46.魔術書考察
宿に戻ってきて、水をもらい汗と泥や土を落としサッパリした後、後から帰ってきたクランとリンとビアンゼの作った夕食を食べて部屋に戻った。
昼間のクエストの蟻達との戦いでクタクタだった。
クランとリンもルーツの所で相当しごかれたようでクタクタの様子だった。
シュウは少しでも早く寝たいところだったが、それよりも気になることがあった。
ベッドに腰かけ魔法鞄から魔術書を取り出す。
あの大軍の蟻をどうにかできたのは、魔術書に書かれたピットフォールのお陰で間違いない。
だが、昨日までは載ってなかったはずだ。
やはりロックアントが使ったピットフォールと思われる魔法を間近で見たからか……
いつかの薬草の群生地で同じことを考えていた事を思い出す。
ストーンブレットやヒールは近くでティアリスが使っていた魔術だ。
そして、今回のピットフォール。
キーはやはり魔術書と魔術。
魔術書を持った状態でシュウかその近くの物を対象に魔術が使われると魔術書にその魔法が書かれる。
「うーん。
やってたゲームで例えるなら……
“ラーニング”だけど……」
元の世界で遊んでいたゲームで敵から技を喰らうと確率でその技を覚えて使えるというスキルがあった。
その技を覚えることをラーニングと名付けられていた。
ぼんやりと元の世界のゲームの事を思い出してから魔術書を見下ろすと仄かに光っていることに気づいた。
「この魔術書……
ほんとにちょっと見てない間に光ったりするよな」
シュウはページを捲り、光っているページを探した。
それは最初から捲っていってもすぐに見つかった。
そのページはシュウが身に付けたであろうスキルが載っているページだった。
そこに『魔術書 Lv2』とそこからツリー状に線が伸び『ラーニング』と『自動鑑定記録』と書かれていた。
「ラーニングで正解だったか~。
これがあれば魔術の先生のところで必死に練習しなくても魔術を覚えられる……か?
……覚えられるだろうけど、まだ確実に覚えられる条件がわからないし、魔術書がない状況で使えないとかありえそうだな。
自分でも覚える努力はしておこう」
幸い魔術の素養もあるようなので、ライトのようにある程度は自分で覚えることも可能だろう。
「でも、魔術書でラーニングした魔術で有利なのは、詠唱がいらないってところか」
ティアリスも先生も魔術を使う際に詠唱を必要としていた。
それが魔術書に書かれた魔術は放つイメージと魔力を込めて魔術名を唱えるだけで魔術が発動する。
「いやーこれ便利だけど絶対人に言えないやつだよな……。
周りで他に持ってる人はいないし、ラーニングで魔術覚えられるなんて、この世界に来てから聞いたことないもんな。
それに……」
クランとリンの前で魔術書を開いて魔術を使ったが、そのことは昨日宿を紹介するときにこっそり口止めをお願いした。
二人は快く承諾した。
そして、その時二人に尋ねたのだが同じように魔術を使う際に本を使う人はいるのかと。
戦士なので魔術にはあまり詳しくないクランはわからないと言っていたが、魔術を扱うリンは杖の様に魔術の媒体として使う人はいるらしいとのことだった。
その本もただの本ではダメらしく、それらの本も魔術書と呼ばれるらしい。
二人が驚いたのは魔術書ではなく、詠唱なしで魔術名だけで魔術を連発したことだったようだ。
魔術が使える事を隠していたことを悪いと謝ると、
「いえ、そんな急に組むことになったパーティで、自分の切り札を見せることはなかなかできないですよ」
「クランの言う通りです。
それに、シュウさんのお陰で私もクランも助かったのですから。
謝らないでください」
そして、二人は笑って許してくれた。
魔術について知らない事も多いので、知ってる範囲でリンから教わることもその時約束した。
戦士だからと今まで魔術を遠巻きにしていたクランも少し学んでおきたいと一緒に教えてもらうことになった。
魔術について知らないことが多いため少しでも見聞を広めたかった。
リンもシュウ達よりは知識はあるが、それでも最近魔術の道を歩み始めた一人だ。
知っていることもすぐ説明し終わってしまうだろう。
魔術の先生に教えを乞うのもいいが、先生にも仕事がありずっと教えてもらう訳にはいかないだろう。
そうなれば、先生に付きっ切りで教えてもらうのではなく、仲間で協力して研究していくのがいいかもしれない。
「けどな~そうなるとしても魔術が使える人がもっといたらな~」
ため息交じりに思っていた事を呟く。
知識が足りない。
今のパーティは冒険者を始めたばかりの三人が寄せ集まっただけだ。
しかも、その内一人はこの世界のことすら疎い。
「今のままじゃ不安だからブレイン役ができる人を見つけたいな」
魔術書を鞄に戻し、ベッドに仰向けに倒れ込む。
そして、明日にでもクランとリンにも相談して知識のある人を探したいと提案しようと決めた。
果たして一体どんな人がいるだろうか。
目を瞑って、冒険者ギルドの中の人たちを思い浮かべる。
「もうだいたいパーティ組んでそうだったよな」
それに、パーティを組むには信頼できるかが一番大事だ。
そんなの見た目だけじゃわからないよな……。
そう思っているうちに、少しずつ眠気が押し寄せてきた。
そして、最後に脳裏に浮かんできたのは、また離れていく白いローブの背中だった。
「……今は、……どこで……何してるかな……?」
そこでシュウの意識は眠りの底に沈んでいった。
その者は新しい玩具を見つけたようなキラキラした笑顔でその本を手に取った。
周囲はその者がいることしかわからない暗闇の中だ。
「これはまた面白いことを考えたものだね」
本のページを捲りながらその者は目を細める。
「まあ、この本の仕組みはだいたい理解したが……
これでキミは彼に何をさせたいんだい?」
その者は本から顔を上げ、虚空を見つめながら呟く。
その呟きに返す者はココにはいないと知っている、その者はまた本に目を戻した。
「それにしても急いでいたのか、これはちょっと不親切じゃないかな?」
ページを捲りながら、その者は考える素振りを見せる。
「では、親愛なる友のために私も一肌脱ぐとしよう」
そう言って、とあるページを開き手をかざした。
すると、開かれたページが光を放ち始める。
数秒もしないうちに光は弱まり、そこは元の暗闇に戻った。
「これでよし。
フフッ。
彼は喜んでくれるかな。
最初は驚くかな?」
その者は本を閉じると、本から視線を上げる。
「やっと目が覚めたんだ。
楽しませてくれるよね」
そう言って、その者はまるでそこにいなかったかの様にふっと前触れもなく消えた。
暗闇に残されたのは……
一冊の魔術書。




