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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第一章 なかなか冒険しない冒険者
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4.落ちた先は

「うわぁぁぁ」

「・・・!」

白い穴に飛び込んだシュウは直後再度襲った垂直の落下感に悲鳴をあげた。

しかし、今回の落下は1秒も続かず終わり、シュウは硬い床に思い切り尻から落ちた。

痛みを訴える尻を手でさすりながら周りを見回す。

どこかの部屋のようで、シュウの正面には窓があり、その向こうには澄みきった青空とキラキラと陽光を反射する海が見えた。

左右は石造りと思われる白い壁があり、右側の床に落ちた拍子に手放してしまった手提げ鞄があった。

とりあえず鞄を手に取り、立ち上がろうと腰をあげた瞬間、

コツッ!

と、背後から音が聞こえ、驚きと共に瞬時に顔を向けた。

そこには、シュウと同じように驚きの表情をした少女が立っていた。

シュウは腰を少し上げた中途半端な姿勢から立ち上がり、少女の正面に向いた。

コツッ。

シュウが正面を向いた時、少女は1歩後ろに下がった。先ほどの音も彼女の靴の音だったようだ。

今になって思い返してみると、この部屋に飛び出して、シュウが悲鳴をあげつつ床に落ちた時、息を飲むような音がしたような気もする。

互いに向き合ったまま数秒見つめ合い、

(な、何か話しかけないと!)

と、シュウは決心し、

「えっと、こ、こんにちは!」

と、挨拶と勢いよくお辞儀をした。


突然の挨拶と勢いのあったお辞儀にまた驚くことになった少女だったが、シュウが勢いよく体を前に倒したためパーカーのフードがスポッと頭に被さった。

その自分の滑稽さに顔が赤くなるのを感じながらも、恥ずかしさのあまり顔を上げられずにいた。

その時、

「プッフッフフフッ」

頭の上から笑い声が聞こえた。

シュウがおそるおそる顔を上げると、少女の顔に驚きはなく、静かに笑っていた。シュウの突然の挨拶からのフード被りが余りにもおかしく、先程まであった緊張の糸が切れてしまったようだ。

少女はシュウを嘲るようでもなく、優しい目でシュウを見つめていた。

「フフフッ」

「あははっ」

シュウもつられて笑ってしまった。


しばらく笑いあってシュウは改めて少女を見つめた。

綺麗な銀色の髪を背中まで伸ばし、長いローブを着ていた。

整った顔立ちをしており、目の色が緑色だった。

シュウはこのままではいけないと思い直し、少女に訊ねた。

「ここはどこですか?どうして僕は・・・あっ!」

そこで、シュウは少女の髪や目の色から少女が日本人ではないのではと思い至った。

「もしかして日本語通じない?」

少女も落ち着いていたようで、

「お言葉は理解できております。そして、先程からのご無礼をお許しください」

と、頭を下げた。

そして、顔を上げてから

「私はウィンストリア王国、宮廷魔術師セリーネ・シュルツベルトです」

と、名乗った。

シュウはウィンストリア王国なんてあったかと頭の中で考えていたが、まだセリーネの言葉は続いていた。

「私が貴方様を異世界より召喚させていただきました」

「・・・え?召喚?異世界?」

なんですとー?どういうこと?

シュウの頭は思考を放棄してしまった。

固まるシュウを見つめ、セリーネは申し訳なさそうに話を続けた。

「急にこのようにお呼びだししてしまい、驚かれるのも無理はありません。

実は・・・」

そこで、セリーネの背後にあった扉が外側から強く叩かれた。

セリーネは失礼します。とシュウに断りを入れ、扉を開けた。

そこには、ここに仕えているだろうメイドが立っていた。

「どうしたのですか?こちらには召喚の儀によりお越しいただいた勇者様がおられるのですよ」

「そ、それは申し訳ございませんでした」

セリーネの言葉にそれまでメイドはシュウに気づいていなかったようで、思い切り頭を下げた。

シュウはあれが本物のメイドさんかと思いつつ見ていたが、セリーネの言葉の中に聞き捨てならない物があるのに気づいた。

この部屋にはセリーネを除くとシュウしかいない。勇者とは?

「それで、どうしたのですか?」

「はい。セリーネ様。城の入口付近にて不審な者が目撃されたと。宮廷騎士と宮廷魔術師はお集まりください。とのことです」

「城の内部に!?警備の者は何をしていたのです!?

わかりました。私も向かいます」

メイドからシュウに向き直ったセリーネは申し訳なさそうな顔していた。

「勇者様。申し訳ございません。お話の途中ですが、少し席を外さしていただきます。

すぐ戻りますので、おくつろぎください」

勇者って僕ですか!?というシュウの心の声に気づかず、メイドに客室とお茶の用意をするように命令し扉から出ていってしまった。

「それでは、私もお部屋の準備をして参ります。

少々お待ちください」

と、言いつつメイドが一礼し、扉を閉めた。

1人残されたシュウは状況についていけず立ち尽くしたままだった。

けれど、不意に背筋に悪寒が走った。

原因不明の悪寒に身構えようとした瞬間、シュウの足元から床が消失した。

再び訪れた懐かしの浮遊感に

「なっ!またぁぁぁ?」

と、叫びながら落ちていくシュウだった。

しかし、その叫びは誰にも聞こえなかった

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