさんが担当しているティアリスさんが最近どうかしてるんですか?」

「あ、はい。

 え、えと……。

 実は、担当に付いて暫くしてから避けられるようになってしまって」

 避ける?あのティアリスが、このサーシャを?

「何かケンカするようなことでも?」

「い、いえ!

 そんなことは少しも!

 ただ……」

 優しかったティアリスがこんな丁寧な対応をするサーシャを避ける理由がわからない。

「シュウさんが住民クエストを中心に受けられていた頃、ティアリスさんも選ばれるクエストが偏ってまして……」

 そうだったのか、シュウは外に出る実力がなかったので、住民クエストでお金を稼いでいたのだが、その間ティアリスもクエストをこなしていた。

「どんなクエスト受けてたんですか?

 彼女は魔術も使えましたし、ここに来るまでに十分な戦う力を持ってましたからね。

 外に出るクエストも余裕だったでしょうね~。

 最初から森付近の採取とか行けそうですね」

 シュウは街道で会った時を懐かしく思い出しながら言ってみたのだが、

「私も最初は採取クエストを紹介していたのですが……」

 サーシャがそこで息を一つついて、続きを話す。

「ティアリスさんは一度も私が紹介した採取クエストを受けてはくださいませんでした」

「え?一度も?」

 サーシャの言葉に驚きを隠せない。

 ティアリスなら素直にサーシャの提案に従いそうなものだが。

「ここだけの話ですよ?

 他の冒険者の事を無断で話すのは本来禁止ですので……」

 サーシャの言葉に静かに頷く。

「ティアリスさんは最初のクエストから一貫してモンスター討伐クエストを受けられています」

「最初のクエスト……から?」

「はい。

 具体的には登録された次の日からほぼ毎日討伐クエストを受けられています」

 シュウがルーツの所で薪を割ったりしている間に、ティアリスはモンスター討伐クエストを……

「シュウさんがランク昇格クエストを受けられる際にお話ししましたが、ティアリスさんも今は同じEランクですが受けているクエストが評価が高く設定されている討伐クエストのため、もう少しでDランクです」

 改めて同じEランクでも差を突き付けられた気がする。

「ランクを上げたいと討伐クエストを好んで受けられる方はもちろん多いです。

 やはり評価が高いですし、報酬もおおいですので。

 ただティアリスさんは……」

 そこで少し言い淀むサーシャ。

 一体ティアリスはどうしたというのだろうか。

「ティアリスさんがどうしたんですか?」

「……受けられるクエストの討伐対象がランク上位のモンスターが多いのです」

 討伐対象にはどのランクで受けられるかわかるように、モンスターにもランク分けがされている。

 けれど、同じランクの中でもまた順位のようなものがあり、難易度の上下がある。

「ティアリスさんはランク昇格付近に受けられるようなモンスターを最初から選んでおられました。

 私は順序よく難易度を上げていきましょうと提案したのですが、聞き入れてもらえなくて……。

 終いには私を避けるように、他の受付でクエストを受注してすぐギルドを出て行ってしまうように……」

「なるほど。

 それでティアリスさんがいないかギルドの中を見渡してたんですね?」

「……はい。

 他の受付の子からティアリスさんが来られたと聞いたので」

「そうだったんですね。

 同じ日に登録したのに、同じランクでも上と下でだいぶ差がついちゃったな~」

 この場の空気を換えようと少し話題を変えようとする。

「私やギルド的にはシュウさんのように少しずつランクを上げていってもらいたいですね。

 その方の実力に合ったランクのクエストを受けられるのが理想ですので」

「その言い方だとティアリスさんはそうじゃないと?」

「かなりランクを上げるのに必死ではあるかと思いますね。

 ご説明したと思いますが、自身で受けられるクエストは自分のランクまでとなってますが、パーティだと一つ上のランクでも受けることができます。

 ティアリスさんも最初はソロで同じランクの上位モンスターを討伐されてたのですが、最近はパーティ募集などで上のランクのモンスタ-討伐に参加されておられるようです」

「なるほど。

 パーティ募集で参加しているということは、まだ固定パーティは組んでないんですか?」

 シュウはティアリスのパーティ事情が気になった。

「そうですね。

 今はまだ組まれてないようです。

 固定パーティだとどうしても、ずっと討伐クエストを受けるといったことは難しいでしょうから」

 モンスターと戦うと必然的に装備のメンテナンスが必要となる。

 直接モンスターとぶつかる必要のある前衛は特にだ。

 装備の簡単な補修ならすぐに終わるだろうが、大きな傷を受けた場合にメンテナンスに時間がかかることもあるだろう。

 命が何よりも大事なこの世界で防具のメンテナンスは何よりも大事だ。

 そのメンテナンスの間はクエストを受けることができないという訳だ。

 しかし、モンスターと直接切り結ぶ必要があまりない後衛なら防具があまり痛むことが無いので、パーティを変えることでずっとクエスト受け続けることができる。

「でも、それは物理的な問題でして、本来なら精神的な疲れなどもありますので、ずっとクエストを受け続けることはできません。

 ティアリスさんもそれはわかっているのか、連続で受けられるようなことはされませんが、ほぼ毎日討伐クエストを受けられてまして……」

「それが、サーシャさんには何か問題があるようにと……?」

 サーシャのティアリスを心配する顔は真剣そのものだ。

「他の受付の子にはわからない程、私の気のせいのかもしれないのですが、時々ティアリスさんは具合が悪そうな時があるんです。

 なにかふらついているような時が……」

「それは本当なんですか?」

 サーシャの事を疑う訳ではないが、簡単に頷けることではなかった。

「他の受付の子たちは特に何も感じなかったと言ってましたが、私には時々そう見えたんです……。

 なのでシュウさんはどうなのか聞いてみたかったのですが……」

 なるほど。ここで最初の質問になるわけか。

 生憎ティアリスとは、登録した日から会っていない。

 ことあるごとに思い出すことはあったが、実際に会う機会はなかった。

 少しでも背中に追いつこうと自分を鍛えてきたが、結果は約ランク一つ分の差ができてしまっていた。

 最初よりも背中が遠くなった気がした。

「事情は分かりました。

 それで、最初に言った通り僕はここで冒険者登録をした日から一度もティアリスさんに会えてません」

「そうですか。

 こればかりは仕方ないですね。

 私の受付としての力が足りなかったんです」

 サーシャはテーブルの上で組んだ自分の手を見つめて力なく言った。

 その手は白くなるほど力が込められているようだった。

「僕もこれからはなるべくギルドの中でも、街中でも気にかけるようにしてみます。

 ティアリスさんの事は恩人でもあるので気になりますし」

「本当に申し訳ありません。

 よろしくお願いします」

 サーシャは心から申し訳なさそうに、頭を下げた。

「いえいえ、大丈夫です。

 顔を上げてください。

 そうだ、僕からもお願いがあるんですよ」

 両手をぶんぶん振りながら、サーシャに顔を上げてもらうように言った。

 そして忘れかけていた、今日ギルドにきた理由を話した。

 それはさらにサーシャの顔を困ったものにする結果になったわけだが。

「本当にすみません。

 なかなかソロで活動されてる方で該当するような方がおられなくて」

 なんでもソロを好んで活動する人はクセが強かったり、パーティでの活動が性に合わない人が多いのだそうだ。

 

 シュウは今日も良さそうな人がいたら教えて欲しいとお願いして、一人で達成できそうなクエストを紹介してもらった。

 今日は昨日のような突発的な依頼ではなく、草原に自生する麻のような植物の採集にした。

 二日連続で緊張感のある討伐クエストをティアリスのように受けることができないシュウであった。

また冒険してない…。

次回は地味な採集クエ回!

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