39.パーティ解散!?
場所は変わってシュウには馴染みの広い屋敷の広い庭の一画。
土台の上に木が置かれ、割られるの待っている。
「では、小僧。
この薪をこの斧で割ってもらうんだが、もう剣気の感覚を掴みつつあるようだ。
まずは、違いを掴むために何も考えずに斧を振ってみなさい。
ここはリンも良く見ておくように」
「「はいっ」」
クランが置かれた斧に向かい、リンはその様子を食い入るように見つめている。
「はっ!」
斧を持ったクランは、振りかぶって小さく息を吐いて斧を振り下ろした。
ガゴッ!
「つっぅっ!」
斧が薪に負け、少し食い込んだだけで止まってしまい、衝撃がもろに手に襲い掛かったようだ。
うん、わかるわかる。あれは痛かったとシュウは同情する。
「まぁ、このように木の種類によって斧が通らないことがある。
これは剣を使っている場合よくわかると思うが、敵によって硬い・柔らかいがある。
硬い敵には魔術師による魔術が定石だが……」
ルーツはクランが手放した斧を握り、薪から引き抜き自然な動作で持ち上げる。
そして、流れるように剣気を全身に巡らし斧も包み込む。
ふっと短く息を吐くと、力を抜いて斧の重力だけで落ちていくだけのように振り下ろした。
カーーーーンッ
小気味いい音を立てて、薪が真っ二つになる。
「硬い敵にも剣で対抗できたら戦術も広がると思わないか?」
ニヤっとしながら、クランに顔を向ける。
向けられたクランはさぞ、ポカーンとしていることだろう。
妹のリンもそうかもしれない。
今、シュウがいるところからは背中しか見えないので顔を見ることができない。
「さ、これを今度はお前がやるんだ」
斧を手渡しながらルーツが言った。
「お、俺にできるんですか……?」
斧を受け取りながらクランが呟く。
「小僧お前ならできる。
それだけじゃない、リン。
君にもできる」
「えっ?」
「えっ?
私もですか?」
クランとリンがルーツの言葉に驚き、顔をルーツに向けている。
「知らず知らずのうちに体が剣気に少し目覚めている。
たぶんだが、一度シュウとクエストに行ったためだろう。
その証拠に、ここに来た時、俺が使っていた鬼気闘装が見えて俺が鬼に見えただろ?
あれは、剣気が少しでも目覚めていないと実は見えない。
まあ、見えてないとわかれば、見えるようにするんだがな」
ふっふっふとルーツが笑っているようだった。
そんなことしていたのか。
通りでここに他の冒険者の人が来ないわけだ。
それを知っているフランがもの言いたげに頬を膨らませていた。
「自分の中にある剣気で全身を包み、それを斧まで伸ばすイメージだ」
ルーツが剣気を扱うコツをクランとリンに説明している。
リンもフランが持ってきた鉈を手に持っている。
二人ともこちらに背を向けてじっとしているので、詳しくはわからないが目を瞑って自分の中の剣気を感じているんだろう。
クランは剣気を掴むのに苦労しているようだ。
その横で今までも体の中の魔力を感じる必要のあったリンは剣気を少し引き出すことに成功しているようだった。
クランも少し時間がかかったが少し剣気を引き出せたところで、斧を持ち上げ振り下ろした。
斧は先程と同じように薪に止められてしまった。
「はぁ、すごい難しいです。
体の中の剣気がバラバラでよくまとまってくれません」
クランが斧から手を放し、膝に手を置き呟く。
「まあ、これは慣れることだな。
これを戦いながら行う必要がある。
ただ、戦っている間の方が集中した意識と緊張感から体が自然と剣気を引き出すこともあるようだが」
「オレがクエスト中に引き出せたのもそうだったと?」
「うむ。
だが、これからは自分の意志で自由に使いこなせるようにな。
そうだな。
剣気の他にも基本的なスキルも覚えられるまで、このパーティで壁外クエストは禁止にしよう」
「「えっ!?」」
ルーツの指示にクランとリンが同時に声を上げる。
「盾役を任せられたクランはより剣気を含めて、スキルを学ぶ必要がある。
盾はパーティの要だ。
お前が倒れれば、後ろに控える皆も道ずれだと思え」
ビシッと指を差されながら言われる言葉に唾をのみ込むクラン。
「後衛のリンも全体を見通す柔軟な視野が必要だ。
ただ敵の隙をついて魔術を放てばいいという訳じゃない。
敵は単体か複数か、潜伏した敵、増援はないか、パーティの状態は、残りの魔力は?
前に出て敵を抑える味方を後ろから援護しつつ指示を出す必要がある。
魔術に関してはフランに任せるがパーティの動きはクランと共に教えてやる」
「「はいっ」」
ルーツの厳しい指摘にも挫けず二人は負けないと強い意志で返事を返した。
「あとはまあ治癒術師がいればパーティとしてもバランスがよくなるんだが」
ルーツが顎に手を当て考え込む。
「フラン。
リンに少し、医療の心得を教えて治癒術も少し教えられるか?」
ルーツの言葉に驚くリンだが、言葉を向けられたフランは何の問題も無いように、
「リンの努力次第ではありますが、あなたの頼みですもの」
ニコっと笑顔で応える。
「あ、あの治癒術は特別な才能がなければ使えないのでは?」
リンが恐る恐る今まで常識だと考えていたことを尋ねる。
「普通の方々はそう考えておられるようですが、私たちの間ではそうでありません。
現に私たちの仲間も最初は治癒術を扱えませんでしたが、扱えるようになりましたし」
意外な事実が発覚した。
治癒術は誰もが使える可能性が?
「な、ならどうして広まっていないんですか?
冒険者ギルドでも治癒術師のいないパーティがたくさんいますし、いつも募集がでている程治癒術師は不足しているのに」
リンがさらに質問する。
治癒術が広まれば、もっと冒険者も安全にクエストに出られるはずだったが。
「私たちも広めたいのは山々なのですが……。
それを嫌う人たちもいるってこと」
「え?誰がそんなことを」
「……教会と国だ」
その質問には言いづらそうにルーツが答えた。
「治癒術師の多くは教会関係者から生まれている。
教会の少なくない収入源となっているからな」
シュウはケガしたら医者じゃないのかという別の驚きもあった。
この世界の医者はどちらかというと薬で癒せる範囲が精々である。
治癒術が使える医者もいるが、治癒術は神の御業と考えている国も少なくなく、大きなケガをすると教会へ駆け込むのがこの世界の常識のようだ。
「国はなんで反対するのですか?」
クランが国が治癒術の流布に反対する理由が思い当たらないと質問をする。
「……国は理由がわからん。
ただ教会も理由を話した訳じゃないからな。
俺たちの勝手な想像に過ぎん。
教会から国に手が回ったのか、別の理由があるのか。
どういった理由があるのかわからんが、俺達が治癒術を広めようとギルドに打診した時、兵士に囲まれた。
しかも、街の衛兵ではなく国の直下の兵だった」
「「ええっ」」
クランとリンがまた同時に驚きの声を上げている。
シュウも驚いているが、少し離れているので寂しく一人で驚いている。
「周囲を囲まれ、静かに殺気を込めて治癒術が使えるようになると言う出まかせを広めるなと告げてきた」
「で、でもそれは!」
「そう。出まかせではない。
さっきフランが言ったが実際に俺達のパーティでは治癒術が使えるようになった者がいた。
だから、治癒術師を増やせるとギルドに持ち掛けたんだが。
これだ」
「そ、そう、だったんですね……」
リンがルーツ達が受けた仕打ちにショックを隠し切れないように言葉が小さくなっていった。
それは言葉発していないがシュウとクランも同じだった。
「で、話は戻るが治癒術師がいない現状、アイテムで傷を癒していると思うが戦いの中では治癒術が必要となる場合が出てくるだろう。
そこで、リンに少し治癒術を使えるようになってもらいたい。という訳だ」
という訳だ。って言っても、治癒術はさっき広めたらって話をしたばかりだ。
「急に治癒術が使える冒険者が増えればバレるだろうが、リン一人が治癒術を使えるようになってもわからんだろう。
それに、自然と治癒術が使えるようになることだってある」
いいのか、そんなてきとうで……。
「でも、決められるのはリンさんです。
リンさんのお気持ちが一番大事です」
フランがリンに向かって語り掛ける。
「私の気持ち……」
「治癒術を使えるようにできるとわかっても、他の魔術よりも難しいことに変わりはありません。
精神の乱れや感情の乱れによって肝心な時に発動しないってこともあります」
一瞬フランさんの顔が曇ったように見えたが、すぐに戻ってしまった。
「剣気の習得や魔術やスキルを覚えるほかに、別の系統である治癒術を使えるレベルまで高めるのは、この薪を割る比ではありません」
フランは薪に立ったままだった斧を片手で外すと、空いた手でデコピンをした。
パカーーーーンッ
薪は見事にそれはもう綺麗に真っ二つに割れた。
「「!?」」
二人は目玉が飛び出るぐらい驚いてるんだろうなとシュウは遠くから二人の背を眺めていた。
そりゃ僕も驚いたけど、フランさんならできそうな気はする。
きっとルーツさんもできるはずだ。
そんなルーツも話の腰を折られて両手を上げてため息をついていた。
「私覚えます。
治癒術。
少しでも、みんなの役に立ちたい」
クランよりも先に立ち直ったリンがクランとシュウを見てから、ルーツとフランに向かって宣言した。
「リン……」
リンの言葉に遅れて立ち直ったクランが心配そうに妹に声を掛ける。
「クラン。
私は大丈夫。
この間の地下水道だって、クランとシュウさんがほとんどモンスターを相手にしてくれて、場所が限られるとこだと、私なんにもできないって役に立たないって思ってたの」
リンは昨日のクエスト中で地下などの狭い所では味方を巻き込みかねない魔術を使うタイミングを逸していたと気にしていた。
「そんなこと……!」
クランがリンはリンなりに頑張っていたと主張していた。
シュウもそう思うが、これはリンの中での問題だ。
リンができなかったと思えばできなかったのだ。
「私がもっと魔術が上手く使えて、もっと良く考えれて、もっと動けたら、クランだってもっとケガしなくて済んでた。
シュウさんが私が動けないのをさりげなくフォローしてくれてたのもわかってました。
だから、一番何もできてない私に何か役割を……ください」
最後の方は今にも泣きそう声だった。
きっと目にうっすらと涙も浮かんでいるだろう。
向けられたクランも昨日は自分の中では満点から程遠い出来だったことを思い出し、妹を止める余裕もなく両手を握っていた。
ポンポンッ
ルーツが優しくリンの頭を撫でる。
「リン。
そんな気を張ることもねぇ。
お前は納得してないだろうが、この二人はお前も頑張ってたって思ってる。
その気持ちもわかってやれ。
そして、治癒術も絶対できなきゃ駄目だと自分に押し付けるな。
なぁ?」
そこまで、言ってフランに話を振る。
少し驚いた顔をしていたフランは笑顔に戻りつつ、
「ええ。
治癒術を使えるようになるといっても、先天的に才能のある治癒術師の治癒力にはかないませんし、 専任の治癒術師がいることに越したことはありません。
ただ戦略は広がるかと思いますが」
フランは静かにリンに近づき、リンを優しく抱き込む。
「旦那様が言っていたように、一人で抱え込まなくてもいいんですよ?
みんなで支えあうのがパーティなんですから。
あなたが何もできないなんて誰も思ってませんよ」
「うっうっぐぅすんすん」
リンは我慢していたようだが、フランの言葉がダメ押しとなって決壊したようだった。
ゴシゴシッ
「小僧、お前も落ち込んでる場合じゃねえぞ。
この三人で一番足を引っ張ってるのは、お前だ!」
いつの間にかクランの横に立ち、頭を力強く撫でながらルーツが言う。
「盾役は後ろの仲間を信じて、絶対に立ち続けろ。
敵を一歩も自分から後ろに進ませまいという気持ちが大事だ」
ルーツさん無茶言うなーと思ってると、キッと視線で怒られた。
「だが、三人ともよく聞け。
一番大事なのは、命だ。
生きて帰ってこい。
盾役のクランも魔術師のリンもシュウも命に重さの差なんてねぇ。
危なくなったらみんなで生きて帰る術を探せ。
死んだらそこまでだ。
いいか?
生きて“ここ”に帰ってくるんだ。
俺とフランがいつでも待ってる」
ルーツのクランを力強く撫でていた手がいつの間にか優しくなっていた。
フランがリンを優しく抱いていた手が、優しく背を叩いていた。
リンの涙が引くのを待って、フランはリンを解放した。
ルーツはすでにクランから離れている。
「あの、オレ、もっと強くなりたいです!
みんなを護る盾になりたいです!」
クランがルーツに叫んだ。
「ふっみんなを護る盾っちゃあ騎士にでもなる気か?
まあそれぐらい気概があったほうがいいか」
ニヤっとしながらルーツがクランを見返す。
「とりあえずは、この薪が割れんことにはなぁ」
フランが割ってしまった薪を新しい物と交換する。
やっと話が戻ってきた。
「オレもあんな風に割れるようになりますか?」
クランが指先をこちらに差してくる。
「毎日やってたらできるさ」
ルーツがクランの肩をポンッと叩く。
スパーンスパーンスパーン
ここまでの間ずっと一人離れて薪を割っていたシュウであった。
ルーツの横に立ったフランが頬を膨らませている。
「どうした?」
「別に、なんでもありませんわ」
ぷいっと横を向いてしまう。
微かに頭をルーツに傾けているようだった。
静かにフランの腰に手を回し抱き寄せ、頭をポンポンと優しく撫でる。
「!?
も、もうずるいですわっ」
ルーツの不意打ちに耳まで赤くしてフランは抗議するが、両手をルーツの背に回し肩に頭を乗せる。
「君にも迷惑をかける。
無茶しないようにしてくれ」
「わかってますわ」
「いい子たちですね」
「……そうだな」




