妖精
妖精族の国は首長国で、代々二つの民族で交代に毎年首長を出している、ちょっと変わった国だ。
しかしここ数百年は争い、暴動、戦争も無く、平和な国の象徴とも言える。
この国の民族は非常に個性的で、一目見ただけで何方か判るようになっている。
一つの民族が羽妖精という民族で、小人サイズの人々だ。
彼らは背中に蝶のような透明な羽が生えている。
また性格が明るく、おおらかな者が多いらしい。
その羽は『幸運の力』を授けられた証として、彼らはその羽に誇りを持ち、命の次に大切なものとしている。
そしてもう一つは僕たちが森で出会った二人のような竜妖精と呼ばれる民族だ。
彼らは耳が尖っていることが特徴で、それ以外は僕たち人間と何一つ姿は変わらない。
性格は冷静沈着な人物が多いらしく、全体的に博識に富んでいるらしい。
フェアリーが『幸』ならばエルフは『不幸』を司る妖精と言われている。
代々『不幸のドラゴン』を唯一抑えられる民族として、やはり彼らも誇りを持っていた。
「ま、その不幸のドラゴンがエルフの管理してた洞窟から出て行っちまったから、今はこの国も大慌てしてるのさ。………つっても、ドラゴンは『龍の巫女』が一人で管理することになってるから、殆どそいつのせいって言えばそいつのせいって話になるはずなんだが…」
首都へ繋がる道の中で、ウェルドは簡単に今この国で起きていることを教えてくれた。
「その巫女様も現在は攫われた身。ドラゴンを押さえつける手立てがなくなって流石のエルフも頭を抱えているらしい」
「へぇ…それはまた大変そうなことで」
「おいおい、他人事みたいに言ってるけど、俺たちメンシュにだって十分関係あるんだぜ?」
因みに僕達は民族で言うと人と言うものに分けられるらしい。
まぁ、見た目が特徴のないただの人間なだけだから、特にこれと言った説明はしない。
「問題ないでしょ、どうせ退治できるわけだし」
「ん?何か言ったか??」
聞こえない程度の呟きに反応したウェルドに「何でも無い」と返した後、「じゃあ僕達にはどんな影響があるの?」と聞いてみる。
「そりゃあ…………不幸なことが起きたり…」
「日常的に不幸なことってない?」
「そうじゃなくて、もっとこう…でっかいやつだよ!隕石落ちてきたり!あー!!わかんねぇ!!!」
「煩い」
「わ、悪い」
大声に向けられた視線が痛い。
どうやらこいつはこいつのモデルと同じで声が馬鹿でかいのは変わらないようだ。
――モデルといえば……
ふと先ほどであった二人を思い出す。
――あの二人…やっぱり元いた世界にいたやつとソックリだった…しかもあの少女の方は……………
一瞬脳にちらついた少女の面影を必死に振り払う。
――駄目だ、忘れると決めたじゃないか
「…ーい?聞いてるかシオン?」
「……え?あぁ、悪い、聞いてなかった」
「ボーッとしてたけど大丈夫かよ?熱あんのか?」
「すぐ熱に持ってくあたりもホント似てるわお前ら」
「え?誰と?」
「何でも無い」
話題を変えようと近くにあった店に目を向けた時だった。
「え…………」
思わず目を疑う。二度見したけどやはり何も変わらない。
「ん?どうし――んぁ?!これっ…さっきの!!」
こればかりはウェルドの反応も過剰なものとは言えない。
だってそこには先程あった青年と少女の顔が、細かな特徴と共にポスターとして貼りだされていたのだから。
「あの女の子…行方不明者って…しかも今の首長の次女って…龍の巫女じゃねぇか?!」
「青年の方は少女を攫った容疑がかかってるみたいだね。お尋ね者ってことか」
「くそっ!まじかよ!捕まえときゃよかったな!!国の使いかって聞いてきたのはそういうことか!!」
「落ち着けよ。後悔したって仕方ない」
――それに…何か引っかかる
「キキッ?」
僕の思考が透けて見えたのか、肩にいたリスは顔色を窺うように覗き込んできた。
「夕暮れも近いし、宿をとらない?余り遅くなると野宿になるんじゃない?」
「それもそうだな。…でも惜しかったな〜……」
まだ言うかしつこいぞ。
ネチネチと引きずるウェルドを横目に見ながら、安い宿を見つけた僕らはすぐに床に就くのだった。