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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第二章 冒険者と仲間
48/303

45.ひとまず早く帰りたい気持ちでいっぱいです

前話を読み返すとひどい半端な終わり方だったので付け足そうと続きを書いたのですが、

思わぬ量になってしまったので泣く泣く話を分けました。

「坊主、このロックアントはお前さんがやったのか?」

「え?はい。

 一匹でしたが、大変でした。

 足の節を狙って動きを制限できたのがよかったですね」

 この二人には攻撃魔術が使えることは言ってないので、ストーンブレッドで足を潰したことは伝えない。

 モンドがシュウの言葉に呆れたような顔をしてサーシャに目配せをした。

 その真意を理解したサーシャがシュウに口を開く。

「シュウさん。

 ロックアントはソイルアントよりも上位のモンスターです。

 冒険者ランク的にCランク相当となります」

「C?」

 A、B、C、D、EでC?僕はEで……。

 あれ?

「それって相当ヤバかったんじゃ?」

 シュウが気づいたところでモンドはさらに呆れた顔を深める。

「ヤバいどころでは普通すまんぞ」

「クエストの依頼書にあったソイルアントの発見場所にいたのが、こいつだったんでこいつがソイルアントかと思ってました。

 ただ、聞いてた話よりも強かったんで疑問には思ってたんですが……」

「それはギルドとしても放置できない話ですね。

 こちらに入った目撃情報はソイルアントだったので、Eランクの依頼となったのですが……。

 普通ならEランクの方が受けて勝てる相手ではありません」

「ふむ。そうだな。

 その誤情報で依頼を受けた冒険者がクエスト中に死んだなどとなれば、ギルドの信用問題になりかねん」

 サーシャとモンドはギルド関係者なのでギルドに信用は死活問題なのだろう。

 巻き込まれたシュウも他人事ではないのだが、生きて帰ってこれた安心感で今は放心気味だ。

 今の状態でまたロックアントと戦うのはごめんこうむりたいので、ここはギルドに頑張ってほしい。

「そうだ、ソイルアントってこっちがそうですか?」

 そう言って魔法鞄から兵隊蟻の死骸を取り出す。

「お前さんどんだけやり合ってきたんだ?」

 魔法鞄から死骸を取り出そうとするシュウに諦めたような顔を滲ませるモンド。

「おお、こいつがソイルアントだ」

 取り出して布を外した死骸を見てモンドが答える。

「じゃあこれで依頼はクリアということで大丈夫ですか?」

 シュウはモンドからの返答で笑顔になり、サーシャに顔を向けた。

「あ、はい。

 う、け、けれど、ロックアントがいたということで、マルクさんに相談しますので報酬は一旦待っていただいてもいいですか?」

 考え事をしていたところにシュウから声を掛けられて、顔を向けると笑顔のシュウに見つめられていて顔を横に向けるサーシャ。

 それでも、情報に齟齬があったのでそのままの報酬を出すわけにはいかないと考え、報酬を保留にしたのだった。

「わかりました。

 じゃ、モンドさんこれらの解体をお願いしてもいいですか?」

「おうよ。

 手数料はどうする?

 報酬がしばらく出ないんなら、解体して出た素材から、手数料分差し引いてもいいが?」

 モンドは台車に出されたロックアントとソイルアントを検分しながら答える。

「じゃ、素材を取ってください。

 あ、ソイルアントはまだあるんです」

 そう言って再度魔法鞄に手を突っ込みどんどんソイルアントの死骸を取り出していく。

 その数、十体のソイルアントの死骸。

「お、おい坊主。

 お前さんほんとにEランクか?」

 すでに呆れを通り越したモンドが、シュウを疑いの目で見てくる。

「も、もちろんですよ。

 サーシャさんが証人です」

 冒険者になった時から、シュウの担当だったサーシャならシュウがランク詐欺をしていないことを知っている。

「わかったわかった。

 じゃ、ロックアント一体とソイルアント十一体の解体でいいな?」

「はい。

 お願いします」

「ロックアントは解体に時間がかかるのと、ソイルアントも数が多いから、余裕を持って三日待ってもらってもいいか?」

「三日ですね。

 わかりました。大丈夫です」

 まだ手持ちの資金には余裕があるので三日待っても問題はないだろう。

 困る様なら報酬がしっかり貰える住民クエストを繰り返してもいいだろう。

「いやーでも、ソイルアントこれだけしか回収できなくて残念ですね」

 シュウの言葉に疑問符を浮かべる、サーシャとモンド。

「どういうことですか?」

 代表してサーシャが答える。

「いえ、ほんとはもっとソイルアント倒したんですけど、大群過ぎて手に負えなくなったので。

 え、ええと、出てくる穴を崩壊させて死骸ごと土の中に落としちゃったんですよね。

 持って帰ってこれたのはその崩壊に巻き込まれなかった奴だけなので」

 モンドはもう知らないと台車の死骸の具合を確かめ始めて聞こえないふりをしている。

 現実逃避のできないサーシャは驚きの余り、

「もう!シュウさん、そんな大事なことなんでさっき言わないんですか!」

 シュウはサーシャに蟻を倒したが、そこに大群の蟻がいたとしか報告してない。

 ソイルアントだと思ってた最初の蟻が格上のロックアントだった辺りでもう報告が間違っているだが。

 サーシャはマルクへの報告が増えたと、頭を抱える。

 報告を聞いた段階では、倒したのは最初の一体だけで大群は発見しただけで逃げてきたのだと判断していた。

 ソイルアントの死骸をポンポン出していた時は上の空で目の前でシュウがソイルアントを出しているのが意識の外だった。

 先程のシュウがソイルアントを十一体出していた辺りで疑問を持つべきだったのだ。

 刺激を与えてしまったソイルアントが現場に溢れかえっているのが想像できる。

「うーいろいろなことで頭がいっぱいでちゃんと確認しなかった私もダメですね」

 シュウが思いもよらない行動をしていたことに頭を抱えるサーシャ。

「シュウさん。

 ギルドカードを少し貸していただけますか?

 ちょっと受付に戻りましょう」

 少し疲れた顔になったサーシャがシュウに言った。

「あの、僕少し疲れてて……」

 ガシッ

 シュウが疲れているので帰りたいという前にサーシャはシュウの腕を掴む。

「行きましょうね」

 サーシャが屈託のない笑顔をシュウに向ける。

「では、モンドさん。

 また」

 サーシャはモンドに戻ることを告げシュウを引きずって行く。

 シュウはモンドに助けてと手を伸ばすが、モンドは首を横に振ってシュウに手を上げるだけの挨拶を送った。

「坊主。これは自業自得ってやつだ」

 誰もいなくなった解体所の受付でモンドは呟いた。


 ギルド内部に戻ったサーシャはシュウからギルドカードを預かり個室から出て行った。

 シュウは再度椅子に座り机に突っ伏した。

 しばらくして個室の扉に駆けてくる足音が聞こえてくる。

 バンッ!

「シュウさん!これはどういうことですか!」

 顔だけ扉に向け、座ったことで疲れが戻ってきた頭が怒った顔もかわいいなと場違いな考えをする。

 が、声に出さない思考力は残っていたようだ。

「これとは?」

 シュウは体を起こしサーシャに疑問を返した。

「実はギルドカードには討伐したモンスターの記録しておく機能があるんです」

 衝撃の事実。

「えっ?」

「本来は討伐証明部位で依頼達成などを判断するのですが、緊急性の高い凶悪なモンスターの討伐依頼等で実際は討伐していないのに証明部位だけ別で入手して報告するなど悪質な事案が過去ありまして、魔術師の方々の努力でこの機能が付けられました」

 その機能が付けられた背景はわかったが、それが今何の関係が……

「シュウさんのギルドカードを調べさせていただきました」

「あ、もしかして、ロックアントとかが出てこなかったとか……?」

確かにシュウは自分でロックアントやソイルアントを倒したが何かの不具合でカウントされていなかったとか……

「いえ、ロックアントは確かに討伐されたと載っていました。

 それよりも、ソイルアントです!」

「ソイルアントに何か問題でも?」

 シュウは怒られている理由がよくわからない。

「何かですって?」

 スッとサーシャの眼が細く冷たい物になった感じがした。

「シュウさん。

 あなたご自分でどのくらいソイルアント倒したかわかりますか?」

 サーシャに尋ねられ、ソイルアントと戦っている時を思い出す。

「うーん。

 数が多くて必死だったので数えてませんが、多くて三〇体ぐらいですか?」

 次から次へと穴から出てきたソイルアントに必死過ぎて数える暇もなかった。

「そうですか。

 実際にギルドカードで確認した数は二三五体です」

「に、二百!?」

「これはソイルアントの一つの群れがほぼこのくらいの数だと言われてます。

 どうやって倒されたのですか?」

 どうと言われてもシュウ自身が聞きたい。

 そんな数を倒した記憶はないからだ。

「うーん……」

 必死にどうだったか思い出そうとしているシュウに、サーシャはシュウが嘘を言っていないように感じていた。

 ギルドカードが出した数字にサーシャ自身も驚いて詰問口調になってしまったが、シュウの様子を見ていると気持ちが落ち着いてきて、終いには攻めてしまった自分が恥ずかしくなってきた。

「あ、あのシュウさん思いあたらないなら……」

「あっ!」

 サーシャがシュウに声を掛けようとしたと同時にシュウも声を上げた。

「もしかしたらですが……」

「はい」

「ソイルアントって大きい分重いと思うんです」

「はっ?」

 シュウが語り始めたが最初の一言で疑問が漏れてしまった。

「僕は説明で開けられた穴を崩壊させたって言ったと思うんですが、文字通り掘られた穴の底までソイルアント落ちて行ったと思うんですよね」

 実際はピットフォールでまとめて落としたのだが、それは隠す。

「ま、まさか……」

 サーシャはそこまでの説明で理解できたようだ。

「落ちた穴の深さ確かめませんでしたが、かなり深かったと思うんです。

 だから落ちた衝撃で潰れたのではと……」

 人差し指を立て説明するシュウ。

「あ、現場は人が落ちたら危ないので周りから土や石で埋めておいたので、ひとまずは大丈夫だと思いますが。

 現地を調査する場合は注意するように言ってください」

 これも実際は魔術で穴を塞いだので大丈夫なのだが、そうとは言えず必死に取り繕った。

 シュウの説明に疑わし気な目を一時向けるが、サーシャは一つ頷き、

「わかりました。

 これでもう隠し事はないですね?

 説明頂いたことをまとめて再度マルクさんに報告してきます」

 魔術の事を隠しているシュは少し心が痛かったが、顔には出さず頷いた。

 それを見たサーシャは頷きを返し、笑顔になって、

「シュウさんも大変でしたのに、長い間付き合わせてしまって。

 今日はもう大丈夫ですので、帰ってゆっくり休んでください。

 付き合わせてしまった私が言うのも何ですが、本当にお疲れですよね?

 すみませんでした」

 笑顔から申し訳なさそうな顔になって謝ってきた。

「もうクタクタです。

 けど、僕も最初からちゃんと説明できてればこんなに複雑にならなかったんですし。

 ごめんなさい」

 シュウも頭を下げる。

 そして、二人して笑ってその日はお開きとなった。


「ちゃんと帰れますか?」

 シュウが椅子から立って個室から出るまでの数歩でいつもよりフラフラしていることに気づいた。

 そういえば、解体所に行く時も帰ってくる時もサーシャが引っ張っていて、気づかなかったのだ。

「大丈夫です。

 もう今日はまっすぐ帰って。

 早く休みます。

 それでは」

 シュウが疲れ気味な笑顔で挨拶をして、個室から出て行った。

 その姿からとても心配になったサーシャだが、これ以上シュウに負担や心配事が増えないよう、シュウが持ち帰ってきた案件をマルクに報告するために受付側の扉を開けた。

(ここからが私の戦いです)

 そう、気持ちを燃やしてマルクの執務室に向かった。

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