28.街へ
皆さんお元気でしょうか。
大変な時期ではありますが、不要不急の外出は自粛していきましょう。
自分だけでなく、周りの人も思いあってください。
シュウは狼が動かない事を確認して剣を抜いた。
剣を抜いた個所から血が溢れだした。
「解体している暇はないな。
持って帰りたいけど、血抜きせずに流れ出したまま鞄に入れたくないし、諦めるか。
さて、急がないと」
小剣に付いた血を払って鞘にしまい、クランとリンに駆け寄った。
「見てたと思うけど、仲間を呼ばれちゃったので、急いで逃げるよ!
彼は僕が背負うから、君は走れるかな?」
呆然としていたリンに向けて尋ねた。
「えっ?あ、はい。
あ、危ないところを、た、助けて頂き……」
「まだだよ。まだ助かってない」
シュウはまだ少ない剣気を少しずつ全身に巡らせ、横になっているクランを背負った。
気配察知にまだ遠いがこちらに向かってくる気配を感じる。
「さ、狼の仲間が来る前に街まで走るよ」
まだ呆然気味のリンの手を引き走り出した。
(あ~背負いながら手を引くのは思ったよりキツイな)
シュウは背負ったクランが落ちないように注意しながら走る。
「あ、あの。わ、私は大丈夫です。
ひ、一人で走れます」
手を引かれてることに気づいたリンは顔を赤くしながらシュウに後ろからリンが声を掛けた。
「そう?助かるよ」
そんなリンに気づかず、そっと手を離してクランを背負いなおした。
「街までそんなに遠くない。
頑張ろう」
シュウはリンを励ました。
「ハァハァ……。
はい!」
リンはクランを背負ったまだ名前も知らない青年に必死に付いて走った。
十五分ほど走ると背の高い草が密集している地帯から抜け、街道に出た。
そして、街道の先に街門が見えた。
シュウは息を切らして苦しそうなリンを見て、少しペースを落とした。
「ここまで来たらあと少しだね。
ほら衛兵さんも見えてきた。
もう少し頑張ろう」
苦しそうなリンを少しでも励まそうと話しかけた。
「ハァハァ……。ほ、本当に危ないところを……。
ハァハァ……。あ、ありがとうございました……」
息も絶え絶えにリンがお礼を言ってきた。
「いえいえ。
それにまだまだ、彼も早く治療してもらわないと」
リンは自分がこんなに息をするのもつらいのに、この青年は息を乱してすらいないのに驚いていたが、もっと気になることがあった。
「あ、あの」
「ん?何?」
シュウは更にペースを落としてリンの横に並んだ。
「ハァハァ。さ、先程狼を倒した時何をされたのですか?」
リンも横に並んだシュウに合わせてペースを落として、息を落ち着かせながら聞いた。
「んー特に何も。
ただ狼の不意を突こうと石に注意を引き付けて、一気に横に飛んで突いただけかな。
見たまんまだね」
何の気も無しに語るシュウにリンは、
(見えなかったんですけど!)
リンが見えたのはゆっくり石を掲げて投げた後消えて、驚き目を見開いた狼と、その首に剣を突いたシュウだった。
「ほ、本当にありがとうございました」
リンはきっとこの青年は自分達よりも大分上のランクの人なんだろうと当たりを付ける事にした。
シュウはシュウで、
(アニメで見た視線誘導技術“ミスディレクション”を思いつきでやったなんて言えない……。
それに、二人の戦いでウサギの動きを観察したり、何が来てるかわからなかったから助けに入るのがギリギリになったってことも)
等と考えていた。
シュウは街門に着いても衛兵の方に向かわず、詰所の方へ向かった。
扉を叩いてから開けて中に入り、中にいた衛兵の男性に、
「すみません。クロードさんはおられますか?」
と、声を掛けた。
衛兵はシュウとシュウが背負ったクランの様子を見て、その場に待つように告げ、奥に入っていった。
突然入ってきたシュウを見て何も言わなかったのは、先日シュウが来た時の様子を見ていたからだろう。
「し、知り合いの方がおられるのですか?」
理由も告げず詰所まで来たシュウにリンが尋ねた。
「ああ、うん。
ちょっと知り合いで、外に出る人達に狼に気を付けるように言ってもらおうと思って」
そこまで話した時、奥の扉が開いた。
「おいおい誰だー休憩中だぞ。と。
なんだシュウ君か。
今帰ったのか、やたらゆっくりだったなってどうした?」
シュウが背負ったクランにやっと気づいて尋ねてきた。
「帰ってくる途中でモンスターに襲われてる二人を見つけまして。
で、狼に襲われたのですが、遠吠えで仲間を呼ばれて逃げてきたので、草原に狼の群れが来ているかもしれません」
そこまで言うとその先を汲んでくれたのか
「わかった。
外に向かう者には警戒するように通達するのと、巡回班に対応するように指示を出す。
後で、わかる範囲でいいから場所を教えてほしい。
その背負っている子と横の子が襲われた二人かい?」
「あ、はい。
治療してあげて欲しいのですが、まずはどこか寝かせられる場所はないですか?」
ずっと背負いっぱなしでさすがに疲れてきた。
「ああ、そうだな。
奥に医務室がある。
そこに寝かせるといい。
ただ、今日の担当の治癒術師が今出てしまっているんだ。
そちらもすぐ呼び戻すよう指示をだそう」
「ありがとうございます。
よろしくお願いします」
「ああ。任せてくれ。
じゃ、こっちだ」
クロードは奥の扉を開けてシュウとリンを招いた。
そして、その先にあった廊下の一つの部屋に入り、備え付けてあったベッドにクランを寝かせるように指示すると自分は手配をしてくると言い、出て行ってしまった。
残されたシュウはクランをベッドに寝かせ、どうしようか考え、クランがすぐ診てもらえるように装備を外しておこうと思い、
「ねえ?
治癒術師の人が来たらすぐ診てもらえるように装備を外してもいいかな?」
と、リンに尋ねた。
「え?あ、は、はい。
だ、大丈夫だと思います」
ここまでの流れについてこれていなかったリンは声を掛けられ慌てて答えた。
仲間に確認とったからいいよな。と、言い訳を作って装備を外していった。
革製の胸当てに手を掛けた時、クランが痛そうに呻いた。
ゆっくり胸当てを外した後、リンから見えないように内服の下を見てみると、青々とした痣がいくつもあった。
そして、たぶんシュウが見たウサギに不意を突かれた箇所は黒い程になっていた。
(切り傷が少ないから外への出血は少ないけど、内出血してるとこが多い……。
特にこの黒くなってるとこ…
かなりヤバイ)
シュウはクランの傷をサッと観察した。
「彼はあと、治癒術師の到着を待つとして、君も今のうちに水でも借りて、顔や服の汚れを落としてくるといいよ。
ほら、かわいい顔が台無し。
彼は僕が見ているから」
「え?ええっ!?」
急に自分に向かられた言葉と内容にリンは驚いた。
「ほらほら。
早く行っておいで。
あ、場所はわからないから入り口に戻って聞くといいよ」
と、言いつつリンの背中を優しく押しつつ扉を開けた。
「は、はい。
わ、わかりました。
ありがとうございます。
ち、ちょっと行ってきます」
シュウに背中を押され扉を潜り、シュウにお辞儀をしてから水場の場所を聞きに入り口に向かっていった。
シュウはリンを見送ったあと、静かに扉を閉めた。




