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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第一章 なかなか冒険しない冒険者
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29.医務室にて

 部屋の中に誰もいない事を確認してシュウはクランの内服をもう一度捲り、患部を露わにした。

 シュウは医者ではないが、兄が大学の医学部に通っており、時折ケガ等の写真で治療方法を教えてくれたことがあり、今回は内出血がひどく、内臓にもダメージを受けているかもしれないと感じた。

 もしそうなら一刻も早く治療をしなければならない。

 治癒術師がいるなら任せたのだが、いつ戻ってくるのかわからない。

 シュウは魔法鞄から魔術書を取り出してヒールのページを開いた。

 まだ他人で練習もしていないがクランの傷を少しでも癒せればと試すことにした。

 黒く内出血している患部に右手をかざし、ティアリスがシュウを治癒した時を思い出し、同じようにイメージした。

「ヒール」

 呟くと身体から魔術書に魔力が流れ、右手に温かい光が灯った。

 次にシュウは正常な人の身体をイメージしていった。

 クランの黒く内出血した患部は小さくなり、クランの顔色も幾分かよくなったように感じた。

 シュウは魔力が底をつく前にせめてこの一番ひどい傷が癒える事を祈りながらヒールを使い続けた。

 幸い黒い内出血の範囲は小さくなり、シュウの魔力が枯渇する前にわからなくなった。

「ふう。やれやれ。

 後は、打撲や打ち身ぐらいだと思うけど。

 魔力も残り少ないし、ここの治癒術師にまかせてもいいかな」

 シュウはクランのシャツを戻した。

 すると、扉の外に人が来た気配を感じ、扉からノックの音がした。

「はい。どうぞ」

 シュウがノックに応えると、扉が開いた。

 出て行ったリンが戻ってきたのかと思ったが、扉から顔を見せたのは衛兵の制服を着た女性だった。

 ブラウンの髪をポニーテールで一つにまとめて、綺麗な女性だった。

「ここに副隊長から怪我人がいるって聞いてきたのだけど」

 顔を覗かせた女性はそうシュウに問いかけてきた。

「あ、こちらの治癒術師さんでしたか。

 外出されていたところすみません。

 こっちの彼を診ていただきたいのですが」

 女性にベッドに横になったクランを示した。

「ふんふん。じゃあちょっと診せてもらうね」

 女性はクランの横に立ち、あちこち触った傷の具合を確かめていった。

「うーん。命に関わるほど大きな傷は見当たらないね。

 君、ポーションでも使った?

 この胸の辺りだけ傷が無くて、何かで傷が癒された感じがするの」

 女性はシュウがヒールをかけた部分を指さし、尋ねてきた。

 シュウは見ただけでそこまでそこまでわかるのかと驚いた。

「あ、はい。

 実は、その部分は黒くなるほど内出血がひどかったので、そこだけ手持ちのポーションだけ使いました」

 シュウは自分が治癒術を使ったことを誤魔化し、女性のポーションを使ったという勘違いに乗ることにした。

「そっか。黒くなるほどならそこは大分ヤバかったかもね。

 それにしても、そんな傷を治すほどのポーションどうしたの?

 君、副隊長の話では冒険者になったの最近だよね?」

 思ったよりも勘の鋭い女性にさらに驚きつつ、

「このポーションはクエストで知り合った錬金術の先生に……」

「あーもしかして東の街外れにの……?

 それなら納得だわ。

 あの人の薬は他の人が作るよりも効果が高いの」

 シュウは実際に錬金術師からポーションをいくつか貰っていて、まだ一度も使ったことはなかった。

 そして、作った人によって効果が違うことも初めて知った。

「じゃあ、残った傷を手当させてもらうわね」

 女性はクランの他の傷を再度確かめながら治癒術をかけ始めた。

 何もすることなくなったシュウはもう行ってもいいかとクランを女性に任せて出ることにした。

「では、お願いします。

 僕はもう行きますね」

「任せて。

 ここまでありがとうね」

 女性は治癒術を使いつつシュウに優しく微笑みかけた。

 シュウは一礼した後、静かに医務室の扉を開け出て行った。


 医務室を出て入り口に向かいつつ、これからの行動を考えていた。

(ギルドに薬草を納品するついでに、ギルドにも狼が草原に出てきているかもしれないって報告した方がいいかな。

 僕が勝てるぐらいだから、だいたいの冒険者なら大丈夫だろうけど。

 さっきの子たちみたいに疲れ切ったときに狙われたら大変だ」

 善は急げと医務室前の廊下から受付の方へ繋がる扉に向かった。

「あ、そういえばあの女の子帰ってきてないな。

 中で迷ったのかな?

 そんな時間もかからないで帰ってくると思ったんだけどな。

 黙って出ていくのもあれだけど……。

 ここの人に伝言してもらおうかな」

 詰所の入り口につながる扉あけ、詰所の受付に戻った。

 そこに部下に指示を出しているクロードがいた。

 指示が出し終わったのか、衛兵達が外に走り出していった。

「クロードさん」

 シュウはクロードに近寄りつつ声を掛けた。

「おう。シュウ君。どうした?」

 クロードもシュウに気づき、体を向けた。

「あの、治癒術師の手配ありがとうございます。

 彼を診てもらえるので出てきました。

 今のところ命の心配はないそうです」

「ああ、そうか。

 それはよかった。

 彼女はレナと言って俺の部下でな。

 この詰所の治癒術師で一番の使い手だと思っている。

 見立てに間違いはないだろう」

「そうなんですね!

 安心しました。

 では、僕は冒険者ギルドに受けてたクエストの報告と狼についても報告に行こうと思います」

 クロードからレナの事について聞き、安心した顔をクロードに見せた。

「おお、そうか。

 君もクエストに出ていたもんな。

 わかった。

 ギルドにも一応使いは出したが、実際に目撃した君からも説明した方が信憑性が出るだろう。

 向かう前にこっちの地図であの二人を助けた場所をだいたいでいいから教えてくれ」

 クロードは受付のテーブルに地図を取り出し、シュウを呼んだ。

「わかりました。

 ……ええと、この辺りの街道に茂みから出てきたので……。

 だいたいこの辺りだと思います。

 で、狼はこっちの方から飛び出してきました」

「ふむ。この草原に狼は滅多に出ない。

 出るとしたら、こっちの森から」

 クロードは地図の西に広がる森を指差した。

「その狼は黒色のだったか?」

 地図の森からシュウに視線を移しクロードは尋ねた。

「いえ、みた狼は灰色の毛並みをしていました」

 対峙した狼を思い出しつつ答えるシュウ。

「灰色か……」

 その答えを聞いたクロードは顎に手を当てて考え込んでしまった。

「狼が黒か灰色で何か違うんですか?」

 考え込んだクロードにシュウは疑問を返した。

「……いや、な。

 一番近くにいる黒い狼はこの森の奥にいる。

 灰色の狼はこの森を超えたさらに奥のこの山で出る」

 クロードは西の森の更に南西に広がる山に指を滑らせた。

「どちらの狼もこの草原での目撃は滅多にない。

 理由はわからないが複数の狼がこの草原に入っていると考えてこちらは動くとする。

 情報、それからあの二人の救助。

 遅くなったが感謝する。

 ありがとう」

 クロードは地図からシュウに顔を上げ、次に頭を下げた。

「い、いえいえ。

 僕も偶然通り過ぎて助けることができてよかったです。

 では、ギルドに向かいますね。

 あ、あの二人には黙って出てきてしまったので、謝っておいてほしいのですが」

「おいおい。助けた方が謝るって変な話だが。

 了解した。

 二人には伝えておく。

 治療も任せてくれ。

 ギルドの方よろしく頼む」

「はい。わかりました。

 二人をよろしくお願いします。

 では、また」

 シュウはクロードに手を上げ詰所の入り口から走り出した。


 その頃リンは詰所の女性兵士に汚れた服からかわいい服の着せ替え人形にされていた。

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