栞
古びた机を見つけた。
ところどころ何かをぶつけたような傷があり、全体的に黒くくすんでいた。
私は机の上から二番目のひきだしに手を掛けた。
中に入っているものは知っている。
古いせいか、自分が非力なせいか、ひきだしはなかなか開かなかった。
それでも諦めず、全体重をかけて引っ張っていると
ギュッと高い音がして、ひきだしは開いた。
あたりにホコリが立ち込め、かび臭いにおいがした。
それを肺いっぱいに吸い込んだ私はたちまち咳き込み、その場に倒れ込んだ。
老いた体には少々こたえたか。
そんなことを考えつつ、乱れた息を整え、ひきだしの中を覗いた。
そこには木でできた小箱があった。
パッカンと気持ちのいい音を立てて閉まるお気に入りの小箱だ。
私はそれをそっと開く。
そこには、当時と変わらずに柔らかい光を放つ
ひとつの、栞があった。
よかった。壊れていない。
ほっと胸をなでおろし、そっとそれを手にとった。
ひんやりとしたプラスチックの感触。
私はそれを窓から差し込む光に透かした。
「お前いっつも本読んでるからよ。大事にしろよ。」
ぶっきらぼうな言葉とともに押し付けられた長方形の薄い物体。
本人はガラスだと言い張っていたけど、
私はプラスチックでしょ、とそんな彼を笑っていた。
ステンドグラスのように光を透かすユリの花。
「女は花、好きだろ。お前、なんかユリみてぇだから。」
顔を真っ赤にしながらそう言った彼。
学生帽を深くかぶって顔を隠していたけど、
首まで真っ赤だったものだから、笑っちゃったんだっけ。
「会いたいわ…」
暖かいものが頬をつたう。
意識が遠のく。
今、会いにいくからね。
あなたがくれた栞と共に。