43.アリだー!
※ご注意
今回も少しグロ表現が含まれます。
大蟻の行動と周囲に迫る気配と音に混乱し、どうしようか考えがまとまらずただ落とし穴を凝視してしまっていた。
逃げるか?今から間に合うか?
更に迷っているうちに、足音がもうそこまで迫ってきていた。
カシャカシャカシャカシャ
もう耳を澄まさなくても、大量の足音が穴から聞こえてくる。
シュウは喉がカラカラに乾いてしまっているように感じた。
そして、穴の一つから黒い塊が顔を出した。
やはり蟻だ。
だが、さっきの大蟻よりも小さい。
半分ほどの大きさだ。
それでも、もちろん地球の蟻よりも大きい。
最初に顔を出した蟻に続き、同じ蟻が別の穴からもどんどん出てくる。
大型の犬ぐらいもある蟻が草原を黒く染めていく。
最初に出てきた蟻は触覚を周囲に動かしていたが、頭をシュウに向けると、
ギギギギギィー
と、鳴き声を上げた。
そして、一斉に蟻の群れがシュウに向かってきた。
まるで、黒い波のようだ。
シュウは小剣を引き抜いた。
見える蟻の数は数えていないが、三〇匹とする。
観察した感じ、この蟻達は大蟻のように硬い甲殻に覆われていない。
あの大蟻は隊長クラスでこの蟻達は兵隊蟻といったところか。
シュウは萎みつつあった剣気を再度全身に巡らした。
動きはそれほど早くない。
実はソイルアントってこっちなんじゃという疑問が沸くが頭の隅に追いやる。
シュウは小剣を構え、黒い波に飛び込んだ。
剣から伝わる感じは、やはりあの大蟻よりは剣が通る。
だが狙うなら弱点に変わりない体の接合部である節だ。
シュウは集中を高め、自分に迫る蟻に向け小剣を振っていく。
剣気で切れ味を上げた小剣が節に入れば、抵抗も感じず頭や腹部を切り飛ばす。
小剣を振るたびに、シュウの周りに蟻の死体が増えていく。
一体一体は強くない。だが、数が多かった。
すでにシュウの周りは蟻に囲まれている。
蟻は目の前で仲間が死んでも、その死体を乗り越えシュウに迫ってくる。
右から迫る蟻に小剣を振る。
ガギィッ!
首を狙った小剣が大蟻よりは小さい顎で止められてしまった。
シュウはそこで止まらず、左手で腰の鞘に戻していた短剣を逆手で引き抜き、首を切り飛ばす。
そこからは右手の小剣、左手に短剣の二刀流で群がる蟻を切り伏せていく。
次から次へと全方位から迫る蟻に小剣を握り直し、
片手剣基本剣技 スパイラルブレード
その場で回転切りを行い、周囲にいた蟻を一気に減らす。
「ハァ、ハァ、ハァ」
息を整える暇がない。
額からもまた滝のように汗が流れ落ちる。
自分はなぜ逃げずに蟻の群れに飛び込んだのか。
わからない。
自分があの時逃げ出していれば、この蟻達は見失うまで追いかけてくるだろう。
今なら動きを見る限り、全力で走れば街の門までは逃げきれた気がする。
でもそうしなかった。できなかった。
蟻達はシュウを見失えば、この草原に広がっていくだろう。
シュウを探すのか、新天地を目指すのか。
そうなれば、生態系が崩れるように知らないところで誰かが被害を受けるかもしれない。
それに、もし蟻が匂い等で追うことができるのなら街まで蟻が追ってきてしまうかもしれない。
さっきの一瞬でここまで考えは至っていないが、シュウに逃げるという選択肢は最初からなかった。
回転切りで蟻との距離が少しできた隙に額の汗をぬぐう。
呼吸も整えたいが蟻達はそんな暇を与えてくれず、また近寄ってくる。
正面の蟻に小剣を振った。
小剣は蟻の首を飛ばし絶命させる。
が、背後から別の蟻に体当たりを受けた。
「ぐっ!」
地面に押し倒される。
シュウは横に体を回転させ、その勢いのまま小剣の柄頭で上に乗っている蟻の頭部を打つ。
蟻はシュウの上から吹っ飛び、近づいていた別の蟻にぶつかった。
立ち上がる勢いで、近くの蟻に下から上へと斬り上げる。
シュウに飛びかかった蟻が、頭部へのダメージで動けないようになっているので、小剣を首元に突き刺し止めを差す。
視界の端で背後からまた飛びかかろうとする蟻を捉え、突き刺した小剣の柄に手を置き、回し蹴りを放って迎撃する。
最初に適当に決めた三〇体という数はとうに倒している。
それでも、次から次へと穴から蟻は出てくる。
シュウは大きな傷は負っていないが、小さな傷をあちこちに負っている。
時折スパイラルブレードを放ち、周囲の蟻を死体ごと吹き飛ばして距離を開けるが、息をつく暇もない。
こんな状況で長く戦える訳がなかった。
「僕が、もっと、強く、もっと、広範囲の、攻撃が、あれば、なあああ」
叫びながら小剣と短剣を振り、蹴撃や剣を握ったまま殴るなど全身を使って戦う。
それでも、蟻の数は減ったように感じない。
段々と腕や足が重く感じ、思ったように動いてくれなくなってきた。
蟻の顎による切り裂きや足にある棘をさけることが困難になってきていた。
このままだとジリ貧だ。
この量をどうにかできる前にシュウの体力が尽きてしまう。
蟻は穴からどんどん出てきているのだ。
あの穴をどうにかしないと、無限と思えるように蟻は出てくるだろう。
しかも、穴は一つではない。
あの大蟻はシュウが止めを差すまでに四つの落とし穴を開け、そこから兵隊蟻が出てきている。
ストーンブレッドで穴が塞げないか?
いや、魔術で作った岩や石は魔力が無くなると消えてしまう。
膨大な量を注ぎ込めばできるかもしれないが、十分な魔力を込める時間と残りの魔力量で四つを塞ぐのは無理だ。
どうする。
どうする?
どうする……?
体力も限界が近い。
動けるうちに逃げるか……?
どうするどうするどうするどうする。
あの穴をどうにかできれば。
あの元は落とし穴だった穴。
落とし穴……。
落とし穴……?
「!?」
シュウは再度スパイラルブレードを放つと、小剣を地面に突き立て、空いた右手を掲げる。
イメージは閃光。
「ライト!」
支援魔術であるライトは光源を作る魔術だ。
屋内や洞窟等を明るく照らすのが本来の使い方で、明るさと魔術の持続時間は反比例する。
長時間魔術を持続させようと思えば光量を落とさなければいけないし、光量を上げれば持続する時間が短くなる。
その魔術を今、シュウは目くらましに使った。
光量最大、持続時間最短で。
この蟻達は暗い土の中では触覚を頼りに活動していると思われるが、地上に出てきてから触覚から視覚に切り替えていた。
それなら、光による目くらましも有効だと思ったのだ。
賭けは成功。
光によって視覚を失った蟻達は混乱しているのか、足を振り回し同士討ちを始めている。
その隙にシュウは大蟻から隠れていた岩に向かって走り、間にいた蟻を斬り飛ばしていく。
そのまま岩の上へ飛び乗り、全蟻達を視界に入れる。
先程までシュウが中心にいたお陰で蟻は大きく広がっていない。
離れて見ればよくあの中に居たものだと思ってしまう。
シュウは小剣と短剣をそれぞれ鞘にしまう。
そして、両手の指先を合わせ円を作る。
そろそろ蟻達の視界が戻るだろう。
両手で作った円で蟻達を囲む。
これが範囲だ!
そして、行けるとこまで落ちていけ!
「ピットフォール!」
魔術名を唱えると同時に両手を下に下げる。
シュウの魔力が魔術書に流れ、魔術が発動する。
流れる魔力の量に気を失わないように、歯を食いしばって耐える。
魔術が発動し、シュウの目の前が黒く開けた。
ワサワサと動いていた蟻達が突然足元の地面が消失し、落ちていく。
あの群れの中に出てきていた穴もあったので、その穴にいたであろう蟻達も落ちて行ったはずだ。
まだだ。まだだ。まだ終わりじゃない。
シュウは目を瞑って、気配察知を発動する。
先程とは逆に急速に大量の気配が遠ざかっていく。
そして、澄ました耳にまた大量の物が何かに衝突するような微かな音を聞き取る。
今だ!
「クローズ!」
声に合わせて、広げていた手を握る。
すると、先程まで大きく口を開けていた大穴が嘘のように消失し、地面が戻っていた。
違うのはそこに黒く地面を埋め尽くすようにいた蟻達がいなくなっただけ。
蟻が這い出てきていた、穴も一緒に塞いだ。
シーーーンと静まり返った目の前の風景に、岩の上で両手を岩に着いた。
「ハァッハァッハァッ」
もうほぼ魔力も使い切った。
体力も限界。
剣気もスパイラルブレードを最後に打ち止めだった。
「ハァーッハァーッハァーッ」
こんなに息を吸うのが苦しいと思ったことがないぐらい苦しい。
岩に着いた両手が痙攣を起こしたように震えている。
今の状態では、弱い兵隊蟻でも戦うことはできないだろう。
幸いにして、シュウの収まらない荒い呼吸の他に音は聞こえない。
気配察知にも何も察知しない。
このまま倒れられたらどれほど楽かと考えてしまう。
けれど、そんな思考を頭を振って追いやる。
これでも、まだ終わりじゃない。
相手は元から土の中で生きている蟻だ。
それを地下に戻して、土を掛けただけで終わるはずがない。
この大量発生した蟻をギルドに報告して、少しでも早く上位の冒険者による討伐隊を組んでもらわなければ。
少しずつ息が整ってくると、今度は全身から痛みの波が押し寄せる。
大きな傷は受けていないが、小さな傷から出血している所もある。
ポーチから自作の下級ポーションを取り出し口に含む。
「ゲホッゲホッゲホッ」
息が整い切らないうちに、ポーションを飲んだ為、気管に入りかけた。
さらに息が苦しくなったが、全身の痛みはスーッと引いて行った。
シュウは蟻が再び出てくる気配が無いと判断すると、休息を求める体に鞭を打ち街に向かって歩き出した。
今度は間に合いますように……。
アリ終わり
前の話が1日で100pvいきました。
この過疎小説で3桁いくなんてどんな奇跡ですか…
読んで頂いた皆様ありがとうございました。
1pvでもアクセスがあればニヤニヤしていますので、
これからもどうぞよろしくお願いします。




