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空想郷回顧録  作者: 眞汐 あこや
現実の章
4/12

奇態

 目が覚めた後の僕の周りの現状について、ちょっと話してみようか。


空は泉のように澄み、憎たらしいほど透明な青空。


足元は草原。

見たこともない、幼稚園児が描くような花弁を持った、目に五月蝿いビビットカラーの花が「私を見て」とばかりに咲き誇っている。


そして点々と存在している大きな木は、淡いガラスのような七色を持つ葉を、春に吹くような風に踊らせていた。


何だこれは。夢にしたって世界観が幼稚すぎるだろう。


しかしもっと愕然──否、呆れたのは、自分の服装だった。


紅よりももう少し黒が混じったような、くすんだ色の赤をベースにしたジャケットと襞のないスカートには、所々に金色のラインが引かれている。


丈の短いジャケットの中にはブイネックの黒いノースリーブシャツ。


手には指ぬきのグローブがハメられていて、随分と厳つい。


クロスのベルトもブーツも頭にかけられたゴーグルも、RPGゲームの登場人物を彷彿とさせる。


たった一つだけ、無駄に現実的(リアル)な物があるとすれば───


「……………多分、本物だよな…」


呟きながら、真っ黒な拳銃を目の前まで持っていった。


金の装飾が光を反射するその厳つい銃は、しっかりとした重みを僕の手に伝えてくる。


慣れない手つきで慎重に実弾を確認すると、虹色の光沢を放つ先端の鋭い弾がきちんと嵌められていた。


───…おいおいおいおい…冗談だろう…?


今の顔が嫌というほど歪んでいるのは、鏡なんて見なくても自覚している。


───…確かに………


確かに、僕は変わり者だ。


幼い頃のある日を境に、物語に耽り、空想を膨らませ、それを表現するために、音楽、美術、文章等の、あらゆる手段を用いてきた。


それなりに、いや、──自分で言うのも気が引けるが──かなり、芸術面には自信があった。


だが余りのその熱の高さに周りの人間は一部を除いて『変わり者』の僕から離れて行き、解ってくれる(肯定する)者はいても解ってくれる(理解してくれる)者なんて一人もいなかった。


そしてその言い表せない虚無感を昇華すべく、何度も何度も自分が創りだした物語に全身を浸らせていた。


そう、時には何も無い空中に自分のキャラクターを想像して話しかける程に…………


だから、そう、何が言いたいかというと僕は変人で、空想癖が酷く救いようがない人間なのだ。


でも、そう、でも……だ。


「こんな……こんな幻覚まで見るほどに…現実逃避(空想癖)を極めた覚えはなぁああああい!!!!!!!!!!」


雄叫びを上げると、風が嘲笑するかのように僕の頬を撫でていった。


「……嘘だろう?」


流石の僕だって混乱はする。


目の前が暗くなる感覚を抑えられないまま、目眩に任せてその場に尻から寝転がった。


───僕はこれからどうなる?どうしていけばいい?


額に手を当て、目を瞑り、思考の海にその身を投げ出した。


恐らく、今僕がいるこの場所は、僕の知っている腐った世の中とはかけ離れた場所なのだろう。


この現実味のまるでない、世界の法則を無視したような光景がそれを物語っている。


此処は、幼い頃、一度は夢見る魔法の世界。


それに近いものだろう。


しかし何故こんな所に来たのか、正直全く覚えていない。


何せあの時、走っている途中から目の前が白くなって、いつの間にか意識を手放していたのだから───


「待てよ?」


そこまで来てやっと、僕はあることを思い出した。


「あいつは…何だったんだ?」


儚く微笑みかけ、声だけで僕を招いたあの少年は、何者だった?


確かあいつも、非現実的な格好をしていたはずだ。


「…これ、突破口?」


口がそう呟いた刹那、カッと目を開いて素早く立ち上がると、僕は直感だけを頼りに道のない道を歩き始めた。


勿論合ってるかなんて判らない。


だが足を進めない限り、野垂れ死にするだけだ。


「もし間違ってたら──…?……その時はその時さ」


一回だけ声に出して自問自答をすると、どこからか不思議と力が湧いてくるのだった。

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