276.湿地の夜22
前話
ティアリスが見ている夢は過去に住んでいた村が壊滅していた時のものだった
それがティアリスを冒険者と駆り立てた理由だったとシュウは知る
その夢がティアリスの寝不足の原因と考えたシュウはどう対策するか悩むのだった
話を切り上げたシュウは魔法鞄から食材を取り出し、かまどで簡単な炒め物とスープを作り始める。
身体の暖まったティアリスもテーブルに食器を並べ、二人分のパンを用意した。
「よし、スープできた。
持っていくよ」
「こっちも用意できたわ」
二人はテーブルに料理を並べて椅子に座る。
「簡単だけど暖かいうちに食べよう。
本当はもっと肉とか焼いて品数増やしたかったけど、身体を温めるの重視でスープにしたよ。
ちょっと多めによそったからゆっくり食べよ」
シュウは身体の中から雨から受けた冷気を追い出すように熱々のスープを口に含んだ。
「あ~~~。
これこれ、温まる~」
「ふふっ」
シュウがスープを飲む様を見ていたティアリスは小さく微笑むと自分もスープを掬って口に運ぶ。
「んん!
あちゅい!」
シュウが作った少しとろみのあるスープはまだ熱々でティアリスは猫舌ではなかったがその熱さに驚いた。
「あ、ごめん。
まだ熱いから気を付けて」
シュウの言葉にティアリスはコクコクと頷くとふーふーと息を吹きかけてスープを啜った。
(コーンのような身を挽いた粉を入れたコーンスープもどきを作ってみたけど、いい感じにとろみが付いて熱を保ってくれるな。
味も何となくコーンスープを再現できてる。
今度はパンをどうにかしてクルトンでも再現してみようか)
シュウは熱々のスープを堪能するとパンをちぎってスープに漬ける。
(このスープにつけることを考えてたから硬めのパンを用意しておいたんだよね。
まあ保存が効くと聞いたのもあるけど。
でも、うまいな)
ティアリスはシュウがパンをちぎってスープに漬けるのを見て、自分も真似てみる。
「ん!
ん~~~!」
(何これ!
いつもは硬くて味もあんまりしないパンがこのスープで柔らかくなってスープの甘みと一緒になっていくらでも食べれそう!)
ティアリスは夢中になってパンをちぎってはスープに浸して口に運ぶのを繰り返した。
それをシュウは微笑みながら横目で見て、自分の食事に戻る。
(ティアの夢の話の続きをするつもりだったけど、この様子だと今はしない方がよさそうだ)
『こんな夢中になっているティアリス嬢は珍しいですからね』
(ああ。
まだ付き合いは短いけどこんなティアは初めて見る)
『先程の話を他人に打ち明けることはなかったのでしょう。
話したことで少し気が楽になったのだと思われます』
(少しでも楽になってくれたのならいいけどね。
それで寝不足が解消すればいいんだけど)
シュウは立ち上がって火の点いたかまどの上にヤカンを置いて水を温める。
暫くして沸騰したお湯を少し冷まして茶葉を入れたポットに移す。
「はい。
お茶だよ。
スープ程じゃないけど熱いから注意」
「あ、ありがとう」
パンとスープに夢中だったティアリスは湯気の立つお茶のカップが目の前に置かれたことでお茶に気付き、お礼を口にする。
「驚いたわ。
いつもは硬いだけのパンなのに……。
このスープもずっと熱くて身体の中まで温まったわ」
「コーンを粉末にしてとろみを付けたから熱が逃げにくいみたいだよ。
詳しくは知らないけど」
「味も甘くて、なによりもこのパンにすっごく合ってた」
「夢中になってたもんね」
「あ、えう……」
「今日はずっと雨に打たれてたから、身体の中からポカポカになりたかったから上手くできて良かったよ。
味も僕の知ってる味に近くてよかった」
「近いってことはこれが完成じゃないってこと?」
「うん。
僕が知ってるのはもっと甘みもとろみもあって別の具材も入ってたんだよ」
「もっと美味しくなるのね!
すごい!」
「気に入ってくれてよかった。
いつか完成したの出せるように頑張ってみるよ」
シュウが知っているのは粉末をお湯に溶かすだけでコーンスープやポタージュにできる即席の物だったので再現には時間がかかりそうだった。
(ここまで再現できたのもアルテが記憶からレシピを推測してくれていたからだけど)
旅に出る前の準備の時にいくつか地球で食べた物を再現できないかと思いだしていた時にアルテが思いだした記憶からこの世界の物で再現できそうなレシピを推測してくれていた。
『この先マスターが材料となる物を見つけることで再現度が上昇できるでしょう』
「このスープが完成したらお店の一品としてレシピ売れるんじゃないかしら?」
「そんな。
どこにでもあるでしょ?」
「私が知ってるのはサラサラの少し野菜が入ったぐらいのスープだけよ。
でも、私も田舎者だからな~。
都会ならあるのかしら?」
「きっとそうだよ」
シュウはお茶を一口飲むと後片付けをしようと食器を持ち上げる。
「あ、洗い物は私がするわ」
シュウが食器を持ち上げるのを見てティアリスも立ち上がる。
「いいの?」
「こんな美味しいスープを作ってもらったんだもの。
私も何かしないと」
「了解。
そこの桶に水を溜めて洗うみたいだね」
アウトポストは簡単な建物なのできちんとした流しがあるわけではなかった。
本来ならば桶に水を入れて洗うか近くの川まで洗いに行くのだろう。
ただここは湿地で雨が多いので建物の周りに雨水を溜めている場所がありそうだった。
だが、ここに二人は魔術に心得があった。
ティアリスは置かれていた桶を台の上に置くと、魔術で水を出して桶に溜める。
そこに二人分の食器を入れると洗いだした。
「じゃ僕は寝る準備でもっと」
シュウは後片付けをティアリスに任せるとベッドの方へ向かった。
ベッドの間に布を垂らしてプライバシーを少しでも保とうと思ったからだった。
男女混合のパーティもそれなりにあるので同じようにすることもあるのか、布を垂らす紐をかけるフックが用意されていた。
魔法鞄から紐と布を取り出し、そこに紐を伸ばして布を垂らした。
「よし、これで着替えもできるな」
さすがに簡易的な建物なので風呂はないので、身体を拭くことぐらいしかできない。
ここに来た時のティアリスのように着替えるのに相手の前で裸になる訳にはいかないので布で見えないようにしたのだった。
(あと、仮眠ならまだしも完璧に寝てる姿って無防備だから見られたくないだろうしね)
シュウは置いていた自分の荷物を一方のベッドに持っていく。
そこに洗い物が終わったティアリスが歩いてきた。
「洗い物終わったわ」
「ありがとう。
お疲れ様。
ティアそっちのベッドでいい?
これでお互い見えないと思うんだけど」
ティアリスはベッドの間に垂れる布に気付くと自分の荷物が置いたままの空いているベッドの方へ向かう。
そして、シュウのいるベッドの方を向いて手を振ったりしてみるもシュウの反応がないので見えていないと確認した。
布の端から顔を出すと、
「うん、大丈夫そう」
「よし、寝る支度して早く寝ようか。
雨の中歩いたし戦ったりでクタクタだろうから。
そうだ、一応見張りで交代で寝ることにしようと思うんだ」
「見張り?
あ、そうか、ここ街の中ではないものね」
アウトポストには魔物除けが施されているが完璧ではない。
魔物除けが効かない魔物が襲ってくることもある。
「魔物も怖いけど、もっと怖いのはヒトだからね」
魔物はある程度魔物除けで防ぐことが出来るがヒトは別だ。
アウトポスト内で暴れるのは冒険者間では御法度なのは街の中でも一緒だが盗賊等はお構いなしだ。
「僕が先に起きてるから先にティアはゆっくり寝てよ」
「そんな!
シュウさんだって疲れてるでしょう?
戦いだってあんなに動き回ってたのに!」
「その分体力付けてるからね。
ティアは魔術と慣れない剣気の訓練しながらだったでしょ。
それに寝不足で変な体調不良になってたから異論は認めませーん」
シュウは立ち上がってティアリスの方へ歩き寄ると、肩を掴んで方向転換させる。
そしてそのままベッドの方へ押していく。
「ちょ、ちょっとでもでも……」
「聞きませーん」
そのままベッドの傍までティアリスを押して手を放す。
「じゃ、僕も楽な格好に着替えるからティアも着替えて寝る支度をしてね」
「ね、ねぇ。
ほんとに……」
「ちゃんと寝てるか確認にくるからね」
「そ、それは……」
「じゃ、着替えるね」
そう言って、シュウは布を迂回して自分のベッド側へ戻った。
シュウが戻ってから暫くしてから布の向こう側の気配が動いた。
荷物を探る音がするのでティアリスは諦めて寝る支度に入ったのだろう。
シュウも着替えるかと魔法鞄に手をかけて楽な服を取り出したとこで思いだす。
「あ、身体だけは拭きたいな」
雨の中を歩いて戦って、でもまだ体力には余裕があるとさっきは言ったが、汗はかいている。
風呂やシャワーが無いので身体だけでも拭いてサッパリしておきたかった。
「ティア、身体拭くのにお湯作るから着替えるの待ってて」
ベッドの間の布は一枚なのでテーブル側は隠していない。
「あ、うん。
まだ着替えてないよ」
「了解。
ティアの分も持ってくるよ」
「ありがとう」
シュウはタオルを二枚取り出すとテーブルの方へ歩き、桶を取り出す。
そこに魔術で水を張ると火力を抑えた火の魔術で水を温める。
手で温度を確かめながら調節して火の魔術を止める。
(魔術、マジ便利)
桶をもう一つ用意して湯を二つに分け、用意していたタオルを桶に浸けると一つをティアリスの方へ持っていく。
「お待ちどうさま~」
「ありがとう。
シュウさんも無理しないでね」
「了解。
何かあったら容赦なく起こすから」
「うん。
お願いします。
では、お先におやすみなさい」
「ほーい。
おやすみなさい」
シュウはティアリスに挨拶をすると自分の桶を持ってベッドへ向かう。
「よーし、さっぱりするぞ」
着替えを用意してから身体を拭いていく。
拭き終わると湯を蹴とばさないように端に部屋の端に持っていき、ベッドの上に座る。
「あ、テーブルの上の灯り点けたままだ」
シュウは枕元に小さな光球を魔術で出すと、
「ティア、寝る準備できた?
テーブルの上の灯り消すよ」
「うん。
もうベッドの上です」
「了解だよ。
じゃあ今度こそおやすみ」
「おやすみなさい」
シュウはテーブルの上に出していた光球を消す。
(ティア、ゆっくりと眠れるといいな)
隣のベッドを隔てる布を見つめながらシュウは願うのだった。
一週空けてしまいすみませんでした
前話を書いている時に集中できなくて
まとまりのない文になってしまったので一週ゆっくりしました
まあだからといって今回が上手く書けたわけでもないですが……
ここまで読んで頂きありがとうございます
皆様の空いた時間を埋めるお手伝いができていれば幸いです
それではまた~




