44.報告(アリ)
街に戻りかけて、周囲を見渡しピットフォールに巻き込まれなかった兵隊蟻の死骸を魔法鞄に詰めた。
鞄に詰めながら、あの大軍をよく切り抜けられたなと思う。
足元の地面の下にはまだ蟻が地上に向けて蠢いているだろうから、少しでも早くここを去りたい。
あの最初の大蟻の落とし穴から始まった兵隊蟻の大群の戦いだったが、あの落とし穴がなければきっとピットフォールが魔術書に出なかったと思う。
いいのか悪いのかわからなかったがあそこでピットフォールが魔術書に出てそれに気づいたことで、兵隊蟻の大群を一時でも地下に押し返すことができた。
あの大蟻が使った落とし穴の魔術はきっとピットフォールかそれに類するものは、兵隊蟻が使ってくることがなかった。
同じ蟻でもあの大蟻は兵隊蟻のリーダー的存在で、魔術も大蟻しか使えなかったんだと思う。
まだ地下にあの大蟻がいるかもしれないので、魔術で穴を開けられれば今度こそピンチだ。
シュウは周囲に散らばる死骸の回収を急いだ。
(と言っても、ほぼ生きた兵隊蟻達と一緒に落とし穴の中に落ちていってるのだが)
蟻の死骸が回収が終わり、重い体を今度こそ街に向けることができた。
気持ちは走りたいのが、体力がついてこない。
ついでに魔力も。
兵隊蟻をまとめて落とすためにピットフォールの範囲を大きく深くしたことで、ごっそり魔力を持っていかれた。
そして、開ければ閉じれるだろうと、安易な思考でイメージからピットフォール・クローズを使い、魔力が底をついた。
膝が笑いそうになるのを堪えながら必死に歩きつつ、疲れで意識を手放さないように蟻との戦いを自己分析する。
(そういえば、ピットフォール……。
勢いで使ったけど、魔術書手に持たずに使ったような……?)
あの時の事を思い出す。
まず、ライトで蟻の動きを止めて、離れて岩の上に上った。
両手に持った小剣と短剣を鞘に戻した。
ピットフォールの範囲のイメージを作るために両手で輪を作って蟻を囲んだ……。
もちろん両手を使っているので、魔術書は腰のホルスターに納めたままだった……。
(んー?
ダメだ。
体力と魔力不足で頭がよく回らないな。
試すにしても魔力が戻らないと魔術が使えない)
とりあえずは、一刻も早く街の中に入りたい。
こんなことならランブルさんに魔力ポーションの作り方も習えばよかった。
まだ下級ポーションも品質Cが安定して作れるぐらいだが、こんなに魔力切れがきついと思ってなかったので、魔力の大事さを改めて知った。
シュウは品質Cに満足していないが、市販の下級ポーションは品質Cから取り扱わられる。
価格も品質Cが基準となるので、実はシュウの自作した下級ポーションも売ることができる。
商人ギルドに登録してないので、勝手に道行く人に商売目的で売ることはできないが(緊急で治療の時は除く)、店に売ることは可能なのだ(鑑定で保証できる店に限る)。
ポーションの事を考えていると、体中が小さな傷でいっぱいだったことを思い出した。
傷を思い出すことによって、今まで忘れていた痛みも戻ってきた。
ポーチから自作の下級ポーションを取り出し、一気に飲み干す。
丁度喉も乾いていたので、潤すこともできた。少しだけだが……。
シュウの感覚では来た時よりも何倍も時間をかけてやっと街の門まで帰ってきた。
門番にギルドカードを見せ門をくぐる。
これでひとまず安心だ。
門の正面から横に逸れて一呼吸置く。
このままへたり込みたい。
だが、まだ報告が残っている。
ここまで戻ってくるのに時間がかかっている。
少しでも早くギルドに報告して蟻の対処に動いてもらわないと、あの大軍がどう動くかわからない。
気を抜くと座ってしまいそうな脚を両手で叩き、最後の踏ん張りだ。とギルドに向かって歩き出した。
なんとか門から時間をかけて冒険者ギルドまで戻ってきて、受付でサーシャを呼んでもらい、個室でクエストの報告をした。
サーシャは蟻の大群が出たことに驚き、シュウの身体が無事か聞いてきた。
帰る途中で傷を思い出してポーションを飲んでおいてよかった。
シュウの無事が確かめられると安堵からか大きく息をついたサーシャだったが、蟻の大群の出たという事をさらに詳しく聞き、マルクに報告に行くと出て行った。
一人になったシュウは疲れの余り、机に突っ伏した。
「あーほんっとに疲れた」
この後は、クエスト自体の報酬をもらって……
ん?結局、ソイルアントってどっちだったんだ?
大蟻の方?兵隊蟻の方?
ま、解体所に解体をお願いするんだし、そこでどっちがソイルアント聞けばいいか。
と、突っ伏しながら考えていると、サーシャが帰ってきた。
「お待たせしてすみません」
シュウは体を起こして姿勢を正す。
「貴重な情報ありがとうございます。
今、副ギルドマスターのマルクさんに伝えてきましたので、対応を検討してくださってます。
シュウさんの報告通りですと、ソイルアントの群れだと予想されるので対象のランクが上がってしまって、シュウさんはこれ以上関わることができなくなります。
本当にすみません」
サーシャはシュウに頭を下げた。
シュウもソイルアントが一体だからと受けれたクエストだと承知の上で受けた依頼だったので、問題ないと、両手を振ってサーシャに顔を上げるように言った。
「一体でいたソイルアント?は思ったよりも強かったのでこれ以上何回も戦いたくはないですよ。
あんな硬い甲殻に覆われた相手だと、剣がすぐダメになっちゃいます」
「硬い?」
シュウの話に首を傾げて聞き返してくるサーシャ。
「はい。最初にいた一体は硬い甲殻に覆われていて、剣が通らなかったんですよ。
なんとか節を狙って攻撃したんですが、倒す前に落とし穴を掘る魔術?を使われて、穴を開けられて、そこから、そいつよりも小さな蟻がたくさん出てきたんですよ。
これはさっきも話しましたが」
「最初の一体は大きさが違ったんですか?」
シュウの説明に聞いてないと驚きの声を返すサーシャ。
「あ、甲殻を解体するの無理そうで、死骸を持って帰ってきて解体所に出そうと思ってたんで、見てみますか?」
女性に大きな虫の死骸を見たいか聞くのはどうかと思ったが、食いつくようにサーシャは答えてきた。
「見ます!
早速行きましょう!」
疲れているシュウの腕を引っ張り、ギルドの裏側に設置されている解体所にサーシャはシュウを引っ張っていった。
僕とっても疲れてるんだよな~と引っ張られながら内心涙を流しながら、されるがままのシュウだった。
解体所に着いて、最近顔見知りになった解体所担当のおじさんに声をかける。
「モンドさーん!解体お願いしますー」
「よお、坊主。なんだ今日は女連れか?」
モンドと呼ばれた解体担当のがっしりとした体格の男が解体所入り口の受付までやってきて、シュウとその腕を引っ張ている(見方によれば組んでいるようにも見える)サーシャを冷やかした。
もちろん解体所もギルド経営なのでモンドはサーシャのことを知っている。
「あ、や、こ、これは違いますっ!」
モンドの言葉に慌てて手を放すサーシャ。
耳まで真っ赤にして、顔を二人から背ける。
「モンドさん。すみません。また解体をお願いしたいのですが」
腕を解放されて、自由になったことで魔法鞄から獲物を出そうとモンドに再度お願いするシュウ。
「坊主。お前意外と自由だな……。
まぁ、いい。
見せて見ろ」
モンドはシュウの様子を呆れたように呟いてから、受付の横に解体する獲物を乗せる台車を持ってくる。
「ソイルアントの討伐クエストだったんで、討伐証明部位も含めて解体してほしいのですが」
台車の前に移動しながら、シュウは獲物が何か説明する。
「ソイルアントか、討伐証明部位は触覚だったか」
モンドがシュウの説明で、ソイルアントの姿と討伐証明部位を思い出しながら答える。
「サーシャさんは、報告の確認で付いてきてもらったんですよ。
今出すので。
こちらがそうです。
っと」
シュウは魔法鞄から蟻の死骸を包んだ布を取り出して台車に乗せた。
「ん?こいつは何匹かまとめてるのか?」
シュウが取りだした布の塊が予想よりも大きかったので尋ねるモンド。
「いえ。こいつは一匹です。
小さいのはもっとたくさんありますが」
「一匹で?
他に小さい?」
シュウの答えにモンドは疑問が増える。
「とりあえず確認してください」
そう言ってシュウは包んでいた布を捲っていった。
「こ、こいつは……!」
徐々に明らかになる死骸の姿に驚きの声を上げるモンド。
シュウの後ろからも息を飲む音が聞こえた。
「ぼ、坊主。
こいつはお前さんが倒したのか?」
驚きの声を上げつつモンドがシュウに尋ねる。
「え?あ、はい。
そうです。
いやー。甲殻が硬くて剣が通らなくて参りましたよ」
頭を掻きながら答えるシュウ。
「お前さんソイルアントの討伐って言ってたな?」
「はい。そうです」
「サーシャ。
お前さんならこいつが何なのかわかるよな?」
シュウの返事を聞いて、次にサーシャに尋ねるモンド。
サーシャは頷いて、シュウに向かって告げる。
「これはソイルアントではありません。
ソイルアントの隊長格のロックアントです」
「あ、やっぱりそうですか?」
そうじゃないかな~と薄々感じていたシュウは納得したというような返事を返した。
※街門の衛兵の副隊長だったモンドの名前をクロードに変更しました。
解体所のおじさんの方がモンドっぽかったからです(それ以外出てこなかった)。




