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空想郷回顧録  作者: 眞汐 あこや
空想郷の章
11/12

追求

二人を見つけるのは意外と簡単だった。


森で囲まれているこの国は姿を隠すにはとても便利だが、逆を言えば森を探せば見つけられるのだ。


…いや、案外シナリオに沿わせるための必然的な運命だったのかもしれないが。


「あぁ!!昨日の!!」


しかし意外なことだったのは、向こうから声をかけてきたことだ。


こちらに気付いた少女は、目に涙を溜めながら僕たちに縋りついてきた。


「お願いします!!バートを助けてください!!このままじゃバートは…!!」


「おいおいおい…いきなりなんだっていうんだ…」


「随分急な展開だね…」


「急いで急いで…!!」


無理やり僕の腕を引っ張りながら少女が案内した先には、足を投げ出した状態で苦しげに地面に座っている青年がいた。


肩で息をしている彼は、痛みに集中しているのか俯いたままこちらに気付いていない。


「っ…酷い怪我だな。包帯が意味を成してないじゃないか」


彼の右足に巻かれた包帯は、既に広範囲に血が滲んでいる。


少女が涙を浮かべたのもこれを見れば解る。


僕が目の前まで近づいて、やっと彼は僕達に気がついた。


「?!…昨日の方ですか…恥ずかしい所を見られちゃいましたね」


気丈に振舞っているが、顔色は明らかに悪い。


脂汗をかいているあたり、相当無理をしているに違いないのだ。


「ウェルド、さっき見かけた小屋、無人だったよね?埃だらけで蜘蛛の巣張ってたし」


「ん?あぁ、そうだな。…よし、とりあえずあそこに運ぶか。こりゃ話も何もないしな」


「僕は薬買ってくる。お金頂戴」


「これくらいありゃ足りるか?」


僕は金貨を数枚貰うと、無言で頷いて街まで走った。


♤♡♢♧


 「助かりました…ありがとうございます」


痛み止めも含まれていた傷薬の威力は凄まじく、傷こそ塞がりはしていないが、もう先ほどのような切羽詰まったような表情は青年から感じられなかった。


「いやいや。しかしひっでぇ怪我したなぁ。モンスターに襲われたのか?」


ウェルドの問に、バートは「ははは」とやんわり笑った。


「僕がお尋ね者なのは、国の首都に入ったなら知っているでしょう?お国の兵に弓で射られたんですよ」


あっさりと自分がお尋ね者であることを認めた青年は、それよりもっと淡白に怪我の原因を語った。


「い、射られた?!ちょっと待て、この国の規則じゃ、人に武器を向けるのはもう法に触れる行為だろう?!」


「罪人に人権がないのも、またこの国の定めたことですよ」


どうやら彼は全てを覚悟の上で自らお尋ね者となったようだ。


――にしても、ホント似てるな…気持ち悪いくらいだ……


少女だけじゃない。この青年も、やはり性格から何まで本当にそっくりだ。


居心地の悪さから、自然に口数は減っていた。


「俺らのこと、警戒しねぇのか?」


「…………………………………そうですね…」


フッと一旦考え込むように俯いた彼だったが、すぐに顔をあげて穏やかな笑みを湛えた。


――あ、くる


前の世界でこの青年のモデルをしてる人間をよく知る僕は、直感的にこの後来る寒気に身構えた。


「足はダメでも、手は動きますから…ね?」


草原に吹き抜ける風のように爽やかな笑顔からは想像もできないその言葉の真意は、完全に質問者であるウェルドの心臓を氷の手で鷲掴みにした。


いくら鈍感な彼でも直感的に悟ったのだ。この男は危険だと。


――…あぁ、やはりあいつがモデルなだけはある。でもまだ本気出してないな


「バ、バート!!!」


「冗談ですよ」


「ははは」と再び軽やかに笑っているが、割と洒落になっていないぞバート青年。


目の前のバカ勇者は完全に固まってるじゃないか。


「…それだけそこにいる女の子が大事なのはよく解ったよ」


仕方がないので口を開くと、青年は真剣な眼差しを僕に向けた。


「えぇ。僕達にはやらなくてはいけないことがありますから」


「やらなくてはいけないこと?」


氷が溶けたウェルドがバートの言葉を口に出して反芻した。


「はい」


「それはドラゴンに関することか?」


「はい」


「……なら、話がある。俺達はそのためにお前たちを探してたんだ」


ウェルドはその場にあった椅子を持ってくると、バートの正面に座った。


「ドラゴンについて教えてほしい。全部じゃなくてもいい。少しでも何か教えてくれんなら、あんたらのことを国に黙っててもいい」


「…もし何も話さなければ?」


「国に突き出す。俺だって一応メンシュの騎士として使いに出された者だからな」


ほぼ睨み合いのように対峙する男二人を見ていると、不意に少女が青年に話しかけた。


「バート…この人たち、きっと悪い人じゃないわ。だって助けてくれたじゃない」


「フィーラ様………今の貴女は、貴女が思う以上に無防備なんです。お願いですからもう少し警戒心を――」


バートが言い切る前に、フィーラは僕たちに向き直る。


「お話します。私が知っていることは、全て」


「フィーラ様?!!」

「本当か?!」


「ただ――」


彼女は一旦間をおいて、再び口を開いた。


「絶対に、ドラゴンを退治ないでください。これだけが条件です」


「…………………解った。条件を飲む」


ウェルドはまだ納得しきっていない様子で答えた。


沈黙の中、リスだけがその場をくるくると(せわ)しなく走り回っていた。

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