審査と再登場の時
少し短めです。
吾輩はクラウン・ウェンステッドだ!6歳だがこれから冒険者になる予定だ!
3つの試験も突破し、これでやっと冒険者になれるはずだ!
俺は早速、冒険者ギルドを目指して歩いていた。聞いた所冒険者ギルドはある程度大きな町にはあるらしい。運営は各支部毎で運営しているらしい。運営にはウェンステッド領
も出資しているらしい。町の領主が出資して冒険者ギルドを作り、そこに集まる冒険者達が落とすお金や狩りした魔物の素材等で町を潤すので持ちつ持たれつの関係なのだ。
わがウェンステッド領の冒険者ギルドは中々立派な建物だ。なんかごっつそうな人々が出入りしている。さすが冒険者!剣、魔法、弓すべて学んでいるだけありめっちゃ強そうだ!
よし、俺も冒険者に仲間入りだ!
俺は勢いよく冒険者ギルドの扉を開けた!屈強そうな奴らが皆揃ってこちらを見ている。俺はそれに構わずカウンターまでずかずかと歩いていく。
冒険者は皆、剣や槍を持ってたり魔法使いみたいなローブを着てたり様々だ。中には酒場で知り合った顔も見受けられる。
カウンターにはお姉さんがびっくりしたまま固まっていた。この人も冒険者みたく強いんだろうか?そんな事を考えながらカウンターのお姉さんに話しかけた。
「冒険者になりに来た!」
「…」
カウンターのお姉さんは、まだ固まったままだ。今度はカウンターをドンと叩いてもう一度言った。
「冒険者になりに来た!」
「…はい?」
やっとカウンターのお姉さんは起動し始めたようだ。
「冒険者になりに来たって言ってる!審査とかあるんだろ?受けさせろ!」
そう叫んだとたん、周りの冒険者から笑いが起こった。
「ガハハハハハハ!」
「何言ってるんだよ!坊や!」
「ワハハハ!腹痛テェ!」
まあ、これが普通だわな。カウンターのお姉さんも少し笑いながら俺に易しく説明してくれた。
「あのね、坊や!冒険者になれるのは12歳からなの。大きくなってから出直して来てね!」
マークめ!大事な説明抜けてるじゃないか!後でシバキまくる!
仕方ない、ゴリ押ししてみるか!
「実力あればいいだろ?審査してから決めろよ!」
「いや、冒険者の規則で12歳からしか冒険者になれないのよ。」
「そこを何とかしろと言っているんだ!俺は領主の息子だぞ!」
「えっ?領主様の息子?」
あれ?反応が変わったぞ?これは行けるのか?
「そうだ!ジェイド・ウェンステッドが息子のクラウン・ウェンステッドだ!偉いんだぞ!」
胸を張って答えてみた。
お姉さんは困ったようにオロオロとしている。すると後ろから一人の爺さんが出てきた。
「なら審査受けてみるか?受けて落ちたら12歳までは受けれないぞ!それでもイイなら受けるがいいさ!」
「マ、マスター!?」
あ、酒場の爺さんだ!あの店のマスターじゃなくてギルドマスターだったのか…
変な爺さんだと思ったが…やっぱ変な爺さんだな!
「試験受けさせてくれるのか?」
「落ちたら12歳まで待つのじゃぞ?」
「大丈夫!受かるから!」
「フォッフォッフォ!面白い子じゃて!アンドレ!お前が試験官やれ!」
「え~!ワシですかぁ?」
「そうじゃ、クラウン君!怪我しても文句は無しじゃ!お父様に言いつけるなよ!」
「わかった!それでいい」
怪我するのか!怖いな!しかも試験官のアンドレって人、ごつくない?騎士団長のクラストもごっついがそれよりも一回りごっついぞ!
爺さん(マスター)は俺とアンドレを連れてギルド会館裏にある鍛錬場に向かった。
鍛錬場には何人かの冒険者が鍛錬を行っていた。その一角に俺らは連れていかれた。
俺らの後ろからは興味があるのか、もしくは暇なのか冒険者がゾロゾロとついて来ている。お前らカルガモか?ちゃんとクエスト行って来いよ!
鍛錬場に着くと爺さんが立会人になるらしい。説明を始めた。
「クラウン君、審査は簡単じゃ!このアンドレと戦って実力を示し、冒険者に見合う実力と判断されれば合格じゃ!」
「はあ…」
「どうした?おじげづいたか?」
「いや、かまわないが…」
「じゃあ、始めじゃ!」
始めの合図と共に俺は構えた。俺もアンドレも構えた。やはりというかアンドレは様子見の様に剣を振りまわした。俺は難なくそれを避ける。
何度かアンドレの剣を躱し、埒があかないと感じた俺はカウンターで攻撃を相手に当てた。アンドレは驚いた顔をしている。
これで少しは本気になってくれるといいんだが・・・
アンドレは先ほどよりも早い勢いで攻撃してきた。それも難なく躱す。そしてカウンターで『連撃』を放つ。相手は受けきるので精一杯。
なのでそこに『重撃』を重ねる。隙の大きい『重撃』もこの様に相手の体制が崩れていれば当てやすい。案の定アンドレは剣で受け止めるのが精いっぱい。
『連撃』『重撃』の連続攻撃によりアンドレの剣は根元から折れてしまった。だが、スキルの連続使用に耐えきれなかった為か俺の木剣も折れてしまった。
「あ~、折れちゃった…」
アンドレも爺さんも唖然としている。やっぱ、剣折れるほど攻撃するなんて未熟な証拠だよな…
「あの~もう1本、剣貸して頂けませんか?」
俺は恐る恐る尋ねてみた。
「ま、まだやる気か!?」
爺さんは目を見開いて聞いてきた。あれ?反応がおかしいな?
「えっ?もう終わりですか?じゃあ、剣術は合格ですか?」
「はあ!?剣術『は』とはどういう意味じゃ?」
「えっ?剣術と魔術と弓術の試験があるんですよね?」
「「「はあぁ!?」」」
爺さんとアンドレと見ていた冒険者達の声がはもった。みんな練習したかの様にはもってるな!
「魔術はどんな試験をすればいいですか?」
「あ、ああ。じゃ、じゃあこの的を攻撃してくれ。」
爺さんは何故かしどろもどろになりながら、練習場の的を指差した。何でしどろもどろになってるんだ?
さて、魔術の審査の始まりだな!1撃で決めるなら、なるべくダメージのでかい魔法にしよう!
あれこれ考えて使う魔法を考えた。オリジナルの魔法は使わない事としてリーネに教えてもらった魔法で一番強い魔法にしよう!
『火炎槍』
魔法を唱えると手から火の槍が出てきて的に向かって一直線に飛んでいった。
的に当たり、的は一瞬火柱を上げ消し炭となった。やったぜ、ど真ん中ストライクだ!
的が燃えたのを確認して爺さんを確認すると爺さんはまたしても唖然と見ていた。なんかさっきより驚きが大きくないか?
「的燃やしちゃ拙かったですか?もう一度やりますか?」
「い、いや、別に問題は…無い事もないが、まあ、よいわ。」
「じゃあ、次は弓術行きます!弓術も的を狙えばいいですか?」
どうも剣を折った負い目からか言葉遣いが丁寧になっている。っていうか言葉遣いを戻すタイミングを逃した。
「か、かまわんぞ…」
爺さんの許可も得たし、的に向かって弓を構える。普通に狙ってもいいがここは弓スキルで狙ってみよう。
『二連矢』
矢を2本いっぺんに打つスキルだ!ほぼ同時に放たれた2本の矢は真っ直ぐに的に向かって飛んでいき、2本とも的に当たった。
「よっしゃ!」
「おお!」
みんなから歓声が上がる。
「マスター!これで合格ですか?」
「い、いや、剣術ですでに合格だったんじゃが…何故、魔術も弓術も使えるのじゃ?」
「えっ?だって剣術と魔術と弓術が必須と聞いたんですが?」
「「「いやいやいや!」」」
みんなから全否定が来た!何故だ?
「剣、魔法、弓すべて使えるのなんて騎士団にもいないわい!まあ、高レベルな冒険者ならある程度はいるが、おぬしの様に中級まで
覚えてるのは滅多におらんぞい!」
「ふへ?ちゅ、中級?滅多にいない?」
魔法使いの様なローブと帽子をかぶった人(多分、魔法使い…かな?)が言った。衝撃的な事を!
「剣と魔法と弓が必要なら、ここにいる冒険者のほとんどは廃業じゃない?特に魔法使いは魔法に特化していて他の剣や弓使えない人多いし、
剣士は剣術に特化、狩人は弓術に特化って方が効率いいでしょ?」
「た、確かに…」
「っていうかあなたならチョット考えればわかるんじゃないの?それにあなたの使った『火炎槍』、あれ中級の魔術よ?基礎や初級の魔術じゃないわよ?」
彼女の言う通りだ。何で俺はマークの言う事をを素直に信じてしまったんだろう・・・
しかも『火炎槍』は中級魔法だと!リーネの奴め、騙したのか!
「あの~、『二連矢』も狩人の中級スキルだと思います。狩人の初級はスキル覚えませんから…」
「なんだって!」
弓を背負った男にそう告げられた。ハワードにも騙されたのか…
「じゃ、じゃあ、剣術の鍛錬で1体多数で戦ったり、スキル有で組手したりするのは?」
「そんなの中級どころか騎士団レベルの練習だぞ!」
俺はあまりの事にガックリと両手を地面についてしまった。
……
…
「…あいつら…お仕置き決定だな!」
「あ、あのー、クラウン君?冒険者になったんだし、し、祝賀会でも、ど、どうかな?」
ギルドマスターが恐る恐る尋ねてきた。
「…祝賀会は後日で!急用出来たのでこれで失礼します。」
俺は見学していた皆に礼を言うと家へ向かって全速力で走って行った。
その日、ウィンステッド家ではいくつかの人の悲鳴が聞こえたという・・・
数日後、今日の終わりの日課であるキュイに魔力を分け与え、眠り(気絶)についた。
すると、夢の中に見た事のある女性が現れた。
「お久しぶりです。元気にしていますか?」
「あ、あの時の神様だ!」
「このたびは冒険者になられておめでとうございます。」
「ありがとう!」
「あの時は時間が無くて、余りお話出来ませんでしたね。何か質問とかありますか?」
「ああ、先生質問!『魔法鑑定』で自分を見る事出来ないんですが、これは仕様ですか?」
そうなのだ、『魔法鑑定』で他人を見る事は出来た。だが、自分を見る事は出来なかったのだ。
だから、俺は自分の所持スキルやHP、MP等がわからなかった。魔法等は疲れや倦怠感から大体の残りMPを感じていた。
「残念ながら仕様です。『鑑定』スキルなら自分も見る事は出来るのですが…」
「そうですか。なら、いつもやってるキュイに魔力与えて魔力を0にするのは魔力増強方法としてあっていますか?」
「はい!合っていますよ。魔力増強量は少しですが確実に増えていますよ。その神獣、名前はキュイでしたかね? 彼の力もあってかなりの量増えてますよ。」
やはり、この方法は合っていたのか!これからも続けよう。
「神様!今日は何故ここに?」
「ああ!忘れていました。冒険者合格祝いにこれを授けに来ました。」
神様は小さな箱を俺に渡してきた。
「これは『魔法の箱』です。これには99種類×99個までのアイテムを収納出来ます。これは自分を除き3人まで登録出来て、自分と登録者以外は物を取り出す事が出来ません。」
やった!今までは狩りをした獲物や魔物を、その場で解体して背負い袋に入れていた。だから狩りの後半になると荷物が重くなってしまっていた。重くて途中で帰った事も
一度や2度では無かったのだ!
「…これには注意事項がありました…」
神様が何か説明をしていたがこの『魔法の箱』を使った時の狩りの快適さを想像していた。
「神様!ありがとうございます!でもこれって夢の中ですよね? 現実に戻ったら無くなってしまいませんか?」
「え?…ああ!大丈夫ですよ。現実に戻ったらちゃんと枕元にありますからね。」
神様は何か言いたげだったが、そう答えて微笑んでくれた。
「…本当は転生時に渡すのを忘れていただけですし…」
「えっ?!」
「な、なな何でも無いんですよ!では、これからも頑張ってくださいね。」
神様がそう言うと意識がぼやけてきた。きっとそろそろ目覚めるのだろう。目覚めるのに意識がぼやけるってのも変な話だが・・・
そうだ!神様にお礼言っとかなきゃ!
「神様!ありがとうございました!俺、がんばって『悪徳領主』になりますから!」
「えっ!? ちょ、ちょっとま…」
目覚めたら朝だった。枕元には『魔法の箱』が置いてあった。
『魔法の箱』ゲットだぜ!