105.初めての馬車
馬車って有名だけど乗る機会ってないですよね
ルーツに馬車に乗せられて宿に向かっている。
思えばこの街に来て馬車を見かけることはあったが、実際に自分が乗ることは無かった。
地球では自動車が当たり前に走っていて、馬車はテレビやアニメの中で見るぐらいだった、
なので知識としては知っているが、生きてきて初めて馬車に乗ったことになる。
「初めて馬車に乗ったんですが、思ったよりも揺れずに静かなんですね」
馬車の窓から物珍しそうに外を眺めながら向かいに座るルーツに尋ねる。
「この馬車は特別性だからな。
国の王族が乗る馬車にも使われる技術を使っている」
珍しくルーツが自慢気に話している。
「そうなんですね!
外から見たよりも中が広いのも特別な技術何ですか?」
「ああ、それはこの馬車だけだな。
たぶんだが。
他にもあるかもしれんが、聞いたことは無いな」
「……なんでそんな馬車持ってるんですか?」
他の馬車にも使われていない技術が使われた馬車を持っている理由がわからず尋ねてしまう。
「この馬車はな、俺達がまだ現役の冒険者だった頃に移動するために作った馬車なんだ。
せっかく乗るなら快適を求めたいとか言い始めてな……。
魔術師連中がいろいろ魔術的な改造を施してこうなった……」
昔を思い出しているのかルーツが遠い所を見つめるようにしている。
心なしか目が虚ろだ。
「街の間を移動するのに何日もかかるからその間野宿したくないって言いだしたやつがいてな。
魔術師連中が空間魔術の研究も兼ねてこの馬車の中を広げやがったんだ」
「あー魔法鞄みたいな感じですか?」
ルーツの説明でピンときたシュウが閃いたことを口にするとルーツが驚いた顔をした。
「ああ、そうだ。
さすがあいつらが教えていて面白いというだけのことはあるな。
あいつらもとっかかりは魔法鞄の応用だと言っていたな。
さすがに魔術の事は専門外だからは詳しくは理解できなかった。
今度聞いてみるといい。
喜んで教えてくれるだろう」
「そうします!
でも中が広いのは広いですけど、パーティ全員が中で寝るのには狭いですよね。
男性陣はさすがに外で寝てたんですか?」
馬車の中を見渡してシュウが呟く。
外から見た馬車は地球の車と同じぐらいの幅なのに、中は大人が横に五人並んで座れる程広い。
後で聞いたところによると馬車の幅は基準が決まっているらしい。
「普通はそう考えるよな。
男なら見張りも兼ねて外で寝られる、と。
それをあの連中はよしとしなかったんだ……」
ルーツが溜息と共にまた虚空を見つめる。
「馬車の広さを変えれる機構を考え出してな……。
広さを変えるというか、別の内装の空間に繋げるというのか……。
詳しいことは俺もさっぱりだが、中を屋敷並の部屋に変え寝ることも食事をすることもできるようにしたんだ……」
「……そ、それはすごいですね」
溜息が増えた気がするルーツを見てるいると返す言葉が見つからなかった。
「こんな馬車だからな昔あるクエストの道中にとある国の王女を乗せたんだが、えらく気に入られてしまってな。
譲ってくれとせがまれて大変だった」
虚ろだった目がさらに虚ろになった。
「あいつら作ったはいいが後の事は考えてないからな……。
王女に自慢気に話しておいて、譲れと迫る王女を窘めるのは俺に押し付けやがった……」
当時を思い出したのか、がっくりと頭を垂らして俯いてしまった。
「……大変だったみたいですね」
もうそう言うしか言葉が出ない。
「大変だったなんてものじゃないぞ。
元々冒険者になりたいと言って城を飛び出した王女だったからな。
やんちゃが過ぎて暫く冒険に付いても来た」
「え?
王女様がパーティに?」
思いもよらない所でルーツの過去の話が聞けた。
今まで戦いの事などは聞いたことはあったが、このような冒険譚は聞いたことが無かった。
「ああ、特別な依頼の間だけの一時だったがな。
王女の護衛も兼ねての冒険だったが、それなりに楽しくもあったな。
城に戻りたくないのもあって、俺に嫁ぐと言い出した時は困った」
いつもは怖いくらいにクールな表情しか見ないルーツがこのような表情を見せるのもあり、ファンタジー小説にありそうな話に目を輝かせて聞くシュウ。
「それでどうなったんですか!?」
シュウが続きを促すが、そこで馬車のドアが開く。
ドアの外から執事が恭しく一礼をして、
「到着しました」
と、伝える。
いつの間にか宿に到着していたようだ。
(馬車が減速したのも止まったのも気が付かなかった)
「アレは?」
いつもの顔に戻ったルーツが執事に尋ねている。
「万事整っております」
「結構だ」
「?」
二人のやり取りについていけてないシュウだけ疑問符を浮かべていた。
「では降りてみんなに説明といこうか」
ルーツがシュウに向かって言うと馬車から降りていった。
ルーツがシュウを連れて宿に入るとビアンゼが出てきて、そこにいたルーツに驚いていた。
先にフランが来ていたようで食堂に通される。
そこではフランがクランの容態を真剣な顔で診ていた。
食堂にみんなが集まっているのを確認するとルーツが昨夜の襲撃の件について、シュウと短剣のことについて説明し、頭を下げて謝った。
そして、詫びといって壊された宿の修繕を受け持つと言い出した。
ルーツが指を鳴らすとどこから現れたのかわからないがルーツの屋敷で見た事のある使用人達が並んでいる。
ビアンゼが断るのではないかと思っていたのだが、ため息と共に、
「断っても無駄なんでしょうね」
とルーツに呟いて、ルーツが頷き返すという一幕があった。
「この者達に建物の修繕のついでに手を入れたいところも言っておくといい。
費用は全て私が持つ。
ちなみに断ってもこの者達には最善を尽くすようにといってあるのであしからず」
それを聞いたビアンゼがブルリと身を震わせた。
「ではビアンゼはこの者達と打ち合わせを。
そして他の皆にも迷惑をかけてしまったこともあり、この宿の修繕が入るので暫くうちで預かろうと思う」
シュウは事前に聞いていたので大丈夫だったが、シュウ以外の宿のメンバーはルーツの言葉を聞いて上手く呑み込めないようだった。
「ちょっとルーツさん、うちでってルーツさんのお屋敷にですか?」
一早く復帰したビアンゼが代表して声を上げる。
「そうだ。
時間はあるので暫く滞在できる用意をしてほしい」
「ちょちょちょ待ってください。
何もそこまでしてもらう訳には……。
宿だって壊されたのはベッドや布団ぐらいで、ここに居ながらでも修繕できる範囲ですし……」
ビアンゼもさすがに納得ができないようでルーツに食い下がったが、
「あなた、ちゃんと説明しなきゃ皆さん困ってしまいますよ。
あなたの隠し事で今回みなさんにご迷惑かけたのですから、隠し事は無しにしましょう」
横からクランを診ていたフランが口を挟んだ。
「む、むぅ……」
フランの言葉に初めてルーツが口ごもる。
「この人は皆さんを案じているのですよ。
この人の指示でシュウさんが短剣を囮にしましたが相手の動きが早くて、皆さんに被害が出てしまった。
そして、短剣が偽物だとわかると相手は再度襲撃に来るかもしれません」
「あ……」
今回の襲撃で終わりだと思っていたが、たしかに短剣が偽物だとわかれば、いや絶対にばれるだろう、そうすればたしかに再度ここに襲撃が来るだろう。
「そうなった時に、今度は皆さんをお護りしやすいように私達のお屋敷に迎えようと、そういうことですね?」
フランが確認するようにルーツに向けて視線を送る。
「う、うむ」
さすが夫婦なだけあってルーツのことがお見通しのようだ。
「ですが、今度は皆さんが危険に……」
件の短剣を持つシュウがルーツに言いよるが、
「シュウさん、この人や私なら大丈夫ですわ。
それに、一番危険なのは短剣を持っていたと知られているあなたです」
フランが手をシュウにかざして言う。
「あなたがこの街にいる間を私やこの人に護らせてくれませんか?
あなたも知っていると思いますが私や夫や屋敷の方々は余程の賊でない限り遅れを取ることは無いでしょう。
それとも夫や私や私達に仕えて下さっている方々が信用できませんか?」
フランがシュウを諭すように言葉を並べる。
「でも、元はと言えば僕が短剣を持ち帰ったのが……」
シュウが視線を落としながら呟く。
「それを言うなら、シュウさんを巻き込んだのは私だわ」
俯くシュウの横にティアリスが並んで声を上げる。
「あー、こうなったら誰に責任があるとか面倒だ」
厳しい顔をしていたルーツが頭を掻きながら口を開いた。
屋敷でのいつもの硬い口調から親しみのあるフランクな口調になっている。
「短剣の偽物を作って敵をおびき出す作戦が失敗したんだ。
その指示をしたマルクと俺が全部とは言わないが責任をとる。
とりあえずみんなを護らせてくれ!」
真剣な目をしたルーツのその言葉には否やを言わせない気が込められている。
「シュウ。
ルーツさんがこうなったらどうあっても折れない。
お言葉に甘えて厄介になろう」
諦めたような口調でビアンゼがシュウに言う。
「で、でも……」
それでも納得しないシュウに、
「これはお前の為だけではない。
全員の事を考えろ」
ルーツがシュウを見つめて言う。
「お前がパーティのリーダーなんだろう?」
その言葉にシュウはハッとなり、そして周りを見る。
みんながシュウを見ていた。
さも、シュウの意見に従うように。
(僕のパーティはクランとリンだけなはずだけど、ティアやビアンゼさんやリームちゃんも僕を見ている……)
「わかりました。
お屋敷に暫くお邪魔します」
シュウはルーツに向き直ると、厄介になることに頭を下げた。
「おう。
任せておけ」
ルーツが全員を見回して了承する。
そして、最後に
「これからはうちでいつも以上に修行できるな」
その言葉にリーム以外の宿のメンバーは固まるのだった。
100話も過ぎ冒険もせずにダラダラと長続きしている二章でしたが
この話で終わりです
次の話から新章と行きたいところですが
幕間が入ります
そして、章タイトルを変えました
二章で書きたかった事をにおわせるタイトルにしてたのですが
そこまでいかないでダラダラとしてしまった為にタイトル変更です
なので次の章のタイトルに回ります(笑)
長々と二章にお付き合い頂きありがとうございました
それではいつもの
ここまで読んで頂きありがとうございます
皆様の空いた時間を埋めるお手伝いができていれば幸いです
上にも書きましたが次は幕間になります
話が続いてるわけでもないので
興味のない方は新章でおあいしましょう!
それではまた~
ワクチン接種で来週辺り書けるかな~?




