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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第一章 なかなか冒険しない冒険者
27/303

26.小さきモノの戦い

2020年4月

大変な時ではありますが、外出を自粛されているみなさまの楽しみになれば幸いです。

みなさまが健やかにお過ごしいただけるようお祈りしております。

 街へ戻りながらシュウは今何時ぐらいだろうと考えていた。

(宿を出てルーツさんのとこに着いたのが九時ぐらい。

 一時間ぐらいで薪は割れたと思うんだけど。

 そこからルーツさんと三十分ぐらい話して……

 ああ、時計が欲しいな)

 この世界にも時計はあった。

 街の中では時刻を知らせる鐘が朝六時から三時間毎に昼の間だけ鳴るが、街から離れると聞こえない。

 よって時刻を知るために時計を持つ冒険者は多かった。

 割と一般的に広まっているため冒険者が持てる安価な物は手頃な値段で売られている。

(ギルドでクエストを受けて門に向かってる時に、十二時の鐘を聞いたような気がするんだよな。

 しまったな~

 昼ご飯食べて出てくるか、何か買ってくればよかった……)

 だいたい今は三時ぐらいだろうと予想を立てた。

(帰っても夕食までに時間あるから何か食べよう)

 シュウは宿に帰るまでの間にある食べ物を扱う屋台を思い浮かべた。

(まずは無事帰らないと)

 一旦、食べ物の事を頭から消して、気配察知に集中した。


 来る時に他の冒険者を見た場所を通り過ぎ、街まであと少しといった所まできた。

「ん?」

 少し離れた所から声が聞こえた気がした。

 立ち止まり目を瞑って耳を澄ませた。

「……」

 風が草原を疾る中、バタバタと走る足音をシュウに届けた。

(右手後方、二人かな?

 僕に向けてではなく街の方へ向かってるかな)

 こちらに向かって来ないならいいかと思ったが、二人の他に微かに後を追う気配を感じた。

(何かに追われてる?しかも複数)

 どうしようか迷っていると足音が止まった。

 事情のわからないシュウは様子を伺うために静かに移動を始めた。


 近づくと、

「ハァハァ……大丈夫か?立てるか?」

「ハァハァハァ……なんとか……」

 二人組の男女の荒い呼吸と声が聞こえてきた。

 声からして二人はシュウよりも若そうだった。

 二人は何かから逃げていて、女の子の方が転んだように思われた。

 シュウは二人が見える位置まで近づき様子を伺った。

「ハァフゥ……逃げれたのかな?」

 女の子が息を整えつつ男の子に尋ねた。

「ハァハァ……どうだろう?」

 男の子も肩で息をしつつ答えた。

 よく見ると二人は薬草の群生地に向かっているときに見たウサギと戦っていたパーティだった。

(あの二人か……

 まだ来てるって声を掛けるべきかな……。

 って、来た!

 ん?)

 シュウが迷っているうちに茂みが揺れ、二人を追っていた追跡者が現れた。


「ちっ!

 まだ来てたか!

 リン、魔力は!?」

 男の子が小剣を抜き、現れたウサギに向き合った。

 ウサギは初めに見たウサギよりも一回り大きく体長は七十センチメートルぐらいはありそうだ。

「まだ無理!

 クランは傷は?」

 リンと呼ばれたローブを着た少女が答えた。

 魔術師のリンは魔力が尽き、前衛のクランは傷を負っているようだった。

「もう大分治った!

 こんなウサギくらいどうってことない!」

 クランは背負っていた木の丸い盾を急いで左手に着けた。

 そんなクランに大ウサギは勢いよく突進していった。

 クランは慌てて横に飛んで避けた。

(あ、そのまま避けたら!)

 シュウは横から見る形なのでわかっていたが……。

 クランが横に避けたため、大ウサギの正面には杖を手にしたリンがいた。

「え……?

 きゃああああ」

 勢いそのまま向かってくる大ウサギに悲鳴を上げるリン。

「おい!ちょっと待てよ!」

 位置関係を把握していなかったクランが慌ててあとを追うが大ウサギの方が早いだろう。

(くっ!間に合え!)

 シュウは足元に落ちていた小石を拾い、リンと大ウサギの間に投げた。

 小石は上手く両者の間の地面当たった。

 大ウサギは小石に驚き、急制動を掛けて止まろうとした。

 そこにクランが走り寄り、切りつけた。

 大ウサギは避けようと横に飛ぶが、後ろ足にクランの剣が当たった。

「リン!大丈夫か?」

 クランがリンと大ウサギの間に立ちながら尋ねる。

「え?

 あっ、うん。

 大丈夫。なんともない……」

 飛んできた小石に不思議そうな声を上げるリンだったが、目の前の大ウサギに集中していたクランは気づかなかった。

 片足に傷を受けた大ウサギは勢いのあった体当たりはできなくなったようだが、片足で跳びあがりクランに蹴りつけていた。

 それを、クランは盾で蹴りを受け止め、小剣で切り付けていった。

 傷が増えた大ウサギがフラフラになりつつ跳びあがったが、今までのような勢いがなかった。

「今だ!」

 クランは叫び、盾で空中の大ウサギを叩き落とした。

   盾スキル シールドバッシュ

「キュッ!」

 地面に叩きつけられた大ウサギは軽い脳震盪を起こしたのか動かなかった。

 クランは小剣を大ウサギの喉元に突き立てて止めを差した。

 

 大ウサギが動き出さないのをじっくり確認した後、クランは剣を抜き、血を払って鞘に戻しつつリンの方へ向き直った。

「ふ~ヤバかった。

 誰だよ。ウサギは狩るのが簡単だって言ったのは!」

 クランはリンの方へ戻りつつ緊張を解そうと軽口を叩いた。

「お勧めのクエストをギルドにいる冒険者の人に聞いて、喜んで受けたのはクランでしょ?

 休憩も無しでドンドン突っ込んでいくし!」

 リンは戻ってくるクランに文句を返し、杖を仕舞った。

「ははっ。そうだっけ?」

 クランは笑って誤魔化そうとした。

(おいっ!まだ終わってないぞ!)

 シュウが心の中で叫んだとき……


 ガサガサッ!


 先程の大ウサギよりは小さいウサギが茂みから飛び出し、そのままクランに体当たりをした。

「えっ?」

 クランは反応できずに、茂みに顔を向けた状態で体当たりを受け、体を弾き飛ばされた。

「ク、クラン?」

 飛ばされたまま動かないクランにリンが声を掛けるがクランから返事はない。

 クランに走り寄ろうと足を踏み出しかけたが、小ウサギが今度はリンに飛びかかろうと態勢を低くした。

 シュウはそんな光景を少しずつ近づきながら見ていた。

(そろそろ出た方がいいか?

 けどまだ……!)

 どうするかシュウが迷っているとき、シュウの集中していた気配察知が感知していた気配が動き出したことを知らせた。

 (っ!来た!)


 小ウサギがリンに飛びかかろうとした時、新たな影が茂みから飛び出した。

 影はそのまま小ウサギに飛びつき、小ウサギの体を何度も地面に叩きつけた。

 小ウサギが動かなくなると影は小ウサギを離し顔をリンに向けた。

 黒い影は犬の様だが太い四肢やピンと立った耳、長くフサフサした尻尾をもった……。

(狼か……!

 こいつはヤバイ!)

 シュウは音を立てないように気を付けながら、リンの方へ移動を始めた。

 狼はリンに体を向けると、態勢を低くした。

 リンは驚きのあまり思考が停止しているようで棒立ちのままだった。

「ウウウウガアアアアッ!」

 無防備なリンに狼は吠えながら駆けだした。

「へっ?

 キ、キャアアア!」

 狼の吠えた声に思考が引き戻されたのか悲鳴を上げて尻餅をつくリン。

 狼は更に加速してリンに迫る。

 その時、リンの後ろの茂みからまた別の影が飛び出した!

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