41.模索
ガイと別れた後、治癒術師の事を相談するためにサーシャに会った。
それでもやはり募集を出すぐらいしか治癒術師は見つからないとのことだった。
ギルドとしてもパーティに治療できる人がいるのといないのとでは、クエストの成功率に差がでることがわかっているため、できるなら治癒術師を多く確保したい。
のだが、やはり冒険者になる治癒術師は少なく、治癒術師募集の掲示は増える一方とのことだった。
「別の方法としては、治癒術に頼らないってこともできるのですが……」
サーシャが歯切れ悪く話す。
「治癒術に頼らないですか?」
「はい。まあポーションや薬品をメインってことで……」
「ああ。
治癒術師が見つからない間はどこもそうなりますよね~」
治癒術が使えないなら回復は薬品に頼るしかない。
それは誰もが思いつくが、薬品は高価な物で、瞬時に回復するポーションはやたら滅多と使えない。
(普通の冒険者なら。
どこかの興味本位で錬金術をかじり、ポーション作成を宿屋で練習している者は滅多にいない)
「いえいえ。
薬品を主に戦いに用いる戦術を取る人もおられるんですよ?」
「薬品で戦う?」
サーシャの言葉に驚くシュウ。
「ええ。
その戦い方から、周りの方からは『薬師』と呼ばれますね」
なるほど。
薬師か。
それなら、薬品を扱うのも納得だった。
「普通に薬品を使う人とどう違うんですか?」
そう。ポーションなどは飲ませても傷にかけても回復の効果があるので、誰でも使うことができる。
「なんでも、スキルで普通の人が使うよりも薬品の効果を高めたり、一度に複数の人を癒すこともできるのだとか」
なにそれ。薬師すごい。
「そ、それはすごい!
治癒術師の代わりになれそうですよね!
ここに仲間になって……」
「ただ!」
シュウが薬師の凄さを聞いて、空いている人がいないか聞こうとしたら、サーシャがそれを遮る。
「ただ……?」
「技術が特殊なこともあって、治癒術師よりも数が少ないです」
だめやん!治癒術師が少ないから、別の方法もって言って、その薬師の方がさらに少ないって……。
「それに効果は上がりますが、薬品を使うことに代わりはないので、新人冒険者パーティには辛いかもですね……」
ポーション等の薬品はパーティ各人が自分や仲間のために持っている。
もちろん冒険中に使えば無くなるので、だいたいのパーティは冒険後に使用数を報告しあい、報酬で薬品を補充することになる。
盾役など傷を負いやすい者ほど使用することも多くなるので、補充の費用は個人持ちではなく平等にパーティの経費でってことが多い。
クランやリンのように徐々に傷を癒す傷薬しか持っていないのは、そのぐらいの傷で済むような新人の間だけである。
「なので、思い付きはしたのですが、解決策にはならないと思って……」
なるほど、最初に歯切れが悪かった理由はこういうわけだったようだ。
「すみません。
僕も訳も知らず、声を大きくしてしまって」
サーシャが申し訳なさそうに声を小さくしてしまったので、シュウも謝った。
「あ、謝らないでください。
私も周りに治癒術師の方がいないか聞いてみますので」
頭を下げるシュウに両手をブンブン振り回して慌てるサーシャ。
「はい。
無理のない範囲でいいですのでよろしくお願いします」
治癒術師がいるのなら、今募集を張り出してる人たちを優先した方がいいとシュウは思っている。
ただ、そのパーティと治癒術師の相性もあるので一概に順番に紹介していくのも問題になりそうなので、そこはサーシャの受付担当としての目を信じるしかない。
「じゃ、治癒術師はとりあえず保留ってことで、なにかいいクエストないですか?」
気持ちを切り替え、クエストを選んでもらうことにした。
「は、はい!
シュウさんはEランクに上がりましたので、今までよりも受けられるクエストが増えましたよ。
その分難易度も高いものも増えますのでご注意くださいね」
サーシャも気持ちを切り替え、手持ちの書類を捲りだす。
「今日はシュウさんお一人ですか?」
昇格クエストでシュウにクランとリンを紹介したのはサーシャであり、昇格クエストの報告を受け、そのままパーティ登録を受け付けたのもサーシャであるので、三人がパーティを組んでいることは当然知っている。
「はい~。
二人は今修行中で……」
たぶん……たぶんというか絶対というか。
シュウは頬をポリポリ掻きながら苦笑しつつ答える。
「……なるほど」
サーシャはシュウのその様子でだいたい察することができてしまったようだ。
「では、お一人と言うのなら。
Eランクですが、こちらなんてどうでしょう?」
サーシャが依頼書の写しを一枚取り出した。
サーシャがシュウに依頼書を差し出している頃ルーツ邸ではーー
ガギンッ!
「ぎゃーーー手がーーーー」
未だに剣気を十分に掴めずにいるクラン。
これが実は普通で、一からだったシュウが剣気を掴めた方が異常なのだが。
硬い木に斧が通らず、衝撃に手が痺れているがクランは諦めない。
痺れを早く消すために手を握ったり放したりを繰り返す。
そして、斧を持ち、再度剣気を練る。
何度も何度も失敗しても諦めない。
少しだけ年上の仲間はもう何歩も先に進んでいる。
置いて行かれたくない。
それでも一歩ずつ一歩ずつ進んで、いつかは横に……
「はあっ!」
ルーツ邸の一室では剣気をそこそこ掴むことのできたリンがフランと机を並べていた。
分厚い本を開きフランが優しくリンに読み、解説している。
それをリンがノート代わりの羊皮紙にメモしていく。
少しでもできることを増やそうと。
先日の昇格クエスト中の狭い場所で使える魔術が制限されることがこれからもあるかもしれない。
もちろん効果範囲の狭い魔術を増やすことも大事だが、自分のできる事を一つでも増やすこと、というのも自分よりも前で戦う二人が傷ついても安心して戻って来れるように使えるようになるなら治癒術を覚えたい(一番は傷を負わない事にかわりないが)。
ルーツにはクランが一番遅れていると言われたが、リンは素直に受け取っていない。
クランはああ見えて、負けず嫌いで努力家だ。
小さな頃から見てきたリンは知っている。
きっと今は魔力の流れをいつも気にしているリンが剣気を掴むことは早かった。
だが、クランはすぐに追い抜いていくだろう。
それがわかる。
今よりも幼い頃に両親と別れることになった二人。
リンなんて父の顔が幼過ぎて記憶にない程だ。
そのリンをここまで一緒に面倒をみて、護り、連れてきてくれたクラン。
その背を見てきただけに、ただで追い抜かれる訳にはいかない。
リンはリンでこう見えても中身は負けず嫌いである。
追い抜かれるなら、別の道を進もう。
今はもう目の前にはクランの背中だけじゃない。
新しい背中はクランよりももっと前にいる。
兄に守られてきたリンだが、これからは二人の背中を守っていきたい……。
いや、行くのだ。
それには少しの時間も惜しい。
こんな自分でも二人の力になりたい。
「ねぇ、あなた。
クランさんとリンさんご兄妹はどちらも競うように頑張っていますね」
「ああ、そうだな。
二人ともこれまでちゃんと指導する者がいなかっただけで、きちんと学ぶ環境さえできればどんどん伸びるだろう」
「ギルドがそのような場を作るべきだと思うのです」
「そう、頬を膨らますな。
それは、ギルドも同じことを思ってる。
少なくともマルクはな」
「そう、ですね。
あの方も必死に変えようと……」
「ああ……。
だが、国の目がな……。
この国……いや、もう世界は歪んでしまっているのかもしれん」
「マルクさんももっと自由に動ければいいのですが……」
「奴には常に監視が付いているだろうからな。
まあすぐ抜け出してきてはいるが」
「せめてここで学ぶ方が増えればいいのですが」
「俺は学べるならどこでもいいと思うが。
俺一人で新人全員の面倒など見きれん」
「ふふっシュウさんが来てからあなたいつも楽しそうにしてますのに」
「!?
そんなことはない」
「はいはい。
あの子たち親元を離れて寂しくないのでしょうか?」
「さあな。
まあ、冒険者になるくらいだ。そのくらい覚悟はしているだろう。
俺や君もそうだっただろう?」
「そう……でしたわね……
決めました。明日から私はあの子たちの母親代わりのつもりで接します」
「君がか?」
「ええ!
あなたも父親のつもりで接してくださいまし」
「お、俺もか?」
「ええそうですわ!」
「なんでそうなるんだ?」
「あの子たちが少しでも安心して暮らせるようにですわ」
「だからと言ってもだな」
「もう私決めましたの」
「……君は……気に病むなと言うのは無理だろうが……
大丈夫か……?」
「……私は……大丈夫……ですわ。
ええ……大丈夫……」
男は妻の腰に回した手に少し力を込め、腕の中にいる妻をより抱きしめた。




