審査と再登場の時(ギルドマスター サイド)
審査と再登場の時の別視点の物語になります。
わしは冒険者ギルド ウェンステッド支店のギルドマスターじゃ!名前は…まあよい、マスターとでも爺とでも何とでも呼べば良い!
わしは昔はそれは優秀な冒険者じゃったんじゃ。それが認められて今の地位になったのじゃ。
だが、最近は面白い冒険者や事件なんぞ起きず、退屈な日々じゃ。だから最近は酒場に入り浸って酒ばかり飲んでおったのじゃ。
じゃが、ついこの前、面白い小童に出会った。
ある時酒場で酒を飲んでいると、そこに一人の小童が現れたのじゃ。小童は領主の息子と言っておった。
小童が酒場に来る事自体も珍しいが、この小童はまるで当たり前の様に堂々と酒場に入ってきたのじゃ。
それが面白くてつい、わしは小童が酒場に入るのをゆるしてしまったのじゃ。
小童は面白い奴じゃった。小童は時にはならず者や酔っ払いどもに酒を驕り、つまみを頼んで皆で食べて騒いだりしておった。
酒場に来ている者共と色々な話をしておった。この町の今の状況や、他の町の話、冒険者の武勇伝などを好んで聞いておった。
まるで情報を集めるかの様に色んな奴から色々な話を聞いておった。小童の気に入った話をした奴には酒を驕ったり、つまみを驕ったりしておった。
だが、小童は金払いも良かった為に酒場の印象も良く、酒場の出入りを禁止される事はなかったのじゃ。
実に面白い小童じゃった!だからわしは余り知られていないこの町の裏の話や難しい政治的な話もしたのじゃがこの小童はそれをすべて理解しておった。
だから面白くなって色々な事を話してしまったのは内緒じゃ。
小童は冒険ギルドの話やこの近辺の魔物の話等は好きな様で熱心に話を聞いておった。わしはこの小童が将来冒険者になる様な気がして、その時を想像し
それを楽しみにしておった。
じゃが、この小童があんなにもお金を持っておるのが気になって聞いてみた。もしかしたら領主や他の奴の命令でわしらの事を調べておるやもしれんと
思ったからじゃ。
「小童よ!何でそんなにお金持っておるのじゃ?お父上にもらったのか?」
「いいや。狩りして稼いだお金だ!あ、親父や家の者には内緒だぞ!」
「狩り?何を狩ってそんなにお金を稼いだのじゃ?どうやって狩りをしておるのじゃ?」
「珍しく俺が質問攻めだな。まあ、いいや。森の動物や魔物を狩ってその肉や毛皮を売ってるんだ。狩りの方法は普通だぞ?剣や弓使って狩りしてるんだ。」
「なんと!狩人や冒険者みたいな事しておるのじゃな!しかし、森の動物にも危険なものはいっぱいおるし、魔物を狩るのは危ないぞい。大人だって死人が
出る事があるのじゃから!」
「大丈夫だよ、ちゃんと安全マージンを考慮して狩りしてるからね。罠とかも使って余裕を持って狩りしてるからね。」
この小童は剣や弓を使えるというのか!しかも罠まで使い、余裕を持っての狩りじゃと!若いもんは自分の持てる力をめいいっぱい使って狩りをするので
余裕がなく不慮の事態に対応出来ずに危険な目に合う事が多いのに、小童はその危険性をその歳でわかっておるというのか!
しかも魔物を狩れるとはもしかしたら近い将来本当に冒険者になるのやもしれぬな!
実に面白い!わしは今まで生きておったが、この小童の将来を見ていく事がこれからの楽しみになりそうじゃて!
周りで聞いていた冒険者共も驚いている様じゃ! 当然じゃろう。小童は軽く言っておるが小童の話した事は中級の冒険者が初心者に吐く
心得みたいなものであった。余裕を持って狩る! 決して驕る訳ではなく力に余力を常に持たせて狩りを行うとの事!
そんな事をこんな小童が事もなげにいっておるのじゃ!実に面白い!
彼は暫く酒場に通い、酔っ払い共相手に騒ぎながら色々な話をして楽しんでおった。
時々子供らしくないニヤけた笑みが顔に浮かんでいた気がするが、まあ… 気のせいじゃろう。
暫くして、あの小童は冒険者に現れよった!彼は当たり前に様にカウンターの前まで来て、受付嬢に向かって叫んだ。
「冒険者になりに来た!」
「…」
受付嬢は、何が起こったかわからずに固まったままだ。そらそうじゃろ、わしも余りの事に固まったままじゃったから。
小童は今度はカウンターをドンと叩いてもう一度言った。
「冒険者になりに来た!」
「…はい?」
小童の再度の呼びかけにより受付嬢は起動し始めたようだ。わしもやっとの事で我に返り、その後の状況を見守っていた。
「冒険者になりに来たって言ってる!審査とかあるんだろ?受けさせろ!」
そう叫んだとたん、周りの冒険者から笑いが起こった。あんな小童が冒険者の試験を受けるなんぞ聞いた事が無い!笑うのも当然じゃろう。
しかし、酒場で小童の事を知っている幾人かは無言で事の成り行きを聞いていた。彼が冒険者としての実力があるのをわかっているのだろう。
「ガハハハハハハ!」
「何言ってるんだよ!坊や!」
「ワハハハ!腹痛テェ!」
受付嬢も少し笑いながら小童に説明しておった。
「あのね、坊や!冒険者になれるのは12歳からなの。大きくなってから出直して来てね!」
受付嬢のあの対応は至極当然の対応だろう。
「実力あればいいだろ?審査してから決めろよ!」
「いや、冒険者の規則で12歳からしか冒険者になれないのよ。」
「そこを何とかしろと言っているんだ!俺は領主の息子だぞ!」
「えっ?領主様の息子?」
「そうだ!ジェイド・ウェンステッドが息子のクラウン・ウェンステッドだ!偉いんだぞ!」
小童は子供が仲間に自慢する様に胸を張って答えいた。受付嬢も冒険者ギルドが領主の寄付無しでは運営が苦しいのはわかっているのじゃろう。
如何にこの自称『領主の息子』 に文句を言わせずに帰ってもらうか考えとると見える。領主に有る事無い事言われて寄付削られても困ると
考えているのじゃろう。受付嬢は困ったようにオロオロとしている。
しかたないとわしはカウンターまで出ていった。
「なら審査受けてみるか?受けて落ちたら12歳までは受けれないぞ!それでもイイなら受けるがいいさ!」
「マ、マスター!?」
受付嬢は突然、わしが現れて驚いておる。取り敢えず審査を受けさせて駄目なら帰ってもらおうとこの時は考えておった。
少し厳しめに審査をしたら不合格になるであろうと、この時は思っておった。
「試験受けさせてくれるのか?」
「落ちたら12歳まで待つのじゃぞ?」
「大丈夫!受かるから!」
「フォッフォッフォ!面白い子じゃて!アンドレ!お前が試験官やれ!」
「え~!ワシですかぁ?」
アンドレはここに入る冒険者の中でも中堅に入るほどの実力者じゃ。彼相手ならDクラスの冒険者でも厳しいはずじゃ。
そうそう、冒険者にはクラスが設定されておって、上から順にAからFまであるのじゃ。一応Sクラスもあるがそんなのは冒険者全体でも
数人しかいない、いわば『勇者』に匹敵する強者であり、冒険者ギルドに認められた者しかなれないクラスじゃ。
「そうじゃ、クラウン君!怪我しても文句は無しじゃ!お父様に言いつけるなよ!」
「わかった!それでいい」
領主様への告げ口を一応止めておいて、彼らをギルド内にある鍛錬場へ向かった。
わしららの後ろからは興味があるのか、もしくは暇なのか冒険者がゾロゾロとついて来ていおる。奴らの半分以上は面白半分なのじゃろうがな。
鍛錬場に着くとわしが立会人になる事を説明した。
「クラウン君、審査は簡単じゃ!このアンドレと戦って実力を示し、冒険者に見合う実力と判断されれば合格じゃ!」
「はあ…」
「どうした?おじげづいたか?」
「いや、かまわないが…」
なんじゃ? 先ほどまでの自信はどうしたのじゃ? 何やらモチベーションが下がっているように見えるのう。
「じゃあ、始めじゃ!」
始めの合図と共に小童もアンドレも構えた。アンドレは様子見の様に剣を軽く振りまわした。小童は難なくそれを避ける。
なるほど、ディフェンスの基礎は出来てそうじゃの。何度かアンドレの剣を躱しておるわい。
小童は暫くするとカウンターで攻撃をしてきおった。アンドレは驚いた顔をしている。
カウンターが実に正確じゃ。完全にアンドレの攻撃を見切っておる!なんじゃ? この子は!
アンドレは相手の実力を上方修正した様で先ほどよりも早く力強く攻撃し始めた。それもこの子は難なく躱す。
ある時、この子は相手の攻撃を先ほどの様に躱し、カウンターで剣スキルである『連撃』を放つ。アンドレは受けきるので精一杯。
剣スキル使えるのか!この子、いや、クラウンと言ったかのう! だがアンドレもそこそこの実力者、この『連撃』を受け止めた。
だが、クラウンはこの攻撃を受けた硬直を利用し、そこに剣スキル『重撃』を重ねたのじゃ。
隙の大きい『重撃』も体制が崩れていれば当てやすい。しかし、剣スキルから剣スキルへと繋げるのは中級レベルの剣技じゃぞ!
アンドレはかろうじで剣で受け止めよった。多分、ほぼまぐれに近いのじゃろう。
『連撃』『重撃』の連続攻撃にを受けきった事によりアンドレの木剣は根元から折れてしまった。練習用の木剣とはいえ、それを折るとは!
だが、スキルの連続使用に耐えきれなかった為かクラウンの木剣も折れてしまった。
いや、普通じゃ木剣折る事はないぞ!なんじゃ、こやつは?!
「あ~、折れちゃった…」
クラウンは折れた木剣を見ながら申し訳無さそうにつぶやいている。
「あの~もう1本、剣貸して頂けませんか?」
クラウンは恐る恐る尋ねてきおった。まだやる気なのか! しかもあれだけ打ち合いをしながら息切れしておらんとは!
しかも、見る限り模擬戦に随分慣れている風であった!
「ま、まだやる気か!?」
わしは目を見開いて聞いてしまった。
クラウンは不思議な顔をしながら聞いてきおった。
「えっ? もう終わりですか? じゃあ、剣術は合格ですか?」
「はあ!? 剣術『は』とはどういう意味じゃ?」
クラウンは訳わからない事を聞いてきおった。まるで今の模擬戦ですべてを出していないかの様なものいいじゃ!
「えっ? 剣術と魔術と弓術の試験があるんですよね?」
「「「はあぁ!?」」」
そこにいたクラウン以外の声がはもった。クラウンは剣術だけじゃなく魔術と弓術も出来るのか!?
どんだけハイブリットなんじゃ! 剣術だけでも十分合格レベルどころか、Eクラスでも問題無いレベルじゃぞ?
「魔術はどんな試験をすればいいですか?」
「あ、ああ。じゃ、じゃあこの的を攻撃してくれ。」
わしはかろうじでそう答え、練習場の的を指差した。
クラウンは魔術の試験でもわしらを驚かせおった!
『火炎槍』
クラウンは魔法を唱えると手から火の槍が出てきて的に向かって一直線に飛んでいった。的に当たり、的は一瞬火柱を
上げ瞬く間に消し炭となった。クラウンはガッツポーズをしておる!
ちゅ、中級魔法じゃと! 剣の腕に加えて魔法の腕も中級レベルじゃと! しかも詠唱短縮で打ちよるとは!
的が燃えたのを確認してクラウンはこちらを向いてきおった。いや、誰もが固まったまま反応出来ないわい!
「的燃やしちゃ拙かったですか?もう一度やりますか?」
「い、いや、別に問題は…無い事もないが、まあ、よいわ。」
クラウンは自分のやった事の重大さに気が付いているのじゃろうか?
「じゃあ、次は弓術行きます!弓術も的を狙えばいいですか?」
「か、かまわんぞ…」
ゆ、弓ぐらいは普通に使うよな…
クラウンは的に向かって弓を構える。
『二連矢』
弓スキルじゃと!ほぼ同時に放たれた2本の矢は的に向かって真っ直ぐ飛んでいき、2本とも的に命中した。
「よっしゃ!」
「おお!」
皆から歓声が上がる。
「マスター!これで合格ですか?」
「い、いや、剣術ですでに合格だったんじゃが…何故、魔術も弓術も使えるのじゃ?」
「えっ?だって剣術と魔術と弓術が必須と聞いたんですが?」
「「「いやいやいや!」」」
皆から全否定が来た! そらそうじゃろ。
「剣、魔法、弓すべて使えるのなんて騎士団にもいないわい!まあ、高レベルな冒険者ならある程度はいるが、おぬしの様に中級まで
覚えてるのは滅多におらんぞい!」
どんだけ冒険者がハイレベルだと思っとるのじゃろうか? それともクラウンを冒険者にしたくない誰かの策略なのじゃろうか?
その策略も空しくクラウンは剣魔法弓のすべてを覚えてしまったのか…
しかもすべてハイレベルで…
「ふへ? ちゅ、中級? 滅多にいない?」
ギルドに所属しておる魔法使いが事実を説明した。
「剣と魔法と弓が必要なら、ここにいる冒険者のほとんどは廃業じゃない?特に魔法使いは魔法に特化していて他の剣や弓使えない人多いし、
剣士は剣術に特化、狩人は弓術に特化って方が効率いいでしょ?」
「た、確かに…」
「っていうかあなたならチョット考えればわかるんじゃないの?それにあなたの使った『火炎槍』、あれ中級の魔術よ?基礎や初級の魔術じゃないわよ?」
今度はクラウンが口をあんぐり開けて驚いておる。今の今まで騙されておる事に気が付いておらなんだのか?
賢いのか抜けてるのかわからない奴じゃな…
「あの~、『二連矢』も狩人の中級スキルだと思います。狩人の初級はスキル覚えませんから…」
「なんだって!」
「じゃ、じゃあ、剣術の鍛錬で1体多数で戦ったり、スキル有で組手したりするのは?」
「そんなの中級どころか騎士団レベルの練習だぞ!」
どんな鍛錬をしておったのじゃ! 誰が師匠をしたのじゃ?
クラウンはガックリと両手を地面について落ち込んでいた。こういうところは子供なんじゃな。
「…あいつら…お仕置き決定だな!」
クラウンの目が血走っておる! こやつの師匠は殺されるのではないのだろうか…
取り敢えず怒っているクラウンからどす暗いオーラが出ており、誰も声をかけれない…
わしは意を決して恐る恐る声をかけた…
「あ、あのー、クラウン君?冒険者になったんだし、し、祝賀会でも、ど、どうかな?」
「…祝賀会は後日で!急用出来たのでこれで失礼します。」
クラウンは見学していた皆に礼を言うと家の方へ向かって全速力で走って行った。
皆は唖然としてそれを見送っていた。もちろんわしも含め…
ヤレヤレ、暫くは賑やかで楽しくなりそうじゃわい。