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空想郷回顧録  作者: 眞汐 あこや
空想郷の章
10/12

疑問

 ――本当にここがあの物語の世界なら……


宿の部屋で、僕は本とペンを片手に物思いに(ふけ)っていた。


「キキッ………?」


白いリスは僕を心配そうに見つめるが、生憎それを構ってやれるほど、僕の心に余裕はない。


――…仲間になるのは、多分あの少女だ……間違いない


何故すぐに断定できるのか。理由は簡単だ。


物語を作ったとき、僕は幼いながらに、ちゃんとキャラクター 一人ひとりにモデルをつけていた。


主人公・ウェルドのモデルは翔馬。

幼馴染で身近だったのと、僕がこの時唯一仲が良かった男友達だったからだ。


二人の仲間のうちの一人は自分。

正直自分を主人公にしなかった当時の自分は余程謙虚だったと思ったが、考えてみればこの手の話は男が主人公でないと映えないのも事実だ。

恐らく無理矢理入れようとした結果だろう。


そして最後の仲間、あの少女のモデルが――


「……來奈…」


思わずポツリと声に出して名前を呼んだ。


あの顔は間違いなく、來奈だった。


唯一無二の大親友であった彼女。

たった一人の良き理解者だった彼女。

もう二度と会えないと思っていた彼女。


本来なら強く会いたいと願うはずの相手だが、残念なことに今の僕はそんな心境になれなかった。


別れ方が酷すぎたのだ。


自分でも幼稚だと思えるほどに。


だからこそ、あの少女に会いたいと言えば、嘘になる。


彼女には大変失礼だとは思うが、モデルだっただけに、來奈(あいつ)がどうしても彼女と重なってしまうからだ。


――が、自分が問題視していたのは実はそれじゃない。


いや、勿論個人的にはこちらの方が大事なのだが、ストーリー的には明らかにこの問題の方が優先度は高い。


「何故あいつがいた…?」


あいつとは、あの少女と一緒にいた青年のことだ。


確か、バートと言ったか。


僕の書いた物語では先ほど挙げた三人しか仲間にはならないはずだし、男はウェルドだけなはずなのだ。


「でも僕の知り合いの顔をしてた…………ってことは…………」


これは所謂(いわゆる)お約束というやつだろう。


恐らくあいつも仲間になるのだ。


「何かがおかしい……」


それに、『ニンフェ』といい『メンシュ』といい、『龍の巫女』?といい、知らない言葉がわんさか出てきている。


「何なんだ一体!!!」


物語(シナリオ)通りに進まない現実を前に、僕は頭を抱えた。


そしてリスは僕の側から動かなかった。


♤♡♢♧


 「やっぱ、あいつら追おうと思う」


翌朝、開口一番にでてきたウェルドの言葉に、「ですよねー」と心の中で返した。


予想範囲ど真ん中的中だ。


「何?まだ『捕まえたい欲求』収まってなかったの?」


「ちっちがっ!!違うって!!」


噛んだ辺り、あながち間違っては無いらしい。


「ほら、あいつら『ドラゴンを退治るな』って言ってたろ?何か理由あるはずじゃん?もしかしたら何か知ってるかもってな。結局昨日何も聞けなかったし」


「あぁ、言われてみればね」


リスに胡桃を餌付けしながら、適当にウェルドの話を流していく。


何せこの先の展開、気になる所はあるものの、ほぼ絵本(攻略書)のお陰でネタバレ状態なため、ストーリーをいちいち読む必要は無い。


…駄目だ、いつの間にかゲーム感覚になっている。


「だろ?だから見つけ次第捕ま……じゃなくて、話を聞くんだよ」


「はいはい、話を聞くのねー…っと、もう無いよ。食いしん坊だなぁ」


もっと寄越せと首周りをウロウロし始めたリスを(たしな)めながら、僕はやはり適当に頷いた。


「それならさっさと出なくちゃじゃない?捜索時間は長いほうがいいでしょう?」


「おう!じゃあ行こうぜ」


僕たちは宿の勘定を終えると、国の中でも身を隠しやすそうな場所をピックアップして二人の捜索を始めたのだ。

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