25.魔術書
そんなことをしながら街門から一時間程かけて目的地の薬草の群生地に到着した。
街道からも、森へ向かう道からも外れており、岩が点々と囲んでいるので見つかり辛いのかもしれない。
そこにたくさんの薬草が生えていた。
シュウは早速薬草を摘みにかかった。
周囲の薬草は陽の光を十分に吸収して生き生きとした青みがかった緑の葉を伸ばし、生命力が満ちているようだった。
街の露店や薬屋に並んでいた薬草を見ていたので薬草に間違いないと思っているが、街で見た物はこんなにも生き生きとしていなかった。
(鮮度が違うのかな。採れたてはみんなこうで、だんだんと鮮度が落ちていくのかもね。
さすがにいつも採れたての薬草があるとは限らないし)
シュウは疑問に思いつつも薬草を傷つけないよう小振りのナイフで根元を残し丁寧に採取していった。
納品用の薬草を採り終え、さらにギルドに売却する分とランブルの薬屋に持ち込み、傷薬の作り方を教えて貰おうと多めに採取した。
納品分と売却分と自分の分を分けようと紐でも入ってないか魔法鞄を覗きこんだ。
奥を覗きこみ長い紐を見つけ手に取ると、さらに奥に入れっぱなしだった魔術書に目が留まった。
「あれっ?」
魔術書が淡く光っているように見えた。
不思議に思いながら魔術書を取りだし、久しぶりに一ページ目を開けた。
自分の名前とこの本の名前が書かれたページを。
「えっ?これは…」
前に開いた時は自分の名前とこの本の名前、次に本に吸収(?)された二冊の本が並んでいただけだった。
今はシュウの名前の下にスキルと魔術が並びその横にページ数が書かれていた。
試しにスキルのページを開くと、シュウの名前の下に剣術や他にルーツに教えられた武術等や気配察知等がジャンルに分けられて並んでいた。
次のページに捲ると、
「っ!」
魔術のページだった。
そこには、
回復魔術
・光属性
・ヒール
攻撃魔術
・土属性
・ストーンブレット
支援魔術
・光属性
・ライト
と、並んでいた。
シュウは、二週間の間にある学者の家に依頼で行った際、魔術の素質があるか見てもらえ、素質があると言ってもらっていた。
そして、いくつか魔術を見せてもらい、呪文を教えてもらった。
が、長い呪文が多く、覚えられない・上手く唱えられない等でほとんど使えなかった。
使えるようになったのは一つだけあり、それが「ライト」と言う灯りを灯すだけの魔術だった(短く簡単)。
しかし、「ヒール」も「ストーンブレット」も使ったこともないし、学者に習ってすらいなかった。
「この二つと言えば…」
学者は使っていなかったが、この二つをシュウは知っている。
シュウの脳裏に白いローブに身を包んだ後ろ姿が映し出された。
「ティアリスさんが…」
ティアリスがゴブリンに襲われたシュウを助ける際に使った魔術だった。
「でも、どうして?」
なぜ、ティアリスの使った魔術がここに載っているのか。
前のページに書かれたスキルはシュウがルーツに教えてもらったモノと思われるモノが並んでいた。
ということは、この魔術も使えるのか?、と思うが、魔術には呪文が必要でこの二つの魔術の呪文をシュウは知らない。
どうしたものかと、シュウはティアリスとの出会いを懐かしいなと思い出していた。
あの時のゴブリンに斬られた傷口を思い出し、思わず顔をしかめたが、その後のティアリスが傷口に手をかざし、素早く呪文を口ずさみ、
「ヒール」
と、唱えたのだ。
同じように思い出しながらシュウは呟いた。
すると本が輝き、シュウの中から青い光が本に流れるイメージが広がり、あの時と同じ暖かい光に包まれた。
シュウは驚いて本を落としそうになった。
「なんだ!今の!」
まるで、ティアリスにかけてもらったヒールのようだった。
「なんでヒールが…」
魔術書に視線を戻して、もう一つの魔術「ストーンブレット」を見つめた。
「ま、まさかな…」
周りに広がる薬草の群生地にある岩の一つに右手を向け、
「ストーンブレット!」
と、唱えてみた。
シーン……
何も起きなかった。
「だ、だよな。し、知ってたし」
ちょっとした安心感と残念さが入り混じったシュウだったが、なぜヒールは使えたのか。
ストーンブレットとは、どんな魔術だったか思い返してみる。
これも、ティアリスが助けてくれた時に使った魔術だった。
一度目は目前に迫ったゴブリンを吹き飛ばして、二度目も同じゴブリンが起き上がってきた際に、手を向け呪文を唱えて、
「ストーンブレット」
と、唱えていた。
すると、また本が輝き、体から青い光が本に流れ、右手の先に小さな石が生まれ、岩に向かって飛び、突き刺さった。
「ええぇ?」
これはティアリスが使ったストーンブレットだ。
「なんで、さっきは使えなかったんだろう?」
顎に手を当て、使えた時と使えなかった時を比べてみる。
「んー。目の前で使った人を思い浮かべていた?
いや、使った時を思い出していた?」
試しにティアリスを思い出すだけで、魔術が使えるか試してみる。
ティアリスの笑顔を思い浮かべながら、
「ストーンブレット」
と、唱えるが何も起きなかった。
「うーん。使った“人”を思い浮かべてもダメか。
だとしたら、やっぱ使った時というか状況…
もしくは、魔術を使った“イメージ”…」
なんとなくだが、条件が見えてきた気がする。
魔術書に載っている三つ目の魔術「ライト」。
ライトの呪文は短く、簡単だったのですぐ覚えられたが、自分の中にある魔力を必要な分取り出すということが難しかった。
「…灯りよ灯れ!ライト」
呪文を唱え、右手を持ち上げると掌の上に光が生まれた。
一度消し、今度は今掌の上にあった光を強くイメージして、
「ライト」
と、魔術名を唱えると、本が輝いて青い光が本に流れ込み、右手の掌の上に光が発生した。
「これは…。
呪文を唱えてライトを使うと僕の魔力からそのままライトがついた。
使った時をイメージして魔術名だけを唱えると魔力が本に流れてからライトが発動した。
のかな?」
先程から本に流れる青い光は魔力だと考えていた。
剣気を感じた時に視た青い光だ。
「でも、何でこの三つしか載ってないんだ?」
先生はもっと他にも魔術を見せてくれていた。
試しにその一つをイメージしながら唱えてみた。
「ウォーターボール」
シーン…。
何も起きなかった。
「何でだ?何が違うんだろう」
顎に右手をやり、ティアリスが魔術を使った時と先生が魔術を使った時を比べる。
冒険者…になったのはティアリスが魔術を使った後。
知識…は先生の所に行ってから学んだ。
装備は…ティアリスと会った時は元の世界の服だけだった。先生の所に行った時はこちらで買った服だったが関係あるだろうか。
あとは所持品…ティアリスと会った時はこの魔法鞄とその中に魔術書…。基本普段もこの魔法鞄は持ち歩いているので、先生の所にも持って行っていた。
「ん~。あっ」
先生の所にも鞄は持って行っていた。だが、作業中や指導を受けていた時は鞄を置いていた。
「もしかして、この魔術書が近くにある状態がカギ…?」
ティアリスに助けてもらった時は鞄に入れて背負っている状態だったので、それでも条件は満たしていたのか…。
「じゃあ、同じ様に本を鞄に入れた状態でも使えるのかな?」
思いついた事を試してみようと魔術書を鞄に仕舞って背負い、右手を岩に向けて、イメージして唱えた。
「ストーンブレット」
シーン…。
何も起きなかった。
今度は鞄から魔術書を取りだし、手に持った状態でイメージを固めた。
本を“閉じた”状態で。
「ストーンブレット」
今度は本が輝き魔力が流れてストーンブレットが発動した。
「本は閉じていても大丈夫なのか。
ただ、手に持っていないとダメなのかな?
片手にずっと本なんて持ってたら戦えないぞ」
後衛ならともかく、剣等を振り、敵の攻撃を受ける前衛なら片手に本を持ってなどいられない。
そもそも、今は一人だった。
「近くの地面に置いてたらどうかな」
魔術書を地面に置き、五歩ほど離れてみた。
「ストーンブレット」
シーン…。
何も起きなかった。
一歩魔術書に近づいてみた。
「ストーンブレット」
シーン…。
何も起きなかった。
一歩魔術書に近づいてみた。
「ストーンブレット」
シーン…。
何も起きなかった。
一歩魔術書に近づいてみた。
「ストーンブレット」
シーン…。
何も起きなかった。
一歩魔術書に近づいてみた。
「ストーンブレット」
シーン…。
何も起きなかった。
一歩魔術書に近づいてみた。
ありがとう。コピペで楽です。
そんなことはどうでもよく、もう魔術書は足元に来ている。
「ストーンブレット」
シーン…。
何も起きなかった。
地面に置いている状態では使えないことがわかった。
「手に持った状態じゃないと使えないのか?」
少し考え、魔術書を左の脇に挟んで右手を上げた。
「ストーンブレット」
今度は魔力の流れを感じ、ストーンブレットが発動した。
「手に持つ必要はないのか…
あぁ、もっと試したいけどフラフラしてきた」
何度も魔術を放つ実験をしていたため、魔力が減ってきたようだった。
頭がボーっとするような感覚がした。
剣を振れば体力を使うように、魔術を使えば魔力を使う。
あまりに魔力を使い過ぎると気を失ってしまう。
と、先生から魔術を使う場合の魔力の管理は気をつけろと教えられていた。
自分だけではなく、仲間のことも。
魔術師は魔力が切れるとそこで役に立たなくなってしまう。
杖術等もあるがそれはほぼ護身用の意味が強く、戦力として見るには厳しいものがあった。
戦力になる程使うためには前衛並の筋力が必要で、純粋な魔術師なら筋力を上げるよりも魔力や効率性を追求した方が早い。
そもそも魔術師が使う杖も儀礼的な物で魔力等を高める効果があるとかで、物理的な攻撃に向いていない。と、長く講義を受けた。
岩の陰まで戻り、そこに腰を下ろした。
休憩しながら魔術書の実験について考えていた。
(とりあえず、僕がこの魔術書を持った状態で誰かが周りで魔術を使うと魔術の欄に載るのかな?
これは実際に試してみたいな。
今一人だし。
あ、その時、使っているのを見ている必要があるのかな。
ただ、先生の魔術は近くで見ていたけど載っていないんだよね。
条件がわからないなー
いろいろ試してみないとか)
使える魔術を増やすには魔術師に近くで魔術を見せてもらう必要そうだった。
(ただ一つ言えることはこれはみんなが使える方法じゃないな。
みんなが使えるなら先生も魔術書持って使うはずだし)
知り合いで魔術について聞けそうなのは学者先生かティアリスだったが、学者先生の魔術についての熱意は相当なものだったのでこの未知の魔術書についてあまり聞きたくない。
……魔術の話を聞いてた時も後半は軽く引いていた。
あとはティアリスだったが、こちらも頭を振って考え直した。
(今はまだダメだ。
足手まといは嫌だ。
ならあとは、ギルドで魔術を使える人を探してパーティを組んでもらうか……
とりあえず魔術を増やすのは置いておいて、どう使うかだよね)
シュウは魔術書に目を戻して思考を切り替えた。
(剣で戦ってるときは開く余裕がないから使うのは無理だな。
けど、回復魔術で治癒できたら魅力だよな)
道具屋で売っている傷薬は即効性があるものではなく、徐々に傷を治すもので、傷をすぐに治せるような回復薬は高価だった。
それがヒールのような回復魔術ならできるのだ。
(ん?そういえば、ティアリスさんやサーシャさんはヒールのことを“治癒術”って言ってたな。
この本には“回復魔術”って書いてあるけど……
どっちかが間違ってるのか……)
どんな仕組みかわからないけど、こんなシステム的なものが間違うだろうか。
(治癒術以外の回復する魔術があって、まとめられているのか……?)
そこまで考えてこれ以上わからないことは放置して、考えを戻す。
(使う方法だったよな。
使うには手に持って、魔術の載っているページを開く必要があると。
今までみたいに鞄に入れててもいいけど、回復手段はすぐに使えるようにしておきたいな。
だと、鞄の中に入れておくと取り出したりで少し時間がかかっちゃうし。
大きなケガをした時に、すぐに使おうと焦って取り出せないのがイメージできちゃうよ。
腰のポーチにも入らないしな)
そこで二週間の間に行った武器屋を思い出した。
武器屋では冒険者の好みによってベルトや剣帯の調整をしていた。
(短剣用の鞘を腰に付けるようにして……
ポーチもずらして……
うん。改造次第でどうにかなりそう。
帰って使えそうな物を見て回ろう)
本をポーチのように、腰に装備する剣帯のような物を自分で作ってみようと何が必要か考え始めた。
腰を下ろして考えをまとめつつ、手は自然と目の前に群生する薬草をプチプチと採っていた。
(本を素早く取り出せる装備を作って、取り出す練習もするけど、やっぱり剣を振ってる時は無理だよな。
使うのは戦う前か後。
遠くのモンスターに先制するとき、近づきたくないモンスターの対処ぐらいか。
あとは戦った後の回復に使って…)
元の世界でゲームで遊んでいたシュウは、その時の戦闘をイメージして魔術を使った戦い方を考えていった。
(ただ、自分がどのくらい魔術を使えるかと、魔術を使う速度と威力を少しずつ調べないとな~
あと、ソロだから魔術だけともいかないし……
魔術書なしでも魔術を使う練習も怠らないようにしないと。
やることがいっぱいだな)
一通り考えがまとまってくると目の前に薬草の山が出来ているのに気付いた。
(あ、やべ。
クエストの途中だった!帰らないと)
魔力も回復したようで立ち上がっても問題なかった。
急いで薬草を小さな袋に入れてから魔法鞄にしまった。
最後に忘れ物がないか周囲を見渡した。
周囲には結構な量の薬草を摘んだはずだが、まだまだたくさんの薬草が生えている。
(まだたくさんあるけど、今日は必要以上に採ってしまったから、次は別のところに行こう。
採りすぎて生えてこなくなったら大変だしね。
薬草に効きそうな肥料も調べてみようかな)
シュウは薬草の群生地をもう一度見渡して、
「ありがとうございました」
頭を下げておじぎをした後、街に向かって戻り始めた。
風が群生地を駆け抜けシュウの髪を撫でていった。




