23.雑用クエスト
本文追加です
私も一狩りに行きたくてうずうずしているので短くなってすみません
主人公はまだ冒険してませんけどねっ
シュウはルーツの家から冒険者ギルドに向かう途中で剣を止める剣帯を買い、腰に下げた。
そして、再び冒険者ギルドまで走った。
ギルドの入り口が目前となり扉に手を伸ばそうとしたとき、内側から勢いよく扉が開いた。
「うぉ!」
シュウは扉にぶつからないように急制動をかけてギリギリ止まった。
そんなシュウの脇を扉からローブのフードを目深にかぶった人物が走り抜けて行った。
灰色のボロボロのローブの後ろ姿が通りの雑踏に消えていくのをしばらく見つめてから改めてギルドに入った。
ギルド内は朝の喧騒が収まって落ち着いた雰囲気になっていた。
いつものように受付に向かうと、通常は奥の机にいるサーシャが受付まで出て来てキョロキョロとしていた。
シュウにも気付いていないようで、誰かを探しているのだろうか?
「どうかしたんですか?」
シュウは近づいてサーシャに声をかけた。
「ひぅ!」
サーシャは驚いて変な声を出した。
「あ、シュウさん。
すみません。こんにちは」
サーシャはやっとシュウに気付いたように、あいさつをしてきた。
「サーシャさん。こんにちは。
どうかしたんですか?」
シュウは再度、先程のサーシャの様子を尋ねてみたが、
「えっ?
あ、ああ…
なんでもないです。なんでも…
それよりも今日は早いですね」
サーシャは誤魔化すようにシュウに話題を振った。
「え、ええ。
ルーツさんの指示で今日は街の外のクエストを受けるようにって」
そこで周りにざわめきが起きた。
(…雑用冒険者が外にだと…)
(…なめてるのか)
(…誰か護衛に付いてやれよ。ひっひ)
そして、シュウの後ろから声がかけられた。
「おい。雑用小僧」
シュウは自分が雑用冒険者と陰で言われているのを知っていたため振り向いた。
「雑用…小僧って…」
振り向いた裏でサーシャが小さく呟いたのが聞こえた。
「何でしょうか?」
シュウは後ろに立っていた男に返した。
「雑用クエストしか受けれない腰抜けが外に出るだなんて冗談が聞こえた気がしてな。
冗談なんだろ?」
男は鉄製の鎧に大剣を背負った大柄でシュウを見下ろしていた。
雑用クエストとは住民クエストが主に街の中で完結し、多くが冒険者の技術が必要のない雑用が多かったので、主に街外で活動する冒険者が住民クエストを蔑むために呼んだ名だった。。
「いえ。本当ですよ」
シュウは見上げながら答えた。
「小僧。雑用クエストでやっとこさ、古びた小剣が買えて強くなったつもりだろうが、外を舐めんじゃねえぞ。
そんな奴がいるから外に出て死んで、ギルドやサーシャちゃんに迷惑がかかんだよ」
男はちらちらとサーシャを見ているようだった。
「たぶん大丈夫ですよ。
初めてなので採集クエストを受けようと思ってますので。
ご心配ありがとうございます」
シュウは男が心配していない事がわかっていたが、忠告と受け取った。
「おいおい、採集クエだと?
お前冒険者になってどれくらいだよ?
そんなクエ、冒険者になった日にでも受けるもんだろう」
男が聞いてきたので、
「冒険者になってまだ二週間ですね。
あなたも言ってたじゃないですか、住民クエストをずっと受けてましたので、初めてなんです」
シュウは素直に返した。
「ハッ。
二週間も経って初めて採集クエかよ。
おい、誰かこいつに付いて行ってやれよ。
きっと薬草一つもわからんだろうぜ。
実践も経験なさそうなこいつに実践の恐ろしさを見せてやれよ」
男は笑いながら周りの冒険者に手を広げて演説の様に声を上げた。
「ご心配なく。
初心者の僕に構わず、先輩方は自分のクエストに出かけてください」
シュウは話は終わりとサーシャに向き直ろうとしたが肩を掴まれた。
「おい。雑用!
先輩の忠告は聞くもんだぜ!
お前の様な腰抜けはずっと雑用クエで雑用をこなして、街の雑魚のご機嫌取ってるのがお似合いだぜ」
男はシュウの態度にイライラしてきたのか口調が荒々しくなった。
シュウはため息を一つ付いて、
「そうですね。
街の皆さんはとてもいい人達ばかりでした。
先輩も受けるクエスト…いえ、“受けられる”クエストが無いのならオススメですよ。
ね?先輩。
武器が壊れてしまって、クエストが受けられないんでしょう?」
シュウは肩を掴む男を見上げながら言い放った。
「ど、どうしてそれを?」
男はシュウの肩から手を放し、一歩後ろに下がった。
「簡単ですよ。
先輩の背負っている剣。
柄が鞘から見て傾いています。
折れたか曲がったか…
鞘に入っているので、きっと折れてしまったのですね。
先程から体を動かされる度に不自然に傾いていました。
折れた切っ先は回収しなかったんですかね。
武器は大事にしてあげてくださいね」
シュウは呆気にとられている男から向き直り、
「サーシャさん。
あっちで採集クエストの依頼を教えてください」
そう言って、個室ボックスに向かった。
「あ、はい」
遅れてサーシャが返事をして事務所側から個室ボックスに向かった。
二人が個室ボックスに入ってからも暫く冒険者ギルドは静まりかえっていた。
個室ボックスに入って、
「はぁ、やってしまった…」
シュウは大きくため息をついていた。
男からシュウに言われた事はいつもの様に聞き流す事が出来たが、街の人々を馬鹿にした発言には抑えきれなかった。
この二週間の内にたくさんの人に会ったが、みんな優しく、隠しているがこの世界のことを知らないシュウに様々な事を教えてくれた。
そこに、
「お待たせしました!」
事務所側の入り口からサーシャが書類などを抱えて入ってきた。
「すみません。お騒がせしました」
入ってきたサーシャにシュウは椅子に向かいながらサーシャに謝った。
「いえ。
あの方が悪いんですよ。
住民クエストも困っている街の人達からの立派なクエストですのに、ましてや街の人々にひどい言い方をして。
今マルクさんが副ギルド長室に呼び出していると思います」
「マルクさんまで出て来たんですか…
あの先輩には悪いことをしたかな~」
シュウはマルクが冒険者ギルドの副ギルド長と先日聞いて驚いた事を思い出していた。
「いいんですよ。
最近あの方はクエストの失敗が多かったのです。
一度マルクさんにお灸を据えてもらった方が良かったんです。
それにしても、シュウさんは変わられましたね」
書類を机に広げつつ、急にサーシャがシュウに話題を向けてきた。
「え?何がですか?」
シュウはサーシャの言っている事が分からず戸惑った。
「いつもなら小言を言われても自信が無さそうに流すだけだったのに、今日は言い返しましたね」
「僕の事はだいたい合ってますからね。
ただ街の人達の事は間違ってますから、ついカッとなってしまって大人気なかったです」
シュウは今度から気を付けようと心の中で反省していた。
「強くなられましたね」
反省していたシュウはサーシャから不意に言われた。
「えっ?」
唐突に言われた言葉にシュウは驚いてしまった。
「あの人も未熟ながら時折剣気を混ぜていました。
その時点で、ギルドからつまみ出しても良かったのですが、シュウさんは怯むこともなく、穏便に収拾したんですよ」
「ルーツさんと比べればどうってことなかったですよ。
あの人最初に会った時は鬼に見えましたから…」
シュウも先程の先輩冒険者が剣気を発していたのはわかっていたが、訓練で浴びたルーツの剣気に比べると無いに等しいぐらいだった。
「強くなって、早速守られましたね」
シュウが剣を持って対峙するルーツを思い出しているとサーシャが告げた。
「へっ?何を?」
サーシャの言っていることがわからなかったシュウは問い返した。
「街の方々の名誉をです。
あの方のひどい言われのままでしたら、他の冒険者の方にも誤った理解が広まってしまったかもしれません。
いえ、もうすでに広まりつつありますね…
現に住民クエストを受ける方はとても少ないですし。
この街だけではないですが、一部の冒険者は街を護っているのは自分たちだと街の方々に横暴を働くこともあるようで、ギルドとしては頭が痛いことです」
冒険者ギルドとしては所属している冒険者を守る義務があるが、明らかに冒険者側が悪い場合は罰則を与える事もある。
しかし、そうした場合でも冒険者ギルドの信用を失うには十分だろう。
冒険者と住民の確執が大きくなり、冒険者ギルドが潰された街もあると聞いたのは後になってのことだった。
「冒険者が活動できるのは住民のバックアップがあってのことだと僕は思うんだけどね。
武器や防具や薬はどこで買ってて、その武器等は誰が作っているのか。
住民クエストでいろんな人と会えて僕は本当によかったと思ってます」
両手を頭の後ろで組みながら、この二週間で会った人達の事を思い出していた。
サーシャはシュウの受けた依頼を知っているので、シュウが誰に会ったのかをだいたい把握していた。
そして、サーシャもその顔ぶれを思い出してちょっと複雑な気分だった。
全員がそうではないが、濃い顔ぶれだった。
「シュウさんがそう思ってくれて嬉しいです。
そして、皆さんを守ってくれてありがとうございました。
かっこよかったですよ」
サーシャは複雑な気分を切り換えて、シュウに嬉しそうに笑った。
シュウは照れてそんなサーシャから目を逸らしつつ、
「せっかくルーツさんに鍛えてもらったので、今日のクエストは成功させないと。
住民クエストでも強くなれるって証明して、他のみんなの印象を変えたいな。
そこで、薬草の採集クエストはありますか?」
普通の住民クエストではそんな強くならないだろうなと、心の中で思いながら顔には出さないサーシャだった。
「少しお待ちください。
薬草採集は比較的安全で人気のクエストでけど、確かあったと思います」
サーシャは言いながらリストを捲っていった。
「ああ。ありました。
薬屋のランブルさんの依頼ですね。
そういえば、薬草は何かと入用になることが多いので、ギルドでも買い取りを行っています。
クエストの依頼報酬ほどの額は出ませんが、クエストの合間に採取される方も多いですよ」
依頼が書かれたリストを開き、シュウに差し出した。
シュウは二週間の間にサーシャの手が空いてる少しの時間に依頼書を通じて、夜はリームとビアンゼに文字を教えてもらって、簡単な文なら読むことができるようになっていた。
先に読むことに専念しており、書く方はまだまだで自分の名前が精一杯だった。
「やっぱりね」
「やっぱり?」
依頼書を見ていたシュウの呟きにサーシャは聞き返した。
「ランブルさんの所に依頼で行ってた時に、薬草の在庫が少なくなってきたって言ってたから。
しばらくは依頼が出てるんじゃないかと思ってたんです」
薬屋にも住民クエストで行っており、ランブルとも知り合いになっていた。
「そうだったのですね。
では、こちらの依頼で大丈夫ですか?」
「はい。お願いします」
サーシャは一旦個室から出てクエストボードから依頼書を剥がし、受注手続きを進めた。
「どれが薬草なのかわかりますか?」
「大丈夫です。
ランブルさんの所で見ました」
サーシャの問いにシュウはすぐに答えた。
「あと薬草は街の近くにも生えているのですが、他の方に取りつくされているかもしれません。
薬草は傷薬やポーションの素材にもなりますので」
先輩冒険者が言っていたように、採集クエストでも初歩の薬草採集は冒険者になり立てでも、受けることができ、そういった冒険者が街の近場のものは採ってしまっているのだ。
「それも大丈夫です。
ランブルさんに薬草の生えそうな場所を教えてもらったことがあります。
地図を買って場所も確認してあります」
シュウは魔法鞄から丸められた地図を取り出した。
地図には街の外に広がるペストリー草原が描かれており、所々に書き込みがされていた。
ちなみに、この世界には印刷技術がまだ発展していないので本等は手書きで書き写すしかない。地図等は版画の要領で印刷されていた。
魔術が発展している世界なので科学的に開発しようとせず、字の転写や本自体をコピーする魔術の開発が今もどこかで行われていた。
「今回の薬草の納品はギルドの納品受付で行いますので達成報告書はありません」
手続きが完了し、サーシャが細かな点を確認していった。
「ありがとうございます。
それでは、行ってきます」
シュウは席を立ち、個室の出口に向かった。
「本当にお気をつけて、行ってらっしゃい」
サーシャは出て行くシュウに手を振った。
ギルド内はいつもの喧騒を取り戻していたが、シュウが個室から出てくると喧騒が少し小さくなった。
いつもの殺気と違う視線を感じながら一人の駆け出し冒険者が初めての街の外へのクエストに向け、冒険者ギルドを出て行った。




