奇態
目が覚めた後の僕の周りの現状について、ちょっと話してみようか。
空は泉のように澄み、憎たらしいほど透明な青空。
足元は草原。
見たこともない、幼稚園児が描くような花弁を持った、目に五月蝿いビビットカラーの花が「私を見て」とばかりに咲き誇っている。
そして点々と存在している大きな木は、淡いガラスのような七色を持つ葉を、春に吹くような風に踊らせていた。
何だこれは。夢にしたって世界観が幼稚すぎるだろう。
しかしもっと愕然──否、呆れたのは、自分の服装だった。
紅よりももう少し黒が混じったような、くすんだ色の赤をベースにしたジャケットと襞のないスカートには、所々に金色のラインが引かれている。
丈の短いジャケットの中にはブイネックの黒いノースリーブシャツ。
手には指ぬきのグローブがハメられていて、随分と厳つい。
クロスのベルトもブーツも頭にかけられたゴーグルも、RPGゲームの登場人物を彷彿とさせる。
たった一つだけ、無駄に現実的な物があるとすれば───
「……………多分、本物だよな…」
呟きながら、真っ黒な拳銃を目の前まで持っていった。
金の装飾が光を反射するその厳つい銃は、しっかりとした重みを僕の手に伝えてくる。
慣れない手つきで慎重に実弾を確認すると、虹色の光沢を放つ先端の鋭い弾がきちんと嵌められていた。
───…おいおいおいおい…冗談だろう…?
今の顔が嫌というほど歪んでいるのは、鏡なんて見なくても自覚している。
───…確かに………
確かに、僕は変わり者だ。
幼い頃のある日を境に、物語に耽り、空想を膨らませ、それを表現するために、音楽、美術、文章等の、あらゆる手段を用いてきた。
それなりに、いや、──自分で言うのも気が引けるが──かなり、芸術面には自信があった。
だが余りのその熱の高さに周りの人間は一部を除いて『変わり者』の僕から離れて行き、解ってくれる者はいても解ってくれる者なんて一人もいなかった。
そしてその言い表せない虚無感を昇華すべく、何度も何度も自分が創りだした物語に全身を浸らせていた。
そう、時には何も無い空中に自分のキャラクターを想像して話しかける程に…………
だから、そう、何が言いたいかというと僕は変人で、空想癖が酷く救いようがない人間なのだ。
でも、そう、でも……だ。
「こんな……こんな幻覚まで見るほどに…現実逃避を極めた覚えはなぁああああい!!!!!!!!!!」
雄叫びを上げると、風が嘲笑するかのように僕の頬を撫でていった。
「……嘘だろう?」
流石の僕だって混乱はする。
目の前が暗くなる感覚を抑えられないまま、目眩に任せてその場に尻から寝転がった。
───僕はこれからどうなる?どうしていけばいい?
額に手を当て、目を瞑り、思考の海にその身を投げ出した。
恐らく、今僕がいるこの場所は、僕の知っている腐った世の中とはかけ離れた場所なのだろう。
この現実味のまるでない、世界の法則を無視したような光景がそれを物語っている。
此処は、幼い頃、一度は夢見る魔法の世界。
それに近いものだろう。
しかし何故こんな所に来たのか、正直全く覚えていない。
何せあの時、走っている途中から目の前が白くなって、いつの間にか意識を手放していたのだから───
「待てよ?」
そこまで来てやっと、僕はあることを思い出した。
「あいつは…何だったんだ?」
儚く微笑みかけ、声だけで僕を招いたあの少年は、何者だった?
確かあいつも、非現実的な格好をしていたはずだ。
「…これ、突破口?」
口がそう呟いた刹那、カッと目を開いて素早く立ち上がると、僕は直感だけを頼りに道のない道を歩き始めた。
勿論合ってるかなんて判らない。
だが足を進めない限り、野垂れ死にするだけだ。
「もし間違ってたら──…?……その時はその時さ」
一回だけ声に出して自問自答をすると、どこからか不思議と力が湧いてくるのだった。