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異世界王道冒険譚  作者: 雪野ツバメ
第一章 なかなか冒険しない冒険者
19/303

19.薪を割れ!

何も考えず気楽な気持ちで読んでください。

 ギルドを出たシュウはサーシャから受け取った地図を頼りに依頼主の元へ向かっていた。

 依頼主はルーツというようだ。

 薪を売っているということは、昨日のランプの時に思ったように元の世界のように電気は使われていないようだ。

 依頼主はどんな人だろうか、とドキドキしながら向かった。


 目的地と思われる家が見えてきた。

 塀に囲まれた敷地に薪をこの大きな街に卸している為か、倉庫のような建物が何件かあり、住宅も他の家に比べ大きかった。

 ますます、ルーツという人がどんな人なのか期待して残りの道を進んだ。

 敷地に入る門に差し掛かった所で中が見え・・・

 鬼。

 鬼がいた。

 門から住宅に続く石畳の道の真ん中に、腕を組んでこちらを睨む巨漢がいた。

 思わず門を素通りしてしまった。

 門から少し離れて、地図と合っているか確認してみよう。

 ・・・残念ながら、この場所で間違いないようだ。

 恐る恐る門まで戻り、門から少し中を覗くが変わらず鬼はそこにいた。

 ギルドに鬼が出たと報告に行くべきか悩んでから、意を決して中に突入することにした。

(僕はこいつを倒して、ルーツさんを助けて薪を割るんだ!

 こんなところで負けてられない!)

 門の正面から直角に右向け右をして門をくぐり、鬼の前まで進んだ。

「た、頼もー。

 冒険者ギルドから派遣された者だがルーツさんとお会いしたい」

 謎のテンションで鬼に来訪した理由を告げ、ルーツとの面会を依頼した。

(ルーツさんがもしやられてしまっていたら、全力で仇をとってやる)

 そう心に誓って、鬼の返答を待った。

 鬼はゆっくりと腕組みを解き、右手の親指を立て自分に向けた。

「ルーツは・・・」

(ルーツはオレが食ったとでも言うつもりか!)

 シュウは少しずつ身構えながら、鬼との距離を測った。

「・・・俺だが」

(やはりルーツさんはこの・・・だが?)

「え、え~っと?ルーツさ・・・ん?」

「如何にも、俺がルーツだ」

 鬼は指を戻すとまた腕組みをして、シュウを見下ろした。


「あっ!」

「どうしたんですか~?サーシャ先輩~」

 所変わって冒険者ギルドの同時刻。

 サーシャはシュウのクエスト受注の手続きが終わった後、自分の仕事に戻りテキパキと積まれていた書類を片付けていた。

 そんな時、いつもはミスなく仕事をこなすサーシャが声を上げたことに隣で同じ様に仕事をしていた後輩が声をかけた。

「あ、ごめんなさい。

 さっき私が担当した冒険者さんにクエストを斡旋したんだけど・・・

 言い忘れたことがあって」

「先輩が忘れるなんて珍しいですね~。

 どんな依頼だったんですか~?」

 サーシャはおっとりとした話し方の後輩に顔を一度向けて説明した。

「『ルーツさんの薪割り』よ」

「あ~~~。

 やっちゃいましたね~」

「あの人初めて来る冒険者さんには、気を高めて待ってて、それを見た新人さんは鬼に見えるらしいのよね。

 そこを伝え忘れちゃった・・・

 シュウさん大丈夫かしら?」

 サーシャは心配そうに、シュウが向かったルーツの家がある方角を見つめた。

 その横で後輩は優しそうな垂れ目を悲しげにして大きな胸の前で両手を合わせ冒険者の冥福を祈るフリをしていた。

「あなた本気で思ってないでしょ。

 そして、さりげなく私の書類の上にあなたの分を乗せないで」

 こっそりサーシャの机に積まれた書類に自分の担当の書類を乗せようとしていた後輩を止める。

「バレちゃいました~?

 でも、先輩~ミスしたなら償わないと~」

「あなたには迷惑かけてないから、償う必要はないわ。

 ほらほら、私が手を止めさせちゃったのは謝るから仕事を進めなさい」

 後輩は完全に手を止めて体をサーシャに向けて話をしていたが、サーシャはほぼ手を止めずに書類を片付けていたのだ。

「は~い。

 先輩。先に終わったら手伝ってくださいね~」

「もうっ。いつもそうじゃない!」

 仕事中にこんな話をしていた二人だが、周りに迷惑がかからないように小さな声で話をしていた。

 私語は慎むべきだが、二人に注意する人はマルクぐらいで、現在彼は不在だった。

 ギルドの中でも美女の筆頭二人のやり取りにギルド職員や冒険者の男性は微笑ましげに見つめ、そんな男性を見た女性は呆れているが、それでも二人の他の職員や冒険者への対応が優れている(主にサーシャが)のと仕事ができる(主にサーシャが)ので、嫌われることはなかった。

 ちなみに朝、サーシャの机には後輩の二倍の高さの書類が積まれていた。

 現在昼前でサーシャの書類は後輩の半分程になっていた。

(シュウさん本当にごめんなさい。

 でも、そこで頑張って強くなってください)

 サーシャはもう一度ルーツの家の方角に顔を向けた。


 所は戻って、ルーツの家の前。

 シュウが鬼の正体がルーツだと知ったところまで戻る。

 固まっているシュウに腕組みをした鬼ルーツが話しかけた。

「小僧。冒険者ギルドから来たと言ったな。

 依頼を受けてきたのか?」

 思考が停止していたシュウだが、その言葉を聞いて顔を上下にカクカク振りながら、

「は、はい。

 冒険者ギルドでこちらの薪割りを手伝う依頼を受けて参りました!」

 背筋を伸ばし気を付けの姿勢で答えた。

 すると、

「こっちだ。付いてこい」

 鬼ルーツは倉庫の一つに向かって歩き始めた。

 その姿をじっと見つめていたシュウは違和感を覚えた。

(何だろ?)

「早く来い!」

「は、はい!」

 ルーツに呼ばれ、慌てて駆けて行った。


 倉庫の一つの前に到着し、その前に土台となる丸太と小振りの斧が置かれていた。

「この倉庫の薪を割ってもらう」

 ルーツはそう言って倉庫の大きな両開きの扉を開けた。

 そこには天井近くまで積み上げられた薪となる丸太があった。

 その一つを手に持ち、土台に置き、横にあった斧を持ち上げた。 

 斧を振り上げ、頭の上で一度止め、一気に振り下ろした。

 スパッ!

 堅そうな木が真ん中から真っ二つになった。

「これをしてもらう」

 ルーツがシュウに斧を手渡してきた。

 受け取った斧は見た目以上に重かった。

 とりあえず、斧を一度置き、倉庫からいくつかまとめて丸太を持ってきて、土台の脇に置いた。

 その内の一つを土台に乗せて、斧を振り下ろした。

 ガッ!

 斧は薪の表面に食い込んだがそこで止まった。

 シュウの手を衝撃の反動が襲い、思わず手を放してしまった。

「・・・いったぁ」

 そんなシュウを腕を組みながらルーツは見ていた。

「そんな使い方だと先に斧が割れそうだな」

 ルーツは薪に刺さった斧を抜き、振りかぶって頭上で一度止めて、一気に振り下ろした。

 スパッ

 今度も薪は真ん中で真っ二つになった。

「こうだ」

 またルーツはシュウに斧を手渡してきた。

 シュウは受け取って、新しい薪を土台に置いた。

 このままさっきと同じようにしても、結果は同じだろう。

(僕とルーツさんで違っているところ。

 筋力、経験、体格・・・)

 シュウはいつの間にか目を瞑って考えていた。

 そんなシュウをルーツは急かす事もなく見守っていた。

(筋力や経験が違うのはどうしようもない。

 体格もだけど・・・

 ルーツさんを見ていて、違和感を感じるんだ。

 体の表面が光ってる?ような時がある気がする)

 シュウはこの敷地に入ってから鬼のようなルーツを常に“観察”していた。

 偶然にも戦う事も考えて集中して観察していた。

(あれが出来ないとルーツさんみたいに“切れない”のかもしれない)

 二度のルーツの薪割りを頭の中で繰り返し再生した。

(斧を振り下ろす直前の溜めの時に一番強く光っていた気がする。

 光っているというよりも、内から出るオーラを纏っているような・・・)

 まるで何かアニメのような表現だが、魔法もある世界だ。

 似たようなものもあるかもしれない。

 シュウは目を瞑ったまま、深呼吸をして自分の体の中を隅々まで観察するように視た。

 そして・・・見つけた!

 胸の中心辺りにルーツが纏っていた赤い光、そしてもう一つ、似たような青い光があった。

 とりあえず、赤い光に集中してみよう。

 光は呼吸に合わせるように、大きくなったり小さくなったりを繰り返している。

 試しに大きくなった瞬間を狙って、目を開き薪に斧を振り下ろしてみた。

 ガッ!

 先程と変わらず、薪は割れず斧は止まってしまった。

 だが、目を瞑って集中せずとも胸の中で光が強くなるのを感じた。

(こ、これは・・・?)

 もう一度斧を振り上げ、薪に下ろした。

 やはり光が強くなった。

 何度か試して光が大きく強くなった事を確認して、再度目を瞑った。

 赤い光に集中しつつ、ルーツのように光が全身を覆うイメージをする。

 すると、光がゆっくりと前進に向けて広がっていくのを感じる。

 シュウは目を瞑って自身に集中していたため気付かなかったが、シュウを見守っていたルーツが驚いていた。

(こいつは・・・?)

 シュウは全身が光を纏ったところで目を開き、斧を振りかぶった。

 一度頭の上で止め、呼吸を整えた後、一気に振り下ろした。

 ガガガッ!

 薪は真っ二つに割れなかったが、半分まで一気に刃が入っていた。

 半分まで刃が入った事に驚きつつも割れなかった事に落胆するシュウだった。

(これでもダメなのか・・・

 あれ?)

 シュウは斧を振り下ろすまで纏っていた光が無くなっている事に気付いた。

 不思議がっているシュウにルーツが声をかけた。

「小僧。名前は?」

「あ、はい。シュウです」

 急に声を掛けられ、ルーツの事をすっかり忘れていたシュウは慌てて名乗った。

「シュウ。

 君は剣気の事を知っていたのか?」

「ケンキですか?」

 急に知らない単語が出てきたので問で返してしまった。

「先程の斧の威力を上げた事だ。

 誰かに教わったりして知っていたのか?」

 先程の赤い光の事を剣気と呼ぶようだった。

「いえ。知りませんでした」

 シュウは首を横に振りながら答えた。

「なら、どうして斧の威力を上げる事ができた?」

 ルーツは知らないと答えたシュウがなぜできたのか知りたがった。

「それは失礼だったのですが、ここに来てからルーツさんをずっと観察していました。

 そうしたら、体が赤い光を纏っているように見えた時があって、薪割りの手本を見せて頂いた時にその光が一際強く見えたので、自分でも出来ないかと自分の中で光を探したんです。

 見つけた光をどうにかできないか試して、何度か斧を振ると光が強くなったように思えたので、全身に広がるイメージをして斧を振ったんですが、半分までしか割れなくて・・・

 これも違うんですね」

 シュウの説明に再度声なく驚いていたルーツは全身から剣気を抑えた。

 シュウは目の前にいた鬼が消え、そこに四十歳を超えた程の男性が立っている事に驚いた。

「君は間違っていない。

 惜しいところまでいってはいたようだ。

 君は剣気に気付き、それを全身に巡らせた。

 惜しかったのはそれを斧まで伸ばさなかった事だ。

 君が気付いたように俺も剣気を全身に纏わせ、そして斧まで覆っていた。

 そこまでできていたら」

 そこで一旦言葉を止め、薪に刺さったままの斧を抜き、同じ所に振り下ろした。

 スパッ!

 「こうだっただろう。

 惜しかったな。

 だが、俺を見ていたと言っても、よく自分の中の剣気に気付き、それを増幅させれたな。

 普通は何日も訓練して剣気に気付き、そこからまた何日も剣気を増幅させる訓練を増幅させる訓練を行うものだ。

 それを知らないところから一度でやってしまうとはな」

 ルーツがシュウに剣気について聞いたのは、以前に訓練していたかの確認だったのだ。

 元の世界ではこんなアニメのようなことはできなかったし、知らなかった。

 ルーツをずっと“観察”していたからできた、偶然の産物だとシュウは思った。

(考え方は間違ってなくて、斧まで剣気で覆う。か・・・)

 シュウは新しい薪を土台に乗せ、目を瞑り剣気で全身と斧を包むイメージをした。

(あ、肝心の剣気がなくなってたんだった)

「気付いていると思うが、今剣気を感じないだろう?

 剣気は増幅させることで先程のように切れ味を上げる等できる。

 だが、一度放ってしまうと剣気は霧散してしまう」

 剣気を使って切れ味を上げるなんて、ますますゲームだな。と、思いつつ、ルーツの言葉を反芻した。

「あれ?ルーツさんは薪を切った後、何もせずにまた切りましたよね?」

 シュウはルーツの言葉だけではなく、動きも思い出していると気付いた。

「これも一つの技術だ。

 奥義と言う奴もいたがな。

 それと、さっきまで俺が全身に纏って幻影を見せていたが、あれも剣気の奥義と言えるな」

「あの、僕が入ってきてからさっきまでのルーツさんのことですが?」

「そうだ。

 何に見えた?

 お前は良く見ていたようだから、見破ってそうだな」

「鬼に見えました。

 あれには、最初びっくりしましたよ。

 ギルドから紹介された家に着いたと思ったら、鬼が仁王立ちしてるんですから」

「ははは。

 すまんすまん。

 久しぶりに新人が来ると連絡があったからな。

 見破られてもいなかったようで安心した。

 俺もまだまだいけるな」

 最初は鬼に見えたルーツからは威圧感もなくなって、シュウは緊張が和らいでいった。

 落ち着いてきた事から疑問が湧いてきた。

「ルーツさんはこんなに強いのに冒険者じゃないんですか?

 本当に薪商人なんですか?」

 これほど剣気を操る技術を持っているのに、薪だけに使うのは勿体なさ過ぎる。

「俺は本当に薪を割って売っている。

 ま、“元”冒険者だ。

 体が資本の冒険者だからな、年には勝てん」

 今の冒険者でこの人より強い人いるんだろうか・・・

「お、信じられんと言った顔だな」

「それはそうですよ。

 さっきの剣気を見せられたあとでは」

 シュウはルーツが嘘をついているとは思ってなかったが、現役でも通用しそうな引き締まった体を見て、ただの薪商人には見えなかった。

「俺が元冒険者で薪を売っているのは本当だぞ。

 ただ、ギルドに依頼を出して、冒険者を寄越してもらっている。

 特に君のように冒険者になったばかりの新人をな」

 なぜ新人を?薪を割るなら剣気を扱える者の方がいいはずだ。

「君は外に出てモンスターと戦った事があるか?」

 唐突なルーツの質問に驚いたが、シュウは昨日のゴブリンの事を思い出し頷いた。

「昨日この街に来る途中でゴブリンに襲われました。

 運よく助けてもらえましたが、自分では何も出来ませんでした」

「そうか。

 無事で何よりだったな。

 そんな君と大抵の新人冒険者はそう変わらん。

 最初は薬草採取等の簡単な依頼しか受けれんことになっているが、街の外では何が起こるかわからん。

 簡単で安全だと思っていても、急にゴブリン等のモンスターに襲われることもある。

 そして、経験を積んだ冒険者ならともかく、新人の冒険者だと上手く逃げれれば良いが、下手をすれば命を落とす」

 真剣に話すルーツの言葉にシュウは無意識のうちに唾を飲んだ。

「ギルドにいるとそう言った時の救助要請が来ることがある。

 だが、助けが間に合うのは稀な事だ。

 俺も何度か助ける事が出来たが、出来なかった方がずっと多い」

 ルーツの顔には悔しさと悲しみが現れ、手は握り締められ白くなっていた。

「そんな新人を少しでも減らそうとな、冒険者を引退した後、ギルドに依頼を出して、来た新人に剣気や武器の稽古をつけてやってるんだ」

 そこまで聞いてシュウはサーシャがこの依頼を強く勧めた理由が分かった。

「どうだ?シュウ。

 ここで剣や剣気を学んでみないか?」

 願ってもない話だった。

 シュウは頼みたいぐらいの話に頭を下げた。

「ぜひ、よろしくお願いします。

 実はさっき話したゴブリンから助けて貰ってから、自分も強くならないと、と思ってたのですが、具体的な事を考えてなくて、そこをギルドで指摘されてしまって。

 そして、ルーツさんの依頼を紹介されて来たんです。

 お願いします。僕に戦い方を教えてください」

 頭を下げたシュウの顔の前にルーツの右手が差し出された。

 顔を上げてルーツを見ると優しく笑っていた。

 シュウは差し出された右手を掴み握手を交わした。

軽い気持ちで気の赴くままに書いた結果がこれです。

前書きにも書きましたが前半は深く考えずにお読みください。

説明的な話が続きますが、まだまだお付き合いください。

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