12.歩く道は同じでも
暫く頭をティアリスに抱かれていたシュウだったが、涙も止まり、落ち着いて冷静になってくると、今度は女性に抱かれている状況に恥ずかしさが込み上げてきた。
目の前の見た目以上にある柔らかい胸に顔が熱くなるのを感じる。
善意でシュウを慰めてくれているティアリスを突き放すこともできず、どうしたものかと狼狽する。
が、泣き止んでから何時までもこのままでいるわけにもいかず、意を決してティアリスの腰に手をやり、顔を上げつつゆっくり押した。
「あ、ありがとう。もう大丈夫」
恥ずかしさから声が上擦ってしまい、余計にティアリスの顔を見ることができなくなってしまった。
「そ、そう?
大丈夫になったのならよかったです」
と、ティアリスも平然を装おうとしているが、実は、途中から自分の大胆な行動に気づき、羞恥心に苛まれていたが、自分から行動を起こしており、さらに傷ついている少年を突き放すこともできなかったのだ。
立ち直って優しく自分から体を離してくれたシュウにティアリスはほっとしつつも、こちらも恥ずかしさで顔を上げることができなかった。
そんな青い二人を溜め息を堪えつつ見つめている狼人族が独りいた。
それからまた暫くして、二人が落ち着いた頃合いを見計らってアロンが街に向かおうと提案した。
ここは街に向かう道の上だが、モンスターの勢力圏だ。
アロンは周囲に注意を払っていたが、何時までもここに留まるのは危険だった。
シュウに自分達はあの見えてる街に向かうつもりだと告げると、シュウもそうだと返して街まで同行させて欲しいと頼んだ。
そして、揃って街に向かうことになった。
「そういえば、シュウさんの格好は見慣れないものですし、ゴブリンを初めて見たって言ってましたが、どこから来たんですか?
ゴブリンってどこでもいそうですが」
街に向かう道中、ティアリスがシュウに尋ねていた。
(当然の質問だよな。
こんなとこ一人でいて、モンスターに追われて。
どう答えたらいいかな。
素直に勇者召喚で異世界から来ました。なんて言えないし)
言っても信じてもらえないだろうし、トラブルに巻き込まれそうだと異世界から来た事は伏せるとして、どう説明したものかと悩む。
「実は大きい声では言えないのですが、ずっと山奥にある小さな村から出て来ました。
周りのモンスターは強い大人が倒してくれていたんだと思います。
周囲との交流の無い閉鎖的で家族もいないし、何も無いところが嫌で出てきたんです」
こんな説明は苦しいか。怪しまれるかな。
と、言った後で焦るシュウだったが、
「そうなんですね。大変だったでしょうね」
「うむ。よく無事だった」
と、逆に二人に無事を喜ばれてしまった。
シュウは後で知った事だが、この国は現在、魔族と戦争をしているが、国内でも貴族同士の小競り合いが起こっているし、魔族と戦争になる前には周囲の仲が悪い国とも戦争になっていた事がある。
そんな時代には、敗残兵や街や村を潰された者達が逃げ延びて隠れ住んでいても不思議ではなかった。
二人はシュウがそんな隠れ里から出てきたと思ったのだ。
そんな事情を知らないシュウだったが、二人があまり追求しない方がいいと考えたお陰で助かっていた。
「途中で道に迷ってしまって、あの街が見えたので向かっていたら、さっきのゴブリンと鉢合わせしてしまって、それで逃げていたんです。
その節は本当にありがとうございました」
と、再び礼をを言うシュウに、
「いえいえ。偶然通りかかって、間に合ってよかったです」
と、ティアリスが返した。
「お二人は、ずっと旅しているんですか?
その途中であの街に?」
シュウは自分も聞かれたので二人に尋ねてみた。
二人は一瞬目を合わせ、すぐにアロンはシュウに向き直り答えた。
「俺達はずっと一緒ではない。
俺は冒険者で仕事の関係でティアの村の近くまで行っていた。
その仕事が片付いて、その村まで行ったんだ。
ティアの両親は元冒険者で俺の仲間だった。
その二人に会いに行ったんだが・・・
そこで、ティアにあの街まで連れて行ってほしいと頼まれてな。
仕事の報告も兼ねて向かっているところだ」
アロンの説明を聞いて、元の世界のゲームでよく聞いた"冒険者”と言う単語に興味を引かれ、後でどんな事をするのか聞いてみよう心に留めた。
「ティアリスさんはあの街でなにをするんです?
買い物や何か名所があって見に行ったりするんですか?」
ティアリスのような若い女性が街に出掛ける理由が、元の世界と異世界で違ったりするのかな~と暢気に考えつつ、ティアリスに尋ねた。
「・・・・・・」
ティアリスの返答がない事が気になり目を向けると、彼女は俯いて表情を窺うことができなかった。
「・・・ティアリスさん?どうかしました?」
俯いているティアリスの顔を無礼を承知で覗き込もうと思った時、
彼女の顔が持ち上げられた。
そして、シュウに向けられた眼には先程は無かった強い意思が込められていた。
「・・・私があの街に行くのは・・・
冒険者になって
強くなって
ある”魔物”を探し出しー」
シュウは少女の眼に宿った強い意志と、さっきまで纏っていた優しい雰囲気からは信じられない冷たい空気に背筋が凍る思いだった。
「-殺すことです」
少女は最後の一言を発すると、再び俯いてしまった。
シュウは少女からアロンに目を向けると、表情が読み取りづらい狼の顔から悲しげな雰囲気があるような気がした。




