“variant II”
“variant II”
「……現実は実はひとつに選ばれていないのかもしれません。波束の収縮に関しては観測の度にそれぞれ関わる――触れ合う――ことができない違った世界が生まれるとするヒュー・エバレットの多世界解釈もありますが、これだと世界の数が膨大になり過ぎてしまいます。本当にそれぞれが無関係ならばそれで良いのかもしれませんが、もし時空の虫食い穴か何かでそれら二つかそれ以上が連結してしまったら、それは無秩序さの増大を招くのではないかと考えられるからです。つまり意識による対象の観測が繰り返される度に世界の数が増え、それと同時にそれぞれの世界が曖昧になってゆくわけですね。もちろん、その世界内に存在する世界内存在的な存在にはそれを自覚することができないので、世界が曖昧になってゆくことは自覚できませんが……」
ちなみにそれに関して構成を練っている小説は、確率的に対称な宇宙では――その宇宙が振動宇宙だとすれば――、その膨張期と収縮期で時間の矢が異なるので、先進波|(時間を遡る波)が後進波|(通常の時間が経てば伝わる波)として観測される……かもしれない、というアイデアを軸に、今話した「宇宙の分岐によるエントロピーの増大」を絡ませたものだ。もっともその話では、時時刻刻曖昧になって行く世界の描写が読みどころとなるので、実際にはかなり修行を積まなければ書けないかもしれない。