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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第一章 なかなか冒険しない冒険者
33/303

32.ロンナとシチュー

前の話投稿から少し経ってしまってすみません(私の投稿間隔では早い方ですが…)。

前の話を読んでくださっている方も、話が繋がっていないと思われるかと思いますが、

投降後に2回ほど付け足しておりますので、読み直していただければ幸いです。

 ワイルドラビットの狩猟を終えギルドに報告したあと、今日もそれなりに疲れた体を引きずり宿に帰ってきた。

 宿の前ではリームがいつもの掃き掃除をしていた。

「お兄さん、おかえりなさい!」

 シュウを見つけ、手を振りながら声をかけてくれた。

「今日は体大丈夫だったの?」

 昨日の筋肉痛が今日も起きてないか、体を突きつつ聞いてきた。

「ただいま。

 今日も疲れたけど、昨日程筋肉痛にはなってないよ。

 それよりも聞いてよ!

 昨日の弓の訓練のおかげで、ワイルドラビットに矢が当たって狩れたんだ!」

 シュウはあいさつを返して、今日の調子を答えた。

 そして、弓の成果を興奮気味に身振り手振り交えて報告した。

「……え、あうん。

 す、すごいね……」

 いつも落ち着いた雰囲気のシュウが興奮して、狩りの様子を話すのに驚いて目を点にして聞くリームだった。

「というわけで、弓の師匠のロンナさんに弓を使って狩れたワイルドラビットのお肉をお礼として持って帰ってきたんだ。

 あ、たくさん取れたから、日頃お世話になってるリームちゃんとビアンゼさんの分もあるんだ」

 シュウは納品する分と分けてあったワイルドラビットの肉の入った魔法鞄をリームに見せながらポンポンと叩いた。

「そうですよねー。

 お兄さんは新しく登場した美人で胸が大きくてスタイルのいいお姉さんがいいですよねー。

 私たちはついでですよねー」

 リームは半眼になって棒読みで浮かれ気味のシュウを非難した。

「そうそう。

 新しい登場人物で美人で胸が大き……く?」

 浮かれていたシュウは無意識にリームの言葉を繰り返していた。

 そして、途中で半眼になって見上げてくるリームと自分が何を言いそうになっていたか気づいた。

「ふーん。

 やっぱりそうなんだー」

 リームは半眼だった目を少し吊り上げつつ唇を尖らせた。

「あ、いや、別にロンナさんは、美人だけど、ほ、ほらそんなのじゃないから。

 リームちゃんやビアンゼさんがついでなんてことないから!」

 リームの反応に慌てて言い訳をするシュウだったが、リームの機嫌は戻りそうになかった。

「店の前で何大騒ぎしてるのさ?」

 そこに、二人が大声で話しているのを聞きつけビアンゼが宿の入り口から顔を覗かせた。

(これは、話題を変えるチャンス!

 ありがとうビアンゼさん!)

「ただいま帰りました!ビアンゼさん!

 今日のクエストは上手くいきまして、おみやげもあるんですよ!」

 ビアンゼが天使に見えたシュウは今日のクエストの成果を話し始めた。

「おかえりなさい。

 今日は体大丈夫そうだね」

 ビアンゼも昨日のシュウを見ているので体調を気遣ってくれた。

 この街に来てからずっとこの宿に泊まっているため、二人とも大分打ち解けて話してくれるようになっていた。

 ただ、シュウが泊まっている間に他の客はまだ見たことがない。

「はい!大丈夫です。

 今日は昨日の訓練のお陰で弓がワイルドラビットに当たったんですよ!

 これからはそこからの動きを突き詰めないと……」

 シュウはリームにした説明を再度興奮気味に話しだした。

「え、昨日今日で弓を……?

 それは本当に……?」

 シュウの話を聞いたビアンゼはリームの時よりも驚いた様子で聞き返した。

「はい!

 記念にそのうさぎの肉をお土産にしました!」

 シュウは魔法鞄からビアンゼに渡すように切り分けたワイルドラビットの肉の入った麻の袋を取り出した。

「あ、ああ。

 ありがとう。

 今晩のご飯に使おうか」

 シュウの言った弓の成果と受けれ気味の雰囲気、外でお土産と生肉を渡してくることに若干引き気味にビアンゼはうさぎの肉を受け取った。

「ま、まあ外で話すのもなんだから、中に入りましょう。

 シュウ君も疲れてるでしょうし、汗を流してくるといいわ」

 受け取ったウサギの肉を抱えつつ、ビアンゼは二人を中に促した。

 しかし、そこまで黙って話を聞いていたリームが再度火種を投入した。

「聞いてよ。母さん。

 そのお肉はついでで、お兄さんほんとは美人で胸の大きいお姉さんにお肉持っていくつもりなんだyムギュ……」

 もう火種というか爆弾だった。

「わああああ!。

 あーーーーあーーー」

 シュウは慌ててリームの口を塞ぎ、声を被せたが、

「へぇー。

 それはちょっと詳しく聞かないとね。

 中でお茶でも飲みながら」

 口は笑っているが目が笑っていないビアンゼがシュウを振り替えつつ言った。

 ビクゥッ!

 その顔に一気に冷や汗を流しながら、

「え、いや、あの。

 リ、リームちゃんもかわいいし、ビアンゼさんも美人でビアンゼさんの方が胸大きいですし……」

 完全に墓穴を掘っていた。

「ほんとちょっと一度ちゃんと話を聞かないといけませんね」

 先程口を塞がれていたはずのリームがいつの間にか脱出して、今度はシュウが逃げられないように腕をがっちりと掴んでいた。

「じゃ、中に入りましょうか?」

 ビアンゼがリームが掴んだ腕と反対の腕を掴みながら言い、シュウを中に引き込もうとした。

「あーーー!」

 このままではマズいと勘が告げたシュウは、慌てて大声を上げた。

 いきなり大声を上げたシュウに他の二人は驚き腕の固定が緩んだ。

 その瞬間を見逃さず、瞬間的に拘束を抜け、

「お、お茶の前に汗を流してきます!」

 と言って、宿に入り二階に駆け上がっていった。

「もうー!」

 と頬を膨らませているリームと、少しやりすぎたかなと反省するビアンゼが残された。

(本当に昨日初めて持った弓を今日当ててくるなんてねー)

 先程のやり取りを思い出し、ビアンゼは考えこんだ。

(それにしても、)

 頬を膨らませていたリームは、

(母さんも美人でお胸大きいけど、私は……)

 母親と自分の胸を見比べて、心の中で白旗を上げていた。

(で、でもでも私はこれから大きくなるもん!)

 頑張れ未来の自分と自分を鼓舞していた。

(それにしても)

((嬉しかったからって、狩ったウサギを記念に女性に送るってどうなの?)かしら?)

 二人は同じ疑問を浮かべつつ宿の中に入っていった。


 その日の宿の食事はシュウが持ち帰ったウサギの肉のステーキだった。

 いつもは客用の二人掛けの席で一人で食べていたシュウだったが、大テーブルでリームとビアンゼもシュウと一緒に食べた。

 シュウの肉の大きさが三割ほど小さかったのは気のせいだろう。

 この日からリームとビアンゼがシュウと一緒に食事をとるようになった。


 次の日もルーツの所で昨日のクエストの報告と日課の薪割(クエスト)をして冒険者ギルドに向かった。

 しかし、今日は街の外に行くクエストを受ける気はなかった。

 ロンナに弓の報告とお礼を持っていくついでに、シュウが受けない間に溜まっているであろう住民クエストを受けようと思っていた。

 住民クエストは人気が無いのでほぼ自分だけが受けていたと悲しい自負があったのだ。

 が、クエストボードを眺めていると思ったよりも住民クエストはなかった。

 住民クエストは以前にサーシャが言っていたように、期限までに冒険者が受けないこともあるので、依頼者側からも人気がなかった。

 しかし、最近は簡単な依頼でもシュウが受けて解決していくので、住民からの依頼が少し増えていたのだ。

 少し宛てが外れたシュウは、サーシャに事情を説明し(ロンナのことは弓の師匠と言って)、適当な住民クエストを見繕ってもらい、いくつかクエストを受けて出て行った。


 受けたクエストを効率よく回る順を街の中の地図を思い浮かべながら、ロンナの店まで向かった。

 まだ昼前なので前回訪れた時よりも時間は早かった。

 夕方から営業と言っていたので、ランチもやっていないのか店の入り口には準備中の札が下がっていた。

 軽くノックをして、静かに入り口を開けて顔を覗かせた。

 が、扉の隙間から覗かせた顔が柔らかいモノにぶつかった。

 そして、そのまま頭を引っ張られ扉の中に引き込まれてしまった。

「えっ!ええ!?」

 何が起こったかわからず、慌てるシュウに頭の上から、

「まだ準備中だよ」

 と、声がかけられた。

「ろ、ロンナさん!?

 な、なんで?

 ち、ちょっと恥ずかしいので放してください!」

 シュウよりも背の低いロンナが背伸びをしながら、シュウの頭を優しく抱きかかえていた。

「えーもう十分なの?」

 そう言ってからかい顔のロンナから解放され、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらシュウは、

「もう、扉開ける他の人にも同じようなことをしてるんですか?」

 さっきのタイミングでは扉を開けた人物を確認する暇もなく頭に抱き着いたことになる。

「そんなことしないわ。

 お店の掃除をしていたら、知った気配が近づいてくるからもしやと思って罠を張ってたの。

 そして、捕まえちゃいました~」

 楽しそうに手を叩きながらシュウが近づいてくることを事前に知り、待ち構えていたことを明かした。

「もう、なんで抱き着く必要があったんですか!」

 まだ、顔が熱いシュウはロンナを直視できずに視線を外して小さく抗議したが、

「あれ~嫌だった?」

 小首をかしげながらロンナはシュウを見上げてきた。

 その際、今日は長い髪を緩く三つ編みにしていたようで、少し緑の入った金色の髪が跳ねた。

「べ、別に嫌じゃ……」

 ロンナの返しにまた照れて、直視できずに頬を描きながら答えた。

 そんな様子のシュウを見ながら、

「ふふふっ。

 それでは、奥にどうぞー。

 今お茶を淹れますね~」

 とロンナは微笑みながらくるりと踵を返して、シュウをカウンター席へ案内した。

「ふーやれやれ」

 と、息を吐いてシュウはロンナについていった。


 シュウがカウンター席に座り、ロンナがお茶を淹れるためにコンロに水の入ったやかんを乗せながら、

「それで、今日はどうしたのかな?

 早速ご飯を食べに来てくれたのかな?」

 と、聞いてきた。

「あ、そうだ」

 思いがけない出迎え方だったので訪問した理由を忘れかけていたシュウは、昨日のクエストで弓が当たったことを嬉しそうに報告した。

「なるほど~

 それは、よかったですね。

 おめでとうございます!」

 手を叩き自分の事のように喜ぶロンナにシュウも嬉しくなった。

「一昨日、弓を持ったばかりで実践で成功させるとは。

 しかも、矢から相手に伸びる線か……。

 さすが、見込まれたことはある……」

 シュウの説明をロンナは冷静に分析したが、驚きもあって小さく呟いてしまっていた。

「ん?

 なにか言われました?」

 しかし、呟きが小さかったためにシュウは上手く聴き取れなく、聞き返した。

「い、いや、何でもない。

 本当にすごいな~ってね」

 冷静に分析していた顔から、また明るい笑顔になりつつロンナは答えた。

「あ、そうだ。

 その矢が当たったワイルドラビットがリンクして、クエストの納品分よりも多く狩れたので、記念のお土産にお肉持ってきました」

 そう言って、背中の魔法鞄を下ろし、中からウサギの肉の入った袋を取り出した。

 それをカウンターに置きながら、

「本当にありがとうございました。

 ロンナさんの教えが思い出されて矢をあてることができました」

 心から感謝しながら笑顔でお礼を述べた。

「これを私に?

 そんなわざわざいいのに」

(私の言葉一つで弓が上達するのなら、なんの苦労もないのに……

 この子、気を付けないと悪気のない裏で世界を敵に回しそう……)

 ロンナは自分の弟子が何を成し遂げたのか自覚がないことに心の中でため息をついた。


 ※ちなみに何がすごいかと言うと。シュウは一昨日初めて弓を持ったのは、前述である。

 ルーツやロンナは訓練や実践を通して、弓に必要な筋力やセンスを身に着け徐々に的に当たると思っていた。

 それをシュウは弓を持って二日で実践で当てることに成功したのだ。

 さらについでだが、日本に弓道という物があり、高校や大学等で数は少ないだろうが部活もある、袴がかっこいいと密な(失礼)人気がある武術がある。が、場所の制限の理由もあるが、必要な体を作るために一年間は筋トレをして初めて弓に触れるといった物がある。

 

 ロンナはカウンターに置かれたワイルドラビットの肉を受け取りながら、

「あ、そうだ。

 今日この後、予定は空いてる?」

 シュウに何か思いついたように、予定を聞いてきた。

「予定は住民クエストをいくつか受けてるので、それぐらいですね」

 シュウは他の予定が思いつかないと返した。

「じゃあ、弓の初成功をお祝いして、このワイルドラビットのお肉を使って料理を振舞ってあげるから、準備している間にクエストを回ってらっしゃいな」

 ロンナは手を叩きながら、ウサギの肉を使った料理で祝いたいと提案した。

「え、そんな悪いですよ!

 ただでさえ、お店が開いてない時間にお邪魔して、お茶もだしてもらっているのに!」

 そんなロンナの提案に悪いと断りをいれるシュウだったが、

「こんな量のお肉一人で食べきれないもの。

 お昼に二人でお祝いしましょう!

 余った分はお店で今日限定メニューとして使わせてもらってもいいかな?」

 手を叩いた形のまま顔の前で組んで首をかしげて聞いてくる。

 そんなロンナをまた直視できなくなり、視線を逸らしながら、

「わ、わかりました。

 ありがとうございます。

 その肉はもうロンナさんに差し上げた物なので自由に使ってください」

 シュウは再度頬を描きながら答えた。

 そんな、シュウに、

「ありがとー!

 腕によりをかけて作るねー!」

 ガバッとカウンター越しに抱き着いてくるロンナ。

「!?

 わ、わかりました!

 わかりましたから、離れてください!」

 シュウは慌てふためきロンナに離れるように懇願した。

 カウンター奥に戻ったロンナは、

「じゃ、私は料理に入るから君はクエスト頑張ってきて」

 調理器具を取り出しながら、シュウにクエストを済ませてくるように促した。

「わかりました。

 行ってきます」

 シュウも促されるままに、カウンター席から立ちあがり、店の入り口に向かった。

 ふと、昨日のクエストとロンナとのやり取りをルーツに話した時、

「さすがはロンナだな。

 俺ではこうもいかなかっただろう。

 あいつにも報告してやってほしい。

 それにあいつの料理は上手いぞ」

 と、言っていたのを思い出した。

 入り口から、ロンナに振り返って

「そうだ、ルーツさんが

 さすが、ロンナさんだ。自分ではこうはいかなかった。

 って言ってられました。

 料理もおいしいって!

 すごく楽しみです!」

 と伝えた。

 すると、それを聞いたロンナは

「る、ルーツが……

 私に……

 キャーーーー」

 と顔を真っ赤にして、持っていた包丁を振り回し始めた。

「えっ!?えっ!?」

 急なロンナの暴走にシュウは着いていけなかった。

「ろ、ロンナさん落ち着いて!

 落ち着いてください!」

 シュウの制止も聞こえないのか目を瞑ったまま包丁を振り回すロンナ。

 よく見ると彼女の周りの物がスパスパとバターのように切れているのが見えた。

 ただの包丁で。

 先程、お茶を淹れてくれた鉄のヤカンやガラスのグラスが割れずに切れていく。

 その様子を見たシュウは回れ右を決め、酒場から飛び出していった。


 一時間ほど駆けまわって住民クエストを終わらせた。

 錬金術師の家で傷薬の箱詰め作業や薬屋で納品された傷薬の移動や棚だし(棚だしは依頼外)等を、最近住民クエスト以外もクエストを受けていると近況報告もしながら終わらせた。

 ロンナの酒場に戻ると、ロンナは落ち着いて料理をしていた。

 だが、まだ完成はしないとのことなのでどうしようかとロンナを見ていると

「まだ時間がかかるから、裏で弓の練習でもしてくるといい」

 と俯き加減で言われた。

 シュウは今日は外に出るつもりはないので、お言葉に甘えて弓の訓練をすることにした。


 まあ、わかってはいた。

 初めて弓を持ったのが一昨日。

 その時は一本もかかしに当たらなかった。

 それで昨日は最後の一射がワイルドラビットに刺さった。

 それまで四度ワイルドラビットに向けて撃ち、外れた。

 回数にして五分の一しか当たってない。

 その一回がとてつもなく嬉しかったのだが、

 果たしてこれは実力だったのか。

 そして、今、昨日のイメージを固めるために射った数二九。

 昨日の自信が音もなく崩れようとしていた。

 次の矢をつがえながら、昨日のまぐれ当たりを自慢げにみんなに吹いて回ったのが恥ずかしくなっていた。

 ゆっくりと矢を引き絞るが矢とかかしの間にはなにも見えない……。

 そこに後ろから声がかかった。

「私はそんな惨めな構えを教えたかしら」

 振り返ろうと力を緩めようとしたが、後ろから両方の手に手が添えられた。

 密着した背中から声を掛けられる。

「体の力を抜いて。

 私が示した構えの型をゆっくり思い出して。

 そして、そのイメージを自分と重ねて。

 初めはマネでいいの」

 シュウは目を瞑り、つがえた矢を放さない程度に体の力を抜いた。

 そして、声に導かれるまま、ロンナの構えの型をイメージし、そこに自分の体を重ねた。

 それを、実際に体に“トレース”。

 目を開けると矢の先端からかかしの中心まで光の線が見えた。

 そのまま、体が力まないように集中を続け、矢を放った。

 矢は光の線をなぞりかかしの真ん中に吸い込まれた。

 知らずに止めていた息を吐いていた。

 パチパチパチ。

「おみごと」

 店の裏口に立ったロンナが手を叩いて称賛してくれていた。

「はーありがとうございます」

 張りつめていた息を再度吐きつつシュウは答えた。

「昨日のはやっぱり偶然でした。

 全然当たりませんでした」

 シュウが前方に散らばる矢を差して落ち込む様に言った。

 しかし、そんなシュウに、

「いや、そうでもないでしょ?

 最後の一射は綺麗だったわ。

 私から見ても惚れ惚れするほど綺麗。

 それまでは見る影もない程不細工な構えだった」

 辛辣な意見だったがぐうの音も出ない。

「本当にありがとうございました。

 手ほどきを頂けなかったら、最後の一射もありませんでした」

 シュウはロンナに向けてお辞儀をした。

「徐々にでいいのよ。

 今でもあなたは出来過ぎな方なのだから。

 でも、最後の一射のイメージを大事にして、

 がむしゃらに弓を射るのではなく、

 落ち着いて考えてイメージして一射一射を大事にするように」

 落ち着いた声で優しく道を示してくれるようだった。

「ありがとうございました」

 もう一度シュウはロンナに頭を下げた。

「さぁ、もう料理も出来上がりますよ!

 矢を集めて入ってきてくださーい」

 ロンナは明るい顔をして、シュウに散らばった矢を回収するように言った。

 了解の意をロンナに伝え矢を回収に行くシュウを見つめながら、

「……これは本物ね……」

 と、小さく呟きながらロンナは店の中に入っていった。


 矢の回収が終わり、裏口から店の中に戻るといい匂いが漂ってきた。

 気づくと昼もずいぶんと過ぎているようだった。

「さ、こっちに入って手を洗って」

 カウンター奥の調理場から顔を出して、ロンナが手招きをしていた。

 そちらに向かうと、流しの前にロンナが立っており、手を差し出すように示され、流しの上に手を差し出すと、水がめに溜められた水を柄杓で掬って手に掛けてくれた。

 水は冷やされていたかのように冷たく、どうも弓が上手くいかずささくれ立ちそうだったシュウの心をシンッと鎮めてくれるようだった。

「だいたいはクリーンの魔術で済むけど、たまには綺麗な水で洗うのも気持ちいいでしょ?」

 優しく微笑みながらタオルを差し出してくるロンナ。

「ありがとうございます」

 お礼を言いながらシュウはタオルを受け取った。

「さ、お昼食べよう!

 私もおなか空いたわ!」

 にこにこと微笑みながらシュウを振り向かせ背中を押して店に戻った。

「カウンターに回って、座って待っててくれる?」

 店に押し戻されたシュウの背中から、店主から指示を受けた。

「何かお手伝いすることはありますか?」

 背中を押されてるので、首だけ振り向いてロンナに尋ねたが、

「お客様は座ってお待ちくださーい」

 と、言われてしまった。

 しぶしぶ自分の足でカウンターを回り、言われた席に座って待つことにした。

 すると、ロンナのがお盆にパンとサラダを乗せてシュウの前に並べ、最後にいい香りの正体のシチューが運ばれてきた。

「はい。どうぞ。

 有り合わせで申し訳ないけど、腕によりを掛けました~」

 遅れて自分の分をカウンターの向こう側に並べてイスを持ってきて座った。

「では、頂きましょう」

 シュウは待ってましたとばかりにスプーンを手に取り、シチューを一掬い掬って口に運んだ。

「お、美味しい!

 こ、これ本当に美味しいです!」

 興奮したままロンナに目を向けると、ロンナは目を瞑り手を組みお祈りをしているようだった。

 シュウは慌てて、スプーンを置いてロンナのお祈りが終わるのを待った。

 しばらくして、ロンナのお祈りが終わったのか目を開けると、

「あれ、構わずに食べてくれててよかったのに。

 待たせちゃったかな。

 ごめんね」

 申し訳ないと眉を寄せて謝ってきた。

「い、いえいえ。

 美味しそうでつい我慢できなくて。

 不作法ですみません」

 シュウも食事の作法を知らなかったと頭を下げた。

「いいのいいの。

 私が好きでやってるだけだから。

 特に神様にお祈りしてる訳でもないし、ワイルドラビットにありがとうってくらいだよ」

 たしかに、元の世界にも、これから食べるご飯の前に手を合わせて食べ始めるのも同じような理由だったはずだ。

 リームやビアンゼ、その他の一般人が食事の前に手を合わせるところを見なかったので失念していた。

 日本人の心を忘れてはいけないと噛みしめて、シュウも手を合わせて昨日のワイルドラビットとの激闘を思い出し、

「いただきます」

 と、手を合わせた。

 それを見ていたロンナは目を見開いて驚き、

「ありがとう」

 と、また小さく呟いた。

 そして、シュウはもう待てないとばかりにシチューにスプーンを突っ込んだ。

 それを見て笑いながらロンナもシチューにスプーンを運んだ。

 それからは、シュウは何度も「美味しい」を連呼し、また余分ができたら肉を持ってくると提案したが、必要以上に命を狩ってはいけないと釘を刺されてしまった。

 たしかにそうだと、済まなそうにするシュウに優しくロンナは慰めた。

 食べ終わった後は、また弓の練習やご飯を食べに来たいとお願いするシュウといつでも待ってるとロンナは答え、たまに住民クエストで依頼もしてると伝えた。

 シュウはそのクエストを見つけたら絶対に受けようと心に誓った。

 それから今日受けた住民クエストの報告があるのと、ロンナも店の準備が始まるので酒場を後にした。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

今回住民クエストについて15話ぐらいの説明を少し加えたのと、

前の話のロンナについても少し設定を変更しました。

ほんとロンナはこんなに話すキャラにするつもりはなかったんですが…

この話も3千字ぐらいで終わる予定だったのです…

なんか会話させると次々と会話が続いてしまって。

それでは、次話がいつになるかわかりません。

大変な時ではありますが、

ご自身を大事に健やかにお過ごしください。

ではまた~。

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