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Back Together  作者: 天野屋 遥か
3/6

Back Together3

「最近、顔色もいいしだいぶよくなってきたよな」


「うん。お兄ちゃん、ほんとにありがとうね」


いつもみたいに病室に妹の顔を見に来た。

重い腎臓の病気で入院している俺の大切なたった一人の家族。

両親は2年前に事故で他界して、俺達だけになってしまった。


今日は仕事は休みだから、面会時間の終了まで一緒にいられる。

穏やかな昼下がり、二人で病院の庭に出た。


「いい天気だね~」


暖かな陽射しで、樹や草の緑がキラキラと輝いている。


「昔、よくこんな晴れた日にピクニックに行ったりしたよね!」


「うん。あれ、楽しかったよな」


「またピクニックにお兄ちゃんと行きたいな!」


思い出を浮かべながら、楽しそうに光のカーテンの中を歩いているお前がまるでベールみたいに射し込む光を纏う。俺に微笑む姿はとても優しくて綺麗で心が洗われていった。


「あーあ、早く退院したいな」


二人でベンチに座る。

ココアを飲みながら、妹がぽつりとそんな事を溢した。


「焦っちゃだめだ。先生も今が一番大切な時期って言ってるんだから…」


「でも、数値もよくなってきてるし…これ以上お兄ちゃんに迷惑かけられないよ…」


「入院費用の事なんかお前が心配することじゃねぇよ。ちゃんと払ってる訳だし…」


決して人から褒められる様な仕事ではないかもしれないけれど、お前のためならそんな事はどうだっていいんだ。


「私、昔からお兄ちゃんに迷惑かけてばっかだよね…ちっちゃい頃もいつも後ついていこうとしては転んじゃってお兄ちゃんに起こしてもらってたし、男の子にいじめられて泣いてたらお兄ちゃんがその子達に仕返ししてくれたり…」


俯いたまま、悲しそうに目を伏せる妹。


「そんなの当たり前だろ?お前は俺の大切な妹なんだから…」


「でも私達は…」


「とにかく、お前は何も心配する事ないって」


俺が元気づけようと頭を撫でるけれど、相変わらず視線を合わせることはなかった。


「さ、病室戻ろうぜ」


そう言うと、無言で立ち上がったコイツはそのまま俺の前を歩いていく。


不意に、強い風が吹いた。


なびく長い髪。


露わになる透明な首筋。


小さな身体は儚く飛んでしまいそうで。

思わず手を伸ばした。

掴んだ手首は細くて、それでもちゃんと温かかった。


アイツは”妹”であって妹でない。

父親の再婚で出来た妹だから。

血の繋がりはなかった。

そして、いつしかずっと一緒にいるコイツを女として意識する様になった。

誰にも言えない想いはどんどん強くなっていくばかりで。

そんな矢先に病気が分かった。

何がなんでも助けたいと思った。

だから、大学を辞めてホストになったんだ。

金が要るから。


愛する女を守るのが男だろ?


その為なら、他の女なんかいくらでも騙して貢がせてやろうと思った。


アイツはそんな事知らない。


…むしろ知られたくない。


彼女は俺が大きな会社のサラリーマンをしてると信じている。

それでいいんだ。

妹の前では自慢できる兄でいたかったから。

男としては愛される事はなくてもそれでいいんだ。



「…あいつは」


それからしばらくしたある日、病院へ向かうと廊下で妹が背の高い派手な男と話をしているのを発見する。

二人で楽しそうにしばらく話した後、男は何処かへ行ってしまった。

スウェットを着て、松葉杖をついている事から入院患者である事は間違いない。

けれど、あの明るい茶色のパーマの髪の毛と隠しきれない派手で浮わついた雰囲気が俺達と同じ世界の住人である事を物語っている。

しかも、どこかで見た事がある…


「あ!お兄ちゃん!」


そんな事を考えていると、俺を見つけて妹が駆け寄ってきた。

この間とはうって変わって元気がよい。


「元気そうだな。なんかいい事あったのか?」


「最近、友達が出来たの!私と同い年の男の子!」


「それってさっき…」


「あ、お兄ちゃん見てたの?さっき話してたの!ミノル君ってゆうんだよ!」


その名前に聞き覚えがあった。

確か、ウチの店のライバル店のナンバー2だ。

顔はイイしトークも上手いらしいけど、女癖が悪いって話。

最近、客の女に刺されたとかで入院してるってウチの店にまで噂が飛び込んできてた。

まさか、この病院に入院してるとは…


嫌な予感がした。


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