油断と大敵の時
少し長くなったので2つに分けました。続きは近日中に公開します。
やあ、俺の名はクラウン・ウェンステッド。冒険者だ!
最近は冒険者稼業も順調でガッツリと稼ぐ事が出来ている。最初は一日おきに討伐クエと町中のお使いクエを繰り返していたが、最近は討伐クエ3にお使い1の割合だ。
ギルドランクも無事1つ上がった。
そして今日も町近くの森に来ている。この辺の魔物は1撃なので楽なものである。最近は隠形(ハワードに教えてもらった身を隠す技)も特に使わず、解体中に他の魔物に
見つかったら、その魔物も狩ると言った感じで進めていた。何せ1撃なので特に問題も起こらなかった。
そこに油断があったのだ。
今日もいつもの様に狩りを行い、ある程度狩った所だった。特に警戒するまでも無く次の獲物を求めて探していると、何やら圧倒的な気配を感じた。
なにか、大きな生き物にロックオンされた様ないやーな感じだ! 本能がささやている、ヤバいと!
そんな気配のする方へ振り返ると、そこにワーボアに似た生き物がいた。
姿形はワーボアの様な姿だが大きく違う所があった。まずは毛色。毛色が銀色だったのだ。普通のワーボアはイノシシの様な茶色な毛並みなのだが、このワーボア? は
銀色な毛並みで美しい感じだ。そして大きさ! 普通のワーボアより2周りぐらい大きいのだ! 熊みたいにでかいぞ!
そんなワーボア(の様な生き物)がこちらをじっと見つめている。
やばい、来る!
俺は逃げる事が出来ないか考えてみた。目を離さずに。
…無理でした。
どうやらあの魔物は俺を逃がすつもりはないらしい…
『魔法鑑定』を使ってみた。奴の名は『シルバーボア』と言うらしい。まんまやな!
どうやらワーボアのレア種らしい。キュイと同じ様なものか?
ならキュイもあれぐらい… いやいや、そんな事考えている場合ではない!
俺は背中から弓を取り出し構える。
『貫通矢』
俺が持つ弓スキルで強いスキルを放つ。ワーボアとかなら数匹まとめて倒せる貫通する矢だ!
だが、シルバーボアは難なく避けてこちらに突進してくる。どうやら俺の弓攻撃が戦闘開始の合図らしい!
ちっ、難なく避けやがる。しかしさっきの攻撃を避けるとは強いな…
俺は弓をしまって剣を取り出す。
シルバーボアはすごい勢いで突進してくる。多分当たったら死ぬんじゃね?
俺はその突進を避けて剣を振るう。
か、硬い!!
剣の攻撃は毛皮に阻まれ肉まで達していないのだ…
片手でとはいえ、全力で振るったぞ!
俺はシルバーボアの振り返るタイミングを見計らって、魔法を放つ。
『火炎球』
シルバーボアの顔に火の玉が当たったが顔をしかめたのみで大きなダメージにはなっていないようだ。
ちきしょう、防御力も魔法防御力もありやがる。さて、どうするかな…
この後一進一退の攻防が続くが、中々致命打は与えられない。それは相手も同じの様だ。
シールドボアの攻撃は突進と牙を使った突き上げのみだ。それを避けながら振り向き様に『刃波』という剣げきを飛ばす
スキルを撃っても見たがダメージは大きくない様だ。
シールドボアに『火の矢 連弾』も撃ってみたがダメージ自身は与えたが倒すには至らない…
ダメージは与えられるが倒すまでとなると魔力が足らないと思われる。ならば…
俺は今日の行動を思い返しながら、融合魔法を唱えていく。
これが効かなければ本気でヤバいなと考えながらシルバーボアを誘導しながら、呪文を詠唱する事を忘れない。
たしかここだ!
シルバーボアを誘導して中止しながらそこを通り抜ける。シルバーボアも怒りに任せて俺の後をついてくる。
シルバーボアが通り過ぎた時に罠が発動しシルバーボアは動きを止める。ワーボアならこのまま捕まえられるが、
このシルバーボアクラスでは一時的にしか動きは止めれないだろう。
少しの間しか動きを止めれないが、俺にとっては有意義な時間だ!
融合呪文を完成させてシルバーボアに放つ。
『虹の矢』
虹色の矢は真っ直ぐに動きを止めたシルバーボアの眉間に向かって飛んでいった。虹の矢はシルバーボアにそれなりのダメージを与えた。
…だが、倒すには至らなかった。マジか!
魔力はもうほとんど残っていないし、剣や弓では大したダメージは与えられない…
逃げるか? いや、完全にロックオン状態だ! 逃げる事は出来ないだろう。
もし、逃げ切れたとしても町にシルバーボアを引き込む可能性が高い。
どうする?
悩んでいる間にシルバーボアは罠を外しこちらに突進して来た。
俺はそれを避けて躱す。いや、躱したはずだった。だが、シルバーボアの攻撃は俺にかすっていた。
俺は疲れが足に来ていたのだろう。シルバーボアの攻撃はかすっただけなのにかなりのダメージだった。
本気でヤバいな! 先ほどまでのダメージの蓄積で皮鎧はボロボロだ。小手はさすがにまだ大丈夫そうだが、剣も大分痛んできている。
切り札も切ってしまったし、どうする?
シルバーボアはなおも突進してくる。俺はかろうじで避ける。
だが避けた先で躓いてしまう。
シルバーボアは方向を変えてこちらに向かってくる。万事休すか!
俺は目をつむって衝撃に耐えようとした。
……
…
…衝撃が来ない?
うっすらと目を開けると俺の目の前にキュイが現れてシルバーボアの攻撃を耐えていた。
「キュイ!? 大丈夫か?」
「キュイ!」
どうやらキュイは大丈夫なようだ。それにしてもキュイでかくなったな! 今まで小さいままだったからわからなかったよ…
そうか! キュイは物理攻撃が効かなかったんだ!
これならなんとかなるかも…
「キュイ! シルバーボアに攻撃だ!」
「キュイ!」
キュイはうなずくとシルバーボアに噛み付いた。得意の『魔力喰い』だろう。シルバーボアはダメージを喰らった様で
ふらついている。気絶させるまでは至らなかったか…
次の手を考えて思案しているとキュイが噛み付いてきた。
え?! 魔力喰い? 今、魔力喰わせたら俺気絶するよ!?
すると、魔力が回復していくのがわかった。
「キュイ、これって魔力分けてくれたのか!?」
「キュイ!」
キュイはうれしそうにうなずきながらシルバーボアの攻撃をさばいている。
これなら…
「キュイ、俺の左腕に巻き付くんだ!」
キュイは言葉を理解したかの様におれの左腕に巻き付いた。
「キュイ、俺が攻撃を指示して左腕を出したら、シルバーボアを攻撃するんだ!」
「キュイ」
そこからは我慢のひと時だった。シルバーボアの攻撃を避けてキュイが攻撃をする。それの繰り返しながら相手の隙を待つ。
キュイは噛み付くだけでなく、口から水魔法の様な物を撃つ事も出来た為に、避けて撃つといった流れで出来ていた。
避けれない時はキュイの盾? で受ける。ダメージは無いが勢いまでは殺せない為に飛ばされたりはするが…
そしてキュイは攻撃を最初は顔部分や胴体にしていたが、途中から末端への攻撃に変えた。
俺も武器を剣から杖に変え、魔法を末端部分を狙って撃っている。
そして暫くそれでしのいでいるとついに隙を見せ始めた。
シルバーボアは突進して振り返る時に躓いたのだ。足へのダメージは大分効いている様だ。
ここだ!
俺は最後の魔力を振り絞り合成魔法を唱える。
『火の矢』『風の矢』『魔法の矢』『水の矢』『土の矢』『魔法の矢』を順番に頭上に円を描く様に停滞させていく。
そして『闇の矢』はその真中に位置する様に停滞していく。
呪文を唱えながら、キュイを前に出し牽制させながらその場に足止めをお願いする。
呪文を融合させ、虹色の矢を作り上げる。威力は最大まで上げている。魔力ががっつり減っていくのが判る。
『虹色の矢』
その言葉と共に虹色の矢は、真っ直ぐにシルバーボアの眉間に飛んでいく。キュイはこちらに注意していたのか、魔法が飛んでくる
寸前に身体を小さくして魔法を避ける。
『虹色の矢』はシルバーボアの弱点である眉間に突き刺さった。シルバーボアが悲鳴を上げる。
「グォアアアアアアア!」
俺はここしかないと、続けて火の矢を連弾で撃つ。魔力はほぼ空っぽになった。
シルバーボアは暫く立っていた。
そして一歩前に踏み出す。
まじか! もう無理っすよ!
俺は座り込んでしまった。キュイも俺の横でへばっている。
シルバーボアはヨロヨロとさらに一歩踏み出した…
…
そのままシルバーボアは電池の切れたおもちゃの様に倒れ、動かなくなった…
か、勝ったのか?…
俺は這いずりながらシルバーボアに近づいて行く。
近づいたがシルバーボアは動く気配はない。手に持った杖でシルバーボアをつついてみる。
…
動く気配はない。最後の魔力を振り絞り『魔法検定』でシルバーボアを鑑定する。
《鑑定》
シルバーボアの死体。毛皮は魔法防御力が高く、防具に使うと上質の防具になる。肉は上質で臭みも無くワーボアとは
比べ物にならないほどの旨味があり肉汁も豊富である。牙もアクセサリー等に使われる。
俺は天を仰ぎ叫んだ!
「勝ったぞおおおおおお!」
俺は万が一にも生き返るのがいやだったのでそのまま魔法の箱に入れる。
そして俺はそのまま倒れた。
しんどい…
倒れながら俺は今の戦いを思い返した。
やっぱ、上のランクの魔物と戦う時に攻撃力が足りない。何かあった時の切り札が無いのがまずいな…
それに、やっぱり油断するのは良くないな…
今回のは完全に油断だ。隠形を怠った為に、シルバーボア相手に先手が取れなかったし、隠形をしていたら戦わずに逃げる事も
出来たはずだ。やはり戦うという事にもっと注意を払わなくてはならないな…
死んだらおしまいだという事を考えながらもっと注意深くこれからは行動しようと心に誓った。
そうするとキュイが心配そうに俺の顔を覗いている。
俺はキュイの頭を撫でながら声をかけた。
「キュイ、よく頑張ったな! それにしてもキュイ強くなったなぁ。今日はとても助かったよ。ありがとうな!」
「キュイ!」
キュイは嬉しそうに首を左右に振っている。キュイはあんなに強いのにかわいいなあ。
「あいつらにも感謝しなきゃな…」
俺は師匠達を思い浮かべながら一人反省会を頭の中でめぐらせていた。
暫く休憩して俺はフラフラと町へ帰っていった。
強敵に出会った時の対策を考えながら…
運のいい事に町に帰るまでの間、魔物に出会わず無事に町に着く事が出来た。
だが、鎧も剣もボロボロになってしまった為に、装備は魔法の箱に入れたままだった。
こんなにボロボロになるとは・・・
…どうしてこうなった…
…俺の油断のせいだったな…