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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第二章 冒険者と仲間
51/303

48.朝から問題が増える一方です

 シュウは驚いて目を開けキョロキョロと辺りを見渡すが、声が聞こえる範囲に誰もいなかった。

 気配察知に集中してみるが、周囲にはビアンゼ以外の気配はなかった。

(なんだ?なんの声だったんだ?)

 構えを解いて、掛けられた声の内容を思い出す。

(ここを監視していた人の場所を教えてくれたようだったな。

 そして、今はもうこっちを監視していないと……

 あとはデータがないとか言ってたけど、データってなんだろう?)

 木剣を片手に下げ、もう片方の手を顎をさすって考え込む。


『データとはマスターの記憶領域にアクセスし、過去に遭遇または入手した情報のある人物を精査した結果のことであり、今回こちらを監視していた二人を検索し、当てはまる人物は発見されませんでした。

 更なる情報の収集を推奨致します』


「へっ?」

 考えていた所にさらに声が聞こえた。

 しかもそれはシュウが疑問に思ったことの答えだった。

 驚いているこちらを無視するように、けっこう長い文を話されたので理解するのに時間がかかった。

(マスターって誰のことだ?

 僕のことなのか?)

 長い文の中でわからないことを一つずつ挙げていくことにした。

 今ならきっと……

『肯定。

 マスターはシュウ・ナルカミで間違いありません』

 声が答える。

(いつから僕は誰のマスターになったんだ……?

 一体君はなんなんだ?)

 シュウをマスターと呼ぶ声に核心を突く質問をしてみる。

『マスターの魔術書(グリモア)のレベルが2となり、マスターが所持するスキルを分析した結果、ラーニングと自動鑑定から自動認識・解析・補助機能の作成に成功しました』

 えーっと?

 またこちらを置き去りにして長い文を一気に話しやがった。

 シュウは腰の魔術書を取り出し、

(つまり、昨日この魔術書のスキルレベルが上がったから?)

『是』

(それで、僕のスキルを調べて、ラーニングと自動鑑定から話せる機能作ったってこと?)

『是』

(ん~。

 自動認識・解析・補助ってことは、自動で周りのことを理解して、考えて、僕に教えてくれるってこと?)

『是』

(なんか地球の人工知能みたいな感じ?

 って、地球って言ってもわからないか)

『否。

 マスターの記憶は共有済みであるため、マスターの召喚以前に存在した地球のことについて認識に問題ありません。

 人工知能という例えにも、概ねその認識で間違いないとお答えします』

(僕の記憶を共有済みって……)

 ちょっと野放しにできないことをサラッと言ってきたな。

(その記憶の共有ってこれからずっと?)

『なにか問題でも?』

 質問に質問で返された。

 問題大アリである。

(いや、こんな僕でもプライバシーとかあるじゃん?

 人には見られたくない、聞かれたくないこととか)

『検索した結果、マスターの記憶には他人に言えないような記憶は見つかりませんでしたが』

 言ってる傍から検索すな!

(ほんとに勝手に記憶を見るのは止めてくれない?)

『マスターの記憶は真面目で誠実であり、他人に話しても恥ずかしくないものと言えます』

(お、おう……)

 なんかすっごい褒められた。

 自分で思い返しても、疚しいことをした覚えはないと言える。

『ただマスターはこう見えて奥手であり、異性からの感情に鈍い傾向があるようです。

 なので未だにど……』

(はいっストーーーーップ。

 記憶の共有に制限を付けまーーす。

 できるよね?できるよな?)

『……是』

 ハァ……。

 朝からなんでこんなに疲れるんだ。

 疲れを解すためにここに来たんじゃなかったか。

『制限の内容の提示を願います』

 声は記憶の共有に対する制限の内容を求めている。

 記憶を覗かれているというのは、正直気持ちのいいことではない。

 ただ便利なのは確かだ。

 ここを監視していた人達をシュウが見たことがあるかを検索していたし、先程は記憶を一瞬で見返していたようだった。

 あまり厳しい制限を掛けると、そのメリットが損なわれるかもしれない。

 それにちょっと声がシュンとしている感じがする。

(ハァ……。

 どうしてこうなった……。

 制限は、僕や僕の家族や友人のプライバシーに関する記憶を検索する場合は僕に確認を取ること。

 今みたい勝手に検索は駄目だ。

 今は他は思いつかないから、何かあったときは随時変更していくから)

 僕や家族や友人のプライバシーはなんとか守りたいので、そこだけ制限を付ける事にした。

 今は突然のことでもあるので他思いつかなかった。

『……了』

 声は少し落ち込んだように声のトーンが下がったままのようだった。

 人工知能に近い存在でもかなり高度な知能な感じがする。

 まるで感情があるようだった。

(まぁ、キミの声は僕にしか聞こえないんだろ?)

 少し気になっていた事を確認しておく。

『……是』

(じゃ、プライバシー以外のことは好きにしていいから。

 さっきの監視していた人たちの事とか自動でやってくれると助かるし、早くてすごかった)

『了!』

 少し声が元気になった気がした。

(微妙なラインは都度聞いてほしいな)

『了』

(あとは~。

 そうだ、僕の記憶が大元ってことは僕が知らない事はわからない?)

 シュウの記憶を共有していることは信じるとして、それ以外の事に対してはどうなのか知っておきたかった。

『否。

 マスターが自動鑑定のスキルを所持しているため、鑑定スキルレベル1の範囲について答えることが可能です。

 鑑定スキルの上昇により、精度と内容の充実が期待されます』

 なるほど。

 自動鑑定を分析したって言ってもんな。

(わかった。

 僕もこの世界で知らない事の方が多いから、何かと頼りにすると思うからよろしく頼むよ)

『畏まりました。マスター』

 だいたいこの声のことはわかった。

 いや、わからないことの方が多い気がするが、現状これ以上どうすることもできない。

 少しずつ分かっていけばいいか。


(さて、とりあえず、何してたんだっけ?

 こっちを見てた人の場所の察知に失敗して……)

 声に気を取られているうちに、陽は完全に上ってしまっていた。

 体も十分に解れて、疲れも感じなくなっていた。

『報告。

 宿の裏口にビアンゼを確認。

 朝食ができたと予測されます』

 声に言われるまま宿の裏口に顔を向けるとビアンゼがこちらに手を振って、

「おはようー。

 朝ごはんできたから、食べなー!」

 と、声を掛けてくれた。

「おはようございます!

 今、いきますー!」

 木剣を元の場所に立てかけ宿の裏口に体を向けた。


(あ、そうだ。

 キミってなんて名前なの?)

『?

 名前は設定されておりません』


(そっか。

 じゃ名前考えないとね)


 シュウは誰にともなく笑って裏口に向かっていった。

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